アキュフェーズ杉浦社長インタビュー3「オーディオをベースにマルチの文化を考える」
アキュフェーズ(株)取締役技術部長 高松重治氏 |
―― ホームシアターをやっていらっしゃる方が映像ばかり見ているわけでもないと思いますし、映像が大画面・高品位になればなるほど、映像なしで音だけにひたりたいという時間というのも増えるだろうと思います。ところで、DVDオーディオ/SACDのマルチについてはどうお考えですか。ホームシアターのインフラとの共有は、DVDの大衆への急速な普及を背景に考えれば、非常にわかりやすいビジョンであると思いますが、一方でたとえばDVDオーディオでは、5本同じスピーカーを使った円周配置を旨とするなど、教条主義的なところに陥っている面もあります。インフラの共通化を言うのなら、マルチチャンネルオーディオはもう少し「楽な聴き方」を提案すべきではないかと思うのですが、いかがですか。
齋藤 私どもは現時点で音声のみのサラウンドについては重視していません。フロント2チャンネルがしっかりしていれば、アンビエンスなどの面についても現実に過不足ないと思います。それともう1つはソフトの問題です。オーディオのサラウンドの録音の手法が確立していない状況にあって、我々が再生する機器をすぐに出せると思っていません。今後を見守っていく考えです。現時点では映像サラウンド、ホームシアターのサラウンドがテーマであると明確にお話ししたいと思っています。
DVDオーディオが本当にDVDグループの中で必要かどうかという疑問もあります。DVDビデオでも96kサンプリング、24ビットのフォーマットがあるわけですし、そちらを追及していけば必然的にいい音はできてくる。192kHzの2チャンネルはないかもしれませんけれども。我々がSACDを選んだのはDVDオーディオとのそのあたりの原点の違いがあるわけです。SACDは2チャンネルがベースにあり、マルチチャンネルを志向はしていても、「そちらもできる」というスタンスだと思うのです。
―― アキュフェーズがこうしていま、映像という広義でのホームエンターテインメントの世界に入っていこうとしている。エンターテインメントという言葉は、ちょっとアキュフェーズには似合わない言葉のような気がするので(笑)、アキュフェーズさんなりに「我々がこれから入っていこうとしている文化というのは、ひとことで言えばこれなんだ」という的確な言葉はありますか。
齋藤 アキュフェーズはやっぱりオーディオです。オーディオの現象が広がってきていて、その広がりに我々が蓄積したオーディオの技術を今後どれだけ生かせるかということなんです。家庭を舞台に音と映像が融合し、表現の可能性が多様に広がっていく中でオーディオをベースに文化を考えていくということが務めだと思います。アキュフェーズがそこから離れて、それこそエンターテインメントの世界で何かを始めてしまったらとんでもないことになるんじゃないですか(笑)。(つづく)