配信アルバムの聴きどころも詳細解説
「“いい音”って、“グッと来るもの”」− 黒沢健一さんが語るハイレゾ配信の魅力
5月末から、e-onkyo musicにて黒沢健一さんの48kHz/24bitハイレゾ音源5タイトルが好評配信中だ。黒沢さんは「Knockin' on your door」(1995)でオリコンNO.1を記録したL⇔Rでの活躍のあと、ソロ活動や楽曲提供など意欲的な創作活動を続けているミュージシャン/アーティスト。以前からiTunesなどでの配信を行っていたほか、ハイレゾならではの可能性を研究してきたという。今回は、そんな黒沢さんの音へのこだわりや、アルバムの聴きどころなどについてお話しをうかがうことができた。
【配信中の音源一覧】
スタジオの音をそのまま聴いてもらえたらいいのに、と思っていた
−−まず、今回e-onkyo musicで高音質配信をされることになったきっかけを教えてください。
黒沢さん:「高音質配信」というものの存在を知ったのは、6年ほど前でしょうか。レコーディング現場で話題になっていました。自分もいち音楽ファンとして、PCを使ったオーディオを楽しんでいます。
デビュー以来、「スタジオで聴いている音をCDにプレスすると変わってしまうんだな」と思っていたんです。スタジオで「ごキゲンなテイクが録れた!」とか「これ最高のミックスだね!」と言っていたのに、マスタリングスタジオを通ってディスクになって戻ってきたものを聴くと……スタジオで聴いてた音と似てるんだけど、なんか“こない”よね、と。何度もミックスをやり直したりして、自分的に納得するCDはできたんですけど。
僕がデビューした91年頃は、レコーディングにソニーの「PCM-3348」という16bitレコーダーを使っていたのですが、それがProToolsに変わって24bitレコーディングができるようになって「この24bitマスターファイルの音をそのまま聴いてもらえたら、自分のやりたいことが一番伝わるだろうな」と感じました。今回rpmというレーベルでリリースしているタイトルが高音質配信できるようになったので、これはe-onkyo musicでぜひ配信してほしいな、ということになったんです。ちなみに僕自身もe-onkyo musicユーザーなんですよ。
−−16bitと24bitの音の違いというのはどんなものだと感じていますか?
黒沢さん:音のことを口で説明するのは難しいんですけど…何か、平面的になるというか。例えばレコーディングのとき、エンジニアもミュージシャンもみんな音にこだわってアンプや楽器を持ってきてくれるんですけど、24bitだとその違いが分かる。でも、16bitだとProToolsのプラグインを使った時の音とそんなに変わらないんですよね。“歪んだ音のギター”という音のジャンルがあるとしたら、その大枠にくくられてしまう、個性のない感じと言うか…。「これはこの手のサウンド」みたいにジャンル分けしやすくなるし、ある意味聴きやすいのかも知れませんが、「他に似ていない何か」を表現したいときにはそれができない感じがします。
それと、アナログ盤の頃は、クラプトンのすごく上手なギタープレイを聴いて「これと同じギターが欲しい!」とか「どういうエフェクター使ってるんだろう?」とか思っていたのですが、CDだと“何かに似た音”だから、そこまで深く掘り下げる気になれなかったんですよね。でも24bitだと、アナログ盤の頃と同じような感覚が味わえるように思いました。
−−解像度の低い写真だと細かいディテールが分からないけれど、高解像度の写真なら分かる、というのと同じイメージでしょうか。
黒沢さん:うーん、そうですね。でもデジタルって何とも言いようのない変わり方をするんです。鮮明だから良いという訳でもないし、ボケているからダメな訳でもない。アナログの質感とは違うものを作っていかないといけないんだなと感じています。高音質配信の時代になって、マスタリングやレコーディングの仕方も変わっていくと思います。
−−今回配信される音源は、新たにマスタリングをし直したということですが?
黒沢さん:はい。rpmレーベルでリリースした僕の作品のマスターファイルは全て48kHz/24bitなのですが、実は、元々16bitに落としこむことを前提に作った48kHz/24bitマスターファイルだったんですね。でも今回は24bitそのままを聴いていただけるわけですから、そのデータ量を活かせるマスタリングにしていただきました。16bitに落としたときに聞こえにくくなってしまった成分をどれだけ甦らせられるか、永井さんとかなり時間をかけて調整しましたね。今回の配信音源は、過去のものも含めて最高の自信作です。
−−192kHzや96kHzではなく、48kHz/24bitにしているのには、理由があるのでしょうか?
