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連載
2010年04月21日
山之内正のデジタルオーディオ最前線
第4回:手持ちのアンプを活用して、PCの音をさらにグレードアップ! 山之内 正
パソコン自体の音は貧弱だが、オーディオ機器を適切に組み合わせれば同じ音源とは思えないほど良い音が出てくるものだ。音を良くするためのキーコンポーネントとしてこれまでUSB-DAC、スピーカーを取り上げてきたが、今回はアンプにスポットを当てることにしよう。スピーカーを十分な音量で鳴らすために信号を増幅することがアンプの主な役割だ。そのため、出力の大きなアンプの方が格が上と思いがちだが、実は必ずしもそうとは言い切れない。数字での表示が難しい「音色」や「立ち上がりの速さ」など、音を左右する重要な要素が出力以外にもたくさんあるためだ。
出力についても誤解しやすい点がある。いくらアンプの出力が大きくても、家庭でフルボリュームに近い大音量を出すことは事実上難しく、実際は音量を絞って楽しむことになる。最大音量ではなく、ボリュームをかなり絞った状態での音質が良いかどうかが肝心なのだ。
小音量で聴いても良い音と感じられるかどうかは、アンプやスピーカーの性能に大きく左右される。スピーカーについては、前回説明したように質の高い低音をバランスよく再現することが大切だし、音像や音場など空間情報を正確に再現することが求められる。
一方、アンプの場合は、音楽のディテールを曖昧にしない解像感の高さ、音が素早く立ち上がるスピード感などが重要なカギになる。小音量で聴いても音の輪郭や粒立ちが曖昧にならず、クリアなサウンドを楽しめるアンプを選ぶことがポイントだ。
そうした性能はカタログスペックからはほとんど読み取れないので、アンプを選ぶときは実際に音を聴き比べて確認した方がいい。比較の際の重要なチェックポイントの一つが、「小さな音量でもクリアな音が出るか」という点だ。店頭など周囲がうるさい環境では小音量で聴き比べるのが難しいことが多いので、試聴スペースのある販売店に出かけることをお薦めする。
アンプ選びで気をつけたいポイント ・スペックだけでは分からない!実際に音を聴いて選ぼう →音色はどうか? →音の立ち上がりの速さはどうか? →小さな音量でもクリアな音が出るか? |
今回取り上げるアンプは1機種を除いてアナログ入力を積んでいるので、パソコンのUSB出力をUSB-DACにつなぎ、DACのアナログ出力をラインケーブルでアンプに接続する方法が基本だ。RastemeのRDA-520にはアナログ入力がないが、USB-DACを内蔵しているのでパソコンを直接つなぐことができる。また、パイオニアのA-A9Mk2、NuForceのiconもパソコンの接続に対応したUSB端子を搭載しており、USB-DACがなくてもパソコンの音源を楽しむことができる。
試聴した5機種の内訳はステレオのプリメインアンプ3台(フルサイズ、コンパクト、超コンパクト各1モデル)とAVアンプ2台という構成で、かなり幅の広い選択になった。パソコンと組み合わせるオーディオ機器はコンパクトな製品の方が似合うのだが、機能の豊富さとコストパフォーマンスという視点から選ぶと、AVアンプも選択肢に入ってくる。映像ソースの再生も想定している場合はAVアンプを選んでおくのが正解だ。
スピーカーは、コンパクトなブックシェルフ型のなかで特に人気の高いELACのBS243を使用した。試聴ソースはダイアナ・クラール、キャスリーン・バトルなど女性ボーカルとオーケストラ、ピアノを使用し、アップルロスレス音源はiTunes+Amarra MINI、FLAC音源はSongbirdで再生した。
■PIONEER A-A9 Mk2 ¥140,000(税込) (製品データベース)(メーカーの製品情報)
ピュアオーディオ用の高級ステレオアンプとしては珍しくリアパネルにUSB端子を装備しており、CDプレーヤーやFMチューナーと同じ感覚でパソコンをつなぎ、HDDの音源をそのまま再生することができる。ハイサンプリング音源に対応していない点が残念だが、USB-DACを用意する必要がなく、オーディオ志向の強いシステムをシンプルに構成できるメリットは大きい。
アナログ接続時の再生音は懐の深い豊かなスケール感と、弱音でも細部が混濁しない見通しの良さに感心した。小音量で聴いても音が痩せず、ボーカルには血の通った温かみが感じられるし、ギターの低音弦やベースの存在感が弱めになる心配もない。アンプ自体の資質として低音の支えがしっかりしていることがプラスに働いているようだ。USB入力は48kHzまで対応し、誇張のない自然なサウンドを再生した。深みのあるステージ感にエントリー機との違いが出る。
