最大705.6kHzでCDを再生
CHORD、100万超タップでアップサンプリングする最上位CDトランスポート「Blu MkII」
タイムロードは、CHORDの705.6kHzアップサンプリング対応CDトランスポート「Blu MkII」を3月下旬より発売する。価格は140万円(予価・税抜)。
1999年に登場したCDトランスポート「Blu」の後継モデルで、昨年登場した同社の旗艦D/Aコンバーター「DAVE」(関連ニュース)との組み合わせを前提としている(機能は限定されるが、他社DACと組み合わせることも可能)。
最大の特徴は、同社エンジニアのロバート・ワッツ氏が新たに開発した「WTA M-Scalerプログラム」をFPGAに実装して、1,015,808タップという驚異的な演算数によるアップサンプリングを実現したこと。この演算数の膨大さは、DAVEの演算数が164,000タップであることと比べるとよくわかる。これにより44.1kHzのCD音源を、最大705.6kHz(CD再生時、デジタル入力した48kHz系については最大768kHz)にアップサンプリングして出力することができる。
アップサンプリングは、下記のデュアルBNC出力時で4倍・8倍・16倍から、シングルBNC出力時で2倍・4倍・8倍から3段階で切り替えられる。切り替えは背面のスイッチで行う。
デジタル出力は、BNC端子を2系統使って伝送するデュアルワイヤーBNC出力で176.4kHz/352.8kHz/705.6kHz(CD再生時、以下同)に対応。出力のフォーマット自体はS/PDIFだが、現時点でこの接続方法で705.6kHzを受けられるのは「DAVE」のみであり、事実上の独自規格といえる。またデュアルワイヤーBNC出力を「DAVE」に入力した場合、DAVEが備える2つのWTAフィルターのうち「WTAフィルター1」はバイパスされる。
BNC端子を1系統使った通常のシングルワイヤーBNC出力は、88.2kHz/176kHz/352.8kHzの出力に対応。DAVEとの組み合わせにおいては、アップサンプリングをオフにした44.1kHz専用出力として用いることができる。
その他、デュアルAESおよび光デジタル出力を備え、それぞれ88.2kHz/176kHzの出力に対応する。
また、BNCデジタル入力も1系統搭載。入力したデジタル信号を最大768kHzまでアップサンプリングして出力することができる。
背面にはディザーのオン/オフを切り替えるスイッチを搭載。推奨はオフだが、映像の音声を入力する際などにリップシンクをとる場合に、ディザーをオンにする。
ドライブメカは、従来のBluはフィリップス製「CD-PRO2」を使用していたが、Blu MkIIではCD-PRO2を手がけた技術者が新たに立ち上げたメーカーから提供を受ける。しかし、ドライブメカの内容としては同一とのこと。メカのケース部分のみ、供給が受けられないためCHORDが独自に製作しているという。
ちなみに1999年に搭載した初代「Blu」や「Coda」(日本向けにパネルのボタンを省略したモデル)でも、アップサンプリング機能は搭載されていた。
25日に開催された発表会には、CHORD Electronicsのジョン・フランクス氏、ロバート・ワッツ氏が登場。その詳細を説明してくれた。
■なぜ今、CDトランスポート? なぜ100万タップもの演算処理が必要?