黒沢さん:いちばん音楽的で音がいいと思うのが、48kHzなんです。アナログレコーディング時代のマスターを96kHzや192kHzにすると、当時のマスターテープを聴いてるみたいで本当に面白いんですが、ProToolsでレコーディングしたものをそこまでやると、余計な音まで気になってしまう感じがするんですよね。
アナログの頃って、勢いや雰囲気でまとまる感じがあるんです。でもサンプリングレートが高すぎると、色々なものが見えすぎて雰囲気がなくなってしまうんですよね。僕は音の滲みなんかも音楽のひとつだと思っていますけど、そういうものも、なくなってしまう。
−−数字が高ければ何でも良いというわけではないんですね。
黒沢さん:サンプリングレートよりも、ビット数が16bitから24bitになる方が、音の変化が大きいですよ。
聞こえている音以外の、雰囲気が伝わってくる感じがする
−−実際に音源を聴いてみて、いかがでしたか?
黒沢さん:「LIVE 2011 NEW DIRECTION」の1曲目(「Maybe」)、24bitで聴いたら皆が緊張しているのが手に取るように分かりますね(笑)。その時のステージのことを思い出します。当日の空気感や温度感、メンバーの顔……聞こえている音以外の、雰囲気が伝わってくる感じがしました。
今回配信される5タイトルのうち、3枚がライブ盤なんです。CDの時はそんなに感じなかったのですが、24bitになると、会場のアコースティックの違いや、編成による音の違いって分かるんだなあと思いましたね。
−−「LIVE without electricity」は、レコーディングした際アンビエンスマイクがなかったそうなので、響きや広がりを出すのが大変だったのではないですか?
黒沢さん:そうなんです、もともとリリースしようとして録音したわけではなかったので…バタバタのなかでのレコーディングだったんですね(苦笑)。CD化する際にミキシングを担当してくださった山内“Dr.”隆義さんが、オーディエンスをかなりいじって、それを上方向にペーストしてProToolsのプラグインで音像を作ってくれていました。CDで聴いたときもさすがだなと思ったのですが、24bitだとアンビエンスマイクがないことがあまり気にならない、デュオでやってた音そのままじゃん、とより一層思いましたね。
16曲目の「ブルーを撃ち抜いて」は、トリプルアンコールが来て、やる曲がなくなってしまって(笑)、ぶっつけ本番でやった曲だったんですよ。そういうリアリティが出ている感じがします。自分のライブって自分では絶対聴けないと思ってたんですけど、24bitで聴いてみて、あの時会場にいた人たちと同じ感じで聴けているような気がしました。
−−一方、スタジオ録音で作った「Focus」は、かなり音を作り込んでいますよね。
黒沢さん:今回の配信タイトルは、ライブか作り込みかで両極端ですね(笑)。僕はエンジニアさんもミュージシャンだと思っていて、レコーディングの時にお題を出すんです。たとえば「1965年のCBSコロムビアスタジオの、Bスタジオで録って、アレンジャーは△△さんが担当したみたいな音」とか。「Focus」は僕の原点に立ち戻って作ったアルバム。子供の頃に聴いてた曲に影響を受けて作った曲だと、それと似たようなシチュエーションと音で作れたらいいなと思って。
6曲目の「Silencio」は、60年代のニューヨークのスタジオ、アナログレコーダー使用でテープは太い、混沌としている、音も滲んでるし、定位はモノに近いけど擬似ステレオじゃない感じ、リバーブの響きは……なんて伝えると、エンジニアさんも楽しんで作ってくれるんですよね。こういう感じ、24bitなら聞き取って楽しんでいただけるんじゃないかと思います。
「いい音」=「グッと来るもの」
−−「いい音」って、どんな音なんでしょうか?
