コスロフスキー氏にメールインタビュー
リアルとバーチャルで開催した「IFA 2020」。主催者に訊く「得たものと見えた課題」
世界最大級のコンシューマーエレクトロニクスショー「IFA」は、今年は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、従来の開催スタイルから大きく変えて開催された。ベルリンのメッセ会場で開かれたリアル展示にはどのような人々が集まったのか、初めて挑戦した本格的なオンラインでのバーチャルホール展示「IFA Xtended Space」に寄せられた評価など、IFAを主催するメッセ・ベルリンのディリク・コスロフスキー氏にメールインタビューを行った。
■9月にIFAが開催されることを「当たり前」にした成果は大きい
はじめに、いま世界各地で実施されている大規模な展示会の大半が中止または延期となる中で、IFA2020をメッセ・ベルリンでリアル開催できたことの意義をどのように捉えているのか、コスロフスキー氏の思いを訊ねた。
「私たちがIFAをベルリンでフィジカルなイベントとして開催することを5月に決定しこれを実現できた背景には、当時ドイツがほかの欧州諸国に比べてCOVID-19の感染拡大を押さえ込めていたため、完全登録制のBtoBイベントとして実施するという基本コンセプトを早めに打ち出すことができたからだと考えています。
今年は2月末からエレクトロニクス関連の展示会が軒並み延期・中止となりました。そのため、業界のキーパーソンやメディア関係者が一堂に会すことができるイベントを求める機運も高まっていました。
IFA2020をいつもと同じ9月初旬に開催して、マイルストーンになれたということは、結果として今後エレクトロニクス業界がペースを取り戻して経済活動を安定させることにもつながると信じています」
今年のIFA2020は「Special Edition(特別編)」として、例年メッセ・ベルリンの会場を埋め尽くす一般来場者を迎え入れることなく、IFAが開催される3日間に3つの独立したイベント会場を置き、さらに各イベントに「1日・1,000人まで」の人数制限を設けた。衛生管理対策についてもドイツの公共保険機関、ベルリン州の保健当局による厳しい要求に沿って万全に対策を敷いた。
「IFA Global Press Conference」の会場には2つの大きなステージが設けられ、オンライン動画配信も交えて新製品やイノベーションを広く紹介するカンファレンスが3日間にわたり実施された。カンファレンス会場の側には出展社がブースを設けて、メディアの取材を受けたり、商談の場としても活用されたそうだ。
イノベーションプラットフォーム「SHIFT Mobility meets IFA NEXT」では、モビリティの未来を形作るスタートアップ、イノベーター、多数の企業が一堂に会した。オンラインでは各出展者によるピッチセッションも実施され、そのアーカイブはIFA Xtended Spaceにも公開されている。
「IFA Business, Retail and Meeting Lounges」はBtoB限定の商談用スペースとして開設された。ここにはMediaMarktSaturn、Euronics、Expertなどヨーロッパの主要なリテール関連のビジターが集まり、クリスマス商戦に向けた活発なトレードが執り行われたようだ。
5月の発表時点では“生産・調達関連のソーシングショー”として成長を続けている「IFA Global Markets」のエリアも開設される予定だったが、アジアを中心とした出展社がドイツに入国・滞在することが困難になったため、やむなく開催中止となってしまった。
■バーチャルイベント「IFA Xtended Space」に寄せられた反響とは
IFA Xtended Spaceにはどのような反響が寄せられたのだろうか。コスロフスキー氏は反響を次のように受け止めているようだ。
「世界中多くの方々がIFAに参加できるプラットフォームを作ることができたと思います。カンファレンスや展示を見るだけでなく、出展社と来場者によるコミュニケーションを促進する環境としてもIFA Xtended Spaceはその機能を果たしています。このように高度な技術を必要とするソリューションが短期間で立ち上げられたことも、私たちにとって大きな自信と糧になったと考えています。
初めての試みだったため、ご利用いただいた方々には使いづらいと感じる箇所があったとご指摘もいただいています。皆様の声を受けて、私たちはIFAのバーチャルスペースをより良いものにするため、今後も継続的にブラッシュアップしたいと考えています」
世界に拡大した新型コロナウィルス感染症は、欧州エレクトロニクス業界の2020年末商戦にどのような影響を及ぼすのだろうか。IFAが果たすべき役割を含めてコスロフスキー氏に見解を訊いた。
