独自のソーシャル機能も提供予定
“全チャンネル録画機”「SPIDER PRO」開発者に訊く − 年末発売予定のコンシューマー版はどうなる?
2011年はデジタル・ビデオレコーダーの当たり年となりそうだ。BDレコーダーは機能を高めながら価格も手頃になっていることから人気が高まりつつあるが、機能面での進化で大きなトレンドが生まれつつあることも忘れてはならない。一昨年発売の東芝のCELLレグザによって一気に注目度が高まった“全チャンネル録画”機能搭載のレコーダーだ。
筆者が注目している“全チャンネル録画”機能搭載のレコーダーが、株式会社PTPが開発した「SPIDER PRO」だ。本機は2007年から業務用製品として販売されている製品だが、最初から同社が目標としていたのは一般家庭用。このためアナログ・チューナー版を、モニター家庭向けに「SPIDER ZERO」として2008年に台数限定で販売し話題を集めた。
最新の「SPIDER PRO」は今年の4月に法人版の地上デジタル対応機が発売され、年内にはいよいよコンシューマー版の発売が予定されている。今回は株式会社PTPの代表取締役社長である有吉昌康氏を訪ね、同社製品とサービスの特徴、また期待が高まる「コンシューマー向け地デジ版SPIDER」の計画についても詳細をうかがった。なお、法人版「SPIDER PRO」実機デモの内容にも適宜触れていきたいと思う。
法人版「SPIDER PRO」の特徴 − ユニークな機能や操作性を実現した“全チャンネル録画機”
SPIDER PROをまだご存じない方々のために、はじめに法人版SPIDER PROの特徴について紹介しておこう。5月から法人向けに販売開始した「地デジ版SPIDER PRO」は、本体に「1週間・8ch」の地上デジタル放送番組を、全て録画するレコーダーだ。LINUXベースの独自システムを採用し、標準で内蔵する2つの計4TBのHDDに、地デジ番組8ch分を1週間まるごと録画できる。ハードウェア的には計4つのHDDスロットがあるので、必要に応じて増設することも将来的に可能だ。※2011年9月時点では、まだ増設用のHDDスロットには対応していない。
録画フォーマットはMPEG4 AVC形式で、内蔵ハードウェアエンコーダーで地デジ8chを圧縮しながら録画する。エンコードのビットレートは標準設定の3.5Mbpsで、およそ1週間・8ch分の録画ができ、ビットレートの設定は6Mbs〜2Mbpsの範囲で調整できる。また、最大8chの中から、録画するチャンネルを任意で選ぶことも可能だ。
法人版「SPIDER PRO」の大きな特徴はそのハードウェアだけでなく、ソフトウェアの高い完成度にある。特に録画済み番組の高度な検索機能には目を見張るものがある。
「SPIDER PRO」は常時1週間・8chの番組を録画し続けているので、録画予約という操作がない。GUIはレスポンスが良く軽快であり、過去番組表の視認性も非常に高い。本体付属のリモコンは無線方式を採用しており、デザインはプロダクトデザイナーの柴田文江さんが手がけている。丸みを帯びた本体は手によく馴染み、ボタン操作も快適だ。
SPIDER PROのユニークな点は、“全録”されたコンテンツに対して、独自に高精度なメタデータを付与することで、非常に細やかな番組検索が行えることだ。実機によるデモでは、例えばタレントの「上戸彩」をキーワードにして検索すると、「番組」が1件、「CM」が19件、「コーナー」が19件という検索結果が現れる。「番組」については一般のレコーダーと同じくEPGの番組情報を利用したものになるが、「CM」や「コーナー」の情報は、SPIDERによるオリジナルの検索用データを使っている。つまりこの例の場合、普通のテレビやレコーダーのEPGを利用した検索では1件しかヒットしないが、SPIDERでは合計39件の映像がヒットするということだ。
「CM」検索結果を再生してみると、録画番組の中から上戸彩が出演するCMにジャンプできる。また「コーナー」では、情報番組の中で上戸彩について話題に触れられたコーナーにジャンプすることができる。他にも検索キーワードにある楽曲名を入力すれば、CMに使われたり、番組中のBGMに使われた箇所までヒットする。従来のレコーダーの検索機能の概念を覆すほど高精度な検索・再生が行え、これまでになかった使い勝手が実現されていることが実感できた。「検索のデータについてはすべて手入力で行っています。SPIDERは法人のユーザー様向けに有償でご提供しているサービスですので、検索の精度には自信を持っております。『SPIDERの検索でヒットしなければ本当にない』と言えるほどのマッチング精度を保証しています」と有吉氏は語る。
