フランス映画祭2007 − 主催者から見た「フランス映画祭」とは
3月15日から18日は東京と横浜で、3月18日から20日は大阪で、「フランス映画祭2007」が開催される。
この映画祭の主催元は、世界各国でのフランス映画プロモーションに関るフランス映画省直轄の機関「ユニフランス」だ。ユニフランス東京支局 所長のヴァレリ=アンヌ・クリステンさんと、同局のPRマネージャー・丹沢恭子さんにインタビューした。
- ユニフランスは、他のアジアの国で日本におけるフランス映画祭のような映画祭を企画しているのでしょうか?
クリステンさん:「はい」とも「いいえ」とも言えます。日本で開催している「フランス映画祭」は、ユニフランスが開催するアジアでのイベントとしては、アーティスト数、映画上映回数、日にちなど最大級のものです。
一方、日本以外のアジアでもフランス映画のイベントは多々行われています。そしてそれぞれの国にあった形での開催をしています。例えばシンガポール・インドネシア・タイでは、フランス大使館が映画祭を主催し、それに対してユニフランスは援助をします。また各国の既存の国際映画祭、例えば韓国の「プサンフェスティバル」では大きな規模でのフランス映画のイベント上映が開催され、ユニフランスは、やはり援助の形で参加しています。
− 映画界では現在、アメリカ映画が台頭しています、一方、様々な国で様々な映画が作られてもいます。今回の映画祭では、フランス映画のどのような部分をアピールしたいですか。
クリステンさん:フランス映画は年間200本ぐらい制作され、日本で公開されるのはそのうち約40〜50本ぐらいです。それらは配給側や劇場の意向から、同じ監督や同じ俳優、同じジャンルの映画が多くなるという傾向があります。
しかし実際のフランス映画界では、より新しい才能を持った監督や俳優、様々なジャンルの映画が生まれています。この映画祭を機会に、今のフランス映画の多様性を感じていただきたいと考えています。
丹沢さん:フランス映画というとイメージが固定されがちですが、今回の映画祭では、そんなフランス映画のイメージを破る新しい世代、新しいジャンルの監督たちの作品もぜひ見ていただきたいです。例えば、グラフィック・デザイナー出身のミシェル・ゴンドリは、CMビデオクリップ制作でも有名な監督で、USメジャーでは「エターナル・サンシャイン」を撮っています。クリスチャン・ヴォルクマン監督の「ルネサンス」は、全編モノクロのアニメで、パリの町をグラフィックな新しい感覚で描いています。
- 今までフランス映画祭は横浜のみなとみらいで開催されてきましたが、昨年度より会場が六本木やお台場などの都心になりました。
クリステンさん:新しい会場で、これまで以上の挑戦が必要という部分は確かにありますね。昨年からシネコンでの開催になりましたし、普段シネコンで映画を見ているような方に、フランス映画の新しい観客になっていただきたいです。
丹沢さん:これまで13年間横浜で開催してきたような、フランスのイメージを強く出したフランス映画祭のファンの方には、去年のシネコンでの上映は馴染まれなかった部分もあったかもしれません。シネコンでの上映の映画祭をみなさまに気にいっていただけるように、頑張っています。
− 上映作品の決定はどのようになさるのですか?
クリステンさん:ユニフランスは、フランス映画業界における映画輸出業者、プロデューサー、俳優や監督たちアーティストたちの協会などから組織されており、マーケット部、アーティスト部、役員会という3つの委員会から成り立っています。この委員会に上映作品案を提出し、その全ての承認を得て作品は決定されます。今回は、9月くらいから慎重に協議し、実際に決議がでたのが1月です。
− 上映作品は、最新作から選ぶのですか?
クリステンさん:映画祭開催年に日本で公開される予定の映画と、これから公開される可能性があるもので、映画祭の開催される年に発表された作品から選びます。上映に関しては、日本プレミアとなります。
− フランス映画祭の代表団としてフランスの映画界から俳優や監督が来日していますが、彼らはどのような役割を担っているでしょうか?
