KONAMI潜入取材!PS3ソフト「メタルギア」最新作の“次世代ゲームサウンド”に迫る
大人気の潜入アクションゲーム「メタルギア ソリッド」シリーズ。1998年にプレイステーションで発売されて以来、3Dポリゴンによって描かれるリアルな映像とサウンドによる世界観の描写、そして濃厚なストーリー展開が国内外で高く評価され、全世界で累計2,200万本もの売り上げを誇る大ヒットタイトルだ。
最新作の「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」(以下、MGS4)が、6月12日、PLAYSTATION3で発売される。PS3待望の超大作タイトルとして、国内のみならず世界中のユーザーからの熱い支持が予想される本作の発売を心待ちにしている人も多いだろう。
MGS4の発売を目前に、KONAMI社内のスタジオでMGS4のデモ映像を体感することができ、圧倒的な映像美と作り込まれたサウンドに圧倒された。大画面のスクリーンに映し出されたHDクオリティの映像はもちろん、セリフの音質、映画さながらの包囲感で迫る銃声、重量感たっぷりのサブウーファーの轟音はまさに圧巻の一言。デモプレイも行ったが、そこにまさにリアルな「空間」の存在を感じてしまったほどだ。
ゲームとしてはもちろん、映像、音声の面でもPS3の真価を発揮するMGS4。今回はサウンド制作現場に潜入取材した。
(取材・文 折原一也)
●映画と同じフォーリーのプロセスで収録したMGS4のリアルサウンド
MGS4のサウンドはどのように作られるのだろうか?「MGS4」サウンドディレクターの戸島壮太郎氏にお話を伺った。
MGS4の作中で登場する音の多くは、フォーリーと呼ばれるハリウッド映画ではメジャーな手法が用いられている。フォーリーは編集された映像にあわせて実際にスタジオでモノを使って効果音を作り、その音をマイクで収録するという音声収録方法だ。
「MGS4の音は、監督の小島と共に『ゲームならでは』のサウンドを目指していますが、制作行程においてはMGS1の頃からハリウッド音響と繋がりを持つなど、映画音響の優れた技法からも多くを学んできました。社内フォーリーについても前作で一部取り入れたのですが、効果が高い為、今回、遂に社内にフォーリー専用スタジオを作りました」(戸島氏、以下同)。
実際にMGS4のフォーリーのスタジオを見学したところハリウッドのサウンドスタジオを思わせるような設備が揃った収録環境、そしてゲーム内に登場する小道具が揃っている。
例えば足音一つ取っても、土の地面、砂利の音、雪の上を歩く音と、もちろん階段を上る音まで、すべて実物の録音にこだわった。キャラクターごとに足音を収録するためキャラクターひとりひとりの音を作るための靴が用意されている。そのほか社内スタジオには、銃器、水場と、次々と変わる戦場のリアリティを再現する小道具がズラリ。もちろん階段を上る、膝と手を付くというアクションはそのスピード感、緊張感を出すため、先にでき上がった映像を見ながら実際にアクションを行って収録するため、テイク数は莫大だ。
他にも例えば「鳥の羽ばたく音」「ムカデの這う音」「牛の鳴き声を出す“あるキャラクター”の声」などさえも、フォーリーによる様々な小道具の活用で生み出される。チームディレクターからのオファーにも迅速に対応し、スタジオでこういった音を作り出せる体制は、社内スタジオ制作ならではの強みと言えるだろう。
●ゲーム本編まで5.1chで収録し戦場の臨場感を再現
続いての行程はミキシングだ。フォーリーで収録した音のほかにも、シンセサイザー、効果音、コンポーザーによる音楽、声優によるセリフなど様々な音声がゲーム内では使われるが、そのバランスを取るのがミキシング作業だ。
MGS4では、ゲームシーンも含めて全編がドルビーデジタルにも対応した5.1chサラウンドで作られている。
「MGS3が完成した時、映画ファンにも満足してもらえたら・・・という思いがありましたが、今思えば5.1chドルビーデジタルにすら対応できていなかったわけです。前作で使用したドルビープロロジックIIは特に圧縮面で優れた技術ですが、定位表現の面ではやはりドルビーデジタルに分があります。真後ろに川や銃声を表現したりして、ユーザーを取り囲めるメリットは大きいですね。」
ピンと来ない人にスペック的な面から述べると、MGS4のサウンド出力は128chにものぼる。オンメモリから出力される、3D計算やフィルタ処理を施したサウンド群に加え、最大で38chにもなるマルチストリーミングサウンドがプレイヤーを取り囲むのだ。さらにその臨場感溢れるサウンドがプレイヤーの動きに応じてインタラクティブに変化してゆく。これほど緻密なサウンド表現は、PS3の高い処理能力があってこそ、そして膨大な作業を迅速に行えるMGS4の開発体制があってこそ可能になった。
