- 新たなサービスを続々と投入
映像の世界へ新風を呼び込む
- エイベックス通信放送(株)
執行役員
サービス推進部長
- 山下 智正 氏
黒船来襲で俄然、注目を集める映像配信サービス。テレビをはじめとする映像機器市場では、シナジーによる活性化にも大きな期待が寄せられている。昨年4月にサービスの大幅改変を行った国内会員数No.1の映像配信サービス「dTV」では、この1年で会員数が50万人以上も増加。大きな期待を背負い、さらなる進化を目指す2016年。その意気込みとこの1年の取り組みの成果を、dTVを運営するエイベックス通信放送株式会社・山下智正氏に聞く。
視聴本数は1.7倍に
テレビ視聴も順調に拡大
2009年5月「BeeTV」として開局。2013年1月に「dビデオ」、そして昨年4月には「dTV」へとサービス名称を変更。約487万人(2016年1月末時点)の会員数、全13ジャンル約12万作品はいずれも国内映像配信サービスでNo.1のスケールを誇る。
会員数No.1
■会員数は約487万人(2016年1月末時点)
■2015年の1年間で会員数が50万人以上純増
■15年12月からパナソニック「ビエラ」、ソニー「ブラビア」、AndroidTVへ対応。今後もさまざまなメーカーのテレビに対応を予定。テレビでの視聴がますます手軽に
■Chromecast、Apple TV、NexusPlayer、Fire TV stick(Fire TV)によるテレビ視聴も可能
■ダウンロード再生にいち早く対応。事前に保存しておけば、移動中にスマホでも楽しめる
作品数No.1
■約12万作品が月額500円(税別)で見放題
■アプリを起動すると予告編が自動で再生され、知らなかった作品と自然に出会うことができるユニークな「ザッピングUI」
■映像配信の常識を覆す「ライブ生配信」を実現。音楽配信が進化する!
■話題の4Kコンテンツを配信。昨年11月のミュージックビデオを皮切りに、2月1日からはオリジナルドラマ初の4K作品「裏切りの街」の配信がスタート
ジャンル数No.1
■多彩な13ジャンルのなかには、他にはない独自ジャンルも!
■「シアター」 都市部を中心に限られた日数で開催される 舞台や落語などプレミアムな作品を配信
■「アニメ」 マンガをコマ割りして動かし、声優がセリフを吹き込み、効果音を加えた動画で楽しめるムービーコミック
── dTVでは、昨年春の大刷新からほぼ1年となります。この間、お客様の視聴スタイルにはどのような変化が表れていますか。
山下リブランディング後の大きな変化のひとつが、コンテンツの月間総視聴本数です。約1.7倍にまで拡大し、非常によく見られるようになったと実感しています。「dビデオ」から「dTV」へのリブランディングでは、大きく3つの変更がありました。UIの刷新、コンテンツの充実、デバイスの拡大です。UIの刷新では、「ザッピングUI」を新たに導入したのが大きなポイントです。従来はどちらかと言うと、見たい作品があり、能動的に探す人が探しやすいサイト構成としていました。しかし、色々な映像エンターテインメントを分析して見ると、テレビの例が端的ですが、つけてから何を見ようかとザッピングをします。また、レンタルビデオ店に行く人も、行ってから見るものを決める方が多い。すなわち、作品の選択肢を与えられた上で選ぶ受動的な視聴スタイルの方が多いため、そうしたニーズに対応する提案型で、ザッピングがしやすいスタイルへと変更しました。また提案力を高めるためにレコメンドエンジンを強化しました。dTVのレコメンドエンジンの特徴として1つ1つの作品にジャンルやキャストだけでなく、作品のムードや主人公の職業や性格など約1000個のタグをフィルムアナリストと呼ばれる人が付与し、レコメンドエンジンの精度を高めています。これにより、視聴本数も増加しています。
コンテンツではリニューアルに合わせて、実写版映画「進撃の巨人」と完全連動したオリジナルドラマ「進撃の巨人 ATTACKONTITAN ─反撃の狼煙─」や「STAR WARS」エピソード1〜6を映画の封切りに合わせて配信し、大きな反響をいただきました。音楽では、今、力を入れているのがライブをリアルタイムで配信する「ライブ生配信」です。2014年の野外ライブ「a-nation」での東方神起(※当時サービス名は「dビデオ」)を皮切りに、先日は「BIGBANG」のライブをお届けしました。「時間がなくて行けなかったのに家で見られた」など本当に多くのお客様に喜んでいただいていています。高校生のユーザーの中には、塾の帰りにスマホで見て移動しながら、家に着くなり大画面テレビの前でペンライトを振りながら見ているという方もいるそうです。
── デバイスではやはり、「dTVターミナル」の導入により、テレビの大画面でも視聴できるようになったことは大きな進化ですね。
山下dTVはモバイルサービスが進化を続けて今のスタイルになりました。モバイルユーザーのサイトが始まりですから、当然、モバイルで楽しまれているユーザーが大勢います。ところが、さきほどのBIGBANGの生ライブ配信で衝撃的だったのは、半数の方がモバイル以外(パソコン、タブレット、テレビ)からの視聴だったことです。これまでのモバイル偏重から、確実にデバイスが多様化してきていることを実感しました。中でも伸びが顕著なのがテレビで、BIGBANGのライブ生配信の際には全体の約2割を占めています。やはり、映像コンテンツとテレビとの親和性は大変に高く、モバイルは自分の部屋で続きを見るとか、外出するときに見るとか、どちらかというと補完的な役割となり、今後、そうした傾向がさらに強まっていくと予想しています。
── パナソニック「ビエラ」やソニー「ブラビア」への内蔵が進んだことも、dTV加入へのハードルを引き下げる上では大きなインパクトになったのではないでしょうか。