なぜこのタイミングでCDトランスポートを手がけたのか。その理由は、ひとつはCD再生に対するCHORDの情熱であり、もうひとつは技術的な進歩のブレークスルーがあったためだという。
技術的なブレークスルーは、現在開発中という同社のA/Dコンバーター「DAVINA」の開発過程で完成した「WTA M-Scaler」とよばれるアップサンプリング・プログラムだ。このWTA M-Scalerの最初の投入先として、「Blu」後継機が選ばれた。
そしてWTA M-Scalerによるアップサンプリングを実現するのが、上述の1,015,808タップという演算数の実現だ。この演算を行うのがFPGAなのだが、本機はXilinxの最新FPGA「XC7A200T」を採用。このFPGAは740のDSPコア、215,360のロジックセル、合計16Mバイトのメモリーを備えている。デジタルカメラの画像処理にも使われる高性能なFPGAであると同社は説明する。
ではなぜ、アップサンプリングに1,015,808タップという莫大な演算数を用いるのだろうか。そもそも、そんな膨大な処理は必要なのか。ワッツ氏はその点について、人間の聴覚とCDフォーマットの限界を引き合いに出して説明する。
CD(44.1kHz)におけるL/Rの音の時間差の限界(時間解像度と言いかえてもよいだろう)は22μsecだ。ところが、人間の脳は4μsecの時間差を認識できると学術的に証明されているという。このようにCDにおける時間解像度の限界と、人間の脳が認識できる時間解像度には隔たりがあるとワッツ氏は説明する。なおDAVEでは88nano secという値を実現している。
CDの音に対する疑問は、ワッツ氏が大学で研究を行っていた1980年代の時点で強く感じていた。そして、音質的に満足できる音楽再生のためには100万タップは必要だという結論を出していたという。しかし当時のコンピューターの演算速度からは、100万タップは「現実的には到達できない数字」と考えていたという。
ただ、当初から100万タップの実現を目標にしていたわけではなかった。Blu MkIIの開発の途中、最初のプロトタイプで512,000タップを実現。本機でテストをしたところ、音質面で大きな成果が得られた。タップ数をさらに増やすことによる音質的優位が確認でき、かつ理想とする100万タップの達成が見えてきたことで、はじめてBlu MkIIでの100万タップを実現を目指し、それを実現させたという。
WTA M-Scalerの詳細、100万タップへの挑戦の詳細については、さらにロバート・ワッツ氏に話を聞くことができたので、近日中に追って別記事でお伝えしたい。
■アップサンプリングをDACとは別筐体で行うメリット
そもそも、DAVEにおいてもD/A変換の処理過程でアップサンプリングが行われるのだが、なぜそれをあえてトランスポート側で行う必要があるのだろうか。そして、なぜDAVEでは100万タップが実現されることはなかったのだろうか。
演算量を大きくするために処理速度を高めていけば、より高速なクロック動作のトレードオフとして、ノイズが発生しやすくなる。処理が高速になればなるほど、ノイズの発生は大きくなる。結果として、D/AコンバーターであるDAVEにそのようなノイズ源を内包させることは、かえって音質に悪影響を与える。そこでDAVEではタップ数の多さによる音質向上と、演算量増加に伴うノイズの影響をバランスさせた結果、164,000タップという演算量を採用したという事情があった。
しかし、別筐体で膨大な演算処理を伴うアップサンプリングを行えば、D/Aコンバーターからノイズの問題を切り離すことができる。あえてCDトランスポート側でアップサンプリングを行うのには、このような事情がある。
Blu MkIIとDAVEの組み合わせの場合、前述のようにデュアルBNC入力によってアップサンプリングされたデジタル信号をDAVEに入力する場合は、DAVEのWTAフィルター1はバイパス。直接WTAフィルター2に入力される。Bluとの組み合わせによって、DAVE側の負担を減らし、さらなるS/N向上を実現したとワッツ氏は語る。
なお、アップサンプリングをCDトランスポート側で行うことの効果は、初代BluとCHORD初のDAC「DAC64」の組み合わせの時点で、すでに具現化していたという。
質疑応答では「S/PDIFはデータとクロックが伝送されますが、クロックジッターへの対策は行っているのか」との質問が挙がった。
ワッツ氏は「DAVEにはローカルクロックが内包されていて、入力された信号はリクロックされます。ですからジッターの影響は完全に除去されます」と回答。2μsecのジッターをDAVEに意図的に入力し、-180dBまで測定できる機材でその影響を測定する実験では、ジッターが完全に除去できていることが確認できたという。
またDAVE以外、他社製のDACとの組み合わせについても、Blu NK2はガルバニック絶縁をしており、ノイズがDACへ流出することを防いでいるとのことだった。
Blu MkIIのプレゼンからは、CD再生に限らず、Blu MkII(というセパレート・アップサンプラー)の存在はDAVEの真のポテンシャルを必要なものであるということがよくわかった。実際、ワッツ氏もフランク氏もその意味のことを述べていた。となると、CD再生を必要としないユーザー向け、あるいはファイル再生に特化した単体アップサンプラーの登場も期待したくなる。ワッツ氏にその点を聞くと「検討はしています」と答えてくれた。
■ついにCDの真のポテンシャルを引き出すことができた