黒沢さん:人それぞれ感覚が違いますよね。クラシックやジャズの方は、ホールで聴く音がいちばん良い、本当の音だって言いますよね。僕らはポップスやロックの人間なので、スタジオで、レコーディングで作り上げていく音をいい音だと思うんです。「原音=いい音」ではない世界ですね。
でも、「いい音」ってつまりは「グッと来るもの」じゃないかと思います。ミュージシャンとしては、音や音楽で何かを伝えたいと思って作っていますよね。その思いが聞き手に伝わる音が、「いい音」なんじゃないかと。そして、音のなかに込められたメッセージは、音の純度が高いほど伝わりやすいのではと思います。
以前とあるグループをプロデュースした時に、CDのためのミキシングの途中で「もっと熱い気持ちで演奏したのに、何でこんなに整頓されてしまってるんですか」と言われたことがあったんです。
レコーディング現場でのミュージシャンの気持ちをそのまま伝えられるような音をみなさんに聴いてもらえる環境が整えば、「これ、16bitにマスタリングしたら音が変わっちゃうんだろうなあ…」というストレス無しに、曲や歌に対して自分が何を言いたいのかをハッキリのびのびと表現できるのではないかと思います。
そういう点で、高音質配信って、作り手側・演奏者側の表現や気持ちを制約から解放してくれる機会のようにも思うんですよね。
−−今後高音質配信はどうなっていくといいなと思いますか?
黒沢さん:音を作る人のセンスが伝わりやすくなって、リスナーとしてももっと楽しく音楽を聴けるようになると思います。色々なジャンルの音楽が良く聞こえるので、今まで聴かなかったような音がすんなり入ってくるなあと感じました。
自分でもネットオーディオを楽しんでいますが、マスターファイルと同じくらいのクオリティの音源をそのまま聴けるわけですから、16bitよりも少ない投資で飛躍的にいい音を楽しめるなと実感しています。
それと、MP3で聴いて気に入って、CD買って、オリジナルのアナログ盤を買って…というように、より良いものを聴きたい!と思っているリスナーの方に、スタジオで聴いているのと同じものを提供できる、音のメッセージを直接伝えられるというのは嬉しいなと思います。まず流通していなければ聴けないので、高品質音楽配信という環境が整っていることは非常に大切なことだなと思いますね。
【配信中の音源一覧】
LIVE 2011 New Direction 2011年12月に行った東京グローブ座公演を、アンコールを除きそのまま収録した最新作。配信限定アルバム。 | |
V.S.G.P 2010年秋におこなったストリングス・セッション・ライブから厳選した12曲と、そのライブ音源をベースに、新たにギター・パーカッション・コーラス・ボーカルなどをダビング録音するという実験的なスタジオワークで作られた7曲を収録。 | |
V.S.G.P Naked 「V.S.G.P」で新たに加えたスタジオ録音音源のみを、さらに厳選して収録したアルバム。音楽配信に登録するのは今回が初。 | |
Live Without Electricity 2007年末に行ったライブのなかから16曲を収めたアルバムで、黒沢健一初のライブ盤。ギターとピアノのみというシンプルな構成。 | |
Focus L⇔Rの活動休止後、ソロ活動や様々なユニット活動、プロデュースなどをおこなったきた黒沢が本来の自分に立ち戻り、独自のポップセンスを存分に発揮した“集大成”とも言える渾身のオリジナルアルバム。 |
スタジオの音をそのまま聴いてもらえたらいいのに、と思っていた
−−まず、今回e-onkyo musicで高音質配信をされることになったきっかけを教えてください。
黒沢さん:「高音質配信」というものの存在を知ったのは、6年ほど前でしょうか。レコーディング現場で話題になっていました。自分もいち音楽ファンとして、PCを使ったオーディオを楽しんでいます。
デビュー以来、「スタジオで聴いている音をCDにプレスすると変わってしまうんだな」と思っていたんです。スタジオで「ごキゲンなテイクが録れた!」とか「これ最高のミックスだね!」と言っていたのに、マスタリングスタジオを通ってディスクになって戻ってきたものを聴くと……スタジオで聴いてた音と似てるんだけど、なんか“こない”よね、と。何度もミックスをやり直したりして、自分的に納得するCDはできたんですけど。
僕がデビューした91年頃は、レコーディングにソニーの「PCM-3348」という16bitレコーダーを使っていたのですが、それがProToolsに変わって24bitレコーディングができるようになって「この24bitマスターファイルの音をそのまま聴いてもらえたら、自分のやりたいことが一番伝わるだろうな」と感じました。今回rpmというレーベルでリリースしているタイトルが高音質配信できるようになったので、これはe-onkyo musicでぜひ配信してほしいな、ということになったんです。ちなみに僕自身もe-onkyo musicユーザーなんですよ。
−−16bitと24bitの音の違いというのはどんなものだと感じていますか?
