<TVF2006レポート>大賞は日韓の20代作者が受賞
2月18日、日本ビクター(株)主催の東京ビデオフェスティバル「TVF2006」授賞式が東京品川インターシティホールで開催され、大賞2本の発表が行われた。
28回目を迎え、優秀作品の内容において、ある到達点を示すと思われると審査員諸氏に評された今回のTVF。作品応募状況の概要と、授賞式でのトーク・フォーラムの様子を中心に本年のTVFについて報告する。
【1】 家族をみつめる視点の深まりと若者の増加。応募状況概要
第1回TVFは1978年。これまでに応募総数4万本を越え、審査委員には大林宣彦監督はじめ錚々たる陣容のTVFは、世界最大の市民ビデオフェスティバル。
本年はアカデミー短編ドキュメンタリー賞受賞作も含む2,291作品が世界35の国と地域から寄せられた。(国内910 作品、海外1,381 作品)
今年の大賞2作品は、
「ビデオ大賞」に『羽包む』(中井佐和子・23 歳・奈良県)。
「日本ビクター大賞」は『Family(家族)』(Ji Seung Woo・24 歳・韓国)。
両作品とも20代の若い映像監督が、自分の友人や家族との信頼感のある関係の中から、しっかりした視点で映像化した点が審査員に高く評価された。(作品内容については、トークフォーラム、作品紹介などを参照のこと)。
応募者の約5割が10〜20代で、(10代の作品が全体の約1割)女性の応募者は全体では一割強だが、優秀作品の半数が女性だった。
審査員の椎名誠氏からは、「女は強い。これからの日本は女性の時代だとつくづく思う」との声も。地域では中国、韓国、香港、タイなどアジアからの応募が全応募の約半数を占め、国内応募の約3割が今回から始まったDVD応募である。
作品の内容としては、日常的視点から家族や周囲を見つめた作品の視点が深くなり、地域に密着して作られた作品でも、作者と被写体のかかわりがきちんと伝わってくる作品がいままでに以上に増えてきている。
その一方、椎名誠氏からは、ここ数年の応募作全体の類型化、高畑勲氏らの審査員諸氏からは、何をいいたいのか、誰に伝えたいのかわからない作品も多いという声もあった。
今回の応募作には、アカデミー賞短編ドキュメント受賞作(「チェルノブイリ・ハート」をはじめ海外のプロドキュメンタリー作家の作品もかなり含まれている。映像機器の発達を背景に、プロと自覚的なアマの表現力の差は少なくなってきている。内外の各地域に密着した個人の視点で作った作品が世界中から多数集まり、作品のメッセージや被写体には優劣のつけようがない。
身近な友人や家族を撮影した若い世代の二人の作品を大賞としたのは、日常の中から生み出される視点や、生活の中でビデオをコミュニケーションツールとすることを提言してきたTVFらしいメッセージのある選択だった。
【2】 TVFはすでに国家的映像文化事業-大林宣彦氏
大型映画コンクールがバブル破綻後に相次いで消えていく中で、TVFは28年間、地域に密着して制作する個人映像制作を支援しながら継続してきた。
TVFの長年に渡る国際的な活動に対しては、2004年のメセナ大賞部門「映像開拓賞」が授与されている。
第1回より審査員を務める映画監督の大林宣彦氏は、今年のTVF講評の中で、
「企業としての『営利事業』を遥かに超えて国家的『文化事業』を成し遂げた日本ビクターの意志力を称えると共に、この成果が未だ『アマチュアコンテスト』と捉えられ、優れた『文化』が閉ざされた迄で在るのは、真に残念だ。」
と述べている。
団塊世代が定年を迎え、個人として日常をどう生きるかがますます問われる社会が到来している。一般人の手軽に利用できる個人映像表現ツールとして、コミュニケーションツールとして、ヴィデオを有効に利用し個人や地域間のネットワークを作っていくという視点と活動は、大林監督の言葉どおり、大げさでなく国家的文化事業といえるものだ。
TVFの理念が、一企業の理念であることを越えて、社会の各層に広く普及し、活動がさらに社会的に広範囲に活発化していくことを期待したい。
TVFの詳細については以下を参照のこと。
