- 商品をどう使うか楽しむかは、お客様次第
さまざまな嗜好を吸い上げて
商品の価値を拡大する
- シャープ株式会社 常務
兼 シャープエレクトロニクスマーケティング株式会社 社長
- 宮永 良一
Ryoichi Miyanaga
ここ数年、経営状況などが取りざたされたシャープが、2016年8月に鴻海精密工業の出資を受け新体制を発足させた。国内販売をつかさどるシャープエレクトロニクスマーケティングで営業活動を推進する宮永社長が本誌に登場、新たな意気込みを力強く語る。
インタビュアー/徳田ゆかり Senka21編集長 写真/柴田のりよし
接点活動を強化して
お客様にキャッチアップ
── 昨年8月にシャープの新経営体制が発足しました。
宮永シャープエレクトロニクスマーケティング(SEMC)は、シャープの国内事業展開に関連してBtoCの家電商品を取り扱う販売会社です。私は2015年にもシャープ(株)国内営業本部長と兼務でSEMCの社長職に就いており、昨年8月にあらためて同職に就任しました。
ご存じのとおりシャープでは、ここ2〜3年ステークホルダーの皆様にご心配をおかけする状況が続いておりましたが、昨年8月に鴻海精密工業の出資を受け、戴正呉新社長のもとで新たにビジネスユニット制の組織となりました。全社一丸となっていろいろな形での事業活動に取り組んでおります。
戴社長からは、エンドユーザーにキャッチアップせよと言われています。この20年間のシャープは、アクオスというブランドを通じて液晶テレビに注力し、お客様に大変ご愛顧をいただきました。一方で我々は、大きなブランドの傘の下で他社との競争に勝ち抜く闘争心が薄れ、結果的にお客様から離れてしまった面があると思っています。エンドユーザーに再びキャッチアップするためには、売りの現場でお客様の近くに行き、お客様の嗜好や動向を吸い上げることが第一。ですから今スピードを上げ、その活動を拡げているのです。
── 新しい魅力的な商品も、次々に提案されています。
宮永調理家電の「ヘルシオ」シリーズでは、ウォーターオーブンを皮切りにお茶プレッソやジュースプレッソを展開しておりますが、さらに一昨年はホットクック、昨年はヘルシオグリエと、おかげさまで大変ご好評をいただいております。手軽に無水調理ができるホットクックは昨年大型モデルも追加しましたが、これはお客様の近くで、実際にお使いになっている声をお聞きした結果です。
昨今では、最寄りのコンビニでお弁当や冷凍食品を買って家で食べる「中食」の行動が増えていますが、そうしたお客様の生活シーンに合わせて作り上げた新しい商品がヘルシオグリエです。コンビニで購入した食べ物を手軽に美味しく調理する、中食専用のコンセプトですね。こういう商品を次々にご提案していくことが大事だと思っております。新しい価値を提案するヘルシオグリエは小さいサイズでレンジの機能も備えていますが、店頭ではオーブントースターのコーナーに置かれることが多く、価値を十分に伝え切れていません。さらなるご提案で、営業活動を拡げていくのが喫緊の課題です。
ただ忘れてはならないのは、お客様目線です。営業活動の中で、私どもはさまざまな工夫を込めていろいろなご提案をしますが、それは私どもの考えでしかありません。商品をどう使うかは、お客様が決めることです。
調理家電をお使いになるお客様は、私どもが想定していなかったメニューにもどんどん応用し、楽しんでおられます。私どもが商品をご提案し、お客様が実際にお使いになりながら独自の使い方や楽しみ方を拡げる。その内容が私どもにフィードバックされ、価値はさらに拡大されます。これを推進したいのです。そのためにも、売り場ももっと変えなければと思います。
商品提案でも、ビジネスチャンスはまだまだあります。ヘルシオグリエでの「中食」に対するご提案もそうで、コンビニエンスストアでの冷凍食品の需要が非常に増えている一方で食品スーパーは減っています。材料を買って調理すること以上に、調理されたものを買って食べる行動が増えている。お客様の生活スタイルは変化しており、最寄り、便利さへのニーズは大きいと思います。さらに健康志向の高まりや、女性にやさしいといった方向にも可能性を感じます。
ご販売店様の店頭でも、そうしたご提案のコーナーが多くなっていますが、弊社はそこでどんな展開ができるか。手段のひとつはプロモーション。これまでもTVコマーシャルを展開し、イベント活動を行ってきましたが、WEBのプロモーションも加えて強化しています。
お客様は十人十色。高級ブランドの服を好む方もいれば、高級車に乗ってファストファッションを着る方もいらっしゃいます。そこにキャッチアップするには、お客様のいる現場に行ってお客様との接点活動を増やすしかありません。お客様それぞれの行動や嗜好に沿った内容のプロモーションを展開していく。そしてそれらの相乗効果を活かし、トータルで訴求していくことが重要です。
買い替え需要が高まるこれからのテレビ市場で>
4K/8Kをフックにアクオスで勝ち抜いていく
── 接点活動は一度で終わりでなく、お客様の嗜好を吸い上げてものづくりにフィードバックし、また現場に来てお客様を知る、と繰り返すわけですね。
宮永お客様と接する場やタイミングによって、お客様の声は違ってきます。お客様も変化しているのです。だから接点活動の数もおのずと増える。店頭や合展会場といった場によってセールストークも変わりますから、研修もします。活動のすべてが連動しているのです。だから繰り返して回数を重ねます。
昨年の11月に「ヘルシオ セールス プロモーション隊」という女性だけの部隊をつくりました。店頭へ行ってヘルシオグリエで調理する。さらにそこでお客様の声を徹底的にヒアリングする。大型サイズのホットクックも、その活動から生まれたものです。