「今年に入ってGfK(ドイツ最大のマーケティングリサーチ企業)が実施した市場調査の結果を俯瞰すると、興味深い傾向が浮かび上がってきます。
エレクトロニクス分野への影響は年初の3月・4月末までを“第1段階”とした場合、主にスマートフォンやノートパソコンなど在宅ワーク、テレワークに必要なビジネスツールの需要が伸びました。4月以降は現在まで続いている“第2段階”として、家で過ごす時間が長くなったことを受けて生活家電の需要が伸びています。ロボットクリーナーなどの小型家電製品だけでなく、キッチンまわりのスマート家電全体が好調です」
コスロフスキー氏は同様の傾向がリアルの店舗・ネット通販の双方に見られるものだったとしている。これらの購買活動が単に年末商戦の需要を“先食い”しただけなのかはまだわからないと前置きしつつも、「IFA2020で発表された新製品が人々の購買意欲を年末に向けてさらに刺激してくれることを願っている」と期待を寄せていた。
筆者は今回のIFA2020を3日間オンラインで取材したが、今後も多くの出展社が集まる展示会やイベントがバーチャルを中心に開催されることになるとすれば、参加者がよりスムーズに心地よく展示を視聴・体験できるように、主催者と出展社の双方が協力してイベントのレベルアップを図っていく必要があると実感した。
いつもと違う「unusual」な状況の中で今年IFAを開催したことが、将来の展示会・見本市をより良いものに発展させるヒントをつかむきっかけになったのだろうか。コスロフスキー氏の手応えをうかがった。
「メッセ・ベルリンのIFAチームは、今後も多様なニーズを持った幅広いコミュニティとつながりながらIFAを発展させるために、業界のパートナーと密接に連携して目標の達成と課題解決のために全力を尽くしてきました。展示会をフィジカルとバーチャルの両方でハイブリッドに実施して成功させるためには、どちらかだけに注力するのではなく、両側に向けてより積極的な改革が必要であると考えています。
パートナーシップについては今後、どのようにして合理的な枠組みの中で効率よく、互いの協力関係を前に進めることができるかという点が大事になってくるはずです。IFAのチームはエキスパートとして、パートナーの様々なターゲット戦略に最適な答えを見つけるためのサポートを提供できます。それは今後フィジカルとバーチャル、どちらの形でIFAに参加いただくとしても同様のメリットを実感していただけるのではないでしょうか」
■感染症対策は依然重要。2021年のIFAはどうなる?
来年のIFA2021は9月3日から7日まで、メイン会場のメッセ・ベルリンを中心に「平常通りの開催」を予定している。出展申し込みも既に展示スペースの6割以上が予約で埋まるほど好調だという。来年のIFAがどんなイベントになるのか、現在時点で新たに挑戦しようと考えていることなどをコスロフスキー氏に訊ねたところ、「それぞれIFAの中でいま最もイノベーティブなエレクトロニクスの製品やサービス、技術が集まる場所。今後継続的に展示規模の拡張については検討していきたい」という回答が得られた。
またIFA2021では、2018年にベルリンで第1回目の実施を迎えたデジタルイメージング関連のイベント「BERLIN PHOTO WEEK」とも、開催時期を近づけて連携を図る。今後の展開についてコスロフスキー氏は「今日のデジタルフォトイメージングがいかに美しく、楽しく、インテリジェンスに溢れているものであるかをベルリンの街の様々な場所で紹介するイベントと連動するかたちで、IFAのデジタルイメージング関連の出展と効果を高め合えるような協力関係の詳細を詰めていきます」と話している。
IFAに関連する情報発信については引き続き世界各国から集まるジャーナリスト、メディアとのパートナーシップを深めていくとした。コスロフスキー氏はまたYouTuberやソーシャルメディアとの連携がIFAの情報をより広める上で欠かせないとしながら、今後メディアコミュニティに欠かせない存在として協力関係を築いていく考えも示した。「今後もIFA2021への参加を検討、あるいは決定しているすべての人々を主催社として全力サポートしていく」と、メッセ・ベルリンの代表者としてコメントしている。
「今年は困難な状況下であっても、革新性のあるイベントを実施できることを証明しました。既に2021年の本格的なイベントの実施に向けてスタートしています。
来年のイベントを成功させるためには、これまで何十年にもわたって一緒にエレクトロニクス業界を発展させてきた日本のパートナーの皆様による支えが不可欠です。
2019年にIFA NEXTのパートナー国として日本から多くの出展社に参加いただき、IFAの来場者にも日本のテクノロジーの素晴らしさを広く知ってもらうきっかけができました。2021年もこの勢いに再び乗って、日本の様々なスタートアップや研究機関、企業の皆様に参加していただきたいと願っています。
