■来るべき「次世代テレビ時代」を見越して製品コンセプトを固めた
−−−まずは金賞、技術賞のダブル受賞、おめでとうございます。CEATECでは1.9cmの液晶テレビを参考出展して、超薄型化の技術で先行していることを印象づけましたが、その直後に今度は実際の製品を、世界で初めて発表されたことで、オーディオビジュアルファンの方々の間でも大きな話題になっているようです。はじめに、なぜ御社が超薄型化という課題に取り組まれたのか、その背景を説明していただけますか。
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商品企画本部の鈴木宏幸氏 |
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取材風景 |
鈴木氏:ご存じのように、2011年には地上アナログの停波が予定されており、本格的な「テレビ新時代」がはじまると私どもは考えております。そのとき、あるいはその前に何が起こるかというと、よく言われているように、放送と通信の融合がますます進むことになると思います。これまで放送はテレビで、インターネットはPCなどで使用することが一般的でしたが、今後は放送とインターネットが一体となり、VODやヘルスケア、地域情報などの様々なサービスを、「放送」「インターネット」という垣根を意識することなく享受できる時代がやってきます。
このように、コンテンツが変化する時代には、視聴スタイルも当然変化すると予想できます。より多様性や柔軟性をもったテレビが必要になる、ということです。このような「次世代テレビ」はどうあるべきか、というところから商品企画がスタートしました。
現在は、画質やインテリア性といった美しさの追求と、各種機能や周辺機器との接続性など、機能面の強化は、双方を追求していくと、一部相反する要素があります。たとえば、周辺機器を増やすと配線も増え、美観という観点では悪化してしまいます。このため、我々は、モニター部とコントロール部を分け、それぞれ分業化を進めることを決めました。
−−−なるほど。その際の、モニター部とコントロール部にはどういった機能が求められるとお考えですか?
鈴木氏:まずモニター部は、画質が美しいのは当然で、さらに好きなところに美しく置ける、自由なレイアウト性能が必要です。また、インテリア・コンシャスであることも重要であると思います。コントロール部については、録画や通信機能など各種の機能を搭載するほか、周辺機器との接続性も重要な要素になります。コントロール部はいわば裏方ですから、存在を自己主張しないことも必要ですね。さらに、モニター部とコントロール部は、ワイヤレス接続できることが望ましいとも考えています。将来的には、コントロール部がサーバーになって、各部屋にある複数台のテレビに映像を配信できるような未来を思い描いています。
−−−そのコンセプトを実際の製品に落とし込んだのが、今回のUTシリーズというわけですね。
鈴木氏:その通りです。モニター部の最薄部は35mmで、背面まで含めて、360°どこからみても美しいデザインを実現しました。また、チューナーや接続端子、録画機能などを備えるステーション部とは、HDMIケーブルでの接続のほか、別売オプションのワイヤレスユニットをご購入していただくとワイヤレスでつなぐことも可能です。
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モニター部本体を正面から見たところ |
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チューナーや入出力端子などを内蔵するコントロール部「Woooステーション」 |
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「Woooステーション」は縦置きも可能。iVDRはフロントローディング方式 |
−−−先ほど、次世代テレビのモニター部に求められる性能として、自由なレイアウト性、インテリア・コンシャスという2点を指摘されました。これを実現するために、超薄型化という選択をされたわけですね。35mmという数字には何か意味があるのですか?