シャープではかつてこうしたことを展開する「ATOM隊」が存在しましたが、今、事業部のメンバーで新たに4Kアクオスをプロモーションする「4K ATOM隊」を結成し、量販店様の店頭で活動をしています。矢板の事業部では掴みにくい都心の状況、お客様の嗜好、これから何が望まれるか、他のメーカーさんの優位性はどうか、シャープはどう差別化するか、そういうことを吸い上げる機会を増やしています。お店に行くとさまざまなことがわかる。すべての基本はお客様です。
鴻海とのシナジーも活かし
ブランド拡大に注力
── 昨今の重点カテゴリーは何でしょうか。
宮永今もっとも重視するのはブランドです。脈々と浸透してきた「アクオス」「ヘルシオ」「プラズマクラスター」のブランドは大きな財産。商品を使っていただくことで、これらを再度拡げて参ります。
アクオスは、おかげさまで液晶テレビのトップブランドとしてご愛顧いただいています。さらに強化するためには4K、さらに今開発中の8Kが鍵となります。これから2020年に向け、2009年〜2010年頃お買い上げいただいたテレビの買い替え需要が高まりますが、4K/8Kをフックにここで勝ち抜くことが命題となります。ブルーレイレコーダーとの連動も強化し、アクオスのブランドを高めて参ります。
ヘルシオは単なる調理器具でなく、シャープならではのご提案で健康調理器具として広めて参りたい。ホットクックやヘルシオグリエに続き、2017年も新しい提案を行います。お客様のニーズを吸い上げた商品づくりを進め、健康調理器具としての付加価値を付けてご提案します。さらに女性目線でいかに訴求するかが重要だと思います。
プラズマクラスターは、BtoBでもかなり浸透しています。ブドウの形のマークを、エレベーターや病院の中などいろいろな場所で目にするようになりました。またBtoCでは1室1台として推進したい。居室だけでなく、玄関、お風呂場、キッチン、トイレなどにもプラズマクラスターを導入するご提案で、さらに需要を拡げて参りたいと思います。今や水を購入するのは当たり前ですが、空気を買う時代も来るのではないでしょうか。空気がきれいで安全な空間に、お金を払ってでも入りたい。そこに向かって、プラズマクラスターをおおいに拡げていきたいと思います。
こうした3つのブランディングを、お客様目線で商品とともに拡げていく。その結果お客様の生活が豊かになる。非常に大きなテーマです。さらにさまざまな家電のカテゴリーで新価値提案を進めていますが、鴻海精密工業からの出資を受けてこれから攻めに転じます。その1つがラクティブ エアというコードレススティック掃除機。超高齢化が進み、また女性がお掃除をされる場合が多いことから、軽さを徹底的に追及しました。従来モデルのFREEDも軽いですが、その1/2ほどの重さとしました。
軽くするためのハードルの1つが部材ですが、そこに鴻海精密工業が扱う部材調達の圧倒的なスケールメリットを活かすことができました。非常に軽いドライカーボンを採用しましたが、おそらくシャープだけでは実現できなかったでしょう。これこそ鴻海精密工業とのシナジー効果の一例です。
シャープがお客様目線で商品を企画、開発し、鴻海精密工業がつくる。シャープがこれを売る。ラクティブ エアは多数の注文をいただいておりますが、これからそういう商品をどんどんご提案していきたい。非常にいいシナジー効果が出ていますが、今後の商品にもご期待いただきたいと思います。
アクオスで4K、8Kへ
お客様志向で次を見据える
── 今後買い替え需要が拡大する中で、テレビをどう訴求しますか。
宮永
アクオスでは新たに45インチのラインナップを加えました。地デジ移行に伴うタイミングでは32インチモデルが非常に数多く売れました。かつての32インチモデルを設置した空間に、新しい45インチモデルを設置できます。今このご提案を展開して、45インチモデルが非常に売れております。大型モデルでもこうした買い替えのご提案をさらに推進して参ります。
また2020年に向け、買い替えそのものを促進する必要があります。鍵となるのは4K、今や金額ベースで売上げの半数以上を占めており、各メーカーさんが照準を合わせています。シャープが一昨年ご提案したAQUOS 4K NEXTは高額商品ですが、量販店様はもちろん、地域店様でも売れています。特に地域店様のお客様にターゲティングしていい結果を得られましたが、これを踏まえて8Kの訴求もできると思います。
4Kの波の拡がりは、8Kに続く前兆と捉えます。8Kを見据えながらいろいろな形で鴻海精密工業と協力し、技術力を高めながらコストも抑え、お客様が購入しやすい価格帯にもっていく。2020年には8Kで大型スポーツイベントを見ていただく、これを想定して商品開発を進めているところです。
── テレビの展開でもお客様志向が活かされますね。
宮永多くのお客様がアクオスのテレビを所有しておられます。ユーザー調査をしますと、映りこみの少ないNブラックパネル、画質、スイーベルスタンド、音のよさといったところが決め手となって、アクオスが選択されていることがわかります。日本のお客様の高画質・高音質志向や、日本のご家庭の限られたスペースへの設置性の良さが大きなインパクトになったと思います。
またこれから注目されるのは、インターネットへの対応。さまざまな動画配信サービスが始まっていますが、これらをいかに活用していくか。アクオスと連動するココロビジョンプレーヤーもご提案していますが、お客様の嗜好を見ながら展開していきます。
お客様が今後何を求められるかで、新しいアクオスのかたちも決まっていきます。今後の日本は65歳以上の人口が増え、また全体的に人口が減少していく傾向となります。それを踏まえ、どういう商品がお客様にフィットするかを追求することが大事です。接点活動を通じてよりお客様目線での商品づくりを徹底し、しっかりとご提案して参ります。