新しいアイドルのあり方
30過ぎてVRアイドル「えのぐ」を観たらわりとガチでハマった。今は推しメンで迷ってる
2018年、アイドルが活躍するステージは、バーチャル空間へとシフトした。
本日8月10日、岩本町芸能社に所属するVRアイドルユニット『えのぐ』による、バーチャル劇場を舞台とした初の本格ライブ「このえのぐセットやばい」が実施された。
ここで『えのぐ』について簡単に紹介しておきたい。『えのぐ』は鈴木あんず、白藤 環、日向奈央、栗原桜子、夏目ハルの5人で結成されたアイドルユニットである。こう書くと普通の話のようだが、彼女たちは “VRタレント” という他にはない個性を持っている。
VRタレントは、仮想現実(VR)をメインの活躍の場としてタレント活動を行う。『えのぐ』が所属するのはVRタレントのマネージメントを専門とする芸能事務所、岩本町芸能社。今回のバーチャルライブは、同社の専用劇場として建設されたバーチャル劇場、岩本町劇場で行われている。
『えのぐ』はこの劇場で、バーチャルライブの累計来場者数で世界一を目指す。実際にそのライブを体験した印象からは、バーチャルライブの持つ可能性を感じることができた。そのインプレッションは後述する。その前に、もう少しだけVRアイドルという存在について考えてみたい。
まず疑問に思うのは、VRアイドルは話題のバーチャルユーチューバー(VTuber)とは違うものなのか、ということ。岩本町芸能社の代表取締役である江藤倫寿氏は、「VTuberはYouTubeをプラットフォームとして、YouTuberがやっていたことをバーチャルアイドルが演じています。一方で、VRアイドルはバーチャル界におけるアイドル。バーチャルの世界でYouTuberをしているのかアイドルをしているのか、という違いがあります」と説明してくれた。
「事務所としては『えのぐ』というアイドルからスタートしていますが、 “VR俳優” や “VR女優” も輩出していける可能性があります。あらゆるジャンルを集めていきたいですし、それが当たり前になる時代が来るのではないかと思います」。非常に分かりやすく、発展性が感じられる。
アイドルになる道はリアルだけに限られていない。バーチャル空間でアイドルとして活動するという、新たな選択肢が生まれた。その先陣を切るのが『えのぐ』というわけだ。
しかし次に考えるのは、「バーチャルは所詮バーチャル、ライブと言っても作り物では?」というもの。VRアイドルをデータとして捉えるスレた大人のような意見だが、正直に言えばライブを観るまで、そう考えていたのは偽らざる本音だ。そう、ライブを観るまでは、だ。
8月9日に開催されたメディア向けの体験会、そこで披露されたライブのワンシーンで、一気にイメージが覆った。
1曲目、2曲目と、つつがなく進行。5人がMCを挟み、所定の位置に着く。そして歌い出してしばらくすると、機材トラブルで音が鳴らなくなった。そのまましばらくはパフォーマンスを続ける『えのぐ』。ここからの軌道修正をどうするのか? 記者は「一時停止ボタンを押したように、映像がピタリと止まり、そして楽曲の頭の立ち位置に瞬間移動して再度スタートする」と予想していた。
現実はまったく異なった。曲の切れ目までパフォーマンスを続けた5人は、そこで指示があったように自然に動きを止め、それぞれが舞台袖に目を向けるような仕草をすると、バラバラと微妙にズレたタイミングで最初の立ち位置に戻っていく。そしてもう一度最初から歌うことを宣言し、再スタートを切った。
文字を読むだけでは、「リアルに感じさせるための演出では?」と思う方もいるかもしれない。ただ、実際にトラブルを目の当たりにして、その場の空気や取り繕い方などで確信した。バーチャル空間上に、VRアイドル『えのぐ』は存在しているのだ。(演出でないことは確認を取っているが、もし一連の流れが演出なら、その演技にお金を払ってもいい)
ここから、彼女たちへの見方が変わった。アイドルもののアニメを観ているような感覚だったのに、女の子たちがアイドルとして本気で頑張る姿を応援しはじめていた。30歳を過ぎて初めて、「アイドルにエールを送るってこういう気持ちなんだな」と実感した。