もう一つ、MGS4が進化したのは、デモシーンとゲームの繋がりにあるという。
「これまで、ゲーム最中のデモを見ていて、『ボスが来るぞ、ボスが来るぞ』…というところで『Now Loading』になったりということがありましたよね。今回はそれがなく、ボスまで一つの流れでガン!と繋がる部分がいくつも用意されています。このデモとゲームのシームレスさは、今回の大きな仕掛けの一つです」。
このほか、360度、自由にカメラやサラウンド音響を回せるミッションブリーフィングデモ、ゲーム中に「iPod」で音楽を再生できるなど、「遊び」も数多く盛り込まれ、ゲームならではの、新しい音響へのチャレンジが行われている。
●AV機器と親和性の高いドルビーデジタルを採用
さて、MGS4の目指した“次世代ゲームサウンド”の実現には、AVファンお馴染みのドルビー社の技術があったことも注目したいポイントだ。
「MGS4で収録しているサウンドは膨大で、圧縮した状態でディスク全体の1/4もの容量を占めます。その莫大な音数を表現する上で、サラウンド環境は不可欠でした。中でも、ドルビーデジタルは、圧縮されたMGS4のサウンドを十分表現できる音質を備えており、またユーザーも多く再生環境も充実していることなどから現時点で一番ユーザーメリットに叶う方式だと考え、こちらの調整を最重視しました」。
AV機器と親和性の高いドルビーデジタルの採用は、我々AVファンにとってもゲームのサウンドをより身近なものにしてくれる。開発は当初から5.1chの環境を想定し、ステレオでは再現しきれないほどの音数が投入されている。「普段TVスピーカーでゲームをしている皆さんにも、MGS4はぜひとも5.1chスピーカーが揃った環境で楽しんで欲しい」というのがクリエイターからのメッセージだ。
ゲームが映画に匹敵する総合芸術と評価されるようになって久しい。その礎を築いた作品の一つに「メタルギア ソリッド」シリーズがある。MGS4のサウンドへのこだわりは、監督である小島秀夫氏の目指した「ユーザーの感情を揺さぶる表現」の一貫であり、サウンド部門にも膨大な指示があった上で完成したのだという。
サラウンドの世界は、なにも映画やテレビのみに留まるものではない。サラウンドの新たな枠組みとして誕生したMGS4のサウンドを、ゲームファンはもちろん、PS3を所有するAVファンも一度は体験してみるべきだ。
折原氏のMGS4潜入取材レポートは6月17日(火)発売の「AVレビュー 7月号」でもご覧いただけます!
※内容は本記事とは異なります
折原一也 プロフィール
埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。
最新作の「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」(以下、MGS4)が、6月12日、PLAYSTATION3で発売される。PS3待望の超大作タイトルとして、国内のみならず世界中のユーザーからの熱い支持が予想される本作の発売を心待ちにしている人も多いだろう。
MGS4の発売を目前に、KONAMI社内のスタジオでMGS4のデモ映像を体感することができ、圧倒的な映像美と作り込まれたサウンドに圧倒された。大画面のスクリーンに映し出されたHDクオリティの映像はもちろん、セリフの音質、映画さながらの包囲感で迫る銃声、重量感たっぷりのサブウーファーの轟音はまさに圧巻の一言。デモプレイも行ったが、そこにまさにリアルな「空間」の存在を感じてしまったほどだ。
ゲームとしてはもちろん、映像、音声の面でもPS3の真価を発揮するMGS4。今回はサウンド制作現場に潜入取材した。
(取材・文 折原一也)
●映画と同じフォーリーのプロセスで収録したMGS4のリアルサウンド
MGS4のサウンドはどのように作られるのだろうか?「MGS4」サウンドディレクターの戸島壮太郎氏にお話を伺った。
MGS4の作中で登場する音の多くは、フォーリーと呼ばれるハリウッド映画ではメジャーな手法が用いられている。フォーリーは編集された映像にあわせて実際にスタジオでモノを使って効果音を作り、その音をマイクで収録するという音声収録方法だ。