「1980年代にレコーディングがデジタル化されCDが発売された当初、その音は硬くて聴くに及ばない、音楽好きには到底受け入れられないものだった」とワッツ氏。デジタルで音楽を原音忠実に再生することは難しいと考えた。ワッツ氏は以下のように語る。
「当時私は、大学で音の標本化の研究をしていました。同時に聴覚心理の勉強もしていたのですが、人間の聴覚はタイミングに強い影響を受けるものだということをまざまざと感じました。音のタイミングによって、人間は音が発せられる方向や場所を人間は判断するのです」。
楽器の音色を決定づけるのも、音のトランジェント(立ち上がりと立ち下がり)です。ですから音のトランジェントの情報が劣化すれば、人間はどんな楽器が鳴っているのか判断できなくなります。
そして標本化の理論の研究を通して、トランジェントを高精度に再現できない限り、デジタルオーディオは難しいということを実感しました。CDの22μsecでは、タイミングが遅すぎるのです。
CDの16bitを正確に再現するためには、100万タップは必要だと当時からわかっていました。しかし、CDが登場した頃にはFPGAもDSPもなく、マイクロプロセッサーができる仕事もたいしたものではありませんでした。デジタルで正しく音楽を再生するなんて不可能だ、とさえ思っていました。
それから35年を経て、Blu MK2において、理想と考えてきた100万タップを実現することができました。CDがはじめて、そのポテンシャルを全て引き出して再生できるようになったのです」。
既存CDのデジタルデータにおけるA/D変換側の精度については、今回はあまり言及されなかった。しかし、理想のA/D変換を目指して、現在CHORDはA/Dコンバーターを開発中であるという。
■24bitの完璧な再現には2億5,600万タップが必要。その実現可能性
ワッツ氏は今後の目標に尋ねられると、「24bit音源の完璧な再現」について最後に語った。16bitのデジタルデータを完璧にするのに100万タップが必要だった。では24bitならというと、ワッツ氏によれば、2億5,600万タップが必要になるという。現時点でそのような演算数実現する製品は市場にはない。果たしてそれだけのタップ数が実現可能なのか、実現したところで人間が聴き分けられるのかも、現段階ではわからないという。
しかし、開発中のA/Dコンバーターの成果を踏まえれば、その実現の可能性と必要性が見えてくるのではないかとワッツ氏は語っていた。
1999年に登場したCDトランスポート「Blu」の後継モデルで、昨年登場した同社の旗艦D/Aコンバーター「DAVE」(関連ニュース)との組み合わせを前提としている(機能は限定されるが、他社DACと組み合わせることも可能)。
最大の特徴は、同社エンジニアのロバート・ワッツ氏が新たに開発した「WTA M-Scalerプログラム」をFPGAに実装して、1,015,808タップという驚異的な演算数によるアップサンプリングを実現したこと。この演算数の膨大さは、DAVEの演算数が164,000タップであることと比べるとよくわかる。これにより44.1kHzのCD音源を、最大705.6kHz(CD再生時、デジタル入力した48kHz系については最大768kHz)にアップサンプリングして出力することができる。
アップサンプリングは、下記のデュアルBNC出力時で4倍・8倍・16倍から、シングルBNC出力時で2倍・4倍・8倍から3段階で切り替えられる。切り替えは背面のスイッチで行う。
デジタル出力は、BNC端子を2系統使って伝送するデュアルワイヤーBNC出力で176.4kHz/352.8kHz/705.6kHz(CD再生時、以下同)に対応。出力のフォーマット自体はS/PDIFだが、現時点でこの接続方法で705.6kHzを受けられるのは「DAVE」のみであり、事実上の独自規格といえる。またデュアルワイヤーBNC出力を「DAVE」に入力した場合、DAVEが備える2つのWTAフィルターのうち「WTAフィルター1」はバイパスされる。
BNC端子を1系統使った通常のシングルワイヤーBNC出力は、88.2kHz/176kHz/352.8kHzの出力に対応。DAVEとの組み合わせにおいては、アップサンプリングをオフにした44.1kHz専用出力として用いることができる。
その他、デュアルAESおよび光デジタル出力を備え、それぞれ88.2kHz/176kHzの出力に対応する。
また、BNCデジタル入力も1系統搭載。入力したデジタル信号を最大768kHzまでアップサンプリングして出力することができる。
背面にはディザーのオン/オフを切り替えるスイッチを搭載。推奨はオフだが、映像の音声を入力する際などにリップシンクをとる場合に、ディザーをオンにする。
ドライブメカは、従来のBluはフィリップス製「CD-PRO2」を使用していたが、Blu MkIIではCD-PRO2を手がけた技術者が新たに立ち上げたメーカーから提供を受ける。しかし、ドライブメカの内容としては同一とのこと。メカのケース部分のみ、供給が受けられないためCHORDが独自に製作しているという。
ちなみに1999年に搭載した初代「Blu」や「Coda」(日本向けにパネルのボタンを省略したモデル)でも、アップサンプリング機能は搭載されていた。
25日に開催された発表会には、CHORD Electronicsのジョン・フランクス氏、ロバート・ワッツ氏が登場。その詳細を説明してくれた。
■なぜ今、CDトランスポート? なぜ100万タップもの演算処理が必要?