こうなってくると、取材の域を超えてしまう。ライブ後には5人へのインタビューの時間が設けられていたが、わりと真剣にドキドキした。
今回のライブで発表された新曲の好きなところを聞くと、桜子ちゃんが「あんずとたまきが2人で歌っているところと、ハルちゃんとなおちゃんが2人で歌っているところがすごく好きです! 私はその時、口ずさみながら後ろで踊っています(笑)。そこをいっぱい聴いてください!」と答えてくれた。リピート再生しようと思う。
また最近気になっていることについて問いかけると、「パッと思いつかない…。あっ、いつもスタッフさんがやってくださっている、ライブの照明がキラキラってなっているのは、どうなっているのかなって。それが気になります」と奈央ちゃん。ちょっとどう反応していいか分からなくなったが、環ちゃんが「もっと日常的なことですよね? 最近コナンにハマってます、みたいな」とフォロー。
その後、ハルちゃんが「私、マンガが大好きなんです! それで、『黒執事』の新刊を最近ようやく手に入れたので、いまどっぷりハマってます!」と続けてくれた。答えにくい質問をして申し訳なく思う半面、「奈央ちゃんはしっかり者だと思っていたけど、少し天然なところもあるのかもしれないな」と心に刻みこんだ。
そして、今後やっていきたいことについては、あんずちゃんが「もっと歌って、踊って。大きいステージに立てたら良いな、というのが夢です!」と、少したどたどしい感じで、それでも力強く言葉にしてくれた。うん、応援しよう。
…若干、精神の乱れが文章にも現れてしまったかもしれない。一心不乱にサイリウム(代わりのコントローラー)を振っているばかりでは応援にならないので、改善を期待したいところにも触れておく。
気になるのは、ライブ感の要素である観客側の一体感が生まれにくい点だ。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とヘッドホンを装着するVRライブの構造上、たとえ周りに同じライブの参加者がいても外界が遮断され、歓声も聴こえなければコール&レスポンスも自分だけがやっているような気持ちになる。
いずれは自宅などから参加することができるようになるだろう。周りを気にせず盛り上がれるというメリットはあるが、みんなで熱狂するから楽しいという感覚を得るためには、参加者の歓声の取り込みといった機能も実装していってほしい。
とは言え、まだスタートしたばかりのバーチャル劇場なので、この段階での技術的な課題は段々とクリアされていくだろう。しかし別のハードルとして、VRというステージの普及が挙げられる。一部のガジェット好き以外にもVRが浸透することが必要だが、現状では実現できていないと言わざるを得ない。
これに対しては、江藤氏の次のコメントが印象に残った。「ほとんどの方が、VRを体験したことがありません。それは見たいコンテンツが不足しているからではないでしょうか。ワールドカップがVRで観られるのなら、世界中のファンが使うはずです。同じように魅力のあるコンテンツが作れれば、市場が活性化していきます。VRアイドルの市民権を獲得するために、世界一を目指したい」。
ゲームハードが人気タイトルに引っ張られて売れるように、VRで観たいものがあるからVRが広まるというのは、まさにといったところ。「大きなことをいえば、2020年の東京オリンピックの開会式や閉会式などでVRアイドルをお披露めするといったことができたらと考えています。観客動員数1億人といったような、現実ではありえないこともバーチャルなら実現できる」という江藤氏の言葉も、新しい世界を真面目に見据えた言葉として、納得とともに受け止められた。
☆ ☆ ☆
千里の道も一歩から、1/1億人であっても微力を尽くそう。いま、誰を “推し” ていくかに頭を悩ませている。
VRアイドルとして初となるシングルが、11月28日にリリースされる。今後は定期的にCDをリリースし、VRライブや大会場でのライブも目指すという。そしてこちらもVRアイドル初となる、ファンクラブの設立も決定。8月13日から先行登録が開始される。