もちろん2021年も継続してイベントを安全に運営するための対策に全力を注ぎながら、パートナーやゲストの皆様の希望やニーズにも責任を持って対応することを誓いたいと思います」
■9月にIFAが開催されることを「当たり前」にした成果は大きい
はじめに、いま世界各地で実施されている大規模な展示会の大半が中止または延期となる中で、IFA2020をメッセ・ベルリンでリアル開催できたことの意義をどのように捉えているのか、コスロフスキー氏の思いを訊ねた。
「私たちがIFAをベルリンでフィジカルなイベントとして開催することを5月に決定しこれを実現できた背景には、当時ドイツがほかの欧州諸国に比べてCOVID-19の感染拡大を押さえ込めていたため、完全登録制のBtoBイベントとして実施するという基本コンセプトを早めに打ち出すことができたからだと考えています。
今年は2月末からエレクトロニクス関連の展示会が軒並み延期・中止となりました。そのため、業界のキーパーソンやメディア関係者が一堂に会すことができるイベントを求める機運も高まっていました。
IFA2020をいつもと同じ9月初旬に開催して、マイルストーンになれたということは、結果として今後エレクトロニクス業界がペースを取り戻して経済活動を安定させることにもつながると信じています」
今年のIFA2020は「Special Edition(特別編)」として、例年メッセ・ベルリンの会場を埋め尽くす一般来場者を迎え入れることなく、IFAが開催される3日間に3つの独立したイベント会場を置き、さらに各イベントに「1日・1,000人まで」の人数制限を設けた。衛生管理対策についてもドイツの公共保険機関、ベルリン州の保健当局による厳しい要求に沿って万全に対策を敷いた。
「IFA Global Press Conference」の会場には2つの大きなステージが設けられ、オンライン動画配信も交えて新製品やイノベーションを広く紹介するカンファレンスが3日間にわたり実施された。カンファレンス会場の側には出展社がブースを設けて、メディアの取材を受けたり、商談の場としても活用されたそうだ。
イノベーションプラットフォーム「SHIFT Mobility meets IFA NEXT」では、モビリティの未来を形作るスタートアップ、イノベーター、多数の企業が一堂に会した。オンラインでは各出展者によるピッチセッションも実施され、そのアーカイブはIFA Xtended Spaceにも公開されている。
「IFA Business, Retail and Meeting Lounges」はBtoB限定の商談用スペースとして開設された。ここにはMediaMarktSaturn、Euronics、Expertなどヨーロッパの主要なリテール関連のビジターが集まり、クリスマス商戦に向けた活発なトレードが執り行われたようだ。
5月の発表時点では“生産・調達関連のソーシングショー”として成長を続けている「IFA Global Markets」のエリアも開設される予定だったが、アジアを中心とした出展社がドイツに入国・滞在することが困難になったため、やむなく開催中止となってしまった。
■バーチャルイベント「IFA Xtended Space」に寄せられた反響とは
IFA Xtended Spaceにはどのような反響が寄せられたのだろうか。コスロフスキー氏は反響を次のように受け止めているようだ。
「世界中多くの方々がIFAに参加できるプラットフォームを作ることができたと思います。カンファレンスや展示を見るだけでなく、出展社と来場者によるコミュニケーションを促進する環境としてもIFA Xtended Spaceはその機能を果たしています。このように高度な技術を必要とするソリューションが短期間で立ち上げられたことも、私たちにとって大きな自信と糧になったと考えています。
初めての試みだったため、ご利用いただいた方々には使いづらいと感じる箇所があったとご指摘もいただいています。皆様の声を受けて、私たちはIFAのバーチャルスペースをより良いものにするため、今後も継続的にブラッシュアップしたいと考えています」
世界に拡大した新型コロナウィルス感染症は、欧州エレクトロニクス業界の2020年末商戦にどのような影響を及ぼすのだろうか。IFAが果たすべき役割を含めてコスロフスキー氏に見解を訊いた。
「今年に入ってGfK(ドイツ最大のマーケティングリサーチ企業)が実施した市場調査の結果を俯瞰すると、興味深い傾向が浮かび上がってきます。
