「羅生門」4Kデジタル修復に見る旧作映画リマスターのこれから
ブルーレイの普及が進んできた昨今。BDレコーダーやプレーヤーの価格も下がってきており、10万円を切る価格で手に入るものも表れた。BDソフトも各社から新作を中心に続々とリリースされている。こうした流れのなかで、今後旧作映画もブルーレイで発売される機会も増えていくだろう。いわゆる「不朽の名作」をBDで楽しみたい…と、発売を待ち望んでいる読者は多いのではないだろうか。
しかし、旧作映画は元となるフィルム自体が古く、汚れやキズなどに起因するノイズが多い。そこで必要になるのが「フィルムのデジタル修復」、そしてなにより、上映用フィルムやBD/DVDなどパッケージソフトのおおもとになる「フィルムの保存」だ。
このたび、角川文化振興財団がアメリカの映画芸術アカデミーと共同で行った、黒澤明監督「羅生門」の4Kデジタル復元プロジェクトについてのシンポジウムが開かれた。これはゲーム、アニメ、音楽、映画などのコンテンツ産業に関わる各種イベントが連携して開催される「JAPAN国際コンテンツフェスティバル(コ・フェスタ)」のオリジナルイベント「最新デジタル映像音響技術が開く新世界」内のひとつ。パネリストとして、本プロジェクトを統括したアカデミー・フィルム・アーカイブのディレクターであるマイケル・ポゴゼルスキー氏と、東京国立近代美術館フィルムセンター 主任研究員/映画室長の、とちぎあきら氏が登壇し、プロジェクトの内容や映画のデジタル復元の必要性について語った。
■困難を極めた「羅生門」復元プログラム
今回のプロジェクトの発端は、今年9月にアメリカで開催された黒澤監督没後10周年の回顧展。アカデミーが角川映画に本作の上映を打診したところ、フィルムが経年劣化などにより修復を必要としていることが判明した。「『羅生門』は映画史上重要な意味を持つ作品。ぜひ復元・保存しなければならないと考え、日米共同での事業がスタートしました」(ポゴゼルスキー氏)
復元作業は、オリジナルネガを4K解像度でスキャンしデータ化することから始まった。データはいったん2K解像度に変換され、デジタル復元ソフトでキズ消しなどの作業を施す。そして最後に4K解像度に戻し、新しいネガを作成する、という流れだ。
「羅生門」は可燃性のオリジナルネガが既に失われてしまっていたため、1962年につくられたプリント(上映用のポジフィルム)を元に作業が行われた。ただしこのプリントの状態もあまり良いものとは言えず、オリジナルネガ自体にあったキズやゆがみがそのまま反映されていた。そのうえ「羅生門」は雨や煙、木の葉など復元ソフトでの自動処理が難しいシーンが多いため、修復は困難を極めたという。「ソフトでは対応しきれない部分は全て手作業で行いました」(ポゴゼルスキー氏)。ピーク時には約40人ものアーティストによって作業が進められたのだという。
■「"映画の復元"とは、撮影当時の映像に戻し、監督の意図を再現すること」
さてそもそも、何をもって映画の「復元」と言うのだろうか?この問いにポゴゼルスキー氏は「オリジナルに戻すこと」だと語る。「ソフトが進化したおかげでさまざまな復元処理が可能になりましたが、いちばん大切なのは、"いかに撮影当時の映像に近づけるか"、そして"監督が表現したことをいかに忠実に再現するか"です」。
なるほど実際に蘇ったその映像を見てみると、多くの読者が「4K映像」と聞いた際思い描くであろう、クッキリハッキリした映像ではない。明らかに目に障るノイズは無いが、ところどころにノイズの残った部分や画面のブレなどが見られた。しかしそういった部分も「撮影を行った当時の技術を考慮し、完全に除去はしなかった」のだという。「1950年に撮影された映画らしさを失わないよう心がけた」というポゴゼルスキー氏の言葉どおり、そのフィルムは当時の映画が持つ空気感が再現されているように感じた。
とちぎ氏によれば、アメリカではデジタル復元を行う業者も多く、技術情報の交換も活発。プロジェクトを支援する財団や公的機関もあり、法的な制度も整っているという。「一方日本ではデジタル復元を取り巻く環境はまだまだ未成熟。日本は今後このような現状を改善していく必要がある」。
「時間」という試練に磨かれて残ってきた名作を、同じ「時間」がもたらす物理的劣化によって失ってしまうのは残念なことだ。素晴らしい映画を、映画館やホームシアターでいつまでも美しく楽しめるよう、映画フィルムデジタル復元の今後ますますの発展が期待される。なお角川映画は2004年から「原版保存プロジェクト」を立ち上げ、ネガの修復や複製フィルムの保存などを開始しているとのことだ。
『羅生門デジタル完全版』は、
10月25日(土)に渋谷のBunkamura オーチャードホールにてプレミア上映
11月29日(土)より角川シネマ新宿にてロードショー
が行われる。
詳しくはこちら
>>http://www.kadokawa-pictures.co.jp/official/rashomon/6464.shtml
ぜひ足を運んでみていただきたい。
また今回、ポゴゼルスキー氏に「羅生門」復元プロジェクトのより詳細なお話をうかがうことができた。こちらのインタビューは後日お届けする予定。どうぞお楽しみに!