なぜこのタイミングでCDトランスポートを手がけたのか。その理由は、ひとつはCD再生に対するCHORDの情熱であり、もうひとつは技術的な進歩のブレークスルーがあったためだという。
技術的なブレークスルーは、現在開発中という同社のA/Dコンバーター「DAVINA」の開発過程で完成した「WTA M-Scaler」とよばれるアップサンプリング・プログラムだ。このWTA M-Scalerの最初の投入先として、「Blu」後継機が選ばれた。
そしてWTA M-Scalerによるアップサンプリングを実現するのが、上述の1,015,808タップという演算数の実現だ。この演算を行うのがFPGAなのだが、本機はXilinxの最新FPGA「XC7A200T」を採用。このFPGAは740のDSPコア、215,360のロジックセル、合計16Mバイトのメモリーを備えている。デジタルカメラの画像処理にも使われる高性能なFPGAであると同社は説明する。
ではなぜ、アップサンプリングに1,015,808タップという莫大な演算数を用いるのだろうか。そもそも、そんな膨大な処理は必要なのか。ワッツ氏はその点について、人間の聴覚とCDフォーマットの限界を引き合いに出して説明する。
CD(44.1kHz)におけるL/Rの音の時間差の限界(時間解像度と言いかえてもよいだろう)は22μsecだ。ところが、人間の脳は4μsecの時間差を認識できると学術的に証明されているという。このようにCDにおける時間解像度の限界と、人間の脳が認識できる時間解像度には隔たりがあるとワッツ氏は説明する。なおDAVEでは88nano secという値を実現している。
CDの音に対する疑問は、ワッツ氏が大学で研究を行っていた1980年代の時点で強く感じていた。そして、音質的に満足できる音楽再生のためには100万タップは必要だという結論を出していたという。しかし当時のコンピューターの演算速度からは、100万タップは「現実的には到達できない数字」と考えていたという。
ただ、当初から100万タップの実現を目標にしていたわけではなかった。Blu MkIIの開発の途中、最初のプロトタイプで512,000タップを実現。本機でテストをしたところ、音質面で大きな成果が得られた。タップ数をさらに増やすことによる音質的優位が確認でき、かつ理想とする100万タップの達成が見えてきたことで、はじめてBlu MkIIでの100万タップを実現を目指し、それを実現させたという。
WTA M-Scalerの詳細、100万タップへの挑戦の詳細については、さらにロバート・ワッツ氏に話を聞くことができたので、近日中に追って別記事でお伝えしたい。
■アップサンプリングをDACとは別筐体で行うメリット
そもそも、DAVEにおいてもD/A変換の処理過程でアップサンプリングが行われるのだが、なぜそれをあえてトランスポート側で行う必要があるのだろうか。そして、なぜDAVEでは100万タップが実現されることはなかったのだろうか。
演算量を大きくするために処理速度を高めていけば、より高速なクロック動作のトレードオフとして、ノイズが発生しやすくなる。処理が高速になればなるほど、ノイズの発生は大きくなる。結果として、D/AコンバーターであるDAVEにそのようなノイズ源を内包させることは、かえって音質に悪影響を与える。そこでDAVEではタップ数の多さによる音質向上と、演算量増加に伴うノイズの影響をバランスさせた結果、164,000タップという演算量を採用したという事情があった。
しかし、別筐体で膨大な演算処理を伴うアップサンプリングを行えば、D/Aコンバーターからノイズの問題を切り離すことができる。あえてCDトランスポート側でアップサンプリングを行うのには、このような事情がある。
Blu MkIIとDAVEの組み合わせの場合、前述のようにデュアルBNC入力によってアップサンプリングされたデジタル信号をDAVEに入力する場合は、DAVEのWTAフィルター1はバイパス。直接WTAフィルター2に入力される。Bluとの組み合わせによって、DAVE側の負担を減らし、さらなるS/N向上を実現したとワッツ氏は語る。
