高木 一郎氏

規模を追わず、付加価値を徹底して追求
すべての鍵を握るのは“商品力強化”
ソニー株式会社 グループ役員
ホームエンタテインメント&サウンド事業担当
コンスーマーAV販売プラットフォーム担当
ソニービジュアルプロダクツ株式会社 代表取締役社長
ソニービデオ&サウンドプロダクツ株式会社 代表取締役社長
高木 一郎
Ichiro Takagi

テレビ事業が分社化したソニービジュアルプロダクツ、そしてこの10月にオーディオ・ビデオ事業が分社化したソニービデオ&サウンドプロダクツの代表取締役社長を兼務する高木氏が登場。ソニーのDNAであるA&Vを一手に受け持ち、新たな高付加価値訴求へとまい進する意気込みを語る。

明確な目的意識を持ち
しっかり売れるマーケティング活動をすることが
良い物を作り、見合った値段で売る商売につながる

設計・開発から販売まで通貫
ソニーの強みを発揮する

── テレビ事業に次いで、この10月からオーディオ・ビデオの分野も新会社となり、高木社長が双方を兼務されています。

高木分社化そのものはソニーの方針のひとつで、それぞれの事業ドメインを司る事業体が分社したことで自立した運営が期待されます。ここで会社を自分たちで背負う自覚と責任、覚悟が生まれました。またオーディオ・ビデオに関してはもうひとつの側面があります。この分野は、ウォークマン関連はある事業体の一部門、パーソナルオーディオはデジタルイメージングと一緒、ホームオーディオのコンポーネントやシステムコンポはテレビと一緒というように、さまざまなカテゴリーがいくつもの小さな事業体として分散し、ブランディングもそれぞれカテゴリー単位で行っていました。

これらが2012年4月1日付でホームエンタテインメント&サウンド事業本部として統合され、ブランディングを進める上でハイレゾリューションをひとつの柱としたのです。2014年7月よりビデオ&サウンド事業本部として、オーディオ、ビデオがようやくひとつの事業体としてまとめられ、さらに今回の分社によって自立と自覚が一層確立され、一枚岩となりました。

昨今はオーディオの専業メーカーさんが新しく生まれそれぞれに独自の音づくりでブランドをアピールされています。業界が活性化するのは良いことであり、その中で我々も“老舗の百貨店”として負けないようにしなければなりません。そのためには自分たちの特徴を出し、「ソニーの音」を会社としてひとつの発想にまとめ上げる。そして総合力でさまざまな商品を提案していきます。

全カテゴリーをまたいだひとつの組織として、共通のレシピで音作りをする。全カテゴリーで全レシピをもう一回見直して書き直し、ソニーの音とする。ハイレゾを軸にそれを実行しているのです。現時点ではレシピのすべては書ききれていません。我々の技術目標とする音に100のレシピが必要だとすると、70ぐらいには到達したでしょうか。まだ発展途上だと認識して推進していきます。

どこまでの高みを実現すればソニーのハイレゾを差異化できるのか。ハードルを上げ、それを越えたものだけをハイレゾ製品とする。組織のメンバー全員がやる気になり、自ら高いハードルを越えようという意識になりました。それはまたブランディングの一環でもあり、いくつかの組織を一つにまとめる際の方向づけですね。

── 10月1日からソニーマーケティングの取締役にも就任されました。

高木ソニーグループの中で、コンスーマーAV販売プラットフォームというマーケティング・販売会社全体を統括する組織があり、そこの担当も任されています。要するに販売と、ハードウェアを作るオーディオ・ビデオの会社とテレビの会社、これらすべてを見させてもらっていることになります。物を開発して製造し、さらに販売する。少なくともオーディオ、ビデオ、テレビに関してはそこまですべてをやれる立場となり、非常にやりやすいですね。

自分達で作った物をどう売って、さらに次回のモデルにどうつないでいくか。設計・開発から販売、そして次の年の製品開発に至るまでの流れを全部、販売現場の意見を踏まえて一気通貫で構築できる。それがソニーとしての強みを生み、無駄なコストも減らせます。今までどうしてそれができなかったかというほど画期的な、新しいチャレンジですね。

今までの販売組織は、当然、自分の担当地域の売上げを最大化することが目的・目標だったわけです。ところがソニーが扱う商品カテゴリーが減ってきた中で、特にテレビとオーディオとカメラの販売を最大化するには、これまでとは考え方を変え、カテゴリーごとに最適な販売体制や販売店様との連携を構築することが必要です。そういった活動をきめ細かくケアしていくことを考えれば、販売会社全体での人、物、金の使い方もおのずと決まってきます。

今までは世界各地域が右肩上がりの成長を続ける基調の中で、販売会社がそれぞれの会社の販売の最大化を優先していれば問題が無かったのですが、AV業界全体の変化が激しくなる中で、組織をカテゴリーで見直すことによってより効率が高められる。それを実践するのが今年のチャレンジです。折り返しての今、既に効果を実感していますね。使わなくて済むお金を使わず、使うべきところに使える。それをカテゴリーの商品戦略、あるいは事業戦略の視点から販売会社と一緒に綿密に実行することができる。これが非常に大きいですよね。ソリューション提案に特化した売り場づくりをするとなれば、販売会社で地域ごとに細かく対応し実行できるわけです。