エレクトロニクス分野への影響は年初の3月・4月末までを“第1段階”とした場合、主にスマートフォンやノートパソコンなど在宅ワーク、テレワークに必要なビジネスツールの需要が伸びました。4月以降は現在まで続いている“第2段階”として、家で過ごす時間が長くなったことを受けて生活家電の需要が伸びています。ロボットクリーナーなどの小型家電製品だけでなく、キッチンまわりのスマート家電全体が好調です」
コスロフスキー氏は同様の傾向がリアルの店舗・ネット通販の双方に見られるものだったとしている。これらの購買活動が単に年末商戦の需要を“先食い”しただけなのかはまだわからないと前置きしつつも、「IFA2020で発表された新製品が人々の購買意欲を年末に向けてさらに刺激してくれることを願っている」と期待を寄せていた。
筆者は今回のIFA2020を3日間オンラインで取材したが、今後も多くの出展社が集まる展示会やイベントがバーチャルを中心に開催されることになるとすれば、参加者がよりスムーズに心地よく展示を視聴・体験できるように、主催者と出展社の双方が協力してイベントのレベルアップを図っていく必要があると実感した。
いつもと違う「unusual」な状況の中で今年IFAを開催したことが、将来の展示会・見本市をより良いものに発展させるヒントをつかむきっかけになったのだろうか。コスロフスキー氏の手応えをうかがった。
「メッセ・ベルリンのIFAチームは、今後も多様なニーズを持った幅広いコミュニティとつながりながらIFAを発展させるために、業界のパートナーと密接に連携して目標の達成と課題解決のために全力を尽くしてきました。展示会をフィジカルとバーチャルの両方でハイブリッドに実施して成功させるためには、どちらかだけに注力するのではなく、両側に向けてより積極的な改革が必要であると考えています。
パートナーシップについては今後、どのようにして合理的な枠組みの中で効率よく、互いの協力関係を前に進めることができるかという点が大事になってくるはずです。IFAのチームはエキスパートとして、パートナーの様々なターゲット戦略に最適な答えを見つけるためのサポートを提供できます。それは今後フィジカルとバーチャル、どちらの形でIFAに参加いただくとしても同様のメリットを実感していただけるのではないでしょうか」
■感染症対策は依然重要。2021年のIFAはどうなる?
来年のIFA2021は9月3日から7日まで、メイン会場のメッセ・ベルリンを中心に「平常通りの開催」を予定している。出展申し込みも既に展示スペースの6割以上が予約で埋まるほど好調だという。来年のIFAがどんなイベントになるのか、現在時点で新たに挑戦しようと考えていることなどをコスロフスキー氏に訊ねたところ、「それぞれIFAの中でいま最もイノベーティブなエレクトロニクスの製品やサービス、技術が集まる場所。今後継続的に展示規模の拡張については検討していきたい」という回答が得られた。
またIFA2021では、2018年にベルリンで第1回目の実施を迎えたデジタルイメージング関連のイベント「BERLIN PHOTO WEEK」とも、開催時期を近づけて連携を図る。今後の展開についてコスロフスキー氏は「今日のデジタルフォトイメージングがいかに美しく、楽しく、インテリジェンスに溢れているものであるかをベルリンの街の様々な場所で紹介するイベントと連動するかたちで、IFAのデジタルイメージング関連の出展と効果を高め合えるような協力関係の詳細を詰めていきます」と話している。
IFAに関連する情報発信については引き続き世界各国から集まるジャーナリスト、メディアとのパートナーシップを深めていくとした。コスロフスキー氏はまたYouTuberやソーシャルメディアとの連携がIFAの情報をより広める上で欠かせないとしながら、今後メディアコミュニティに欠かせない存在として協力関係を築いていく考えも示した。「今後もIFA2021への参加を検討、あるいは決定しているすべての人々を主催社として全力サポートしていく」と、メッセ・ベルリンの代表者としてコメントしている。
「今年は困難な状況下であっても、革新性のあるイベントを実施できることを証明しました。既に2021年の本格的なイベントの実施に向けてスタートしています。
来年のイベントを成功させるためには、これまで何十年にもわたって一緒にエレクトロニクス業界を発展させてきた日本のパートナーの皆様による支えが不可欠です。
2019年にIFA NEXTのパートナー国として日本から多くの出展社に参加いただき、IFAの来場者にも日本のテクノロジーの素晴らしさを広く知ってもらうきっかけができました。2021年もこの勢いに再び乗って、日本の様々なスタートアップや研究機関、企業の皆様に参加していただきたいと願っています。
もちろん2021年も継続してイベントを安全に運営するための対策に全力を注ぎながら、パートナーやゲストの皆様の希望やニーズにも責任を持って対応することを誓いたいと思います」