なお、アップサンプリングをCDトランスポート側で行うことの効果は、初代BluとCHORD初のDAC「DAC64」の組み合わせの時点で、すでに具現化していたという。
質疑応答では「S/PDIFはデータとクロックが伝送されますが、クロックジッターへの対策は行っているのか」との質問が挙がった。
ワッツ氏は「DAVEにはローカルクロックが内包されていて、入力された信号はリクロックされます。ですからジッターの影響は完全に除去されます」と回答。2μsecのジッターをDAVEに意図的に入力し、-180dBまで測定できる機材でその影響を測定する実験では、ジッターが完全に除去できていることが確認できたという。
またDAVE以外、他社製のDACとの組み合わせについても、Blu NK2はガルバニック絶縁をしており、ノイズがDACへ流出することを防いでいるとのことだった。
Blu MkIIのプレゼンからは、CD再生に限らず、Blu MkII(というセパレート・アップサンプラー)の存在はDAVEの真のポテンシャルを必要なものであるということがよくわかった。実際、ワッツ氏もフランク氏もその意味のことを述べていた。となると、CD再生を必要としないユーザー向け、あるいはファイル再生に特化した単体アップサンプラーの登場も期待したくなる。ワッツ氏にその点を聞くと「検討はしています」と答えてくれた。
■ついにCDの真のポテンシャルを引き出すことができた
「1980年代にレコーディングがデジタル化されCDが発売された当初、その音は硬くて聴くに及ばない、音楽好きには到底受け入れられないものだった」とワッツ氏。デジタルで音楽を原音忠実に再生することは難しいと考えた。ワッツ氏は以下のように語る。
「当時私は、大学で音の標本化の研究をしていました。同時に聴覚心理の勉強もしていたのですが、人間の聴覚はタイミングに強い影響を受けるものだということをまざまざと感じました。音のタイミングによって、人間は音が発せられる方向や場所を人間は判断するのです」。
楽器の音色を決定づけるのも、音のトランジェント(立ち上がりと立ち下がり)です。ですから音のトランジェントの情報が劣化すれば、人間はどんな楽器が鳴っているのか判断できなくなります。
そして標本化の理論の研究を通して、トランジェントを高精度に再現できない限り、デジタルオーディオは難しいということを実感しました。CDの22μsecでは、タイミングが遅すぎるのです。
CDの16bitを正確に再現するためには、100万タップは必要だと当時からわかっていました。しかし、CDが登場した頃にはFPGAもDSPもなく、マイクロプロセッサーができる仕事もたいしたものではありませんでした。デジタルで正しく音楽を再生するなんて不可能だ、とさえ思っていました。
それから35年を経て、Blu MK2において、理想と考えてきた100万タップを実現することができました。CDがはじめて、そのポテンシャルを全て引き出して再生できるようになったのです」。
既存CDのデジタルデータにおけるA/D変換側の精度については、今回はあまり言及されなかった。しかし、理想のA/D変換を目指して、現在CHORDはA/Dコンバーターを開発中であるという。
■24bitの完璧な再現には2億5,600万タップが必要。その実現可能性
ワッツ氏は今後の目標に尋ねられると、「24bit音源の完璧な再現」について最後に語った。16bitのデジタルデータを完璧にするのに100万タップが必要だった。では24bitならというと、ワッツ氏によれば、2億5,600万タップが必要になるという。現時点でそのような演算数実現する製品は市場にはない。果たしてそれだけのタップ数が実現可能なのか、実現したところで人間が聴き分けられるのかも、現段階ではわからないという。
しかし、開発中のA/Dコンバーターの成果を踏まえれば、その実現の可能性と必要性が見えてくるのではないかとワッツ氏は語っていた。
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