■Rastem RDA-520 ¥47,250(税込) (製品データベース)(メーカーの製品情報)
スリムな筐体にチャンネル当たり50W(4Ω)の大出力デジタルアンプを内蔵し、USB-DACとしても使える多機能機だ。96kHz/24bitに対応するUSB入力にはパソコン、同軸/光入力にCDプレーヤーなどを接続すれば省スペースのデジタルオーディオシステムが完成する。本体は高さ44mmとスリムだが、スピーカー端子は大型で、グレードの高いケーブルも無理なくつなぐことができた。
中低域をスリムにまとめた誇張のないサウンドバランスは再生するジャンルを選ばず、すっきりと抜けの良い音を楽しむことができた。ボーカルは音像が適度なサイズに引き締まり、リズム楽器にはスピード感と解像感もそなわる。大型スピーカーを大音圧で鳴らすほどの余裕はないが、常識的な音量の範囲なら質感の高い再生音を狙うことができる。
ヘッドホンアンプのサイズだが、中程度の音量であればスピーカーの駆動も可能なデスクトップサイズのUSB-DAC内蔵アンプである。小型スピーカーと組み合わせたニアフィールドシステムに最適で、4色のカラーバリエーションなど外見にも楽しい要素を取り入れ、机上を美しく演出することができる。
BS243との組み合わせではややおとなしいタッチの音調で、硬さのないなめらかな雰囲気がある。さすがにこのサイズのスピーカーを鳴らすと音量面でのゆとりはないが、デスクトップシステムであれば大音量を出す必要がなく、繊細なサウンドを狙うことができるだろう。ダイナミックレンジはそれほど大きくないのだが、空間の見通しの良さがあり、ピアノやギターの余韻が伸びやかに広がり、声やベースが太りすぎることもない。特に、軽いジャズやボーカルとの相性がいい。アコースティックギターやフルートの音色も自然で、刺激的な成分は出してこない。
■YAMAHA AX-V565 ¥61,950(税込) (製品データベース)(メーカーの製品情報)
入門クラスのAVアンプは、BDやDVDなど映像ソースを楽しむ用途に加え、パソコン音源を楽しむオーディオ用アンプとしても手軽に活用できる。本機は7ch分の大出力アンプを内蔵しているので、本格的なサラウンドシステムとオーディオを共用するにはうってつけの製品だ。USB-DACの出力をアナログ入力に接続し、Directをオンにして聴くことで最良の音質が得られる。また、ステレオ音源の場合はサラウンド機能をオフにして、Straightの状態で聴くのが基本。AVアンプを使いこなすうえでの注意点として覚えておきたい。
オーディオ専用アンプに迫る純度の高い音で、小音量で聴いても細部が曖昧にならず、鮮明なサウンドが楽しめる。オーケストラは複数の楽器が重なり合う箇所でも旋律以外の楽器の動きが明瞭に聴き取れる。クラシックファンにもお薦めしたい。
■PIONEER VSX-819H ¥62,000(税込) (製品データベース)(メーカー製品情報)
内蔵アンプを5chに抑え、音質を含む基本性能に重点を置いたAVアンプである。入門機とはいえ同社のAVアンプ群に共通する高精度な自動音場補正機能(MCACC)を積み、確実な音質改善効果が得られることが最大の特徴だ。パソコンの圧縮音源を再生するときに音質を補正する「サウンドレトリバー」機能のほか、iPodのデジタル接続、USBメモリーの再生など、PC音源をサポートする機能が充実している点も見逃せない。
厚みのあるウォームなトーンが基本で、エラックのBS243を余裕で鳴らし切るだけの十分なパワーもある。音調には温かみがあるものの、音のアタックは低音から高音まで緩みやにじみがなく、明快さも兼ね備える。駆動力に余裕があるので、さらに大きなスピーカーでも不安なく鳴らすことができるだろう。
【まとめ】 アンプとひとくちに言ってもサイズや用途は様々なので、組み合わせるスピーカーや設置場所を誤らないように注意したい。デスクトップやテーブルトップのコンパクトなシステムにはUSB-DAC一体型のスリムな製品、今回使用したような本格的なスピーカーを組み合わせるならフルサイズまたはそれに準じるステレオアンプかAVアンプを選ぶのが基本だが、その中間的な製品も存在するので、用途をよく見極めることが肝心だ。 冒頭で触れた「小音量でもクリアな音」は、アンプの基本性能だけでなく、スピーカーの資質にも左右される。実際に楽しむときの音量を想定しながら、じっくり聴き比べて最適な製品を選ぶようにしたい。 |