波に乗りだしたVRアイドルに興味を持たれた方は、メンバーのプロフィールや自己紹介メッセージが掲載されている岩本町芸能社の公式ホームページを参照してほしい。
本日8月10日、岩本町芸能社に所属するVRアイドルユニット『えのぐ』による、バーチャル劇場を舞台とした初の本格ライブ「このえのぐセットやばい」が実施された。
ここで『えのぐ』について簡単に紹介しておきたい。『えのぐ』は鈴木あんず、白藤 環、日向奈央、栗原桜子、夏目ハルの5人で結成されたアイドルユニットである。こう書くと普通の話のようだが、彼女たちは “VRタレント” という他にはない個性を持っている。
VRタレントは、仮想現実(VR)をメインの活躍の場としてタレント活動を行う。『えのぐ』が所属するのはVRタレントのマネージメントを専門とする芸能事務所、岩本町芸能社。今回のバーチャルライブは、同社の専用劇場として建設されたバーチャル劇場、岩本町劇場で行われている。
『えのぐ』はこの劇場で、バーチャルライブの累計来場者数で世界一を目指す。実際にそのライブを体験した印象からは、バーチャルライブの持つ可能性を感じることができた。そのインプレッションは後述する。その前に、もう少しだけVRアイドルという存在について考えてみたい。
まず疑問に思うのは、VRアイドルは話題のバーチャルユーチューバー(VTuber)とは違うものなのか、ということ。岩本町芸能社の代表取締役である江藤倫寿氏は、「VTuberはYouTubeをプラットフォームとして、YouTuberがやっていたことをバーチャルアイドルが演じています。一方で、VRアイドルはバーチャル界におけるアイドル。バーチャルの世界でYouTuberをしているのかアイドルをしているのか、という違いがあります」と説明してくれた。
「事務所としては『えのぐ』というアイドルからスタートしていますが、 “VR俳優” や “VR女優” も輩出していける可能性があります。あらゆるジャンルを集めていきたいですし、それが当たり前になる時代が来るのではないかと思います」。非常に分かりやすく、発展性が感じられる。
アイドルになる道はリアルだけに限られていない。バーチャル空間でアイドルとして活動するという、新たな選択肢が生まれた。その先陣を切るのが『えのぐ』というわけだ。
しかし次に考えるのは、「バーチャルは所詮バーチャル、ライブと言っても作り物では?」というもの。VRアイドルをデータとして捉えるスレた大人のような意見だが、正直に言えばライブを観るまで、そう考えていたのは偽らざる本音だ。そう、ライブを観るまでは、だ。
8月9日に開催されたメディア向けの体験会、そこで披露されたライブのワンシーンで、一気にイメージが覆った。
1曲目、2曲目と、つつがなく進行。5人がMCを挟み、所定の位置に着く。そして歌い出してしばらくすると、機材トラブルで音が鳴らなくなった。そのまましばらくはパフォーマンスを続ける『えのぐ』。ここからの軌道修正をどうするのか? 記者は「一時停止ボタンを押したように、映像がピタリと止まり、そして楽曲の頭の立ち位置に瞬間移動して再度スタートする」と予想していた。
現実はまったく異なった。曲の切れ目までパフォーマンスを続けた5人は、そこで指示があったように自然に動きを止め、それぞれが舞台袖に目を向けるような仕草をすると、バラバラと微妙にズレたタイミングで最初の立ち位置に戻っていく。そしてもう一度最初から歌うことを宣言し、再スタートを切った。
文字を読むだけでは、「リアルに感じさせるための演出では?」と思う方もいるかもしれない。ただ、実際にトラブルを目の当たりにして、その場の空気や取り繕い方などで確信した。バーチャル空間上に、VRアイドル『えのぐ』は存在しているのだ。(演出でないことは確認を取っているが、もし一連の流れが演出なら、その演技にお金を払ってもいい)
ここから、彼女たちへの見方が変わった。アイドルもののアニメを観ているような感覚だったのに、女の子たちがアイドルとして本気で頑張る姿を応援しはじめていた。30歳を過ぎて初めて、「アイドルにエールを送るってこういう気持ちなんだな」と実感した。
こうなってくると、取材の域を超えてしまう。ライブ後には5人へのインタビューの時間が設けられていたが、わりと真剣にドキドキした。
