クーベリック/バイエルン放送響などの歴史的来日音源がハイレゾ配信開始 − その舞台裏を覗く
かつて来日した海外著名指揮者/オーケストラの名演をNHKが録音したアナログテープをもとにハイレゾ化して配信するプロジェクト“NHK来日オーケストラアーカイブ”シリーズの配信が、e-onkyo musicにてスタートした。ラインナップは192kHz/24bit、96kHz/24bitのFLAC/WAV。一部アルバムについては、3月以降、定額制ストリーミング配信サイト「ナクソス・ミュージック・ライブラリー(NML)」(AAC/128kbps)やiTunesなどでも順次提供される。
同シリーズは、日本のクラシック音楽需要が放送を通じて爆発的広がりを見せた1960年代から70年代に来日し、NHKラジオやテレビで放送された伝説的公演のなかから厳選した音源を、アナログマスターからデジタル化したもの。ナクソスとNHKエンタープライズ社が共同して行っているプロジェクトで、両社はこれまでにもNHK交響楽団の歴史的音源をハイレゾで復刻した「N響アーカイブシリーズ」などを世に送り出している。
Phile-webでは“N響アーカイブ”シリーズのスタート時にもプロジェクトメンバーの方々にお話しをうかがい、歴史的価値ある音源がよみがえった舞台裏をレポートした(関連ニュース)、今回もマスタリング現場に潜入することができたので、その模様をお伝えしよう。
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作業は、代々木にあるMTCマスタリングスタジオにて行われた。担当エンジニアは藤田厚生氏だ。“N響アーカイブ”シリーズでは192kHz/24bit PCMでデジタル化を行ったが、今回はDSDを採用。「やはりアーカイブという観点からすると、一旦DSDでデジタル化するのが最適だと考えました」と藤田氏は語る。今回配信されるのはPCM(FLAC/WAV)のかたちとなるが、まずはアナログ波形に近い信号を記録できるDSDでデジタル化し作業を行っていった。
作業は、6mmテープの読み取りから始まる。今回扱うテープは60年代から70年代のものが中心。50年代が中心だった“N響アーカイブ”シリーズと比べるとだいぶ年代が若いため、テープの状態はそこまでひどいものはなかったという。しかしやはり剥離しないよう、最初にテープを釜入れ(熱処理)し地固めしてから、スチューダーの「A820」で再生していったとのことだ。
今回の作業対象となったタイトルはいずれもライブ録音。そのため、読み込んだデータはまちまちになっているレベルを調整して揃える作業がまず必要となったという。作業にはSADiEのDAWを使用。これはマスタリングからオーサリングまでの作業を全てDSDの領域で行えるのがメリットとのこと。古いソフトではあるが、使い勝手がよく藤田氏の愛用品とのことだ。
レベル調整時には、SADiE上のメーターでチェックを行い、マックスピークが+3.1dBを超えないようチェックする。というのは、SACDとして販売し再生する場合は、SACDプレーヤー側に3.1dB分レベルを下げて再生する機能が入っていたが、PCで再生される配信音源の場合では、PC側にそういった機能がないため歪みの原因になってしまうのだという。
また、DSDはDC成分まで記録できてしまうため、そのまま再生すると楽章間ノイズなどの原因となってしまう。SADiEにはDCカットフィルターが備えられているので、その機能を使って余分なDC成分のカットも行う。
手を加えるのは最小限。イコライザーなどは全くかけていないという。というのは、「取り込んだ音を適切に調整すれば、それだけで最適な音になるから」(藤田氏)とのこと。実際、ベートーヴェン:交響曲第7番 第4楽章(1975年録音:クーベリック指揮)の読み込んだだけのデータを試聴してみたところ、ノイズフロアが低くS/Nが良いことに驚いた。
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今回ハイレゾ配信が始まった音源は、いずれもCDなどでは手に入りづらくなってきたラインナップばかり。日本のクラシック音楽史上はもちろん、世界的にも希少かつ重要な演奏と言える。アナログマスターテープをもとによみがえった音源を、CD以上のクオリティで楽しめる貴重な機会。ぜひあなたの耳でも体験してみていただきたい。
(インタビュー/構成:ファイル・ウェブ編集部:小澤麻実)
同シリーズは、日本のクラシック音楽需要が放送を通じて爆発的広がりを見せた1960年代から70年代に来日し、NHKラジオやテレビで放送された伝説的公演のなかから厳選した音源を、アナログマスターからデジタル化したもの。ナクソスとNHKエンタープライズ社が共同して行っているプロジェクトで、両社はこれまでにもNHK交響楽団の歴史的音源をハイレゾで復刻した「N響アーカイブシリーズ」などを世に送り出している。