鈴木氏:はい。実は、我々が超薄型テレビの受容性について、模型を作って実際に見ていただきながら、お客様に調査を行ったところ、薄さ50mmの製品では「とても魅力あり」と答えた方が1.6%でしたが、これを30mmにしたところ、一気に55.6%に増えました。我々は「薄さ30mmのインパクトは大きい」と考えまして、30mm台を開発の目標に据えました。
超薄型化が実現すると、様々なメリットが出てきます。中でも大きいのが、壁掛けにした際の、壁との一体感でしょうね。壁掛け金具も新規で製作し、固定型の場合はモニター画面から壁までが約6cmと、従来製品の約17cmから10cm以上も壁に近づけることができました。
■日立グループの総力を結集して超薄型化を実現した
−−−超薄型テレビの商品化はこれまで前例がないわけですから、開発にはかなりのご苦労があったのでしょうね。
鈴木氏:まさにその通りです。ただし我々日立は、様々な研究所やグループ会社を抱えています。今回のUTシリーズの超薄型化は、これら日立グループの総合力の結晶と言えると思います。
UTシリーズの超薄型化を実現した技術は、「超薄型液晶パネルモジュール」「熱解析技術」「超薄型電源」「構造設計」の4点に集約できます。かんたんに説明していくと、まず1つめの薄型液晶モジュールについては、薄さを従来比で約半分にすることができました。通常、薄型化すると、バックライトの蛍光管とパネルの距離が短くなり、パネルに輝度ムラができるのですが、今回、蛍光管とパネルの間の拡散板を新開発したことで、ムラを抑えながら薄型化することができました。
2つめの熱解析技術については、日立グループがこれまで培ってきた、大型サーバーの放熱技術や、高度な空気流解析技術などを応用しました。モニター部の上下にスリットがあり、下部から空気を入れ、内部を通りながらモニター部を冷やし、上部から熱を排出します。
3つめは超薄型電源です。実は、これを実現するのは大きなブレークスルーがあったようです。グループ内の日立メディアエレクトロニクス社が新開発したもので、基板の高集積化などにより従来比で約1/3程度に抑えることができました。
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背面。ほぼフルフラットで、360°どこから見ても美しいデザインを実現している |
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電源部の高さを約1/3に薄型化した |
−−−それはすごいですね。具体的にどんな部品を使ったとか、どういう構造を採用したとか、もう少しくわしく教えていただけませんか。
鈴木氏:申し訳ありませんが、それは企業秘密ということで、お教えできないのです。パーツレベルで新たに開発したものを搭載しているようですが、我々もキモの部分は説明されていないくらいです。
−−−わかりました。構造設計についてはいかがですか?
鈴木氏:はい。当たり前のことなのですが、薄型化、軽量化を行いますと、一般的にねじれに弱くなります。このため、強度解析を行い、薄さ、軽さ、強さの3拍子が揃った構造設計を行いました。
−−−なるほど。では、超薄型以外の製品の特徴をかんたんに教えていただけますか。
鈴木氏:まず、パネルにIPS
αパネルを採用し、上下左右のどこから見てもコントラストの低下が少ない広視野角を実現していることは強調したいですね。また、「Woooステーション」にはフロントローディング機構を備えた「iVポケット」を備え、録画が行えるほか、HDMI-CECを使った「Woooリンク」にも対応していることもご注目いただきたいと思います。
さらに、超薄型筐体ながら、ボックス形状のスピーカーシステムを採用し、高音質を実現したこともアピールしたいポイントです。音声成分を分析して人の声をクリアにする“クリアボイス”機能も搭載し、聴き取りやすさを向上させています。
また、先ほどもお話に出た、モニター部と「Woooステーション」の間をワイヤレス接続する別売のオプションもご用意しています。ハイビジョン信号を最大約9m伝送することができますので、モニター部をどこでも好きな場所に置いていただくことができます。
■デザインのコンセプトは“フレグランス”
−−−わかりました。では次に、デザインをご担当された大木さんに、今回のデザインコンセプトや特徴などについて伺いたいと思います。
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製品デザインを手掛けた大木雅之氏 |
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香水のボトルをコンセプトにデザインした |
大木氏:はい。まずはじめに、日立のAV機器のデザインのコンセプトをご紹介したいと思います。2000年から「出会ったときの感動」と「使ってからの充実感」をキーワードに製品デザインを行ってきました。これまでのWoooシリーズや、今回のUTシリーズのデザインも、このコンセプトに沿ってデザインしています。
UTシリーズは“フレグランス”をコンセプトに、香水のボトルをイメージしてデザインを行いました。デザインチームの中に女性がいて、香水が好きなのですが、購入する際、ボトルのデザインが非常に重要だと言うんですね。ボトルは使った後もインテリアに使える、と。この言葉がヒントになって、今回のデザインイメージを決めました。