「MGS4の音は、監督の小島と共に『ゲームならでは』のサウンドを目指していますが、制作行程においてはMGS1の頃からハリウッド音響と繋がりを持つなど、映画音響の優れた技法からも多くを学んできました。社内フォーリーについても前作で一部取り入れたのですが、効果が高い為、今回、遂に社内にフォーリー専用スタジオを作りました」(戸島氏、以下同)。
実際にMGS4のフォーリーのスタジオを見学したところハリウッドのサウンドスタジオを思わせるような設備が揃った収録環境、そしてゲーム内に登場する小道具が揃っている。
例えば足音一つ取っても、土の地面、砂利の音、雪の上を歩く音と、もちろん階段を上る音まで、すべて実物の録音にこだわった。キャラクターごとに足音を収録するためキャラクターひとりひとりの音を作るための靴が用意されている。そのほか社内スタジオには、銃器、水場と、次々と変わる戦場のリアリティを再現する小道具がズラリ。もちろん階段を上る、膝と手を付くというアクションはそのスピード感、緊張感を出すため、先にでき上がった映像を見ながら実際にアクションを行って収録するため、テイク数は莫大だ。
他にも例えば「鳥の羽ばたく音」「ムカデの這う音」「牛の鳴き声を出す“あるキャラクター”の声」などさえも、フォーリーによる様々な小道具の活用で生み出される。チームディレクターからのオファーにも迅速に対応し、スタジオでこういった音を作り出せる体制は、社内スタジオ制作ならではの強みと言えるだろう。
●ゲーム本編まで5.1chで収録し戦場の臨場感を再現
MGS4では、ゲームシーンも含めて全編がドルビーデジタルにも対応した5.1chサラウンドで作られている。
「MGS3が完成した時、映画ファンにも満足してもらえたら・・・という思いがありましたが、今思えば5.1chドルビーデジタルにすら対応できていなかったわけです。前作で使用したドルビープロロジックIIは特に圧縮面で優れた技術ですが、定位表現の面ではやはりドルビーデジタルに分があります。真後ろに川や銃声を表現したりして、ユーザーを取り囲めるメリットは大きいですね。」
ピンと来ない人にスペック的な面から述べると、MGS4のサウンド出力は128chにものぼる。オンメモリから出力される、3D計算やフィルタ処理を施したサウンド群に加え、最大で38chにもなるマルチストリーミングサウンドがプレイヤーを取り囲むのだ。さらにその臨場感溢れるサウンドがプレイヤーの動きに応じてインタラクティブに変化してゆく。これほど緻密なサウンド表現は、PS3の高い処理能力があってこそ、そして膨大な作業を迅速に行えるMGS4の開発体制があってこそ可能になった。
もう一つ、MGS4が進化したのは、デモシーンとゲームの繋がりにあるという。
「これまで、ゲーム最中のデモを見ていて、『ボスが来るぞ、ボスが来るぞ』…というところで『Now Loading』になったりということがありましたよね。今回はそれがなく、ボスまで一つの流れでガン!と繋がる部分がいくつも用意されています。このデモとゲームのシームレスさは、今回の大きな仕掛けの一つです」。
このほか、360度、自由にカメラやサラウンド音響を回せるミッションブリーフィングデモ、ゲーム中に「iPod」で音楽を再生できるなど、「遊び」も数多く盛り込まれ、ゲームならではの、新しい音響へのチャレンジが行われている。
●AV機器と親和性の高いドルビーデジタルを採用
さて、MGS4の目指した“次世代ゲームサウンド”の実現には、AVファンお馴染みのドルビー社の技術があったことも注目したいポイントだ。
AV機器と親和性の高いドルビーデジタルの採用は、我々AVファンにとってもゲームのサウンドをより身近なものにしてくれる。開発は当初から5.1chの環境を想定し、ステレオでは再現しきれないほどの音数が投入されている。「普段TVスピーカーでゲームをしている皆さんにも、MGS4はぜひとも5.1chスピーカーが揃った環境で楽しんで欲しい」というのがクリエイターからのメッセージだ。
ゲームが映画に匹敵する総合芸術と評価されるようになって久しい。その礎を築いた作品の一つに「メタルギア ソリッド」シリーズがある。MGS4のサウンドへのこだわりは、監督である小島秀夫氏の目指した「ユーザーの感情を揺さぶる表現」の一貫であり、サウンド部門にも膨大な指示があった上で完成したのだという。
サラウンドの世界は、なにも映画やテレビのみに留まるものではない。サラウンドの新たな枠組みとして誕生したMGS4のサウンドを、ゲームファンはもちろん、PS3を所有するAVファンも一度は体験してみるべきだ。
折原氏のMGS4潜入取材レポートは6月17日(火)発売の「AVレビュー 7月号」でもご覧いただけます!
※内容は本記事とは異なります
折原一也 プロフィール