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パナソニック 津村敏行氏に聞く

【インタビュー】集大成「S5II」が大ヒット。クリエイターの作品づくりに向き合ったLUMIXのファンが増加中

公開日 2023/06/07 06:30 PHILE WEB ビジネス編集部・竹内純
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2023年2月に発売された新製品「LUMIX S5II」が、一時は品薄状態となるヒットで大きな反響を呼んでいる。クリエイターからの高い支持を背景に、市場からも熱い視線が注がれている。イメージング市場が急速に勢いを取り戻すなか、2023年4月1日にパナソニック エンターテインメント&コミュニケーション(株)副社長執行役員 イメージングビジネスユニット長に就任された津村敏行氏に、市場創造へ向けたLUMIXの戦略を聞く。


パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社
副社長執行役員
イメージングビジネスユニット長
津村敏行


プロフィール/つむらとしゆき 1968年11月12日生まれ、神奈川県出身。1991年4月 松下電器産業(株)入社。ポケットベル、携帯電話、スマートフォンなどの通信機器の設計開発・商品企画に携わり、2014年発売の「LUMIX CM1」の開発を機にイメージング事業に深く関わり現在に至る。好きな言葉は「日に新た」。趣味は写真/動画撮影、映画鑑賞、ランニングなど。

■来場者の熱量に圧倒されたCP+2023



―― 4月より新しい役職にご就任されました。コロナの制限が解除され、カメラをはじめとするイメージングを取り巻く環境にも追い風が吹きはじめています。抱負をお聞かせください。

津村 新聞ではよく、スマートフォンが台頭してデジカメ市場が激減したなど、とかく手厳しい報道が目につきますが、イメージングのビジネスには本質的に夢と希望があり、デジタルカメラを見ても、一眼レフからミラーレスへカメラの主流が変わっていくなかで新しいお客様がどんどん使い始めています。また、レンズ一体型カメラも様々な形態のものが登場し、旅行用途にとどまらず、映像を使って楽しんだり、人を喜ばせたりと多様化してきており、イメージング事業の成長の可能性を感じています。

コロナの影響で2020年、2021年は非常に苦しかったですが、行動への制約がなくなるのに伴い市場には活気が戻りました。また、コロナ禍にもSNSで飛び交う映像や写真の数は実は変わっていなかったというデータがあります。さらに、ライブ配信により、これまでは遠隔地で行けなかった好きなアーティストのライブが美しい映像で楽しめるようになる変化も見られました。元々の写真・映像のお客様が戻り、その上乗せで新しいお客様が加わり、さらに活気のある市場が創造されることが期待されます。

お客様のニーズをきちんと掴み、“次” の期待にどうお応えしていくか。そこに新しい用途やビジネスが必ず生まれてきます。将来の新しい楽しみ、そして、今楽しんでいるお客様の “次” の楽しみを提供すること。その両輪をしっかりと見据えていきます。

きちんとお客様と対話ができていると夢が描けます。私達LUMIX事業に携わるメンバーも皆、とても元気で活気に満ちています。その元気を持続し、さらに膨らませていくことが私の大事な役目のひとつです。就任にあたり、「ネガティブ発言ゼロ」という指針を打ち出しました。山登りでも、苦しいと思って登るのと、頂上を極めた達成感を想像しながら登るのとでは、気持ちも体力もまるで違います。楽しみながらやりましょうということです。

―― 2月に4年ぶりのリアル開催となった「CP+2023」では、市場やお客様の変化が垣間見えたところもあったのではないか思います。いかがでしたか。

津村 カメラファンの方が戻って来たことが本当に嬉しかったですし、しかも、会場まで来ていただいた人たちの “熱量” がもの凄く高かったことに驚かされました。

ブースでは「NEXT PHASE WITH LUMIX」をテーマに、次の一歩に向けて自分自身をより高めていくことを訴えかけました。特にリアルに会場に来て参加しているからこそ楽しめることにこだわり、「S5II」と「GH6」に焦点を絞ったタッチ&トライコーナーでは、モデルを間近で撮れる環境を提供しました。セミナー会場では説明をしてくださる写真家やクリエイターとお客様との距離をできるだけ近づけ、インタラクティブに質問を交わす形式を採用しました。これは非常に悩んだのですが、セミナーはライブ配信をあえて行わず、リアルならではのイベントにこだわりました。その1つが一緒に会場の外に出て撮影体験ができる「フォトウォーク」ですが、毎回満員と大盛況でした。