クリステンさん:フランス映画祭では当初より代表団が来日し、団長をフランス映画人が務めてきました。過去には例えば女優のエマニエル・ベアール、ジャンヌ・モロー、キャロル・ブーケ、イザベル・ユベールなどや、クロード・ルルーシュ監督などです。団長はフランス映画祭の期間、いわば大統領のように日本の観客の皆様にフランス映画のイメージを伝えるという仕事をします。
今年は、カトリーヌ・ドヌーブが団長として来日します。ドヌーブは、フランス映画界の女王とも言える人です。それに、今回のオープニング作品「輝ける女達」の主役を演じ、また今回の映画祭で特集するジャック・ドミ監督の永遠のミューズでもありますので、今回は、彼女しかいないということになりました。ドヌーブは10年ぶりの来日になります。
− ユニ・フランスの通常の業務や映画祭の準備のお仕事はどんなことですか?
丹沢さん:11月ぐらいから映画祭の準備をつめて行いますが、それ以外に、日本で年間40本から50本行われるフランス映画上映のサポートも行っています。
フランスは映画も文化として考えており、ユニフランスのこの事務所があるここ東京の日仏学院には映画館も併設しております。そこで試写を行ったり、来日する監督や俳優の記者会見を開いたりします。監督の来日サポートもユニフランスの補助金があり、渡航スケジュールも管理しております。配給会社との間にたってフォローしていきます。
− 年間でサポートするのは何人ぐらいですか?
丹沢さん::だいたい月に1〜2人です。フランス映画の日本公開時には現在はほとんど監督を招聘するようになりましたので、月に3人のときもあります。
− 昨年はフランス映画祭にあわせて約100名がフランスから来日したそうですが。
丹沢さん:その100名の中には、監督や俳優だけではなく、映画を売っているセールスエージェント側の人間も入ります。ユニフランスの目的は、新しいフランス映画の輸出振興ですので、映画祭の機会に映画販売のプロフェッショナルが来日します。今年はフランス側の映画セールス関係者約65人が来日します。
− その方たちは、日本ではどういう活動をするのですか?
丹沢さん:映画祭で映画を上映しているときに、その裏では映画祭のマーケットが開かれます。今回は会場近くのホテルの部屋を借りて、そこでそれぞれが、日本の配給会社、劇場関係者と商談します。去年はフランス側25社がマーケットに参加しました。このマーケットでの映画販売の促進がユニフランスの最も大きなミッションとなっています。
− 映画マーケットでは日本以外のアジアの国からの買い付けはありますか?
クリステンさん:これまで6月に映画祭を開いていたのですが、今回3月に開催することにした最も大きな理由として、アジアでの大変大きな映画祭、香港のフィルム・アートが3月に開催されることに合わせたことが挙げられます。東京国際映画祭やプサンなど、新興の映画マーケットが育っています。3月はフランスの映画ディーラーはフランス映画祭で日本に来て香港に渡っていく、というのがここ1、2年の新しい旅程になっています。
− 映画祭の期間は忙しいですね。
丹沢さん:その他に日本の映画人との交流パーティーや、映画不正コピー問題についてのセミナー、来日監督の学校での講演会などもあります。今回、映画監督や俳優約25人が来日しますが、その人たちは、舞台挨拶をする以外にも、マスコミのインタビューを受けるので、ほぼホテルに缶詰の状態になります。そのための広報事務局のスタッフが集まります。
− ホームシアターがフランスでも普及してきているそうですが、フランスでの映画館の映画公開はどうなっていますか?
クリステンさん:シネコンが多くなり、一般の劇場は少なくなってきているという状況はあります。
− パテ社やゴーモン社などの映画製作会社が経営する系列劇場が多いそうですが、独立した民間の映画館もありますか?