東京ビデオフェスティバルURL:http://www.victor.co.jp/tvf
(取材・文 山之内優子)
28回目を迎え、優秀作品の内容において、ある到達点を示すと思われると審査員諸氏に評された今回のTVF。作品応募状況の概要と、授賞式でのトーク・フォーラムの様子を中心に本年のTVFについて報告する。
【1】 家族をみつめる視点の深まりと若者の増加。応募状況概要
第1回TVFは1978年。これまでに応募総数4万本を越え、審査委員には大林宣彦監督はじめ錚々たる陣容のTVFは、世界最大の市民ビデオフェスティバル。
本年はアカデミー短編ドキュメンタリー賞受賞作も含む2,291作品が世界35の国と地域から寄せられた。(国内910 作品、海外1,381 作品)
今年の大賞2作品は、
「ビデオ大賞」に『羽包む』(中井佐和子・23 歳・奈良県)。
「日本ビクター大賞」は『Family(家族)』(Ji Seung Woo・24 歳・韓国)。
両作品とも20代の若い映像監督が、自分の友人や家族との信頼感のある関係の中から、しっかりした視点で映像化した点が審査員に高く評価された。(作品内容については、トークフォーラム、作品紹介などを参照のこと)。
応募者の約5割が10〜20代で、(10代の作品が全体の約1割)女性の応募者は全体では一割強だが、優秀作品の半数が女性だった。
審査員の椎名誠氏からは、「女は強い。これからの日本は女性の時代だとつくづく思う」との声も。地域では中国、韓国、香港、タイなどアジアからの応募が全応募の約半数を占め、国内応募の約3割が今回から始まったDVD応募である。
作品の内容としては、日常的視点から家族や周囲を見つめた作品の視点が深くなり、地域に密着して作られた作品でも、作者と被写体のかかわりがきちんと伝わってくる作品がいままでに以上に増えてきている。
その一方、椎名誠氏からは、ここ数年の応募作全体の類型化、高畑勲氏らの審査員諸氏からは、何をいいたいのか、誰に伝えたいのかわからない作品も多いという声もあった。
今回の応募作には、アカデミー賞短編ドキュメント受賞作(「チェルノブイリ・ハート」をはじめ海外のプロドキュメンタリー作家の作品もかなり含まれている。映像機器の発達を背景に、プロと自覚的なアマの表現力の差は少なくなってきている。内外の各地域に密着した個人の視点で作った作品が世界中から多数集まり、作品のメッセージや被写体には優劣のつけようがない。
身近な友人や家族を撮影した若い世代の二人の作品を大賞としたのは、日常の中から生み出される視点や、生活の中でビデオをコミュニケーションツールとすることを提言してきたTVFらしいメッセージのある選択だった。
【2】 TVFはすでに国家的映像文化事業-大林宣彦氏
大型映画コンクールがバブル破綻後に相次いで消えていく中で、TVFは28年間、地域に密着して制作する個人映像制作を支援しながら継続してきた。
TVFの長年に渡る国際的な活動に対しては、2004年のメセナ大賞部門「映像開拓賞」が授与されている。
第1回より審査員を務める映画監督の大林宣彦氏は、今年のTVF講評の中で、
「企業としての『営利事業』を遥かに超えて国家的『文化事業』を成し遂げた日本ビクターの意志力を称えると共に、この成果が未だ『アマチュアコンテスト』と捉えられ、優れた『文化』が閉ざされた迄で在るのは、真に残念だ。」
と述べている。
団塊世代が定年を迎え、個人として日常をどう生きるかがますます問われる社会が到来している。一般人の手軽に利用できる個人映像表現ツールとして、コミュニケーションツールとして、ヴィデオを有効に利用し個人や地域間のネットワークを作っていくという視点と活動は、大林監督の言葉どおり、大げさでなく国家的文化事業といえるものだ。
TVFの理念が、一企業の理念であることを越えて、社会の各層に広く普及し、活動がさらに社会的に広範囲に活発化していくことを期待したい。
TVFの詳細については以下を参照のこと。
東京ビデオフェスティバルURL:http://www.victor.co.jp/tvf
(取材・文 山之内優子)