国際FPD展基調講演「ソニー」 − S-LCD製液晶パネルの生産を強化・SXRDリアプロも注力
井原氏は始めに「昨年上期はソニーのエレクトロニクスが大変な状況に陥ってしまい、とりわけテレビ事業が全体の足を大きく引っ張ってしまった」と述べ、新社長の中鉢氏を中心とした新たな体制のもと、「テレビの復活なくしてソニーの復活はない」という言葉を合い言葉に、05年末より新ブランドのテレビ「BRAVIA」シリーズを投入した経緯を説明。その結果、「全世界でブランドイメージの強化を図り、ソニーのテレビの地位向上を実現することができた」と語った。実際に販売実績を見ても、BRAVIA投入前の上半期には全世界で9%のシェアにとどまっていたソニーのテレビが、投入後の下半期には19%まで拡大している。井原氏は、「長期安定的なポジションが獲得できるまで、今後も気を抜かずに頑張っていきたい」と率直に抱負を述べた。
井原氏によれば、新ブランド立ち上げの背景には、「すでにエージングしてしまった“WEGA”のイメージを引きずってフラットテレビの市場に乗り込んでしまったことを反省し、ソニーとしてこのタイミングで新しいブランドイメージが必要と決意した」ことがあったという。その決意を後押ししたのが、「サムスン電子との合弁会社であるS-LCD社でのパネル供給体制が夏以降に整い、ソニーの差異化技術が打ち出せるようになった」ことだったという。
薄型テレビの需要動向については、現在の世帯普及率が世界規模で拡大し、日本国内、および北米・欧州では近い将来に間違いなく100%に達するだろうと同社は予測する。「目の前にある大きなポテンシャルを活かすため、急速に成長する業界にどういう状況を整えるかが大切」とする井原氏は、そのために「商品そのものの力」「需要に応える供給力」「強いブランド力」のそれぞれを高めることが大きなポイントであるとする。
商品力の強化については、BRAVIA導入後に大画面商品の構成比率が数量で50%、金額で70%に達したという。これに伴い「大画面化」へのベクトルで戦略を万端整えることが同社の急務、と説明。現在は46インチまでは液晶、60インチ以降はリアプロでカバーするという戦略を立てているが、「今年のラインナップのイメージは、液晶とリアプロの画面サイズの壁をなくして行き、ビジネスの幅を拡大していく方向だ」とした。また、液晶とリアプロについて、付加価値の高い商品群については積極的にフルHD化を推し進める。
井原氏はリアプロについて「ソニーにとって非常に大事なビジネス」であるとし、さらに詳しく説明した。北米地域では05年に、40インチ超のデバイス別市場構成においてリアプロが40%のシェアを獲得したことを示し、06年にはこれが一層加速するとの見解を示した。リアプロの基幹デバイスには3LCDと同社独自のSXRDが採用された商品がともに発売されているが、「市場では3LCDからSXRDへのシフトが進んでいる」という。同社では今後フルHD対応のSXRDリアプロをさらに強化していく考えだ。
S-LCD社の第8世代液晶ディスプレイパネル製造体制の強化については、07年秋の量産稼働時期が検討されていることが示された。ガラス基板ベースで月産5万枚の生産能力を実現するため、約20億米ドルの投資が行われる見込みだ。07年のクリスマス商戦には間に合うよう、計画を前倒しすることを検討しているという。
第7世代パネルの製造キャパシティも強化され、07年2月には月産9万枚へ拡張される。このため約280億円の設備増強投資もS-LCD社として実施される。
今後、主力のパネルデバイスはS-LCD第7世代の工場から出荷される。06年後半からは第8世代の工場をスタートさせ、07年からは第8世代のラインで月産5万枚を目指す。パネルの外部調達についても現在様々なメーカーと検討が進められているという。06年のパネル供給は「ほぼめどが立ったと見ている」という。
またテレビ以外にも、Blu-ray関連製品やビデオカメラなど「フルHD」を訴求した製品のラインナップも強化を図る。夏からはBDのディスクシステムを導入し、年末にはゲーム機「PS3」も予定する。またフルHD映像の編集機能を備えるパソコンVAIOも年内に導入が計画されている。このようなフルHDを軸としたバリューチェーンをより積極的にユーザーへ訴えかけていくため、製品に「フルHD 1080」のロゴを添付していく戦略も現在検討しているという。
講演の最後に井原氏は「今年はソニーが発足してから60年となる節目の年だ。社内でものづくりの原点を振り返りながら、技術をベースにしたDNAをもう一度呼び戻そうとしている。これからますますその姿勢を強めて行きたい」と意気込みを語った。
(Phile-web編集部)