クリステンさん:制作会社が興行主になっているのは事実ですが、ミニシアターもあります。アール・エ・エッセ(芸術と実験)というのが日本のミニシアターですが、その3,4館がグループになって動いているという例が若干ですがあります。例えばユートピアというグループが南西部フランスにありますし、リヨンにもそういったグループがあります。パリでは、通常のパテ、ゴーモン、MKD、UJC以外の劇場に関しては、ほぼそれぞれの劇場がインデペンデントです。
− 日本と比較するとスクリーン数は多いですか。
クリステンさん:フランスの映画の状況は日本に比べると恵まれているといえます。日本では1億2000万ぐらいの人口に対し3000スクリーンぐらいですが、フランスは人口約6000万人に対して、約5500のスクリーンがあります。ですから映画を観る機会が多いのです。
− パリが中心でしょうか。
クリステンさん:確かにパリは映画の中心です。制作も集中しています。
− 映画の鑑賞料金は日本より安いですか?
クリステンさん:5、6年前に導入されて今は安定してきたカルト・イリミテ(無制限カード)という新システムがあります。それは定期券のようなカードで、ある系列の会社の映画なら、一月間は何回でもその系列会社の映画をみることができるというシステムです。これで映画館で映画を見るという行動が復興してきました。
このシステムによってミニシアターが消滅するという懸念から、当初はミニシアターが反対しましたが、最終的には提携することで今は制度が動いています。
− 国の補助があるのですが?
クリステンさん:フランスでは映画への援助制度があらゆるセクターに対して満遍なく行われています。例えばプロデューサーがシナリオをデベロップメントしている際に出るお金や、ユニフランスのような海外でのプロモーションに対するお金、興行への援助金などは元々あります。イリミテで映画館にお金が落ちなくなるのではといわれましたが、今のところこのシステムは安定的に動いています。
− 画期的な試みですね。
丹沢さん:私がパリに行ったとき、映画館で1つの映画に対してお金を払っていないという感覚が観客の方に根付いていていることを感じました。今までだったらエンドロールまで席について見ている人たちが、もう映画が終わった瞬間にぽんと出て行くことが気になりました。いつでも入れて何でも観られるので、いきあたりばったりで見ている人が多いように思いました。
− TV的になっている?
丹沢さん:そうかもしれませんね。
− パテ社などフランスの映画製作会社も映画へのデジタル技術導入に積極的ときいています。映画のデジタル技術についてうかがいたいのですが。
クリステンさん:フランスでも必然的にデジタルの作品は増えています。今年デジタル配信についてのプロ向けのセミナーも開催する予定です。日本の劇場のデジタル配信の状況をフランスの映画人も知りたがっています。
− 現在、フランスでデジタル配信の劇場はありますか?
クリステンさん:シネコンはすぐにデジタル配信に切り替わるといわれましたが、初めに投資する設備投資のお金の問題もあり、今のところデジタル配信はあまりおこなわれていません。パリで数件です。今年のフランス映画祭は全作品、35?oのフィルムです。
− 昨年、「ローマの休日」や007のデジタル・リマスター版が出て、大変画面がきれいでした。個人的にはフランソワ・トリュフォー監督作品のデジタル・リマスター版などで良い画面のものを是非出していただきたいと思っているのですが。
クリステンさん:私も、是非そう思います!でもデジタルリマスターの修復については、残念ながらユニフランスの直接的なミッションではないんですが、フランス映画に関して配給、プロダクションサイドがそれを臨んだ場合には、公開に際しては援助していきたいと思います。
実際に、「シェルブールの雨傘」や「ロシュフォールの恋人たち」のデジタルリマスター判での公開が2008年に予定されています。それを記念して今年はフランス映画祭で、ジャック・ドミ監督特集を企画しました。
− 最後に、お二人がこの仕事をされている経緯をうかがいたいのですが?
クリステンさん:映画が好きで絶対に映画のために、映画とともに映画のまわりにいながら仕事をしたくて映画界に入ってきました。大学ではストラスブールとリヨンで文学部のアートマネジメント映画部門を専門に勉強し、学校が終わった時に映画の仕事につくために映画界での仕事を探して、様々な方にお会いしていって、今にいたりました。
− 日本での仕事を特に選ばれたのですか?
