「猿」と「HAL」の違い
話題のソフトを“Wooo"で観る − 第19回『猿の惑星』(BD-BOX)
■いまでも第一線にある“Wooo”P50-XR02
さて、これで準備は整った。日立のフルハイビジョンプラズマテレビP50-XR02は、輸入盤を含めて月間30本、年間400本近いブルーレイディスクを見る私のメインディスプレイで、発売は昨年の初夏だが、現在も第一線の優れたプラズマテレビである。
その特徴は第1に、発光のリセットを改良し黒浮きを大幅に改善した新パネル(1080フルHD ブラックパネル)のくっきりと深いコントラストにある。第2に、日立のプラズマらしいきめ細かな映像描写力と情報量の豊かさである。
今回の『猿の惑星』40周年記念のデジタルアーカイブは期待に違わぬ見事な出来栄えで、DVD版に比べて映像のコントラストが格段に力強く深くなっている。次に解像感が格段に向上、フィルムの地肌のノイズまで余さずさらけ出す鮮明さである。P50-XR02はその点、復活なった『猿の惑星』を見る上で、これ以上は望めないディスプレイである。アクション映画、SFであるので色彩設計、撮影にややあざとさを感じさせるシーンもある。これが液晶方式だと、作為を強調する方向へ行ってしまい戯画的でチープになりやすい。プラズマ方式として練り上げられてきたP50-XR02の場合、1960年代らしいオーソドックスなフィルムトーンの範囲から逸脱せず本作の映画本来のフィールと作り手のこだわりを伝えてくれるので、心行くまで本来の映像を楽しむことが出来るのだ。
■『猿の惑星』のギラギラした映像再現となめらかな階調を両立
実際にP50-XR02で見る『猿の惑星』について特定のシーンを挙げて例証してみよう。この映画を通じての一貫した映像の特徴は、猿が人間を追いかけまわすギラギラした白昼の悪夢にある。明暗を逆転させて自分の土俵のダークファンタジーとしたのがティム・バートンのリメイク版である。もちろん、CGもVSXもなかった時代である。史劇スターのチャールトン・ヘストンが主演するアクションエンターテインメントとしての観点からも、こうした映像の特徴をパワフルに表現できることが試金石になる。
日立のプラズマテレビは、ALIS方式を採用していた時代から、映像の明るさとパワーは他の製品を寄せ付けなかった。P50-XR02は、薄膜電極を採用することで実現した高輝度と、先に紹介したボックスリブパネルの採用と発光画素と発光回数の巧みなコントロールで30,000対1という傑出したダイナミックコントラストを実現した。最近、百万対一なんていう数字がテレビのカタログに躍っているが、これは全白と全黒を別々に表示した際の明るさの比であり、同一画面内の明るい部分と暗い部分の比でなければ、映像を見る上で参考にならない。P50-XR02なら、コントラストの雄渾さをベースに、プラズマ方式らしいしっとりとなめらかな階調を表現する。
チャプター09は、ヘストン扮するテイラーたちが初めて無抵抗の人間たちを追いかけまわすゴリラの兵士たちの残虐な人間狩りを目撃する、前半の最もショッキングなシーン。同時にアクションエンターテインメントとしての本作の魅力が集約されたシーンでもある(文明批評的な性格の強い原作にはこの要素はない)。P50-XR02は50V型の大画面一杯に持ち前のパワフルな映像の臨場感で、公開当時、映画館の私をカタマらせた「あの映像」を鮮明に蘇らせた。
■「なめらかシネマ」の効果を実感した
続くチャプター10は、負傷したテイラーが猿の町の収容所内でチンパンジーのジーラとコーネリウスから手当を受けるシーンである。ここは室内のドラマシーンなので、当時として驚異的だったインテリ階級に属するチンパンジーの表情豊かな特殊メイクが見所である。
ここで気が付いたのは、日立のテレビの特徴的な機能である、フィルムソースの24コマを検出し中間コマを創成して挿入、動きのギクシャク感を抑える「なめらかシネマ」が特殊メイクを見る上で有効なのだ。例えばチャプター09の人間狩りのような激しくスピーディなアクションより、こうした穏やかな動きで「なめらかシネマ」は適用されるが、チンパンジーに扮した俳優の演技と表情の細部が24pそのままの場合、あるいは60pで表示した場合より、動きの妨害要素でぼやけることがなく静止画が連続的していくようにきめ細かく見通せる。40年前に猿を演じた、キム・ハンターとロディ・マクドウォールに「猿が支配する社会の代わりに、家庭であなたたちの演技がこれだけ鮮明に見られる時代がやってきた感想は?」と、P50-XR02の映像を見せたくなったほどである。
P50-XR02で本シリーズ全作を見返したが、第4作の『猿の惑星 征服』は、第1作に負けず強い印象を残した。ここでは猿たちが暴動を起こす夜のロサンゼルスのシーンでP50-XR02の暗部の表現力が遺憾なく発揮され、アメリカの人種問題を連想させる暗いパワーに満ちたペシミスティックなアクションの迫力を再認識させる。最新作のカリカリしたハイコントラストな映像を明るく楽しく表現することも大切だが、P50-XR02は、旧作映画に込められた時代の息吹やフィールを歪曲せずに臨場感豊かに表現することができる。これはディスプレイに実力が備わっていなければできないことだ。P50-XR02で見る『猿の惑星』シリーズはそのことを私に改めて教えてくれたのである。
■『猿の惑星』視聴時の映像設定
映像モード シネマティック
明るさ -15
黒レベル -1
色の濃さ -7
色合い -0
シャープネス -6
色温度 低
ディテール 切
コントラスト リニア
黒補正 切
LTI 切
CTI 切
YNR 切
CNR 切
MPEGNR 切
映像クリエーション なめらかシネマ
デジタルY/C 弱
色再現 リアル
DeepColor 切
大橋伸太郎 プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数2006年に評論家に転身。