黒沢さん:音のことを口で説明するのは難しいんですけど…何か、平面的になるというか。例えばレコーディングのとき、エンジニアもミュージシャンもみんな音にこだわってアンプや楽器を持ってきてくれるんですけど、24bitだとその違いが分かる。でも、16bitだとProToolsのプラグインを使った時の音とそんなに変わらないんですよね。“歪んだ音のギター”という音のジャンルがあるとしたら、その大枠にくくられてしまう、個性のない感じと言うか…。「これはこの手のサウンド」みたいにジャンル分けしやすくなるし、ある意味聴きやすいのかも知れませんが、「他に似ていない何か」を表現したいときにはそれができない感じがします。
それと、アナログ盤の頃は、クラプトンのすごく上手なギタープレイを聴いて「これと同じギターが欲しい!」とか「どういうエフェクター使ってるんだろう?」とか思っていたのですが、CDだと“何かに似た音”だから、そこまで深く掘り下げる気になれなかったんですよね。でも24bitだと、アナログ盤の頃と同じような感覚が味わえるように思いました。
−−解像度の低い写真だと細かいディテールが分からないけれど、高解像度の写真なら分かる、というのと同じイメージでしょうか。
黒沢さん:うーん、そうですね。でもデジタルって何とも言いようのない変わり方をするんです。鮮明だから良いという訳でもないし、ボケているからダメな訳でもない。アナログの質感とは違うものを作っていかないといけないんだなと感じています。高音質配信の時代になって、マスタリングやレコーディングの仕方も変わっていくと思います。
−−今回配信される音源は、新たにマスタリングをし直したということですが?
黒沢さん:はい。rpmレーベルでリリースした僕の作品のマスターファイルは全て48kHz/24bitなのですが、実は、元々16bitに落としこむことを前提に作った48kHz/24bitマスターファイルだったんですね。でも今回は24bitそのままを聴いていただけるわけですから、そのデータ量を活かせるマスタリングにしていただきました。16bitに落としたときに聞こえにくくなってしまった成分をどれだけ甦らせられるか、永井さんとかなり時間をかけて調整しましたね。今回の配信音源は、過去のものも含めて最高の自信作です。
−−192kHzや96kHzではなく、48kHz/24bitにしているのには、理由があるのでしょうか?
黒沢さん:いちばん音楽的で音がいいと思うのが、48kHzなんです。アナログレコーディング時代のマスターを96kHzや192kHzにすると、当時のマスターテープを聴いてるみたいで本当に面白いんですが、ProToolsでレコーディングしたものをそこまでやると、余計な音まで気になってしまう感じがするんですよね。
アナログの頃って、勢いや雰囲気でまとまる感じがあるんです。でもサンプリングレートが高すぎると、色々なものが見えすぎて雰囲気がなくなってしまうんですよね。僕は音の滲みなんかも音楽のひとつだと思っていますけど、そういうものも、なくなってしまう。
−−数字が高ければ何でも良いというわけではないんですね。
黒沢さん:サンプリングレートよりも、ビット数が16bitから24bitになる方が、音の変化が大きいですよ。
聞こえている音以外の、雰囲気が伝わってくる感じがする
−−実際に音源を聴いてみて、いかがでしたか?
黒沢さん:「LIVE 2011 NEW DIRECTION」の1曲目(「Maybe」)、24bitで聴いたら皆が緊張しているのが手に取るように分かりますね(笑)。その時のステージのことを思い出します。当日の空気感や温度感、メンバーの顔……聞こえている音以外の、雰囲気が伝わってくる感じがしました。
今回配信される5タイトルのうち、3枚がライブ盤なんです。CDの時はそんなに感じなかったのですが、24bitになると、会場のアコースティックの違いや、編成による音の違いって分かるんだなあと思いましたね。
−−「LIVE without electricity」は、レコーディングした際アンビエンスマイクがなかったそうなので、響きや広がりを出すのが大変だったのではないですか?