クリステンさん:吉田貴重監督の映画や日本映画が好きで日本で暮らしてみたいと思いました。日本に来日したのは三年前です。
丹沢さん:私は小学校の頃から映画好きだったんですが、仕事にするつもりはなくてパリに留学したときは、パリ高等政治学院で政治を勉強しました。パリにいたときもずっと映画を見ていたのは変わらなくて、帰国してユニフランスで映画を政策と考える面から入って仕事をしています。
クリステンさん:今年のフランス映画祭では、日本の諏訪監督の作品も上映されます。個人的に大好きなので本当にうれしく思っています。プロデューサーはパリ在住の日本人の方です。
丹沢さん:諏訪監督の作品は、フランスでは演劇界の役者として有名な俳優たちが出演しています。細かい台詞の台本はなくて、役者とともに作品を作っていくという監督なので、役者が即興的に演技していて、とても繊細な映画です。カメラマンのキャロリーヌ・シャンピチエが諏訪監督の視点を理解し協力して作られました。
− フランスと日本との間で仕事をされていて大変なことはどんな点ですか?
丹沢さん:とにかく時差ですね。今、むこうが朝11時ぐらいで、そのころから向こうは仕事が始まるんです。アメリカもヨーロッパにあわせています。
クリステンさん:他にはやはり文化的な差異もありますね。
丹沢さん:フランスの仕事のやりかたはとてもトップダウン方式で、上で決めたことだから、もうやりなさいみたいになります。日本では事務方がいて、部長さんがいてという形で、上にあがってやっと上の方が見るということもあると思いますが、フランスでは、映画に限らず交渉の中ではどんな業界でもトップダウンが多いですね。
クリステンさん:映画祭の準備の中でもそういうことはよくあります。
− 最後に映画とはお二人にとってどんなものでしょうか?
クリステンさん:ずいぶん昔から映画の魅力に惹きつけられ、今もますます映画に惹かれていますが、映画とは、そうですね……世界のビジョンですね。
丹沢さん:仕事で映画に関わっていますが、家でDVDを観て週末に映画館に通っている自分に気がつきます。いろいろな国の監督たちのいろいろな視点の映画を観て、世界を知り日々発見がありますので、それを人生の糧に頑張っています。
2007年1月29日 東京市ヶ谷のユニフランス東京支局にて
(取材・文:山之内優子 写真:丸谷 肇)
この映画祭の主催元は、世界各国でのフランス映画プロモーションに関るフランス映画省直轄の機関「ユニフランス」だ。ユニフランス東京支局 所長のヴァレリ=アンヌ・クリステンさんと、同局のPRマネージャー・丹沢恭子さんにインタビューした。
- ユニフランスは、他のアジアの国で日本におけるフランス映画祭のような映画祭を企画しているのでしょうか?
クリステンさん:「はい」とも「いいえ」とも言えます。日本で開催している「フランス映画祭」は、ユニフランスが開催するアジアでのイベントとしては、アーティスト数、映画上映回数、日にちなど最大級のものです。
一方、日本以外のアジアでもフランス映画のイベントは多々行われています。そしてそれぞれの国にあった形での開催をしています。例えばシンガポール・インドネシア・タイでは、フランス大使館が映画祭を主催し、それに対してユニフランスは援助をします。また各国の既存の国際映画祭、例えば韓国の「プサンフェスティバル」では大きな規模でのフランス映画のイベント上映が開催され、ユニフランスは、やはり援助の形で参加しています。
− 映画界では現在、アメリカ映画が台頭しています、一方、様々な国で様々な映画が作られてもいます。今回の映画祭では、フランス映画のどのような部分をアピールしたいですか。
クリステンさん:フランス映画は年間200本ぐらい制作され、日本で公開されるのはそのうち約40〜50本ぐらいです。それらは配給側や劇場の意向から、同じ監督や同じ俳優、同じジャンルの映画が多くなるという傾向があります。
しかし実際のフランス映画界では、より新しい才能を持った監督や俳優、様々なジャンルの映画が生まれています。この映画祭を機会に、今のフランス映画の多様性を感じていただきたいと考えています。
丹沢さん:フランス映画というとイメージが固定されがちですが、今回の映画祭では、そんなフランス映画のイメージを破る新しい世代、新しいジャンルの監督たちの作品もぜひ見ていただきたいです。例えば、グラフィック・デザイナー出身のミシェル・ゴンドリは、CMビデオクリップ制作でも有名な監督で、USメジャーでは「エターナル・サンシャイン」を撮っています。クリスチャン・ヴォルクマン監督の「ルネサンス」は、全編モノクロのアニメで、パリの町をグラフィックな新しい感覚で描いています。
- 今までフランス映画祭は横浜のみなとみらいで開催されてきましたが、昨年度より会場が六本木やお台場などの都心になりました。
クリステンさん:新しい会場で、これまで以上の挑戦が必要という部分は確かにありますね。昨年からシネコンでの開催になりましたし、普段シネコンで映画を見ているような方に、フランス映画の新しい観客になっていただきたいです。
丹沢さん:これまで13年間横浜で開催してきたような、フランスのイメージを強く出したフランス映画祭のファンの方には、去年のシネコンでの上映は馴染まれなかった部分もあったかもしれません。シネコンでの上映の映画祭をみなさまに気にいっていただけるように、頑張っています。
− 上映作品の決定はどのようになさるのですか?