録画した番組はアーカイブ保存することも可能だ。SPIDER PROはDLNAベースのDTCP-IPサーバー機能を備えており、ネットワーク経由で録画したコンテンツを、他のBDレコーダーやNASなどDLNA対応機器にダビングすることができる。BDレコーダーに転送した番組をディスク化することも可能だ。ダビングは番組単位だけではなく、例えば検索結果からシーン単位やCM単位でも選べる。SPIDER側で、あらかじめ映像の中から残しておきたいシーンだけをカットしてからダビングすることもできる。
法人版「SPIDER PRO」の利用には、本体価格80万円のほか、サービスの利用料金として月額6万円が必要になる。サービスを利用しているクライアントには、大手広告代理店や放送局はもちろん、一般企業の広報・宣伝部門の担当者、官公庁などがあるという。有吉氏は利用者数は現在400社を超え、さらに拡大しつつあると説明する。また著名人の中にはSPIDERの製品に惚れ込み、個人で法人版「SPIDER PRO」を導入しているユーザーもいるのだそうだ。
■コンシューマー版では独自のソーシャル機能も提供予定
高度な検索機能をはじめとするソフトウェアを搭載したことにより、単なる“全録のレコーダー”の枠に止まらない魅力を備えた法人版「SPIDER PRO」だが、本年末頃にはコンシューマー版製品の発売も予定されているという。「1週間・8ch」録画をベースに、法人版の高度なシーン検索機能がコンシューマー版にチューニングされて搭載されるという。またコンシューマー版独自の機能として、ソーシャル機能も提供される予定だ。
SPIDERのソーシャル機能では、ニコニコ動画の実況やTwitterのつぶやきのような機能も充実させるという。「ユーザーの発言のテロップが流れるものや、番組に対してつぶやく機能は、リアルタイムでつぶやけるもの、過去番組につぶやかれたものを連携させる機能などを検討しています。当社では以前からソーシャル系の機能に注目して開発や検討を進めてきました。コンシューマー版発売の際には、使いやすく洗練させ、充実したソーシャル機能を搭載する予定です」と有吉氏は語る。また、もう一つ面白そうな機能では、学習型のレコメンド機能が検討されるという。これはユーザーの視聴履歴や「つぶやき」の内容、SPIDERユーザーが“面白い”と話題にしている番組を解析し、録画内容からユーザーが興味を持ちそうな番組をピックアップして推薦する機能だ。
同社には、有吉氏をはじめとした企画・開発陣が素速くユーザーのニーズを捉え、製品に反映させる体制が整っている。「現在もSPIDERをお使いいただいているユーザーにお会いし、いただいた感想やご意見の中から、有益なものについては可能な限り素速く反映させている」という有吉氏。法人版ではクライアントの要望に応じて、これまでに数え切れないほどのソフトウェア・アップデートを実施しているという。例えばキーワードによる検索結果では、業務報告の資料作成ができるようデータで出力したいというニーズに応え、EXCELファイルへの書き出し機能もユーザーの要望で追加された。
気になるコンシューマー版の販売価格は「まだ決定していない」という。もちろん価格は、SPIDERをどういったユーザーをターゲットに、どの程度のボリュームで展開していくかというビジネスプラン全体に関わってくるが、同社では一般的なBDレコーダーの価格帯に近づけられるものにしたいと考えているという。
サービスの月額料金についても、今回のインタビューで詳細は明かされなかったが、コンシューマー向けの独自の料金プランが提供される予定だ。有吉氏は「コンシューマー版SPIDERは、はじめから機能・デザイン・使い勝手などの完成度が高いものを提供しながら、後からソフトウェアのアップデートで新機能やサービスを常に追加しで、色褪せない魅力を提供したいと考えている。“一生使えるレコーダー”により、お客様にリッチな視聴体験を提供することが、我々の抱いているイメージ」と語る。
従来のレコーダーの常識を覆す「SPIDER PRO」が、コンシューマー版となってどんなかたちで私たちの前に現れるのか、興味は尽きない。近々、法人版「SPIDER PRO」のハンドリングレビューも掲載したいと思う。
