11月16日から全国7劇場で公開
ドルビーアトモスで聴くカラヤンは、こんなにも熱い。映画館での“生きているクラシック”を先行体験レポート
最近は、映画館でのライブエンターテインメントの上映が目立ってきました。内容は「ポップス」「ロック」はもちろんのこと、「オペラ」「歌舞伎」「バレエ」など多岐に渡っています。
そんな中、Dolby Atmos(ドルビーアトモス)でクラシックコンサート、それも30年以上前のコンサートにターゲットを絞った企画が出てきました。8Kの放送が行われようという時代に、ソニーのパスポートサイズの8mmビデオすらない時代のコンサートを復活上映させようというのです。
指揮者は、かのクラシックの帝王、ヘルベルト・フォン・カラヤン。楽団は手兵、ベルリンフィルハーモニー管絃楽団。曲はベートーヴェンの交響曲第5番ハ短調。この恥ずかしくなるほど “どメジャー” な組み合わせのコンサートを一足早く聴いてきました。
■帝王は録音技術が大好き
帝王と称されたヘルベルト・フォン・カラヤン。1908年から1989年まで生きたオーストリア人です。職業は指揮者。それも超ド級。世界最高と言われる今のベルリンフィルハーモニー管弦楽団を、そこに引き上げた人であり、団員の信頼も厚く、終身首席指揮者兼芸術総監督でもありました。
それと並行して、ウィーンフィル他、メジャーなオーケストラの指揮も行っています。また、夏の名物になっているザルツブルグ復活祭音楽祭を仕掛けるなど、仕事の質、量ともにトップ・オブ・ザ・トップ。だいたい当時のクラシックファンも、カラヤン派とアンチ・カラヤン派に分かれていました。「アンチ」派が成立しているのは、多分この人くらいでしょう(普通は無視して終わります)。
なぜこうなかったかというと、「クラシック」というある種とっつきにくい音楽を、分かりやすく演奏したからです。実際、「美しく」「強弱のはっきり」した、やや「テンポの速い演奏」は、映画『スター・ウォーズ』並に分かりやすく、高揚感をもたらします。こうするために、手兵ベルリンフィルの技術を徹底的に磨き上げた結果、金管がフォルテシモで咆哮してなお美しい音、輝くような音をモノにします。
同世代の音楽家には「ビートルズ」がいますが、ビートルズは若者に、カラヤンはそれ以上に広範囲に、高い人気があった音楽家と言えるのではないでしょうか。
そして、カラヤンを語る上で忘れられないのは、スピード狂で、録音狂であること。彼は録音では新しい技術を次々導入します。世界初のステレオ、スタジオ録音も確かカラヤンだったと思います。
いろいろな逸話の中には、CDの演奏録音時間を決める時、ソニーの大賀典雄氏にどの位が必要かと問われ、「ベートーヴェンの交響曲第9番が1枚に収まるように」と答えたことからCDの録音時間が74分になったという都市伝説があるほどです。
またカラヤンは大賀氏に見取られながら急逝したのですが、その直前まで最新の録音技術に関して熱心に語り合っていたそうです。
本当にソニーとカラヤンは蜜月の関係で、サーキットが「走る実験場」(ホンダの創始者 本田宗一郎の言葉)なら、ベルリンフィルハーモニーは「録音実験室」と言ってもいい状況だったそうです。
生涯で500枚以上のレコード録音を残すことになるカラヤンですが、映像にもスゴく熱心で、自らも1982年にテレモンディアル社を設立。自分の指揮をしたコンサートの収録、制作を行います。映像を撮り始めた時期が遅かったため、レコードのタイトル数ほどは残せていませんが、それでもかなりの映像がアーカイブされています。
■ドルビーアトモスによる再生
マニアならお馴染みのドルビーアトモスは、3次元空間の独立した動きのあるサウンドを、劇場のどの位置からも楽しめる様に作られた技術です。別の言い方をするなら音響再現性に優れた技術であり、クラシックを分かりやすくするために「音響」を重視したカラヤンの演奏と相性はよさそうです。
しかし、どんな音になるのでしょうか? ステレオ再生は、自分が観客席にいるように感じさせる技術です。一方、ドルーアトモスは “自分が主人公になるため” の再生技術です。ニュアンスは異なるのでしょうか?