クリステンさん:ユニフランスは、フランス映画業界における映画輸出業者、プロデューサー、俳優や監督たちアーティストたちの協会などから組織されており、マーケット部、アーティスト部、役員会という3つの委員会から成り立っています。この委員会に上映作品案を提出し、その全ての承認を得て作品は決定されます。今回は、9月くらいから慎重に協議し、実際に決議がでたのが1月です。
− 上映作品は、最新作から選ぶのですか?
クリステンさん:映画祭開催年に日本で公開される予定の映画と、これから公開される可能性があるもので、映画祭の開催される年に発表された作品から選びます。上映に関しては、日本プレミアとなります。
− フランス映画祭の代表団としてフランスの映画界から俳優や監督が来日していますが、彼らはどのような役割を担っているでしょうか?
クリステンさん:フランス映画祭では当初より代表団が来日し、団長をフランス映画人が務めてきました。過去には例えば女優のエマニエル・ベアール、ジャンヌ・モロー、キャロル・ブーケ、イザベル・ユベールなどや、クロード・ルルーシュ監督などです。団長はフランス映画祭の期間、いわば大統領のように日本の観客の皆様にフランス映画のイメージを伝えるという仕事をします。
今年は、カトリーヌ・ドヌーブが団長として来日します。ドヌーブは、フランス映画界の女王とも言える人です。それに、今回のオープニング作品「輝ける女達」の主役を演じ、また今回の映画祭で特集するジャック・ドミ監督の永遠のミューズでもありますので、今回は、彼女しかいないということになりました。ドヌーブは10年ぶりの来日になります。
− ユニ・フランスの通常の業務や映画祭の準備のお仕事はどんなことですか?
丹沢さん:11月ぐらいから映画祭の準備をつめて行いますが、それ以外に、日本で年間40本から50本行われるフランス映画上映のサポートも行っています。
フランスは映画も文化として考えており、ユニフランスのこの事務所があるここ東京の日仏学院には映画館も併設しております。そこで試写を行ったり、来日する監督や俳優の記者会見を開いたりします。監督の来日サポートもユニフランスの補助金があり、渡航スケジュールも管理しております。配給会社との間にたってフォローしていきます。
− 年間でサポートするのは何人ぐらいですか?
丹沢さん::だいたい月に1〜2人です。フランス映画の日本公開時には現在はほとんど監督を招聘するようになりましたので、月に3人のときもあります。
− 昨年はフランス映画祭にあわせて約100名がフランスから来日したそうですが。
丹沢さん:その100名の中には、監督や俳優だけではなく、映画を売っているセールスエージェント側の人間も入ります。ユニフランスの目的は、新しいフランス映画の輸出振興ですので、映画祭の機会に映画販売のプロフェッショナルが来日します。今年はフランス側の映画セールス関係者約65人が来日します。
− その方たちは、日本ではどういう活動をするのですか?