CP+2023でも大きな注目を集めた、2月に発売された「LUMIX S5II」が大ヒット

さらに、来場されたお客様から大変喜んでいただいたのはもちろん、セミナーを担当されたクリエイターや写真家の方々からも「お客様の熱量が凄い」「お客様との距離感が縮まった」といったコメントを数多くいただき、手応えを感じました。

スマートフォンで構図にこだわり撮影をされているような方でも、カメラの楽しさに一度も触れたことがない方は大勢いらっしゃいます。リアルの場は限られますが、例えばLUMIX BASE TOKYOでも今後、足を運んでいただいたからこそ体験できるイベントにさらに力を入れていきます。ミラーレス一眼のリッチなクオリティによる表現をぜひ一度味わい、奥深さを知っていただきたい。表現の世界が拡がることは、イメージング業界にとどまらず、日々の生活においてとても素晴らしいことです。さらにそこで得られた熱量をオンラインで拡散していく流れをつくっていきたいと考えています。

■LUMIXの集大成「S5II」が大ヒット



―― CP+の御社ブースでもクローズアップされた2月発売の新製品「S5II」が大ヒットしています。5月17日に発表された「カメラグランプリ 2023 あなたが選ぶベストカメラ賞」も受賞されました。

津村 お陰様で大変好評で、生産が追いつかず嬉しい悲鳴です。LUMIXのミラーレス一眼の登場から今年で15年になりますが、今までやってきたことが、まさに花開いた気持ちです。

特に「LUMIXは色がいい」と言われるようになったことがひとつ大きなポイントだと捉えています。2018年1月に発売した「G9 PRO」から、生命力・生命美を絵作りの思想として掲げ、お客様にとってのいい色とは何かを追い求めてきました。今では「アウトプットする撮って出しの絵が凄くいい」と評判をいただけるまでになりました。

しかしその一方、像面位相差AFがないことから、「LUMIXは動画でしょう」との評価をなかなか打ち消すことができずに苦しんできましたが、S5IIには像面位相差AFも搭載され、静止画をメインに使われるお客様からも大変高い評価をいただいています。

―― 「リアルタイムLUT」が話題を集めています。

津村 予想を超える反響ですね。販売の現場からは「リアルタイムLUTの説明だけで、S5IIをご購入いただきました」という事例がいくつも挙がってきており、改めて注目度の高さを実感しています。

リアルタイムLUTは、カメラ本体でルックアップテーブル(LUT)を適用して、自分好みの色表現をリアルタイムに撮影データに反映できるというものです。動画では上級者の間で、撮影後にLUTをあてることは普通に行われていましたが、自分で好みの色をつくってスタンダードに使えるわけですから、クリエイティビティもさらに高まり、“自分の色” を交換し合うようなことも行われているようです。

スチルでも使用できますので、フォトスタイルも無限に広がります。動画ユーザーが楽しんでいたことを、スチルのユーザーも楽しめる。スチルと動画の垣根を外したような価値観でもありますね。わたしたちはコアターゲットを「ワンマンオペレーションクリエイター」と定義しています。「クリエイター=動画」と誤解される面がありますが、写真や動画を使いこなしながら表現を拡げていく人たちすべてがクリエイターです。クリエイティビティをそのまま作品にできるのがミラーレスカメラ。ワンマンオペレーションクリエイターに向き合い、表現の幅をさらに拡げていきたいですね。