世界で最もレコード数が多いのが、ベートーヴェンの交響曲第5番だそうです。日本では「運命」と名付けられているこの曲は、全体を聴いたことがない人でも、冒頭の「ジャジャジャジャーン!」は知っているはずです。
なお、この「運命」というタイトルは、ベートーヴェンの弟子アントン・シントラーの「冒頭の4つの音は何を示すのか」という質問に対し「運命はかく扉をたたく」とベートーヴェンが答えたという逸話から来ていますが、これも都市伝説。「運命」との呼称は、海外では使われません。
しかし名曲であることに間違いはなく、ベートーヴェンの交響曲の中でも凝縮したエネルギーを持つ名作で、聴く方にも集中力を求められます。私の席は前寄りですが、かなり右手のF-23。はたして、どんな風に聴こえるのか。
目を閉じたカラヤンが、両手を振り始めます。
「ジャジャジャジャーン!」
私は、非常に鮮明な音に包まれました。ステレオの様に、音の分離がどうこうではなく、音をぶつけられているよう感じです。客席ではなく、まさにステージにいるようです。
全楽器が狂ったように、しかし一糸乱れず音楽を奏でます。世界最高の音楽職人の集団、ベルリンフィルのスゴさ。劇場(TOHOシネマズ日本橋 8ホール)もよく、嬉しい鳴りっぷりです。
それに対し、映像は少しプアです。元々クラシックは、燕尾服ですから色は少ない。しかも、カラヤンの動きを捉えるため、これでもかというほど彼のアップが多い。団員映像もカラヤン目線なのか、近視眼的です。第四楽章までくると鼻につく部分もあります。ですがその分、やはりステージにいるような、熱さも感じられます。
音に、画に、カラヤン節が炸裂しまくりです。
カラヤンを「クール」「冷たい」「完全主義」などと言う人もいますが、もともとオペラハウスから叩き上げた指揮者ですからね。オペラは観客が乗らないと盛り上がりません。演奏もだんだんシラケてしまいます。カラヤンの演奏スタイル、観客に分かりやすくというのは、ある意味、熱い体験を一緒にするために、身についたスタイルなのかもしれません。
「カラヤンを体験した」。これが私の印象です。実際、演奏が終わっても、高揚感が収まりません。
クラシックは、「教養」。確かにそんな一面もあります。しかし、音楽の世界遺産とも言うべきクラシックは、そんな範疇に収めるべきものではないと思います。「茶の本」で有名な岡倉天心は、渡欧した時に交響曲第5番を聴き、「これが西洋が東洋に勝る唯一の芸術かも知れない」と思ったそうです。
そのような熱さが、伝わって来ます。生きているクラシック。この秋冬オススメの体験です。
こんな体験を約束してくれる『カラヤン・シネマ・クラシックス シーズン2018-2019』は、11月16日を皮切りに全国7劇場で上演されます。いずれもカラヤン十八番であり、私が聴いたベートーヴェン以上の体験も期待できます。
私は、カラヤン世代の人もそうですが、『のだめカンタービレ』などで興味を持っている人にオススメしたい。千秋が目指した世界は、こんなにも熱いのです。
【カラヤン・シネマ・クラシックス シーズン2018-2019】
■上映日時、演奏曲目
●『伝説』(11月16日-18日)
R.シュトラウス「アルプス交響曲」、ベートーヴェン「交響曲第5番『運命』」
●『新年』(2019年1月4日-6日)
ジルベスター・コンサート1983年、ムソルグスキー(ラベル編曲)「展覧会の絵」
●『荘厳なミサ』(2019年1月25日-27日)
ベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」
●『感情の波』(2月22日-24日)
ブルックナー「交響曲第9番」、ドビュッシー「交響詩『海』」「牧神の午後への前奏曲」
ラベル「『ダフニスとクロエ』第二組曲」
●『人生の旋律』(2019年4月5日-7日)
ブラームス「交響曲第2番」、チャイコフスキー「交響曲第6番『悲愴』」
■公開劇場:
・東京)TOHO シネマズ 日比谷、TOHO シネマズ 日本橋
・千葉)TOHO シネマズ ららぽーと船橋