◆レポート:折原一也
コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。
筆者が注目している“全チャンネル録画”機能搭載のレコーダーが、株式会社PTPが開発した「SPIDER PRO」だ。本機は2007年から業務用製品として販売されている製品だが、最初から同社が目標としていたのは一般家庭用。このためアナログ・チューナー版を、モニター家庭向けに「SPIDER ZERO」として2008年に台数限定で販売し話題を集めた。
最新の「SPIDER PRO」は今年の4月に法人版の地上デジタル対応機が発売され、年内にはいよいよコンシューマー版の発売が予定されている。今回は株式会社PTPの代表取締役社長である有吉昌康氏を訪ね、同社製品とサービスの特徴、また期待が高まる「コンシューマー向け地デジ版SPIDER」の計画についても詳細をうかがった。なお、法人版「SPIDER PRO」実機デモの内容にも適宜触れていきたいと思う。
法人版「SPIDER PRO」の特徴 − ユニークな機能や操作性を実現した“全チャンネル録画機”
SPIDER PROをまだご存じない方々のために、はじめに法人版SPIDER PROの特徴について紹介しておこう。5月から法人向けに販売開始した「地デジ版SPIDER PRO」は、本体に「1週間・8ch」の地上デジタル放送番組を、全て録画するレコーダーだ。LINUXベースの独自システムを採用し、標準で内蔵する2つの計4TBのHDDに、地デジ番組8ch分を1週間まるごと録画できる。ハードウェア的には計4つのHDDスロットがあるので、必要に応じて増設することも将来的に可能だ。※2011年9月時点では、まだ増設用のHDDスロットには対応していない。
録画フォーマットはMPEG4 AVC形式で、内蔵ハードウェアエンコーダーで地デジ8chを圧縮しながら録画する。エンコードのビットレートは標準設定の3.5Mbpsで、およそ1週間・8ch分の録画ができ、ビットレートの設定は6Mbs〜2Mbpsの範囲で調整できる。また、最大8chの中から、録画するチャンネルを任意で選ぶことも可能だ。
法人版「SPIDER PRO」の大きな特徴はそのハードウェアだけでなく、ソフトウェアの高い完成度にある。特に録画済み番組の高度な検索機能には目を見張るものがある。
「SPIDER PRO」は常時1週間・8chの番組を録画し続けているので、録画予約という操作がない。GUIはレスポンスが良く軽快であり、過去番組表の視認性も非常に高い。本体付属のリモコンは無線方式を採用しており、デザインはプロダクトデザイナーの柴田文江さんが手がけている。丸みを帯びた本体は手によく馴染み、ボタン操作も快適だ。
SPIDER PROのユニークな点は、“全録”されたコンテンツに対して、独自に高精度なメタデータを付与することで、非常に細やかな番組検索が行えることだ。実機によるデモでは、例えばタレントの「上戸彩」をキーワードにして検索すると、「番組」が1件、「CM」が19件、「コーナー」が19件という検索結果が現れる。「番組」については一般のレコーダーと同じくEPGの番組情報を利用したものになるが、「CM」や「コーナー」の情報は、SPIDERによるオリジナルの検索用データを使っている。つまりこの例の場合、普通のテレビやレコーダーのEPGを利用した検索では1件しかヒットしないが、SPIDERでは合計39件の映像がヒットするということだ。
「CM」検索結果を再生してみると、録画番組の中から上戸彩が出演するCMにジャンプできる。また「コーナー」では、情報番組の中で上戸彩について話題に触れられたコーナーにジャンプすることができる。他にも検索キーワードにある楽曲名を入力すれば、CMに使われたり、番組中のBGMに使われた箇所までヒットする。従来のレコーダーの検索機能の概念を覆すほど高精度な検索・再生が行え、これまでになかった使い勝手が実現されていることが実感できた。「検索のデータについてはすべて手入力で行っています。SPIDERは法人のユーザー様向けに有償でご提供しているサービスですので、検索の精度には自信を持っております。『SPIDERの検索でヒットしなければ本当にない』と言えるほどのマッチング精度を保証しています」と有吉氏は語る。