―― まさに語り尽くせないこだわりが凝縮していることは想像に難くないS5IIですが、開発裏話などお聞かせいただけるものがあればお願いします。

津村 やはり、製品化への肝のひとつとなったペンタ部への放熱ファンの搭載ですね。熱の問題にはずっと苦労してきました。GH6では背面に搭載しましたが、宙に浮いているセンサーへの対策として、「上から引っ張ればいいのでは?」というアイディアに端を発し、もっとも近い場所になるペンタ部に注目しました。最初の試作はとても大きくて(笑)。最終的にはマイクロフォーサーズより小さくでき、これにより動画の連続撮影もほぼ無制限になりました。

新たな放熱構造で動画記録の時間制限がほぼなくなった

―― レンズに対する注目度も高まってきています。

津村 S5を起点に揃えてきたレンズのシリーズが改めて評価されています。S5IIでも、標準ズームレンズキットとして付属する「LUMIX S 20-60m F3.5-5.6」に、「LUMIX S 50mm F1.8」を加えたダブルレンズキットが一番の売れ筋となり、7割以上を占めています。「LUMIX S 50mm F1.8」は、形状や色味を揃えたF1.8シリーズの大口径標準単焦点レンズで、小型で軽く操作性のよさが評判を集めています。

「S5II」ではダブルレンズキットの販売構成比が約7割を占めている

プロの方がよく、このレンズとこのレンズは「色味があう」「絵作りが同じだ」と言われますが、それがどんなデータに由来するものなのか。長年にわたり研究を続けてきて、まだパーフェクトではありませんが、あるパラメーターの幅を統一することで感じ方が一緒になることを見いだしました。その色味をはじめデザイン、操作感などを統一したのがF1.8シリーズで、同シリーズのなかで買い増しされていく流れも顕著になっています。

一方、供給面では一部ご迷惑をお掛けしており、申し訳ございません。ボディもキットのレンズもようやく生産が追いついてきたところですが、次のレンズとして望遠系を望まれるケースが多く、「LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S.」「LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.」などが、まだ少し供給が足りていない状況です。

レンズ人気も高まり、「LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S.」などは品薄状態にある

―― ダブルレンズキットを購入されるお客様と言えば、次のレンズの購入まで間隔がかなり空いてしまったり、あるいは購入に結びつかなかったりするケースが多いと言いますから、すぐに次の一本に触手を伸ばすのは珍しいケースですね。

津村 実は、S5IIは新規のお客様が非常に多くて3割を超えています。初めてミラーレス一眼カメラを購入した、初めてフルサイズを使用するという方です。また、S5IIで初めてLUMIXを手にされた方がかなり多くいらっしゃいます。

コロナ禍ではオンラインのビデオ配信などを地道に開催し、また、“ルミックス友の会” というLUMIXを楽しんでくださるお客様の集まりもあり、いろいろな情報を発信してくださっています。YouTubeのライブ配信も本当に楽しくて、感謝の気持ちでいっぱいです。若い人たちはオンライン動画で新しい楽しみを発見されたりしますから、自分も今度LUMIXを購入してみようと思っていた人たちが、コロナの行動制限が解除されて行動に移されるようなケースも珍しくないのではないでしょうか。

■カメラの楽しさと価値への認識が広まっている



―― デジタルカメラの今年度の市場をどのように展望されていますか。

津村 各社から魅力的な製品が登場し、普及クラスのAPS-Cミラーレスにも新製品が目につくようになり、カメラ全体として見通しの明るい一年になると思います。LUMIXでは、表現力の高いクリエイターに向けたフルサイズのミラーレスと、望遠の楽しさやポータブルな機動性の高さを備えたマイクロフォーサーズという2つのシステムがあり、それぞれしっかりと展開していきます。

わたしたちはプロ向けの非常に高価なものから始めて、そこで搭載されていたエッセンスをミドルに落とし込んでいます。そうした点がS5IIがヒットしている要因のひとつだと思います。今期はミドルクラスがまず注力ポイント。普及価格帯では現在、マイクロフォーサーズのG100が、旅行に写真にVlogにと、あらゆる用途が手軽に楽しめるカメラとして人気が急上昇しています。