また、テレビは画面が消えているときに、どうしても重々しい印象になってしまいますよね。UTシリーズでは、テレビを見ていないときでも自慢して飾ってもらえるようなデザイン、そういうものができないかと考えました。
フレグランスというコンセプトを実際の製品デザインに落とし込むにあたっては、様々な工夫を行いました。「クリスタル」をキーワードに各部を処理したほか、遠目から見るとスクエアなデザインなのに、近づくと透明樹脂の中のパーツが丸くなっていたり、金属的だけど柔らかさを感じさせる細部のあしらいなど、いくつものチャレンジを行いました。
−−−ベゼル(ディスプレイの外枠)部の雰囲気は他社のテレビにはないものですよね。
大木氏:はい。ブラックモデルを例に取ると、前面には透過性のある樹脂をあしらっていますが、中がシルバーで深みを演出しています。他社さんの製品は黒光沢が多いようですが、我々としては、それを追従するのではなく、黒光沢の上をいく、奥行きのある黒を表現したかったのです。
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ブラックモデルのベゼル部。半透明の樹脂の内側がシルバーで、奥深いイメージを演出している |
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ベゼル部のパーツを見せながら解説する大木氏 |
■360°どこから見ても美しいデザインを目指した
−−−超薄型化なのに、デザインの狙いは立体感を出そうというところが面白いですね。
大木氏:そうですね。薄いからといってペラペラではなく、リッチな雰囲気を出したいと思いました。モニター部で言うと、背面のデザインにもこだわっています。“レイアウトフリー”がコンセプトの商品ですので、たとえばフロアスタンドを使って、部屋の真ん中に置くなどといった使い方も想定されます。先ほど鈴木が申し上げたように、360°どこから見ても美しい「360°beauty」をコンセプトに、細部の処理に徹底的にこだわりました。前面も背面もフルフラットにしたいと考え、背面についてもネジとか放熱口などをなるべく減らしました。ネジ穴も本当は取りたかったくらいですが、壁掛けする際にどうしても必要なので、泣く泣く残しました。
あとはスタンドのデザインにもこだわっています。フロアスタンドは、製品の軽さを印象づけたいと思い、あえてスタンド部の中をくり抜いたデザインを採用しました。いままでのテレビですと、モニターの真下に首がドーンと出ていましたが、ここに軽さを出したかったので、付属のフロアスタンドについても、軸を前倒させて抱え込むようなデザインにすることで、これまでにないイメージを演出しています。
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別売りのフロアスタンドを装着したところ。モニターが宙に浮いたようなイメージを演出している |
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スタンド部はわざと内部をくり抜いて軽快なイメージを出したという |
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リモコンも新たなデザインを採用 |
ほかには、モニター部のブランド下部に照明を付けて、ほんのりと光るようにしています。これも、どぎつくならないように、あくまで爽やかに光るようにお願いしました。また、Woooステーションも本体のクリスタル感を踏襲し、A4サイズに収めています。リモコンも新たにデザインを起こしました。本体と同じように薄型で、横から見た際、少し傾斜するようにしています。
−−−カラーバリエーションについても伺いたいと思います。32V型の「UT32-HV700」には4色のカラーバリエーションが用意されています。
大木氏:はい。ブラックとホワイトが基本色で、レッドとブルーは限定生産とさせていただいております。これは単なるカラーバリエーションではなく、UTシリーズはフレグランスをコンセプトにしているので、シトラスとかオゾンとかウッディーなど、香水の分類から色を選択しました。通常のカラーバリエーションだと樹脂色を変えるか塗装を変えるかの2つしかできることがありませんが、UTシリーズの場合、樹脂色と裏面のどちらも変えることができ、組み合わせによって様々なイメージを演出することができます。レッドモデルを例に取ると、単なる赤じゃなくて深みのある赤が表現できていると思います。
今後は、透明樹脂と裏面の処理のかけ算のバリエーションによって、考えようによっては無限の組み合わせが可能になります。発表会場では木目、ラベンダー、カモミール、マハラジャという4つのパターンを参考出展しましたが、今後、様々な方向性に展開することが可能になります。
−−−よくわかりました。では、最後にもう一度鈴木さんにお尋ねします。他社も超薄型の試作機を展示会などで積極的に出展していますが、商品化は日立が一番早かったわけですね。今後、超薄型テレビの市場を積極的に切り開いていくというお考えなのでしょうか。
鈴木氏:はい。リーダーになりたいと思っています。なりたいと言うより、なります。
−−−力強いお答えですね。今後の商品展開にも期待したいと思います。本日はありがとうございました。
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