録画した番組はアーカイブ保存することも可能だ。SPIDER PROはDLNAベースのDTCP-IPサーバー機能を備えており、ネットワーク経由で録画したコンテンツを、他のBDレコーダーやNASなどDLNA対応機器にダビングすることができる。BDレコーダーに転送した番組をディスク化することも可能だ。ダビングは番組単位だけではなく、例えば検索結果からシーン単位やCM単位でも選べる。SPIDER側で、あらかじめ映像の中から残しておきたいシーンだけをカットしてからダビングすることもできる。
法人版「SPIDER PRO」の利用には、本体価格80万円のほか、サービスの利用料金として月額6万円が必要になる。サービスを利用しているクライアントには、大手広告代理店や放送局はもちろん、一般企業の広報・宣伝部門の担当者、官公庁などがあるという。有吉氏は利用者数は現在400社を超え、さらに拡大しつつあると説明する。また著名人の中にはSPIDERの製品に惚れ込み、個人で法人版「SPIDER PRO」を導入しているユーザーもいるのだそうだ。
■コンシューマー版では独自のソーシャル機能も提供予定
高度な検索機能をはじめとするソフトウェアを搭載したことにより、単なる“全録のレコーダー”の枠に止まらない魅力を備えた法人版「SPIDER PRO」だが、本年末頃にはコンシューマー版製品の発売も予定されているという。「1週間・8ch」録画をベースに、法人版の高度なシーン検索機能がコンシューマー版にチューニングされて搭載されるという。またコンシューマー版独自の機能として、ソーシャル機能も提供される予定だ。
SPIDERのソーシャル機能では、ニコニコ動画の実況やTwitterのつぶやきのような機能も充実させるという。「ユーザーの発言のテロップが流れるものや、番組に対してつぶやく機能は、リアルタイムでつぶやけるもの、過去番組につぶやかれたものを連携させる機能などを検討しています。当社では以前からソーシャル系の機能に注目して開発や検討を進めてきました。コンシューマー版発売の際には、使いやすく洗練させ、充実したソーシャル機能を搭載する予定です」と有吉氏は語る。また、もう一つ面白そうな機能では、学習型のレコメンド機能が検討されるという。これはユーザーの視聴履歴や「つぶやき」の内容、SPIDERユーザーが“面白い”と話題にしている番組を解析し、録画内容からユーザーが興味を持ちそうな番組をピックアップして推薦する機能だ。
同社には、有吉氏をはじめとした企画・開発陣が素速くユーザーのニーズを捉え、製品に反映させる体制が整っている。「現在もSPIDERをお使いいただいているユーザーにお会いし、いただいた感想やご意見の中から、有益なものについては可能な限り素速く反映させている」という有吉氏。法人版ではクライアントの要望に応じて、これまでに数え切れないほどのソフトウェア・アップデートを実施しているという。例えばキーワードによる検索結果では、業務報告の資料作成ができるようデータで出力したいというニーズに応え、EXCELファイルへの書き出し機能もユーザーの要望で追加された。
気になるコンシューマー版の販売価格は「まだ決定していない」という。もちろん価格は、SPIDERをどういったユーザーをターゲットに、どの程度のボリュームで展開していくかというビジネスプラン全体に関わってくるが、同社では一般的なBDレコーダーの価格帯に近づけられるものにしたいと考えているという。
サービスの月額料金についても、今回のインタビューで詳細は明かされなかったが、コンシューマー向けの独自の料金プランが提供される予定だ。有吉氏は「コンシューマー版SPIDERは、はじめから機能・デザイン・使い勝手などの完成度が高いものを提供しながら、後からソフトウェアのアップデートで新機能やサービスを常に追加しで、色褪せない魅力を提供したいと考えている。“一生使えるレコーダー”により、お客様にリッチな視聴体験を提供することが、我々の抱いているイメージ」と語る。
従来のレコーダーの常識を覆す「SPIDER PRO」が、コンシューマー版となってどんなかたちで私たちの前に現れるのか、興味は尽きない。近々、法人版「SPIDER PRO」のハンドリングレビューも掲載したいと思う。
◆レポート:折原一也
コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。