【金賞受賞モデル紹介】 TAD 日本のメーカーが手がけたスピーカーで世界的な成功を収めた数少ない例の一つがTADである。パイオニアが28年前に創設したプロ用スピーカーのブランドであり、音楽スタジオ、映画のダビングスタジオへの納入実績は数え切れないほど。ルーカスフィルムのスカイウォーカーサウンドでもTHXのリファレンスとして活躍中だ。 そのTADから、ついにコンシューマー用スピーカーが登場した。その名もM1。記念すべき第一号機にかける意気込みの強さが伝わってくる。紛れもないハイエンドの超弩級スピーカーを日本のメーカーが開発したのは久しぶりのことであり、今年1月に米国で行われたコンベンションで公開されて以来、話題をさらっているのもうなずける。 ユニット、キャビネットともに新開発で、米国人技術者アンドリュー・ジョーンズが設計と音作りをまとめた。ジョーンズはKEF、インフィニティでスピーカー開発を担当した経歴の持ち主だが、TADの可能性を確信して1997年に米国のパイオニア(PET)に入社。ユニット開発を手がけた国内の技術者との巧みな連携でM1を完成させた。 上部の球状ヘッドに取り付けられた斬新な構造の同軸ユニットが、このスピーカーを特徴付けている。ベリリウム振動板の広帯域特性と、独自形状に由来する広いサービスエリアの相乗効果で、従来のコーン型やドーム型とも、またホーンユニットとも異なる独自のリアリティを実現。この同軸ユニットが受け持つ350Hz〜100kHzという帯域の広さからも実力の高さがうかがわれる。低域ユニット群はベリリウムの音速の速さに見合うスピードと質感の達成が重要な開発テーマになっている。 エンクロージャーは、厚さ20mmの樺合板をくり抜いて52枚重ねた驚くべき構造で、後部を絞り込んだ流線型形状とともに、定在波を抑える効果を発揮する。 本機の音は、スタジオで体験したTADならではのスピード感と力強さがさらに進化し、繊細さと表情の豊かさも兼ね備えている。一度聴いただけで強烈な印象を残すスピーカーである。 (文/山之内正) |