- 新たなステークホルダーと強力に連携して
コアビジネスを維持、さらに伸長していく
- 株式会社ディーアンドエムホールディングス
代表取締役
ジャパン・セールス&オペレーション プレジデント
- 中川 圭史
Yoshifumi Nakagawa
3月1日、米国のSound United LLCがディーアンドエムグループの買収を完了したとの発表があった。合併を果たし、既に動き出した両社だが、今どのような状況であり、今後どのように展開していくのか。ディーアンドエムグループの中川氏が、あらためて詳細を語る。
インタビュアー/徳田ゆかり Senka21編集長 写真/柴田のりよし
互いに「音楽好き」の嗜好
相互補完しシナジーを上げる
── ディーアンドエムホールディングスのステークホルダーがこのほど、新たに米国のSound United LLC(サウンドユナイテッド)に変更になったとのアナウンスがありました。これを受けて、御社の今後の展開についてあらためてお伺いしたいと思います。
中川このたびは急な発表となって、業界の皆様は驚かれたことと思います。もともと我々の株主はベインキャピタルという投資会社が保有していましたが、直近の持株比率としては30%程度でした。大多数を保有されていたのは銀行関係で、今回、彼らの方で売却先を探していたところ、手を挙げたのがサウンドユナイテッドだったのです。その母体となっているのはDEIという持株会社で、いくつかのオーディオブランドを買収し、事業会社であるサウンドユナイテッドを通じてシナジーを出したブランド戦略を進めています。サウンドユナイテッドは2003年にブランド事業会社として設立され、規模としてはディーアンドエムの1/3ほどではありますが、スピーカー展開では北米で最大規模のシェアを確保しています。
彼らの事業ポートフォリオは、コンポーネントスピーカーと、サウンドバーが中心。カーオーディオおよび普及価格帯スピーカーを主に展開する1972年設立のポークオーディオ、高級AVスピーカーを主に展開する1990年設立であるデフィニティブテクノロジーが2大ブランドと位置づけられています。そうした背景から今回、ディーアンドエムの持つブランドやグローバルでの販売ネットワークが、彼らの事業を補完する魅力的な存在と受け止められました。ディーアンドエムではどちらかというと、AVレシーバーやハイファイコンポーネントのエレクトロニクス部分の比重が高いですから、双方互いにシナジーを高められます。
サウンドユナイテッドのトップであり我々のCEOとなったケビン・ダフィは、もともとカーオーディオのクラリオンに勤めた経験があって、オーディオ業界に対する知見もあります。そしてケビン自身も従業員も皆音楽が好きで、日頃からコンサートやオーディオを楽しんでおり、嗜好の上でも我々と共通項が多いのです。ものづくりについては、内部にエンジニアリングを抱えて開発は自前で行っていますが、生産拠点は持たずに製造は外部の工場にODMとして委託する方策です。ケビンは40代と若いですが、開発陣にはベテランのリーダーがいてものづくりを支えていますね。実は私がアメリカでAVレシーバーを推進していた時に、デフィニティブテクノロジーに協力を得てスピーカーを借り、AVレシーバーのデモンストレーションをしていたものです。それで私自身がブランドには馴染みが深い。またケビン自身がデノン製品の愛用者だということで、我々に対する理解度も非常に高いのです。
── お互いにいい出会いだったということですね。
中川そうです。まず音楽好きの共通するDNAがあることは大きい。その上で、事業展開上互いにないところを相互に補完できる。サウンドユナイテッドの製品カテゴリーは、コンポーネントスピーカーが売上げの7割を占めています。残る3割のうち大多数を占めるのはサウンドバーで、ヘッドホンやアクセサリー、ブルートゥーススピーカーなどもごく小規模で手がけています。そこにデノンとマランツのブランドが加わって、彼らが着手していなかったカテゴリーが一気に加わりました。
音に関連するホームエンターテインメントとして、パズルの空いた部分のピースが埋まって大きな絵が描けます。サウンドユナイテッド一社が有する製品でホームシアターが構築できるようになりました。また販売地域も、サウンドユナイテッドは9割がアメリカですが、我々はヨーロッパを最大として、アメリカ、アジアに大きく展開しています。彼らにとっては、特にヨーロッパやアジアでの販売網の拡大が期待されるところです。
── 手持ちの絵の具の色が増えましたね。描ける絵が大きくなり、より緻密に描けるようにもなりましたし、絵の具を混ぜた中間色をつくることもできます。地域別の製品展開や、両社手を携えた製品開発など期待できますね。これからの商品企画や販売戦略はどのように。
中川相互補完し一緒にやっていく、その詳細はこれから本格的に詰めていきます。彼らの最大の販売網であるアメリカにはディーアンドエムの販売拠点もありますから、そこは統合して調整しなければなりません。それ以外の地域はディーアンドエムのネットワークを使って伸ばす。彼らの拠点がない日本やヨーロッパでは我々がベースとなってイニシアチブをとり、ゼロから着手します。彼らも意思決定には加わりますが、基本的にはコアビジネスを伸ばし、守ることで方向性は変わりません。
