ギターの詩人・松田晃演がCDミニアルバムをリリース!
今回のCDは前作同様にフランスの古い教会でDSD録音した |
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私の愛聴盤にもう一枚、松田晃演(あきのぶ)さんの『サウンド・オブ・ザ・ギター4〜トーレスの歌』という、ギター・ソロアルバムが加わった。「トーレスの歌」というのは、もちろん松田さんが永く愛用するクラシックギターの名器、アントニオ・デ・トーレスからとったもので、まさにしっくりとくるサブタイトルではなかろうか。
現在のスペイン流儀のギターはトーレス(1817〜92)が考案した構造、大きさ、音色を基礎にしたといわれ、生涯に320本のギターを製作したという。現存するおそらく80〜90本のうちのひとつが松田さん所有というわけだ。特徴のある五角形のケースに入った、風格のあるギターを雑誌のグラビアで見たことがある。
「私はこのギターを毎日弾いている。子供のころから知っていて憧れだった。スペインのセヴィーリャで110年前に作られたこのギターは、表面板と裏板はべろべろでありながらその姿は風格があり、実に若々しく何ともいえない美しい充実した音を出す。私は敬意を込めてフェニックス(不死鳥)という称号を与えた」(コンサートのリーフレットより)。
さて、「ギターの詩人」松田晃演さんのことを少し書こう。若くしてスペインに渡りあのアンドレス・セゴビアの愛弟子でもあるトップ奏者。NHKのギター教室でお馴染みだろう。ヨーロッパ諸国やカーネギホールでのコンサートなど活躍は数知れない。
今回の新譜は昨年の『サウンド・オブ・ザ・ギター3』と同じく、フランスの古い教会でのDSD収録。1ビット2.8MHzサンプリングという、SACDでお馴染みの高音質なフォーマットだ。収録曲は5曲、20分少々と短めではあるけれど珠玉の演奏ぞろい。耳をすませて聞き込んで欲しい。そしてそれぞれの曲には、松田さん自身の解釈やエピソードが付されているのも興味深い。セコビアのレッスンや飾らないその人柄。松田さんとは兄弟弟子だというジョン・ウイリアムスのこと。またバッハのチェロ組曲などは、編曲者であるジャック・デュアルテを訪問してもいる。それも交えながら、さあひとつひとつ聴いていこう。
はじめの2曲はバッハである。明晰でキチっとした定位だ。辛口の音といえるかもしれない。ちょっと響きを抑えたクリアなマイクアレンジが、ギターの生音らしさを引き出している。ギターのこぼれるような微弱音を大事にしながらも芯が通り、音形がきちっと提示されてこそバッハなのだ。
「私はこのバッハを何度も弾いている。ずっと以前に日本コロムビアでLPにも入れた。運指、演奏ポジション、そして肝心なのは演奏している時の情感を作り替え、本当は松田晃演編として弾きたいくらいに思っている」。ギターの好きな方なら、「ジーグ」のカンパネラ奏法(ギターでオルガンポイントを高音の開放弦で弾き、メロディの音を低音弦で奏する)の超絶的なテクニックを堪能したい。
(3)アルベニス/セヴィーリャ
「セヴィーリャ」は何という自由で軽やかなリズムだ。時として激しく、情熱的にかき鳴らす色彩感溢れる表情はまさにスペイン音楽のエスプリだ。胴をたたく音もはっとするほど生々しい。「この曲を弾くときの私のイメージは、慰労会の音楽に合わせ、象のように大きいセコビア先生が風に舞う紙のように軽々と踊っている風景だ」。
(4)タレーガ/なみだ (5)テデスコ/雀
4曲めは誰もが口ずさむタレーガの「なみだ」。シンプルな美しさと松田さんならではの優しくて深い、自愛に満ちたサウンドが心を打つ。短調に転じるフレーズは、思わず涙がこぼれそうになった。そして今回初発表だという最後の「雀」まで、トーレスと松田さんは一体となって完璧といえるギター音楽の世界を堪能させてくれた。演奏、録音とも最優秀。これはぜひ聴くべきだろう。
(林 正儀)
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『サウンド・オブ・ザ・ギター4 トーレスの歌』
商品形式/CD
商品型番/ARM3004
演奏/松田晃演
価格/¥2,000(税込)
お問い合わせ/〒670-0084 兵庫県姫路市東辻井3丁目9-1
ARMレコードソサエティ