アキュフェーズのA級パワーアンプシリーズの代表モデルA-50Vがリファインし、A-60となって登場した。高く評価されているモノラルパワーアンプM-8000、ステレオパワーアンプP-7000での成果を継承し、同ブランドの伝統ともいえる純A級大出力パワーアンプに新しい風を送り込むモデルである。


本機誕生の背景
厳格な中にもカジュアルなプレゼンスに溢れたキャラクター

我が国を代表するオーディオメーカー、アキュフェーズのパワーアンプ部門は、モノラルとステレオタイプの2系列がある。モノラルパワーアンプは、この部門のリーダーとして同社の最先端の技術をいち早く反映させるという指導的な性格付けが可能であり、フォーマルで厳格な再生音に磨きあげらている。一方、ステレオ系列のパワーアンプは、モノラル部門で培われた独自の技術やノウハウを縦横に駆使して、厳格な中にもカジュアルなプレゼンスに溢れたキャラクターが特徴といえる。この両部門の性格の相違は、モノラルおよびステレオという基本的なコンストラクションに起因するのかもしれないが、いずれにしてもオーディオマニアの興味を大いにそそるテーマである。

筆者はアキュフェーズのステレオパワーアンプを嗜好する一人で、Pシリーズを長期間にわたりプレイバックレファレンスとして運用していたが、A-50の登場以来、Aシリーズに絞っている。その系譜はA-50に始まりA-50Vとなるが、その歴史に新しい一ページが刻まれようとしている。ニューモデルA-60のデビューである。

 
アキュフェーズ「A-60」   大型スピーカーターミナルはバナナプラグに対応。入力はRCAとXLRを装備。DUALMONO/NORMAL/BRIDGEのモード切替スイッチもリアパネルに装備する
     

A-60内部。大型のトランスとコンデンサーが見える インピーダンスが低く、小型で変換効率が高い、スーパーリング型トロイダルトランスを採用
メーター回路やプロテクション回路などを搭載した基板 電源部に用いられている82,000μF大容量フィルターコンデンサー

本機の概要を知る
A級の開放感とMOS-FETの緊張感を見事に融合させた

アキュフェーズのパワーアンプ部門にあってもAシリーズは特別な製品である。シリーズ名ともなっている、純粋A級動作をテーマに展開されている製品群である。オーディオマニアが描く純粋A級アンプの再生音のイメージは、ゆったりとスムーズに広げられたレンジ感と帯域内に豊かに肉付けられたエネルギーが開放的に拡散しリスナーをマイルドに包み込む、というパターンであろう。

出力段はパワーMOS-FETを片チャンネル10パラレルプッシュプルで駆動

管球アンプの印象にも類似した、従来のA級アンプの世界に新風をもたらしたパワー素子がMOS-FETである。パワーMOS-FET素子は、一時期、理想的なオーディオ用素子として盛んにパワーアンプ段に採用されたが、次第にオーソドックスなバイポーラトランジスターに戻ってしまった。その要因には、入力信号に対して忠実度は高いが、駆動段や電源系に難しさがあり、聴感的には独特のソリッドな音質やほぐれ難い音質、などがあった。しかし、Aシリーズでは、A級動作の開放感とパワーMOS-FETの緊張感を見事に融合させ、崇高な世界を構築したのである。A級動作でありながらその圧倒的な密度感で全てのサウンドに豊かな生命感と生演奏に通じるリアリズムを持ち込むことに成功したともいえる。

新製品A-60は、前作A-50Vのグレードアップモデルで、基本的なコンセプトは継承されている。そのバージョンアップポイントは、わずかなパワーアップ、入力系のMCD回路、NFB量切り換え方式のゲインコントロール機能、パワー表示部などにある。定格連続平均出力は、A-50Vの50W×2(8Ω)/100W×2(4Ω)/200W×2(2Ω)/400W×2(1Ω)に対し、A-60ではパワーMOS-FETの10パラレルプッシュプルのパワーユニットにより60W×2(8Ω)/120W×2(4Ω)/240W×2(2Ω)/480W×2(1Ω)と微増、低負荷に対する駆動能力を向上させている。Aシリーズに共通した出力段の特徴だが、A-60の場合、定格連続平均出力が60W(8Ω)/chであるが瞬間的に現れるピークでは100W(8Ω)までクリップしないように設計され、余裕のある音楽信号の再生が可能となる。

