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「猿」と「HAL」の違い

話題のソフトを“Wooo"で観る − 第19回『猿の惑星』(BD-BOX)

公開日 2009/03/13 19:50 大橋伸太郎
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■第1作を中心に全5作をWoooで視聴する

『猿の惑星』シリーズ全5作がブルーレイディスクになり、20世紀FOXからBOXセットで発売された。公開当時のポスターをパッケージに使ってくれたらよかったのに…とか、初見の世代がいるはずなのに、結末までパッケージに書いてしまって…、などという不満もないではないが(DVDは自由の女神のシーンまで掲載していたからもっと酷かったが)、手にした瞬間、小学生の私が本屋の店先(当時の本屋はみな小さく、大型書店なんて紀伊国屋書店と丸善、有隣堂位しかなかった)で震えて立ち尽くしたあの日、友達と胸をときめかせて藤沢の映画館に出かけた日の思い出が昨日の出来事のように甦った。今の自分は当時の父よりずっと年を取ってしまっているのに。

『猿の惑星 ブルーレイ・コンプリートBOX』FXXA-40372

第一作の『猿の惑星』FXXA-25841 ¥4,935

今回の「Woooで見る最新ソフト」では、待望のブルーレイディスク化を果たしたオリジナル版『猿の惑星』に再会してみた。それを実現してくれたのが、私の仕事場のメインディスプレイ、日立のプラズマテレビP50-XR02である。

1967年のシリーズ第一作『猿の惑星』(“Planet of The Apes“)のあまりにも有名なストーリーについてはあらためて紹介するまでもないだろう。

人類初の恒星間飛行「リバティ計画」で別の太陽系の地球にそっくりな惑星にやってきたアメリカの宇宙飛行士が見たものは、進化した猿が退行した人間を支配する世界だった。『戦場にかける橋』のフランス人作家、ピエール・ブールの原作では、新婚旅行で宇宙飛行中の猿のカップルが漂流物を発見すると、その中には人間のしたためた風変わりな手記があり、そこから物語が始まる。手記の作者が体験した猿の社会は20世紀の地球と同程度に発展していて、別に人間が狩りの対象になってはいない。ただ、人間と猿の関係が逆転しているのである。結末はそれなりに衝撃的である。ちなみに、ティム・バートンによる再映画化版の結末は原作に近い。

1968年版の脚本家の一人、『トワイライトゾーン』で有名なロッド・サーリングは世界的にベストセラーになった小説の映画化にあたり、大胆な脚色を施し設定をまるっきり変えてしまった。それが見事に的中して映画は大成功を収める。ブルーレイ版『猿の惑星』の特典映像のメイキングによると、セットの製作費を抑えるために、猿たちが支配する社会を近代社会でなく中世程度の文明(銃もカメラもあるのだが)に変更したと説明されている。

同年、20世紀FOXは、巨額の費用を投入して完成したミュージカル映画、『スター!』(ジュリー・アンドリュース主演)が興行的に振るわず、『猿の惑星』の大ヒットにかかわらず経営的な苦境に陥ってしまう。翌々年の『続 猿の惑星』以降、続々とシリーズが作られるのはそのためである。「困った時の猿頼み」というわけである。それまで、007シリーズのように原作小説を次々に映画化してシリーズになった例はあっても、オリジナル脚本でのシリーズ化はなかった。その意味でも『猿の惑星』はパイオニア的存在なのである。

例え娯楽作品であっても、シリーズ化していった映画はいきおい社会と時代の鏡になる。『ダーティ・ハリー』がよい例だが、『猿の惑星』の最初の2本は米ソ冷戦時代、世界に圧し掛かっていた核の重苦しい脅威を映し出している。ちなみに日本ではこの時期、大江健三郎が核ノイローゼの男の日常を描いた小説『空の怪物アグイー』や『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』を発表している。第3作目以降は、アメリカ社会の内側に次第に目が向かっていく。

今回ブルーレイ版BOXセットで収穫だったのは、特典映像の中に雌チンパンジーのジーラ博士を演じたキム・ハンターが、ハリウッドを襲ったマッカーシーの赤狩りの犠牲者で1950年代に女優として活動が出来なかったことを知ったことであった。第三作『新 猿の惑星』は20世紀のアメリカにやって来た猿のカップルが主人公だが、猿の特殊メイクアップ越しの悲しみの演技には、異物を排除する社会への怒りが込められていたのである。

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