高木 一郎氏量を追う販売はしない
高付加価値訴求を徹底

── 今後はどんな方向を目指しますか。

高木基本的にはしっかりと利益を出していくのが第一です。テレビとオーディオ・ビデオを分社化した目的のひとつは、やはり個々の会社がしっかりと利益を出すこと。既に今年の春から、ROIC(投下資本利益率)という指標で会社経営を測ると公言しています。そのために利益をしっかり出す、あるいは資本コストを極力少なくした効率運営をする。それをやり過ぎると「成長していないじゃないか」という話になります。基本的にはオーディオ、ビデオ、それからテレビは現時点ではそれほど急に大きく伸長するようなマーケットではありません。ただテレビに関しては、今後かなり変わってくると私は思っています。ただし変わること、伸びることを前提にした固定費のあり方や会社運営は間違いを引き起こしますので、規模感をきちんと考えた運営をするのが大事だと思っています。

── テレビももう必要以上に売らない、量を追うような販売はしないと。

高木そうです。ですから規模を追わないということは、要するに付加価値を追求する方向に大きく舵取りをしているということ。付加価値を追求した商品作りは変動に強い。その付加価値が欲しい人、その商品が欲しい人に特化していきますから、為替の影響も受けにくいですし、他社が値段を下げて一気にパワーゲームを仕掛けてきても、「この機能がなくては嫌だ」という方々にしっかりと訴求できます。それに見合った商売規模を考えた事業運営をする。これが今、オーディオ・ビデオもテレビも基本的には共通の経営の軸となります。

そうなると、本当の意味で商品力がすべての鍵を握ることになります。商品力を担保するために技術開発もしっかりやっていく必要がある。そのための人、物、金をきちんとコントロールするという発想ですね。幸い、社内にはテレビに関して世界最高の画質が作れるチームがありますし、オーディオも、信号処理や音を作り出す最後の出口であるトランスデューサーの開発設計から、製造のプロセスに至るまですべての要素・技術を持っています。やはり付加価値の高い商品を作るための要素、技術を持っていることが我々の強みだと思います。常に必要な開発を続けながら、さらに高みを求めていく。これが会社として非常に重要なポイントだと思いますね。

── そうした商品力と、さらには販売力も含めて一気通貫でしっかりとやっていくということですね。

高木そうです。良い商品を作る。そして付加価値が高い物が売れる販売力を付ける。だから付加価値を伝えていただける販路の方々とより連携を深める。こういった方向をとにかく打ち出し続けていると、そこに収れんしていくのですね。販売というと当然どうしても、いっぱい売りたい、販路をもっと開拓したいという発想になりがちです。しかし目的意識を持つと、より効率的な販路の開拓をしようとか、付加価値の高い物がしっかり売れる店頭作りをしようという営業活動、マーケティング活動ができていきます。

そうすると、良い物を作ってそれに見合った値段で売っていただける、そしてお客様に買っていただける。数は追わないけれどもしっかりと付加価値を取れる商売につながっていきます。そうした高付加価値訴求のサイクルができるには、最低2、3年はかかりますし、その精度はさらに高めなくてはなりません。しっかりと遂行していきたいですね。

高木 一郎氏商品力を高めて
有力なチャネルに展開

── そうなると量販店のみならず、専門店の存在も重要になりますね。

高木事業体がひとつにまとまる以前は専門店様のチャネルに特化した商品を出せなかったですし、関係性が薄れてしまっていたケースもあると思います。今後、専門店様との関係をどうやって再構築していくか、重要な課題として捉えています。ブランディングをしていきたいという発想の中には当然、専門店様とある一定以上の商売をしたいという思いはあります。そう簡単なことではないと思ってはいますが、これは是非やっていきたいですよ。これまでなかなかご期待に沿える商品が出せませんでしたが、ハイレゾを軸にして、新しいブランディングと商品づくりを精力的に始めていますから、今後はおおいにご期待いただきたいと思っています。

── 新たな商品も次々にご提案されてきました。

高木テレビでは、10月にX9000Cシリーズを発売致します。ブラビアのプレミアム4Kラインとして、高画質・高音質のX9400CとX9300Cに対し、X9000Cは世界最薄をうたったデザイン性の高さをアピールするものです。生活空間に溶け込む新たな壁掛けスタイルを提案し、プレミアム4Kの選択肢をより広げて参ります。

オーディオでは、CAS-1という新製品を10月17日から発売しています。デスクトップでPCとつなぎ、スピーカーやヘッドホンを通じてしっかりとした音を出す。コンパクトサイズで小音量でも臨場感のある表現ができる音作りをして欲しいと、ハイファイのコンポーネントチームにリクエストしました。さらにブルートゥースでスマホやウォークマンをつなぐ、そういうマルチユースに適したコンパクトなハイレゾのシステムです。この提案で、ウォークマンだけでなく、またステーショナリーなコンポだけでなく、家庭でのオーディオの使い勝手がもう一段広がると思っています。

さらにウォークマンとヘッドホンでは、新たに「聴く」と「耳」をかけた「h.ear(ヒアー)」という新しいコンセプトを展開しています。2013年からアピールしているハイレゾでまずオピニオンリーダーにアピールしてきましたが、次のチャレンジとして若い女性も含めたカジュアルな層にリーチしたいと思っています。

◆PROFILE◆

高木 一郎氏 Ichiro Takagi
1981年4月 ソニー(株)入社。2011年6月 ソニー(株)業務執行役員 SVP。2011年8月 コンスーマープロダクツ&サービスグループ パーソナル イメージング&サウンド事業本部長。2012年4月 ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 副本部長。2014年7月 ソニービジュアルプロダクツ(株)代表取締役副社長。2015年4月 グループ役員 ホームエンタテインメント&サウンド事業担当、コンスーマーAV販売プラットフォーム担当 ソニービジュアルプロダクツ(株)代表取締役社長 現在に至る。2015年10月 ソニービデオ&サウンドプロダクツ(株)代表取締役社長 現在に至る。

back