・愛知)ミッドランドスクエアシネマ、TOHO シネマズ 赤池
・大阪)TOHO シネマズ 梅田、TOHO シネマズ くずはモール
■料金:一般 3,600円、学生 3,300円
*各上映日の2日前より劇場オンラインと劇場窓口(劇場オープン時より)にて販売
そんな中、Dolby Atmos(ドルビーアトモス)でクラシックコンサート、それも30年以上前のコンサートにターゲットを絞った企画が出てきました。8Kの放送が行われようという時代に、ソニーのパスポートサイズの8mmビデオすらない時代のコンサートを復活上映させようというのです。
指揮者は、かのクラシックの帝王、ヘルベルト・フォン・カラヤン。楽団は手兵、ベルリンフィルハーモニー管絃楽団。曲はベートーヴェンの交響曲第5番ハ短調。この恥ずかしくなるほど “どメジャー” な組み合わせのコンサートを一足早く聴いてきました。
■帝王は録音技術が大好き
帝王と称されたヘルベルト・フォン・カラヤン。1908年から1989年まで生きたオーストリア人です。職業は指揮者。それも超ド級。世界最高と言われる今のベルリンフィルハーモニー管弦楽団を、そこに引き上げた人であり、団員の信頼も厚く、終身首席指揮者兼芸術総監督でもありました。
それと並行して、ウィーンフィル他、メジャーなオーケストラの指揮も行っています。また、夏の名物になっているザルツブルグ復活祭音楽祭を仕掛けるなど、仕事の質、量ともにトップ・オブ・ザ・トップ。だいたい当時のクラシックファンも、カラヤン派とアンチ・カラヤン派に分かれていました。「アンチ」派が成立しているのは、多分この人くらいでしょう(普通は無視して終わります)。
なぜこうなかったかというと、「クラシック」というある種とっつきにくい音楽を、分かりやすく演奏したからです。実際、「美しく」「強弱のはっきり」した、やや「テンポの速い演奏」は、映画『スター・ウォーズ』並に分かりやすく、高揚感をもたらします。こうするために、手兵ベルリンフィルの技術を徹底的に磨き上げた結果、金管がフォルテシモで咆哮してなお美しい音、輝くような音をモノにします。
同世代の音楽家には「ビートルズ」がいますが、ビートルズは若者に、カラヤンはそれ以上に広範囲に、高い人気があった音楽家と言えるのではないでしょうか。
そして、カラヤンを語る上で忘れられないのは、スピード狂で、録音狂であること。彼は録音では新しい技術を次々導入します。世界初のステレオ、スタジオ録音も確かカラヤンだったと思います。
いろいろな逸話の中には、CDの演奏録音時間を決める時、ソニーの大賀典雄氏にどの位が必要かと問われ、「ベートーヴェンの交響曲第9番が1枚に収まるように」と答えたことからCDの録音時間が74分になったという都市伝説があるほどです。
またカラヤンは大賀氏に見取られながら急逝したのですが、その直前まで最新の録音技術に関して熱心に語り合っていたそうです。
本当にソニーとカラヤンは蜜月の関係で、サーキットが「走る実験場」(ホンダの創始者 本田宗一郎の言葉)なら、ベルリンフィルハーモニーは「録音実験室」と言ってもいい状況だったそうです。
生涯で500枚以上のレコード録音を残すことになるカラヤンですが、映像にもスゴく熱心で、自らも1982年にテレモンディアル社を設立。自分の指揮をしたコンサートの収録、制作を行います。映像を撮り始めた時期が遅かったため、レコードのタイトル数ほどは残せていませんが、それでもかなりの映像がアーカイブされています。
■ドルビーアトモスによる再生
マニアならお馴染みのドルビーアトモスは、3次元空間の独立した動きのあるサウンドを、劇場のどの位置からも楽しめる様に作られた技術です。別の言い方をするなら音響再現性に優れた技術であり、クラシックを分かりやすくするために「音響」を重視したカラヤンの演奏と相性はよさそうです。
しかし、どんな音になるのでしょうか? ステレオ再生は、自分が観客席にいるように感じさせる技術です。一方、ドルーアトモスは “自分が主人公になるため” の再生技術です。ニュアンスは異なるのでしょうか?