今回のライブで発表された新曲の好きなところを聞くと、桜子ちゃんが「あんずとたまきが2人で歌っているところと、ハルちゃんとなおちゃんが2人で歌っているところがすごく好きです! 私はその時、口ずさみながら後ろで踊っています(笑)。そこをいっぱい聴いてください!」と答えてくれた。リピート再生しようと思う。
また最近気になっていることについて問いかけると、「パッと思いつかない…。あっ、いつもスタッフさんがやってくださっている、ライブの照明がキラキラってなっているのは、どうなっているのかなって。それが気になります」と奈央ちゃん。ちょっとどう反応していいか分からなくなったが、環ちゃんが「もっと日常的なことですよね? 最近コナンにハマってます、みたいな」とフォロー。
その後、ハルちゃんが「私、マンガが大好きなんです! それで、『黒執事』の新刊を最近ようやく手に入れたので、いまどっぷりハマってます!」と続けてくれた。答えにくい質問をして申し訳なく思う半面、「奈央ちゃんはしっかり者だと思っていたけど、少し天然なところもあるのかもしれないな」と心に刻みこんだ。
そして、今後やっていきたいことについては、あんずちゃんが「もっと歌って、踊って。大きいステージに立てたら良いな、というのが夢です!」と、少したどたどしい感じで、それでも力強く言葉にしてくれた。うん、応援しよう。
…若干、精神の乱れが文章にも現れてしまったかもしれない。一心不乱にサイリウム(代わりのコントローラー)を振っているばかりでは応援にならないので、改善を期待したいところにも触れておく。
気になるのは、ライブ感の要素である観客側の一体感が生まれにくい点だ。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とヘッドホンを装着するVRライブの構造上、たとえ周りに同じライブの参加者がいても外界が遮断され、歓声も聴こえなければコール&レスポンスも自分だけがやっているような気持ちになる。
いずれは自宅などから参加することができるようになるだろう。周りを気にせず盛り上がれるというメリットはあるが、みんなで熱狂するから楽しいという感覚を得るためには、参加者の歓声の取り込みといった機能も実装していってほしい。
とは言え、まだスタートしたばかりのバーチャル劇場なので、この段階での技術的な課題は段々とクリアされていくだろう。しかし別のハードルとして、VRというステージの普及が挙げられる。一部のガジェット好き以外にもVRが浸透することが必要だが、現状では実現できていないと言わざるを得ない。
これに対しては、江藤氏の次のコメントが印象に残った。「ほとんどの方が、VRを体験したことがありません。それは見たいコンテンツが不足しているからではないでしょうか。ワールドカップがVRで観られるのなら、世界中のファンが使うはずです。同じように魅力のあるコンテンツが作れれば、市場が活性化していきます。VRアイドルの市民権を獲得するために、世界一を目指したい」。
ゲームハードが人気タイトルに引っ張られて売れるように、VRで観たいものがあるからVRが広まるというのは、まさにといったところ。「大きなことをいえば、2020年の東京オリンピックの開会式や閉会式などでVRアイドルをお披露めするといったことができたらと考えています。観客動員数1億人といったような、現実ではありえないこともバーチャルなら実現できる」という江藤氏の言葉も、新しい世界を真面目に見据えた言葉として、納得とともに受け止められた。
千里の道も一歩から、1/1億人であっても微力を尽くそう。いま、誰を “推し” ていくかに頭を悩ませている。
VRアイドルとして初となるシングルが、11月28日にリリースされる。今後は定期的にCDをリリースし、VRライブや大会場でのライブも目指すという。そしてこちらもVRアイドル初となる、ファンクラブの設立も決定。8月13日から先行登録が開始される。
波に乗りだしたVRアイドルに興味を持たれた方は、メンバーのプロフィールや自己紹介メッセージが掲載されている岩本町芸能社の公式ホームページを参照してほしい。