(Phile-web編集部)
しかし、旧作映画は元となるフィルム自体が古く、汚れやキズなどに起因するノイズが多い。そこで必要になるのが「フィルムのデジタル修復」、そしてなにより、上映用フィルムやBD/DVDなどパッケージソフトのおおもとになる「フィルムの保存」だ。
このたび、角川文化振興財団がアメリカの映画芸術アカデミーと共同で行った、黒澤明監督「羅生門」の4Kデジタル復元プロジェクトについてのシンポジウムが開かれた。これはゲーム、アニメ、音楽、映画などのコンテンツ産業に関わる各種イベントが連携して開催される「JAPAN国際コンテンツフェスティバル(コ・フェスタ)」のオリジナルイベント「最新デジタル映像音響技術が開く新世界」内のひとつ。パネリストとして、本プロジェクトを統括したアカデミー・フィルム・アーカイブのディレクターであるマイケル・ポゴゼルスキー氏と、東京国立近代美術館フィルムセンター 主任研究員/映画室長の、とちぎあきら氏が登壇し、プロジェクトの内容や映画のデジタル復元の必要性について語った。
■困難を極めた「羅生門」復元プログラム
今回のプロジェクトの発端は、今年9月にアメリカで開催された黒澤監督没後10周年の回顧展。アカデミーが角川映画に本作の上映を打診したところ、フィルムが経年劣化などにより修復を必要としていることが判明した。「『羅生門』は映画史上重要な意味を持つ作品。ぜひ復元・保存しなければならないと考え、日米共同での事業がスタートしました」(ポゴゼルスキー氏)
復元作業は、オリジナルネガを4K解像度でスキャンしデータ化することから始まった。データはいったん2K解像度に変換され、デジタル復元ソフトでキズ消しなどの作業を施す。そして最後に4K解像度に戻し、新しいネガを作成する、という流れだ。
「羅生門」は可燃性のオリジナルネガが既に失われてしまっていたため、1962年につくられたプリント(上映用のポジフィルム)を元に作業が行われた。ただしこのプリントの状態もあまり良いものとは言えず、オリジナルネガ自体にあったキズやゆがみがそのまま反映されていた。そのうえ「羅生門」は雨や煙、木の葉など復元ソフトでの自動処理が難しいシーンが多いため、修復は困難を極めたという。「ソフトでは対応しきれない部分は全て手作業で行いました」(ポゴゼルスキー氏)。ピーク時には約40人ものアーティストによって作業が進められたのだという。
■「"映画の復元"とは、撮影当時の映像に戻し、監督の意図を再現すること」
さてそもそも、何をもって映画の「復元」と言うのだろうか?この問いにポゴゼルスキー氏は「オリジナルに戻すこと」だと語る。「ソフトが進化したおかげでさまざまな復元処理が可能になりましたが、いちばん大切なのは、"いかに撮影当時の映像に近づけるか"、そして"監督が表現したことをいかに忠実に再現するか"です」。
なるほど実際に蘇ったその映像を見てみると、多くの読者が「4K映像」と聞いた際思い描くであろう、クッキリハッキリした映像ではない。明らかに目に障るノイズは無いが、ところどころにノイズの残った部分や画面のブレなどが見られた。しかしそういった部分も「撮影を行った当時の技術を考慮し、完全に除去はしなかった」のだという。「1950年に撮影された映画らしさを失わないよう心がけた」というポゴゼルスキー氏の言葉どおり、そのフィルムは当時の映画が持つ空気感が再現されているように感じた。
とちぎ氏によれば、アメリカではデジタル復元を行う業者も多く、技術情報の交換も活発。プロジェクトを支援する財団や公的機関もあり、法的な制度も整っているという。「一方日本ではデジタル復元を取り巻く環境はまだまだ未成熟。日本は今後このような現状を改善していく必要がある」。
「時間」という試練に磨かれて残ってきた名作を、同じ「時間」がもたらす物理的劣化によって失ってしまうのは残念なことだ。素晴らしい映画を、映画館やホームシアターでいつまでも美しく楽しめるよう、映画フィルムデジタル復元の今後ますますの発展が期待される。なお角川映画は2004年から「原版保存プロジェクト」を立ち上げ、ネガの修復や複製フィルムの保存などを開始しているとのことだ。
『羅生門デジタル完全版』は、
10月25日(土)に渋谷のBunkamura オーチャードホールにてプレミア上映
11月29日(土)より角川シネマ新宿にてロードショー
が行われる。
詳しくはこちら
>>http://www.kadokawa-pictures.co.jp/official/rashomon/6464.shtml
ぜひ足を運んでみていただきたい。
また今回、ポゴゼルスキー氏に「羅生門」復元プロジェクトのより詳細なお話をうかがうことができた。こちらのインタビューは後日お届けする予定。どうぞお楽しみに!
(Phile-web編集部)