英 裕治氏

多くのお客様に感動を味わっていただきたい
そのためにチャレンジし、実現していく
ティアック株式会社
代表取締役社長 CEO
英 裕治
Yuji Hanabusa

ネットワークやハイレゾなど音楽再生のさまざまなトレンドを取り入れ、アナログターンテーブルやカセットデッキなどあらゆるメディアにも対応。プロ機器やハイエンドオーディオなど、3つのブランドを展開して全方向でオーディオを推進するティアック。波に乗る同社の英社長に、昨今の取り組みと手応えを聞く。

新たなタグラインは「Recording Tomorrow」
財産である「記録」に携わり、
人や社会に貢献していく

いいものが求められる
市場環境で力を発揮

── 御社での昨今のオーディオのお取り組みは。

オーディオを取り巻く環境が、我々にとってとてもいい状況になっています。3〜4年ほど前までのオーディオは、コモディティ化した商品を大量につくって売るビジネスモデルで、大きな企業が有利でした。小規模企業はいいものをつくっても生き残りが難しく、いくつものメーカーさんが撤退されました。しかし今は、本当にいいものを求める需要が鮮明になって、多少値が張ってもお客様に納得していただけるものをつくれる状況になりました。そこを得意とする我々は市場に後押しされる思いで、一層高品位なものを提案したい考えです。

注目のハイレゾは2013年頃の100億円から今250億円ほどの市場になり、引き続き成長しています。当社もReferenceシリーズなど早くからの取り組みでご評価をいただいていますが、引き続きしっかりやって参ります。また、昨今はアナログがブームで、需要は2007年をピークに減衰していましたが、2015年で再びその水準に戻っています。我々はターンテーブルの展開を10年以上前から手がけ、複合商品も含め非常にご好評いただいております。昨年はTN-350という手軽なモデルを投入し、日本のみならず世界中でヒットしていますが、さらにこの2月に上のクラスとして新製品TN-570を出しました。欧州の専門メーカーとも競っていくべく意欲を燃やしております。

我々は創業時のオープンリールから始まって、カセットやCDなど回転系のメカの技術を得意としていますが、特にターンテーブルのようなアナログ機器にとっては非常に重要な部分ですね。強みを活かして市場で存在感を高めたいですし、アナログとハイレゾとの親和性も追求して参りたいと思います。どなたにとってもわかりやすい機器のご提案もしております。カセットテープとCDとレコードが再生できる複合プレーヤーは10年以上前からの展開で、昨年アップグレードした新製品LP-R550USBを発売しました。おかげさまで大変ご好評いただいています。

昨今勢いのあるヘッドホン関連の分野では、ベイヤーダイナミクス社のヘッドホン輸入代理業務を行っていますし、我々独自のヘッドホンアンプも早い段階からご提案しています。ヘッドホンアンプの市場にはさまざまなブランドが参入していますが、オーディオ専門メーカーとしてのいい音を駆動するノウハウを活かし、今後も広げていきたいと思います。

また、オーディオ製品はやや無骨なイメージがありますが、「Wife Accepting Factor」(WAF)という表現で、欧州などで特に奥様の発言力を重視する傾向があることに注目しています。奥様方は音よりもむしろデザイン性、インテリア性を重視して、リビングのイメージを損なわない選択をされますね。デザインの要素は非常に重要。我々もいい音だけでなくデザイン性にもフォーカスした、ライフスタイルにおいても安心感のあるものを提案していきたい。ほかの業種の方々と手を組むことも含めて、販売や提案の仕方を工夫したいと思います。

日本のものづくりを
TEACでも活かしたい

── 御社の音響機器事業はTASCAM、TEAC、ESOTERICの3つのブランド展開で、録音から再生まで、ハイエンドまでも含めて多岐にわたります。

TASCAMはレコーディングから番組制作機器まで展開しており、スタジオや特に放送局で数多くお使いいただいています。制作現場で求められるものを理解し、またコンテンツを再生する側のお客様が求めるものを理解して機器をつくる。録音から再生までの一貫したこだわりをもっています。コンシューマー向けにはもっともクオリティにこだわるESOTERICを頂点とし、手軽なハイレゾ再生をご提案するTEACがその下に位置づけられます。

我々は、価格が重視されるコモディティ商品のビジネス展開は得意ではありません。TEACもReferenceシリーズのラインやターンテーブルなど、より価値提案ができるものにシフトする考えです。我々のポリシーは、記録と再生にこだわること。そこを徹底的に追求していきたいと思います。

英 裕治氏── ブランド同士、ものづくりの領域で共通するところは。

要素技術は共通していますが、工場はそれぞれ違います。ESOTERICは一貫して日本国内の工場で部品からこだわりを持ってつくっていますが、TEACとTASCAMは中国の自社工場です。労働力のコスト面や量産に対応するためですが、日本クオリティの工場という考え方です。日本人がオペレーションして品質管理し、部品も日系企業や日本オリジナルのものを使うポリシーです。