世界で最もレコード数が多いのが、ベートーヴェンの交響曲第5番だそうです。日本では「運命」と名付けられているこの曲は、全体を聴いたことがない人でも、冒頭の「ジャジャジャジャーン!」は知っているはずです。
なお、この「運命」というタイトルは、ベートーヴェンの弟子アントン・シントラーの「冒頭の4つの音は何を示すのか」という質問に対し「運命はかく扉をたたく」とベートーヴェンが答えたという逸話から来ていますが、これも都市伝説。「運命」との呼称は、海外では使われません。
しかし名曲であることに間違いはなく、ベートーヴェンの交響曲の中でも凝縮したエネルギーを持つ名作で、聴く方にも集中力を求められます。私の席は前寄りですが、かなり右手のF-23。はたして、どんな風に聴こえるのか。
目を閉じたカラヤンが、両手を振り始めます。
「ジャジャジャジャーン!」
私は、非常に鮮明な音に包まれました。ステレオの様に、音の分離がどうこうではなく、音をぶつけられているよう感じです。客席ではなく、まさにステージにいるようです。
全楽器が狂ったように、しかし一糸乱れず音楽を奏でます。世界最高の音楽職人の集団、ベルリンフィルのスゴさ。劇場(TOHOシネマズ日本橋 8ホール)もよく、嬉しい鳴りっぷりです。
それに対し、映像は少しプアです。元々クラシックは、燕尾服ですから色は少ない。しかも、カラヤンの動きを捉えるため、これでもかというほど彼のアップが多い。団員映像もカラヤン目線なのか、近視眼的です。第四楽章までくると鼻につく部分もあります。ですがその分、やはりステージにいるような、熱さも感じられます。
音に、画に、カラヤン節が炸裂しまくりです。
カラヤンを「クール」「冷たい」「完全主義」などと言う人もいますが、もともとオペラハウスから叩き上げた指揮者ですからね。オペラは観客が乗らないと盛り上がりません。演奏もだんだんシラケてしまいます。カラヤンの演奏スタイル、観客に分かりやすくというのは、ある意味、熱い体験を一緒にするために、身についたスタイルなのかもしれません。
「カラヤンを体験した」。これが私の印象です。実際、演奏が終わっても、高揚感が収まりません。
クラシックは、「教養」。確かにそんな一面もあります。しかし、音楽の世界遺産とも言うべきクラシックは、そんな範疇に収めるべきものではないと思います。「茶の本」で有名な岡倉天心は、渡欧した時に交響曲第5番を聴き、「これが西洋が東洋に勝る唯一の芸術かも知れない」と思ったそうです。
そのような熱さが、伝わって来ます。生きているクラシック。この秋冬オススメの体験です。
こんな体験を約束してくれる『カラヤン・シネマ・クラシックス シーズン2018-2019』は、11月16日を皮切りに全国7劇場で上演されます。いずれもカラヤン十八番であり、私が聴いたベートーヴェン以上の体験も期待できます。
私は、カラヤン世代の人もそうですが、『のだめカンタービレ』などで興味を持っている人にオススメしたい。千秋が目指した世界は、こんなにも熱いのです。
【カラヤン・シネマ・クラシックス シーズン2018-2019】
■上映日時、演奏曲目
●『伝説』(11月16日-18日)
R.シュトラウス「アルプス交響曲」、ベートーヴェン「交響曲第5番『運命』」
●『新年』(2019年1月4日-6日)
ジルベスター・コンサート1983年、ムソルグスキー(ラベル編曲)「展覧会の絵」
●『荘厳なミサ』(2019年1月25日-27日)
ベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」
●『感情の波』(2月22日-24日)
ブルックナー「交響曲第9番」、ドビュッシー「交響詩『海』」「牧神の午後への前奏曲」
ラベル「『ダフニスとクロエ』第二組曲」
●『人生の旋律』(2019年4月5日-7日)
ブラームス「交響曲第2番」、チャイコフスキー「交響曲第6番『悲愴』」
■公開劇場:
・東京)TOHO シネマズ 日比谷、TOHO シネマズ 日本橋
・千葉)TOHO シネマズ ららぽーと船橋
・愛知)ミッドランドスクエアシネマ、TOHO シネマズ 赤池
・大阪)TOHO シネマズ 梅田、TOHO シネマズ くずはモール
■料金:一般 3,600円、学生 3,300円
*各上映日の2日前より劇場オンラインと劇場窓口(劇場オープン時より)にて販売