丹沢さん:映画祭で映画を上映しているときに、その裏では映画祭のマーケットが開かれます。今回は会場近くのホテルの部屋を借りて、そこでそれぞれが、日本の配給会社、劇場関係者と商談します。去年はフランス側25社がマーケットに参加しました。このマーケットでの映画販売の促進がユニフランスの最も大きなミッションとなっています。
− 映画マーケットでは日本以外のアジアの国からの買い付けはありますか?
クリステンさん:これまで6月に映画祭を開いていたのですが、今回3月に開催することにした最も大きな理由として、アジアでの大変大きな映画祭、香港のフィルム・アートが3月に開催されることに合わせたことが挙げられます。東京国際映画祭やプサンなど、新興の映画マーケットが育っています。3月はフランスの映画ディーラーはフランス映画祭で日本に来て香港に渡っていく、というのがここ1、2年の新しい旅程になっています。
− 映画祭の期間は忙しいですね。
丹沢さん:その他に日本の映画人との交流パーティーや、映画不正コピー問題についてのセミナー、来日監督の学校での講演会などもあります。今回、映画監督や俳優約25人が来日しますが、その人たちは、舞台挨拶をする以外にも、マスコミのインタビューを受けるので、ほぼホテルに缶詰の状態になります。そのための広報事務局のスタッフが集まります。
− ホームシアターがフランスでも普及してきているそうですが、フランスでの映画館の映画公開はどうなっていますか?
クリステンさん:シネコンが多くなり、一般の劇場は少なくなってきているという状況はあります。
− パテ社やゴーモン社などの映画製作会社が経営する系列劇場が多いそうですが、独立した民間の映画館もありますか?
クリステンさん:制作会社が興行主になっているのは事実ですが、ミニシアターもあります。アール・エ・エッセ(芸術と実験)というのが日本のミニシアターですが、その3,4館がグループになって動いているという例が若干ですがあります。例えばユートピアというグループが南西部フランスにありますし、リヨンにもそういったグループがあります。パリでは、通常のパテ、ゴーモン、MKD、UJC以外の劇場に関しては、ほぼそれぞれの劇場がインデペンデントです。
− 日本と比較するとスクリーン数は多いですか。
クリステンさん:フランスの映画の状況は日本に比べると恵まれているといえます。日本では1億2000万ぐらいの人口に対し3000スクリーンぐらいですが、フランスは人口約6000万人に対して、約5500のスクリーンがあります。ですから映画を観る機会が多いのです。
− パリが中心でしょうか。
クリステンさん:確かにパリは映画の中心です。制作も集中しています。
− 映画の鑑賞料金は日本より安いですか?
クリステンさん:5、6年前に導入されて今は安定してきたカルト・イリミテ(無制限カード)という新システムがあります。それは定期券のようなカードで、ある系列の会社の映画なら、一月間は何回でもその系列会社の映画をみることができるというシステムです。これで映画館で映画を見るという行動が復興してきました。
このシステムによってミニシアターが消滅するという懸念から、当初はミニシアターが反対しましたが、最終的には提携することで今は制度が動いています。
− 国の補助があるのですが?
クリステンさん:フランスでは映画への援助制度があらゆるセクターに対して満遍なく行われています。例えばプロデューサーがシナリオをデベロップメントしている際に出るお金や、ユニフランスのような海外でのプロモーションに対するお金、興行への援助金などは元々あります。イリミテで映画館にお金が落ちなくなるのではといわれましたが、今のところこのシステムは安定的に動いています。
− 画期的な試みですね。
丹沢さん:私がパリに行ったとき、映画館で1つの映画に対してお金を払っていないという感覚が観客の方に根付いていていることを感じました。今までだったらエンドロールまで席について見ている人たちが、もう映画が終わった瞬間にぽんと出て行くことが気になりました。いつでも入れて何でも観られるので、いきあたりばったりで見ている人が多いように思いました。
− TV的になっている?
丹沢さん:そうかもしれませんね。
− パテ社などフランスの映画製作会社も映画へのデジタル技術導入に積極的ときいています。映画のデジタル技術についてうかがいたいのですが。
クリステンさん:フランスでも必然的にデジタルの作品は増えています。今年デジタル配信についてのプロ向けのセミナーも開催する予定です。日本の劇場のデジタル配信の状況をフランスの映画人も知りたがっています。
− 現在、フランスでデジタル配信の劇場はありますか?