山下視聴環境は千差万別ですから、dTVターミナルだけでなく、Chromecast、Apple TV、NexusPlayer、Fire TV stick(Fire TV)など、対応する視聴デバイスを拡大しています。ビエラ、ブラビア以外のテレビも今年のなるべく早い段階で対応していく予定です。皆さんが使われるデバイスには必ずdTVが入っているという世界観を実現していきたいですね。
実力からすれば
まだまだ物足りない
── NetfrixやAmazonなど、黒船来襲で注目された映像配信サービスですが、今後、テレビの買い替え需要を喚起するような強力なフックにまで成り得るのか。映像配信サービスの現在の状況をどのように見ていますか。
山下海外のVOD事業者参入により、市場に注目が集まり、活性化してきたことは非常にありがたいことです。NTTがISDNを使い、これからはレンタル店に行かなくても家で映像が見られますと謳いはじめてから、かれこれ20年近くになりますが、これまでほとんど浸透して来ませんでした。それが今から数年で急速に進むと考えています。dTVの会員数も1月末時点で約487万人と、この1年間で50万人以上の純増となっています。
ただし、市場はもっと広がる可能性を有しており、実力からすればまだまだ小さい。コンペティターと切磋琢磨してこの市場を広げていくために、認知をさらに広げていく一方、さらに一歩踏み込んで、どんなに魅力的なサービスであるかということを、具体的に理解を深めていただくことが直近のテーマになると考えています。たとえばdTVでも、「ドコモでしか使えない」「スマホでしか見られない」といった誤解があり、競合サービスに対する優位点もきちんとご理解いただけているとは言えません。VODという括りで話題を提供できるのはいいことですが、並列的に並べて見られてしまうのは、大きな課題のひとつですね。
── 店頭においては、テレビ市場を活性化する突破口として、さらなる認知やサービスの拡充が期待されています。
山下データからも、デバイス別にはテレビで見た場合に視聴時間が長くなるという結果が出ています。WIN-WINの関係にあるわけですから、テレビメーカーさんが喜んでdTVを搭載していただけるサービスにしていきたい。そこで、店頭においても強力なセールストークとなる話題の4K作品の配信にも力を入れています。昨年11月より音楽コンテンツを4本配信しました。2月1日からはオリジナルドラマ「裏切りの街」がスタートし、今後も対応作品を増やして参ります。ここにきて、テレビのインターネットへの接続率が高まりつつあると聞いており、映像配信サービスの訴求においては間違いなく追い風になるはずです。
差異化を明確に訴え
存在感を浮き彫りにする
── これからは、体感したり、理解を深めていただいたりすることが一層重要になってくると思われますが、どのような取り組みに力を入れていかれますか。
山下dTVはクラウドサービスですから、いつでも・どこでも・どんなデバイスでも見られるようにすることが、ユーザーの利便性を高めることになります。特に「どんなデバイスでも」という対応を拡充させ、さらにその認知を広げていくことが活動のベースになると考えています。家にいるときにはやはり、テレビの大画面で見たいはずで、それは、さきほどお話ししたライブ生配信などで、すでに顕著にその傾向が表れています。テレビをはじめとする商品とのシナジーにも相当高いものがあると確信しており、双方のメリットをうまく打ち出していきたいですね。また、韓流ドラマや海外の連続ドラマなどを視聴していると改めて気づかされるのは、VODの本来の持ち味である、貸出中で見られない、借りに行く・返却に行く手間がかからないといったメリットです。そうした点も改めて伝えていかなければなりません。
── キャンペーンなどの販促展開についてはいかがでしょう。
山下31日間無料体験に加え、dTVターミナルをプレゼントするキャンペーンも随時行っています。今、実施しているのは、アニメで話題の「おそ松さん」のコラボ版のターミナルを6種類つくり、各50名・計300名にプレゼントするもので、希少性の高いターミナルを提供することにより、加入への背中を押す施策になっています。また、「スターウォーズ」を提供したときに再認識したのがコンテンツの持つ力。「入会するのが面倒」「毎月500円はちょっと…」といったハードルを軽く超えてしまう力には改めて注目していきたいですね。
── それでは最後に、今後の意気込みをお聞かせください。
山下私たちは事業ドメインをVODではなく、映像エンターテインメント全般と定めています。dTVは、元々BeeTVというケータイ向けにオリジナル動画と音楽コンテンツを配信するサービスが進化したものです。そのため、映画やテレビ番組だけでなく、ここでしか見られないオリジナル作品やミュージックビデオ、さらにはカラオケもあります。ちょっと時間ができたとき、映像を楽しみたいと思ったときに、dTVのボタンを押してもらえる、そんなサービスにしていきたいと思います。その実現のためにも、もっと色々な映像エンターテインメントを取り込んでいきます。それが、ネットフリックスさんやフールーさんとの本質的な違いであり、dTVの存在感であると言えます。
現在も幅広いユーザー層を意識した13ジャンル約12万作品を揃えています。例えばご年配の方には、「男はつらいよ」全48作品を独占で配信しています。落語もあり、これも結構見始めると止まらなくなります。キッズジャンルでは、お子様とお母さんが一緒に楽しめる乗り物や新幹線の映像もあり、あらゆるターゲットの方が満足いただける編成を心掛けています。
また他ではあまり見られない舞台や演劇、人気のマンガに声優さんによるセリフや効果音などの音声を乗せ、マンガを動画で楽しめるdTVだけの「ムービーコミック」もあります。これからも新しいジャンルが続々と登場して参りますので、映像のビジネスを大いに盛り上げる存在として、「dTV」に是非、ご期待ください。