互いの全製品群について、我々のブランドで彼らの製品を販売することも含め、何をどういう戦略で売っていくか、ブランドをどの地域でどのように展開するかなどはこれから詰めていくことになります。ブランドの音の個性に沿った音作りは必要ですし、地域や市場の特性に合わせて上手な展開を推進したい。できるところから着手し順に調整していきます。また、我々にとっては、一時撤退したカテゴリーも復活できるのは大きなメリットです。たとえばサウンドバーについてディーアンドエムは展開を止めておりますが、市場は伸びており、これから4Kテレビの買い替えが伸長するなかで当然、さらに需要は拡大していきます。そこに再び参入できるチャンスを持つのは大きいと思っています。
ストリーミングとの親和性など
新提案を連打するHEOS
ハイファイの既存のお客様はもとより、新しいお客様や離れていたお客様にリーチし、オーディオ市場を活性化していく
── またこのほど、ストリーミングサービスを含め新しい音楽の聴き方を提案するHEOS by DENONが発表されましたね。
中川グローバルでは2年前から発売を開始しており、今では既にディーアンドエムの売上げの8%を占める存在に成長しております。ストリーミングサービスが上陸していなかった日本では発売を控えていましたが、いよいよスポティファイさんも昨年日本でサービスを開始し、機は熟しました。3月の発表会ではおよそ70ものマスコミ各社様の来場があり、その後テレビを含めて様々な媒体に取り上げていただきました。
── 我々専門媒体ばかりでなく、一般媒体さんも興味を示されていて、新しい音楽の聴き方として大いに注目されているということですね。
中川おかげさまで順調なスタートが切れたところです。さっそく興味を持ってくださったお客様が数多く販売店様にいらっしゃって、ご成約に至っています。店頭では発表会でご覧に入れた展示台を置き、簡単に操作出来るデモを実演する。販売スタッフの皆さんがお客様にしっかりご説明させていただく。こうしたことも有効に機能しています。HEOSはブルートゥースでスマートデバイスと繋がるだけでなく、スピーカーそのものがWi-Fi機能を持ってネットワークとつながる、またスピーカー同士もつながって連携できるなど様々な使い方ができますが、まず単体で楽しむ、それから2本揃えてステレオ再生を楽しむ方が多いですね。
新築の際などマルチルームでのニーズもあります。いろいろな楽しみ方ができる分、いろいろなお客様にアプローチできると感じています。ストリーミングのコンテンツ再生も格段に音が良いと体感していただけるので、そこも訴求の大きなポイントとなります。今後も多くのお客様に実感していただければ、さらに広がってくると思います。従来のピュアオーディオファンとは違う、新しいお客様が反応してくださっています。
── ワイヤレススピーカーとしての使い方はもとより、ステレオ再生も、マルチルーム再生も、さらにハイレゾ再生も含めて、可能性が広がりますね。
中川先行していた海外でのやり方を参考にして、日本で未発売だった2年の間に我々も勉強してきました。マルチルームのニーズなどは、部屋の数や広さとはあまり関連性がなく、欲しいお客様が志向する。その傾向は海外も日本も似たものがあると思います。海外で一番売れているのはHEOS1で、この傾向は日本でも同様であろうと予測しております。当社のAVレシーバーもHEOSの機能に対応開始しました。海外ではAVレシーバーの売上げは大きく、たくさんのお客様がおられます。セカンドやサードスピーカーとしてHEOSのシリーズをお求めいただくなど、今後ますます期待できますね。
ハイファイ商品も充実
新商品のさらなる展開へ
── 昨今は御社ならではのハイファイの大型商品が次々投入され、市場で大きな話題になっております。
中川
昨年投入したマランツのSA-10とPM-10はおかげさまで非常に好調です。大変いい反響で一部品切れによりご迷惑をおかけしましたが、実績は上がっています。PM-10は当初の予定より遅くなりましたが、お待たせした分良い内容とすることができ、市場でも高いご評価をいただいています。また2モデルとも新たなことに果敢にチャレンジし、新しいお客様にも興味をたくさん持っていただいています。
B&Wの800D3もおかげさまで非常に好評、未だにたくさんのお客様にお待ちいただいている状況です。生産体制も強化しましたが、想定以上の引き合いがあったのが正直なところ。またトップモデルが出たことにより、802D3以下のモデルも再び活性化しており、うれしい限りです。既存のカテゴリーも、新しいカテゴリーも順調です。特にHEOSは新しいお客様の開拓という点でもいい手応えになりました。いずれは、新たに開拓したお客様をハイファイのカテゴリーに誘導することができればと考えます。
── 今年度の展開はいかがでしょうか。
中川最初にHEOSのような新カテゴリーを提案しておりますが、既存の各カテゴリーでも新製品を積極的に投入して参ります。ハイファイの既存のお客様にしっかりとお応えすることはもとより、オーディオに触れたことのない新しいお客様や、オーディオからずっと離れていたお客様に再び戻っていただけるようなご提案もしながら、我々の製品を通じてオーディオ市場全体を活性化していきたいと考えます。これから盛りだくさんの商品を投入して参りますので、ぜひご期待ください。