クリステンさん:シネコンはすぐにデジタル配信に切り替わるといわれましたが、初めに投資する設備投資のお金の問題もあり、今のところデジタル配信はあまりおこなわれていません。パリで数件です。今年のフランス映画祭は全作品、35?oのフィルムです。
− 昨年、「ローマの休日」や007のデジタル・リマスター版が出て、大変画面がきれいでした。個人的にはフランソワ・トリュフォー監督作品のデジタル・リマスター版などで良い画面のものを是非出していただきたいと思っているのですが。
クリステンさん:私も、是非そう思います!でもデジタルリマスターの修復については、残念ながらユニフランスの直接的なミッションではないんですが、フランス映画に関して配給、プロダクションサイドがそれを臨んだ場合には、公開に際しては援助していきたいと思います。
実際に、「シェルブールの雨傘」や「ロシュフォールの恋人たち」のデジタルリマスター判での公開が2008年に予定されています。それを記念して今年はフランス映画祭で、ジャック・ドミ監督特集を企画しました。
− 最後に、お二人がこの仕事をされている経緯をうかがいたいのですが?
クリステンさん:映画が好きで絶対に映画のために、映画とともに映画のまわりにいながら仕事をしたくて映画界に入ってきました。大学ではストラスブールとリヨンで文学部のアートマネジメント映画部門を専門に勉強し、学校が終わった時に映画の仕事につくために映画界での仕事を探して、様々な方にお会いしていって、今にいたりました。
− 日本での仕事を特に選ばれたのですか?
クリステンさん:吉田貴重監督の映画や日本映画が好きで日本で暮らしてみたいと思いました。日本に来日したのは三年前です。
丹沢さん:私は小学校の頃から映画好きだったんですが、仕事にするつもりはなくてパリに留学したときは、パリ高等政治学院で政治を勉強しました。パリにいたときもずっと映画を見ていたのは変わらなくて、帰国してユニフランスで映画を政策と考える面から入って仕事をしています。
クリステンさん:今年のフランス映画祭では、日本の諏訪監督の作品も上映されます。個人的に大好きなので本当にうれしく思っています。プロデューサーはパリ在住の日本人の方です。
丹沢さん:諏訪監督の作品は、フランスでは演劇界の役者として有名な俳優たちが出演しています。細かい台詞の台本はなくて、役者とともに作品を作っていくという監督なので、役者が即興的に演技していて、とても繊細な映画です。カメラマンのキャロリーヌ・シャンピチエが諏訪監督の視点を理解し協力して作られました。
− フランスと日本との間で仕事をされていて大変なことはどんな点ですか?
丹沢さん:とにかく時差ですね。今、むこうが朝11時ぐらいで、そのころから向こうは仕事が始まるんです。アメリカもヨーロッパにあわせています。
クリステンさん:他にはやはり文化的な差異もありますね。
丹沢さん:フランスの仕事のやりかたはとてもトップダウン方式で、上で決めたことだから、もうやりなさいみたいになります。日本では事務方がいて、部長さんがいてという形で、上にあがってやっと上の方が見るということもあると思いますが、フランスでは、映画に限らず交渉の中ではどんな業界でもトップダウンが多いですね。
クリステンさん:映画祭の準備の中でもそういうことはよくあります。
− 最後に映画とはお二人にとってどんなものでしょうか?
クリステンさん:ずいぶん昔から映画の魅力に惹きつけられ、今もますます映画に惹かれていますが、映画とは、そうですね……世界のビジョンですね。
丹沢さん:仕事で映画に関わっていますが、家でDVDを観て週末に映画館に通っている自分に気がつきます。いろいろな国の監督たちのいろいろな視点の映画を観て、世界を知り日々発見がありますので、それを人生の糧に頑張っています。
2007年1月29日 東京市ヶ谷のユニフランス東京支局にて
(取材・文:山之内優子 写真:丸谷 肇)