黒沢さん:そうなんです、もともとリリースしようとして録音したわけではなかったので…バタバタのなかでのレコーディングだったんですね(苦笑)。CD化する際にミキシングを担当してくださった山内“Dr.”隆義さんが、オーディエンスをかなりいじって、それを上方向にペーストしてProToolsのプラグインで音像を作ってくれていました。CDで聴いたときもさすがだなと思ったのですが、24bitだとアンビエンスマイクがないことがあまり気にならない、デュオでやってた音そのままじゃん、とより一層思いましたね。
16曲目の「ブルーを撃ち抜いて」は、トリプルアンコールが来て、やる曲がなくなってしまって(笑)、ぶっつけ本番でやった曲だったんですよ。そういうリアリティが出ている感じがします。自分のライブって自分では絶対聴けないと思ってたんですけど、24bitで聴いてみて、あの時会場にいた人たちと同じ感じで聴けているような気がしました。
−−一方、スタジオ録音で作った「Focus」は、かなり音を作り込んでいますよね。
黒沢さん:今回の配信タイトルは、ライブか作り込みかで両極端ですね(笑)。僕はエンジニアさんもミュージシャンだと思っていて、レコーディングの時にお題を出すんです。たとえば「1965年のCBSコロムビアスタジオの、Bスタジオで録って、アレンジャーは△△さんが担当したみたいな音」とか。「Focus」は僕の原点に立ち戻って作ったアルバム。子供の頃に聴いてた曲に影響を受けて作った曲だと、それと似たようなシチュエーションと音で作れたらいいなと思って。
6曲目の「Silencio」は、60年代のニューヨークのスタジオ、アナログレコーダー使用でテープは太い、混沌としている、音も滲んでるし、定位はモノに近いけど擬似ステレオじゃない感じ、リバーブの響きは……なんて伝えると、エンジニアさんも楽しんで作ってくれるんですよね。こういう感じ、24bitなら聞き取って楽しんでいただけるんじゃないかと思います。
「いい音」=「グッと来るもの」
−−「いい音」って、どんな音なんでしょうか?
黒沢さん:人それぞれ感覚が違いますよね。クラシックやジャズの方は、ホールで聴く音がいちばん良い、本当の音だって言いますよね。僕らはポップスやロックの人間なので、スタジオで、レコーディングで作り上げていく音をいい音だと思うんです。「原音=いい音」ではない世界ですね。
でも、「いい音」ってつまりは「グッと来るもの」じゃないかと思います。ミュージシャンとしては、音や音楽で何かを伝えたいと思って作っていますよね。その思いが聞き手に伝わる音が、「いい音」なんじゃないかと。そして、音のなかに込められたメッセージは、音の純度が高いほど伝わりやすいのではと思います。
以前とあるグループをプロデュースした時に、CDのためのミキシングの途中で「もっと熱い気持ちで演奏したのに、何でこんなに整頓されてしまってるんですか」と言われたことがあったんです。
レコーディング現場でのミュージシャンの気持ちをそのまま伝えられるような音をみなさんに聴いてもらえる環境が整えば、「これ、16bitにマスタリングしたら音が変わっちゃうんだろうなあ…」というストレス無しに、曲や歌に対して自分が何を言いたいのかをハッキリのびのびと表現できるのではないかと思います。
そういう点で、高音質配信って、作り手側・演奏者側の表現や気持ちを制約から解放してくれる機会のようにも思うんですよね。
−−今後高音質配信はどうなっていくといいなと思いますか?
黒沢さん:音を作る人のセンスが伝わりやすくなって、リスナーとしてももっと楽しく音楽を聴けるようになると思います。色々なジャンルの音楽が良く聞こえるので、今まで聴かなかったような音がすんなり入ってくるなあと感じました。
自分でもネットオーディオを楽しんでいますが、マスターファイルと同じくらいのクオリティの音源をそのまま聴けるわけですから、16bitよりも少ない投資で飛躍的にいい音を楽しめるなと実感しています。
それと、MP3で聴いて気に入って、CD買って、オリジナルのアナログ盤を買って…というように、より良いものを聴きたい!と思っているリスナーの方に、スタジオで聴いているのと同じものを提供できる、音のメッセージを直接伝えられるというのは嬉しいなと思います。まず流通していなければ聴けないので、高品質音楽配信という環境が整っていることは非常に大切なことだなと思いますね。