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Production I.G制作の傑作アニメ

【マスタリング現場潜入レポート】「BLOOD THE LAST VAMPIRE」がDTS-HD Master Audio 5.1chでついにBD化!

公開日 2009/04/07 15:06 Phile-web編集部
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2000年に劇場公開されたProduction I.G制作のアニメ作品「BLOOD THE LAST VAMPIRE(ブラッド・ザ・ラスト・ヴァンパイア)」が今年の5月27日、DTS-HD Master Audio 5.1ch音声仕様のBDで発売されることが決まった。5月29日に公開される香港・仏合作映画「ラスト・ブラッド」の原作であり、世界からも注目を受けた作品だ。


「BLOOD THE LAST VAMPIRE」はベトナム戦争中の日本、米空軍・横田基地を舞台に、主人公のセーラー服姿の少女が日本刀を武器に怪物に闘いを挑んでゆくアクション・モダンホラー。監督を北久保弘之氏、キャラクターデザインを寺田克也氏、脚本を神山健治氏、そして押井 守氏が企画協力で参加するなど実力派スタッフが集結、当時では珍しいフルデジタルで制作されたアニメーションで、映像、音響共にクオリティの高い作品として知られている。

今回編集部は幸運にも本BDのマスタリング現場を取材する機会に恵まれ、「BLOOD THE LAST VAMPIRE」で音響監督を務め、BD版のマスタリングを担当する百瀬慶一氏にお話を伺うことができた。


■マスタリング現場に潜入
スタジオで繰り広げられる「ストーリーを伝えるための音づくり」の挑戦


マスタリングは百瀬氏のミディアルタ富ヶ谷スタジオ Stage 1で行われる。作業が進行中のスタジオ内には、映画館と同じ配列で設置されたモニター用JBLスピーカーと、家庭での再生環境を想定した配列のオーディオスピーカーB&W「802D」が用意されている。劇場でも家庭でも意図する音が再生できるかどうかを厳しくチェックするのだ。またスタジオとしては国内最大規模の幅7m超のスクリーン、そしてフィルムプロジェクターと2KのDCI準拠デジタルシネマプロジェクターを装備し、映像の再生も正確に行える設備が整っている。



マスタリングは都内にあるミディアルタ 富ヶ谷スタジオで行われた。2Kプロジェクターで実際に映像を映しながら、B&W「802D」で構築する家庭の再生環境を想定したシステムと、JBLの「5672」などのシネマスピーカーで構築された映画館の再生環境を想定したシステムでモニタリングする

BD版「BLOOD THE LAST VAMPIRE」では、音声はDTS-HD Master Audio 5.1chとリニアPCMステレオを収録している。DVDでも発売されている本作だが、マスターには本編制作当時のオリジナルデータを使用し、大容量のBDというメディアに最も適した形で収録することで高画質、高音質化を図っている。

百瀬氏に話を伺っていると、“ストーリーを伝えるための音づくり”という一貫した姿勢が伝わってくる。実は取材中、それぞれ違う工程でマスタリングした2種類のマスター音源をエンコードしたものを聴き比べ、どちらを採用するかスタッフで議論が交わしている場面に出くわした。BD版は「テレシネ版」と「デジタル版」という2バージョンの本編映像を収録しており、両方の映像に合った満足のいく音声を選択するのが難しかったのだ。


左から(株)ミディアルタ エンタテイメントワークス 演出制作部 演出 高木真司氏、同 代表取締役 映像演出・音響監督 百瀬慶一氏、(株)アニプレックス 担当ディレクター 煖エ 優氏
どのようなジャッジが下されるのかドキドキしながら見守っていると、しばらく悩んでいた百瀬氏が『テレシネ版』『デジタル版』で違う音声を入れよう」と提案。「BLOOD THE LAST VAMPIRE」で演出を担当していた高木真司氏をはじめとするスタッフも、百瀬氏の隣で作業に立ち会っていたBD版の製作を担当する(株)アニプレックス 煖エ 優氏も賛成し、満場一致でその案は採用されることになった。百瀬氏の妥協を一切許さない音へのこだわりを垣間見た一幕だった。