ただTEACは今後、日本生産モデルの展開も考えたいと思っています。ESOTERICのものづくりでは、日本でなくてはできないことを磨き上げてきました。それをTEAC製品にも活かしていく。つまり新しい価格帯の展開です。ESOTERICがほぼ50万円以上に対し、TEACは10万円を超えるくらいのところで商品展開していますが、その間に位置する20万円〜30万円の価格帯でTEACとしてよりよいものを提案する。そこでは部分的に中国で、最終的なアッセンブリを日本でといった作り方もあるかと思います。これはある程度の対価をお客様に理解していただかないとなりませんので、次のステージでのチャレンジです。

── TEACでの10万円の展開は、普及価格帯のオーディオ商品としてはある程度の高さに位置づけられると思います。TEACでの価値訴求ができているからこそですね。それをもう一段上げた価格帯では、さらなる価値訴求ができなくてはなりません。

もちろん従来と同じものではお客様に認めていただけませんので、新しいラインを提案することになると思います。ESOTERICはある意味、50万円で買っていただけることを前提として設計を行いますから、部品ひとつとってもこだわりを貫ける。そのように30万円で買っていただける前提でTEACの商品を設計し、高い価値を追求したものづくりをする。近い将来ぜひやっていきたいと思います。

── ギブソン、オンキヨーとの連携は今どのように。

3社でそれぞれいいところを活かし合い、サービスや販売、技術の応用などいろいろな場面で協力体制をとっています。同じグループという意識で自由にやりとりし、できることを積極的に行っています。

マーケティングを強化
ホームページも改変

英裕治氏── TEAC、ESOTERIC、TASCAMは独自の展開ですが、3つが同じ会社のブランドであることはどの程度認知されているのでしょうか。

認知度はそれぞれのブランドで違いがあり、地域によってその傾向も違います。日本は各ブランドとも高く認知されていますが、TASCAMブランド発祥の地であるアメリカは、TEACよりもTASCAMの知名度が高い。Referenceシリーズに相当する商品をずっと展開してきた欧州ではTEACブランドの認知度が高い。成長市場である中国や東南アジアでは、また違う様相になるでしょう。

こうした状況を踏まえ、各地のローカルマーケティングの中で各ブランドの認知度を高める必要があります。これは当社の長年の課題でした。TEACとESOTERICには共通する高い技術的ベースがあり、TASCAMの“録る”技術は再生に活きている。3つのブランドと、互いが融合したよさをしっかりアピールし、ブランドの総合力を高めたいのです。

また日本企業のよくない部分でいいものをつくれば売れると我々も思ってきましたが、それは変えていかなくては。その鍵となるのはマーケティングで、昨年から専門の組織をつくりました。これまではブランドごとのマーケティング担当がそれぞれ独自に活動していましたが、それを一本化したわけです。ティアックという企業が訴えたいことやそれぞれのブランドが持つ意味、それをどう伝えるのかといった活動を進めております。ホームページのあり方やSNSへの取り組み方、ブランドロゴの扱いなど、ひとつひとつをよりよくする作業です。

ただ商品を宣伝するだけでなく、たとえばスポンサーシップや社会貢献などでブランドを伝えていくことも重要で、そうした取り組みも今後行って参りたいと思っています。地域ごとに少しずつ違っていた展開や見せ方なども統一感をもってやっていきたいと思います。そこで私どものホームページの改変も進めております。オーディオ商品の情報に止まらず、コンテンツも充実させてライフスタイル的な訴求を強化し、読み物としても楽しくわかりやすい内容にしています。一方的な発信ではなくお客様と双方向でのやりとりもできるよう、SNSなども活用しました。

我々の会社の歴史や目指すもの、こだわりも発信しています。私どものコアバリュー「記録と再生」を踏まえ、「RecordingTomorrow」という新たなタグラインも発表致します。 記録は人々の財産です。お子さんの成長や発表会など人生の思い出の記録、また医療や自動車など生命や技術開発に関わる記録、そして心を揺さぶる音楽の記録などさまざまです。それらは記録された時点で過去のものとなりますが、未来に向けよりよいことにも役立てられる。我々はそこに携わり人や社会に貢献する、そのような意味が「RecordingTomorrow」には含まれているのです。

── 御社の新たなターニングポイントとなりそうですね。

当社は60年以上の歴史がありますが、ここ数年の市場環境の苦しい時期も乗り越え、またものづくりの本質に戻ってしっかりとやっていく決意を新たにしています。その上で、ティアックとは何であるかをわかっていただきたい。そうした企業としてのメッセージも大事にしていきたいと思います。

私はティアック製品のファンです。それも理由のひとつで当社を志望し、今も自社製品をいくつも使用しています。学生時代から楽器を演奏していましたが、そこでTASCAMの録音機やTEACのカセットデッキに出会いました。その音を聴いたときの大きな感動は、今でも鮮明に覚えています。私自身も感じた感動を、ハイレゾやアナログレコードなどを通じて多くのお客様にも味わっていただきたいと思うのです。そういう思いで、ティアックがチャレンジしたいことはたくさんあります。それをこれから、ひとつひとつ実現していきたいと思っています。

◆PROFILE◆

英 裕治氏 Yuji Hanabusa
1961年生まれ。1985年成蹊大学工学部卒業、同年ティアック(株)入社。2001年2月 タスカム部長、2004年6月 執行役員 タスカムビジネスユニットマネージャーに就任。2005年5月 執行役員 エンタテイメント・カンパニープレジデント、2006年6月 代表取締役社長に就任、現在に至る。

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