<2月26日配信開始音源ラインナップ> ■ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」/フォルトナー:歌劇「血の婚礼」 (バイエルン放送交響楽団/ラファエル・クーベリック(指揮)(1965)(1975) 録音:東京文化会館(1965)、日比谷公会堂(1975) ■ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」 (バイエルン放送交響楽団/ラファエル・クーベリック(指揮)(1965) 録音:東京文化会館 ■モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」/交響曲第38番「プラハ」 (バイエルン放送交響楽団/ラファエル・クーベリック(指揮)(1965)(1975) 録音:東京文化会館(1965)、日比谷公会堂(1975) ■ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 (バイエルン放送交響楽団/ラファエル・クーベリック(指揮)(1975) 録音:日比谷公会堂 ■ドヴォルザーク:交響曲第8番 (バイエルン放送交響楽団/ラファエル・クーベリック(指揮)(1975) 録音:大阪フェスティバルホール ■マーラー:交響曲第9番 (バイエルン放送交響楽団/ラファエル・クーベリック(指揮)(1975) 録音:東京文化会館 ■ベルリオーズ:幻想交響曲 (ボストン交響楽団/シャルル・ミュンシュ(指揮)(1960) 録音:日比谷公会堂 ■ベートーヴェン:交響曲第5番 「運命」 (ボストン交響楽団/シャルル・ミュンシュ(指揮)(1960) 録音:日比谷公会堂 ■デロ=ジョイオ:変奏曲、シャコンヌと終曲/E.ブラックウッド:交響曲第1番 (ボストン交響楽団/シャルル・ミュンシュ(指揮)(1960) 録音:東京体育館(デロ=ジョイオ)、日比谷公会堂(E.ブラックウッド) ■ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第2組曲/ルーセル:「バッカスとアリアーヌ」第2組曲 (ボストン交響楽団/シャルル・ミュンシュ(指揮)(1960) 録音:旧NHKホール(ラヴェル)、日比谷公会堂(ルーセル) |
Phile-webでは“N響アーカイブ”シリーズのスタート時にもプロジェクトメンバーの方々にお話しをうかがい、歴史的価値ある音源がよみがえった舞台裏をレポートした(関連ニュース)、今回もマスタリング現場に潜入することができたので、その模様をお伝えしよう。
作業は、代々木にあるMTCマスタリングスタジオにて行われた。担当エンジニアは藤田厚生氏だ。“N響アーカイブ”シリーズでは192kHz/24bit PCMでデジタル化を行ったが、今回はDSDを採用。「やはりアーカイブという観点からすると、一旦DSDでデジタル化するのが最適だと考えました」と藤田氏は語る。今回配信されるのはPCM(FLAC/WAV)のかたちとなるが、まずはアナログ波形に近い信号を記録できるDSDでデジタル化し作業を行っていった。
作業は、6mmテープの読み取りから始まる。今回扱うテープは60年代から70年代のものが中心。50年代が中心だった“N響アーカイブ”シリーズと比べるとだいぶ年代が若いため、テープの状態はそこまでひどいものはなかったという。しかしやはり剥離しないよう、最初にテープを釜入れ(熱処理)し地固めしてから、スチューダーの「A820」で再生していったとのことだ。
今回の作業対象となったタイトルはいずれもライブ録音。そのため、読み込んだデータはまちまちになっているレベルを調整して揃える作業がまず必要となったという。作業にはSADiEのDAWを使用。これはマスタリングからオーサリングまでの作業を全てDSDの領域で行えるのがメリットとのこと。古いソフトではあるが、使い勝手がよく藤田氏の愛用品とのことだ。
レベル調整時には、SADiE上のメーターでチェックを行い、マックスピークが+3.1dBを超えないようチェックする。というのは、SACDとして販売し再生する場合は、SACDプレーヤー側に3.1dB分レベルを下げて再生する機能が入っていたが、PCで再生される配信音源の場合では、PC側にそういった機能がないため歪みの原因になってしまうのだという。
また、DSDはDC成分まで記録できてしまうため、そのまま再生すると楽章間ノイズなどの原因となってしまう。SADiEにはDCカットフィルターが備えられているので、その機能を使って余分なDC成分のカットも行う。
手を加えるのは最小限。イコライザーなどは全くかけていないという。というのは、「取り込んだ音を適切に調整すれば、それだけで最適な音になるから」(藤田氏)とのこと。実際、ベートーヴェン:交響曲第7番 第4楽章(1975年録音:クーベリック指揮)の読み込んだだけのデータを試聴してみたところ、ノイズフロアが低くS/Nが良いことに驚いた。
今回ハイレゾ配信が始まった音源は、いずれもCDなどでは手に入りづらくなってきたラインナップばかり。日本のクラシック音楽史上はもちろん、世界的にも希少かつ重要な演奏と言える。アナログマスターテープをもとによみがえった音源を、CD以上のクオリティで楽しめる貴重な機会。ぜひあなたの耳でも体験してみていただきたい。
(インタビュー/構成:ファイル・ウェブ編集部:小澤麻実)