その真意を百瀬氏に問うと「この作品は劇場公開時に映画館で観た時の世界観をいかに損なわずにBDのパッケージに収めるかということを考えてマスタリングしています。音声は1つ1つの音質というより、作品のストーリーを伝えるため映像とのマッチングが重要なんです。だから今回は映像のバージョンによって音を変えることにしました。『デジタル版』は『テレシネ版』よりも明るい映像なので、明るい画にフィットするような音を選んでいます」と説明してくれた。

スペックを追求するのではなく、いかにその作品にふさわしい音作りをするかが大事だと強調する百瀬氏。音声フォーマットとしてDTS-HD Master Audioを選んだのにも理由があったそうだ。

「煖エさんから、BD版の制作にあたり、最も適切な音声フォーマットは何が良いか、という相談がありました。それでいろんな音声を聴き比べてみたのですが、その中でDTS-HD Master Audioはよりマスターに近い音の再現に優れていると感じました。具体的には、全体域の変化も少なく、ナチュラル。低音域は多少強調されますが、ロスレスオーディオとしては、作品としての最原音の意図に最も忠実な再現性でした。特に人間の声の再現は、他のフォーマットに比べ“音としての台詞”ではなく“台詞を感じさせる為の響き”が残っているのが優秀です」(百瀬氏)。

これらの利点から“劇場上映時の音を再現する”という本作のミッションに相応しいと判断し、DTS-HD Master Audioを採用することにしたという。



「BLOOD THE LAST VAMPIRE」のマスタリングの様子
■スピーカーのセッティングに神経質にならず
もっと気軽にサラウンドを楽しんで欲しい


百瀬氏はスピーカーの配置にこだわりがちなオーディオ業界の風習が、一般ユーザーをサラウンド体験から遠ざける一因となるのではないかと指摘する。「今回はオーディオ関係者が推奨しているという理由で802DはITU-R設置にしましたが、スタジオのモニタリングで家庭空間でも劇場空間でもきちんとした音が再生されることを確認しています。ですのでスピーカーのセッティングなどに神経質にならず、もっと気軽にこのソフトを家庭で楽しんでほしいです」とアドバイスする。

また今回の作品では、2ch音声に関しても家庭で最適な再生ができるように5.1chの音声からバランスを再度取り直してダウンミックスしているそうで、サラウンドの再生環境がないというお宅でも、制作者の意図した音声で作品を楽しむことができる。


■10年前に日本のアニメはここまで達していた!
今なお色褪せることのないクオリティに注目


さて「BLOOD THE LAST VAMPIRE」の作品のクオリティに関しては両氏とも揺るぎのない自信をみせる。百瀬氏は「それまで考えた事もなかった職業、音響監督としてのデビュー作なので、今観ると沢山直したいところもありますが、映像的には現在の日本の最先端のアニメーション技術の礎を築いた作品、音響的には日本映画のクオリティを考えるきっかけになった作品と未だに評価を頂いています。今でもこのクオリティを越えるような作品にはなかなか出会えないかもしれません」と述べる。

煖エ氏も「10年前の作品になりますが、映像面ではフルデジタルアニメーションの先駆けとなる作品であり、光と影の表現の追求など技術的なチャレンジもたくさん行っています。音に関しても日本映画でここまで作り込んでいる作品はなかなかありません。全く古さを感じさせない仕上がりになっているので、観たことのない方にも観て欲しいし、観たことのある方にもBDで蘇った作品を改めて観てもらいたいです」と思いを語ってくれた。

実写映画「ラスト・ブラッド」の公開を控え、まさに今ホットな作品である「BLOOD THE LAST VAMPIRE」。本記事からも制作者サイドが自分たちが10年前に作り上げた作品を何よりも大切にしていて、BD化にあたってもそのクオリティを保つためのこだわりの姿勢がおわかりいただけたかと思う。匠の技が凝縮されたBD版「BLOOD THE LAST VAMPIRE」、要チェックである。

【作品情報】
「BLOOD THE LAST VAMPIRE」
発売日:2009年5月27日
・品番:ANSX-5025 ・価格:¥5,040(税込)
・本編:ニューテレシネHDマスター、デジタルデータマスターの2バージョンを収録
・字幕:日本語、英語 ・音声:DTS-HD Master Audio 5.1ch、リニアPCM 2ch
・特典:「Making of BLOOD THE LAST VAMPIRE」
「北久保弘之(監督)、押井守(企画協力)インタビュー」
パイロット映像/劇場予告編  初回封入特典:劇場パンフレット(縮刷版)

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