幅広い用途で人気が急上昇している「G100」

コロナの行動制限が解除されて旅行やイベントが再開し、「デジタルカメラを使ってみたい」というニーズが急速に顕在化しているのか、コンパクトは数が全然足りないくらいに好調で、エントリー系のミラーレスも堅調に推移しています。

コンパクトカメラについては名称が曖昧な気がします。手持ちで棒状のクリップに付けて歩きながら撮れるもの、旅行で望遠から広角までズームで楽しめるもの、毎日の料理をこだわって撮れるセンサーが1インチ以上の高画質なもの、さらに防水やVlogなど、スマートフォンには置き換わらない、用途に対して唯一無二の特徴があるものが求められています。カメラを搭載したドローンも今後そのひとつになりそうです。

―― CP+でもリアルイベントの重要さが改めて証明されました。さらなる市場の盛り上がりに向けた販促施策についてはいかがですか。

津村 コロナ禍ではオンラインに特化した情報発信に力を入れ、ライブ配信も定着して人気を集めています。今後はリアルの場を増やしてうまく融合させていきます。「LUMIXアカデミー」でもリアルの講座を増やしていますが、すぐに満員になる人気ぶりです。リアルに先生に直接教えてもらえるので習熟度が上がるとの声も数多く届いています。

「『LUMIXの熱狂的なファンです』と公言していただける人をひとりでも多く増やしていきたい」

上手な人と一緒に撮るという体験はとても重要で、そこには必ず「えっ!」という気づきがあるはずです。リッチに撮れる方法を直接教えてもらえるわけですから、ワンテクニックを覚えるだけで凄く得した気持ちになります。

―― LUMIX BASE TOKYOも貴重な体験の場になりますね。

津村 昨年、LUMIX BASE TOKYOで開催した「LUMIX FES」では、数多くのLUMIXのファンの皆さんが集まってくださいました。LUMIX BASE TOKYOでは現在、LINEのアプリを活用したレンタル予約のトライアルを行っており、CP+でも割引クーポンを配布しました。カメラ一式を揃えるのはハードルが高いと感じるお客様に、試しに一度手軽に使っていただく機会を提供するのが目的です。

お客様を知る活動のなかで、カメラを使っていない若い世代の方と話をする機会があります。スマートフォンを利用されているのですが、熱量はカメラを使っているユーザー以上です。カメラを体験していただくと、「使ってみたい」と非常に関心が高く、ここでも気づきの場を提供する大切さを痛感します。「カメラを使っていると楽しい」という価値観に対し、投資を惜しまない雰囲気が醸成されてきているように思います。

貴重な体験の場として注目される「LUMIX BASE TOKYO」

―― それでは最後に、今年度の意気込みをお願いします。

津村 ある調査会社のデータによると、カメラで写真しか撮らない方が激減しているそうです。約80%のお客様が写真も動画も楽しまれており、動画がひとつの表現方法として確実に定着しています。LUMIXは元々動画のクオリティの高さを強みにしており、それに加え、S5IIでは像面位相差AFを搭載して写真でも高い評価を獲得しています。

写真も動画もシームレスに作品づくりを楽しまれている、メインターゲットである「ワンマンオペレーションクリエイター」の皆様と一緒に、メーカーとユーザーではなく、対等な関係でカメラのビジネスを創造していきたい。クリエイターが作品づくりを楽しみ、発信されたコンテンツを見たお客様も楽しくなる。お客様との距離をさらに縮めて、その輪に加わっていきたいと思います。

昨年5月に、ライカカメラ社と戦略的包括協業契約を結びましたが、お客様と一緒に写真の文化を創造されてきたブランドですから、弊社の気づきも非常に大きい。両者がいままでやってきたことが融合し、新しい技術が生み出されるような環境になりましたので、存分に活かし、弊社ももう一段魅力をレベルアップした製品やサービスを生みだしていきたい。

S5IIがご好評いただいているフルサイズミラーレスはもちろん、マイクロフォーサーズという特徴的なシステムも含めて、どれだけ楽しんでいただけるもの生み出すことができるか。「LUMIXの熱狂的なファンです」と公言していただける人をひとりでも多く増やしていけるように頑張ります。

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