MCS(マルチプル・サーキット・サミングアップ)回路

同社の最新モデルに採用され効果をあげているのが新たに考案されたMCS(マルチプル・サーキット・サミングアップ)回路である。シンメトリカルなバランス入力回路を本機では3系統並列接続することで、低雑音化をはかり、S/Nの向上、歪みの低減など、諸特性を飛躍的に向上させる構成である。入力増幅段の並列構成は、古くは高周波増幅、MCカートリッジのヘッドアンプ、同社独自のDAコンバーター〜MDS(マルチプル・デルタシグマ)、などで採用される。大入力のパワーアップの入力段での疑問を抱く向きもあろうが、予想以上にその効果は大きい。高S/Nを維持する入力ゲインコントロールとして新たにNF量切り換え方式が採用され、MAX/-3/-6/-12dBのポジションを置く。NF量を変化させると総合的な音色・音質や雰囲気が変わる、というのが従来のセオリーだが、近年、同社の全製品を高度なレベルに引き上げたカレントフィードバックでは全てのポジションでパーフェクトに動作する。従来のボリュームタイプでは絞ると高域が甘くなり、常に最大ポジションで運用する慣例があったが解消された。

シリーズ伝統の特徴でもあるブリッジ接続によるモノラル運用では、240W(8Ω)/480W(4Ω)/960W(2Ω)の大出力アンプと化す。両側面の大容量の放熱器をデザインに取り込んだ完成度の高い筐体は継承されたが、フロントパネルを象徴するアナログパワーメーターのローレベル感度は引き上げられ、その下方に5桁・25ポイントのLEDバーグラフ・メーターが装備され、パワー表示系が一段と充実している。

本機の音に触れる
音の粒子が一杯に詰め込まれた高密度な再生パターン

スピーカーにはPIEGAのC-10を使用した
 
パワーメーターの表示はデジタルとバーグラフの2方式をスイッチで切り替えることができる

プレーヤーにアキュフェーズのDP-77、プリアンプにC-2800、スピーカーシステムにスイスの名門PIEGAのフラッグシップモデルC-10でニューモデルA-60を試聴した。CDおよびSACDの優秀録音アルバムでの総合的な印象は、聴感的なレンジが帯域の両翼に伸びやかに広がるパーフェクトなフラットバランスを基調に、帯域内は木目濃やかな音の粒子が一杯に詰め込まれた高密度なパターン。全てのソースのマイクの種類、マイクポジション、収録環境、などを克明に映し出すプレイバックレファレンスとしての性格と紹介できる。

A-50Vに対し何よりも再生音の構成がシンプルで、音の立ち上がりのスピード感、各音像への明瞭だが誇張のない自然なフォーカシング、音像と音場空間のセパレーションのよさ、音が幾重にも複雑に重なり合った際の分解能の高さと細部の濃やかな粒立ち、艶やかな音色感、粒立ちと融合が自在の音質感など、高次元な再生音である。

注目はCDとSACDのフォーマットの基本的な違いの明確な描写分けである。CDではエネルギーが帯域の内側に厚く集まりSACDに対して、むしろ、アナログ的なニュアンス。SACDは両翼にレンジが拡大され、帯域内のエネルギーの平坦化、低域方向の透明感の向上、高域方向の抜けと粒立ちなどをベースに全域にしなやかさと爽快感がもたらされ、高次元のフォーマットの特徴が忠実に引き出される。とくに、印象的なソースがSACDの“シューマン・ロマネスク/ウラディーミル・トロップ”(アコースティックリバイブ ARDS-0001)で、ピアノ独奏による各種マイクアレンジの違いが、マイク位置での楽音と空間環境の融合が鮮やかに描かれていた。


「A-60」SPECIFICATIONS
●定格連続平均出力(20〜20,000Hz間):240W/ch(2Ω)、120W/ch(4Ω)、60W/ch(8Ω)、480W(4Ω モノ仕様時 ブリッジ接続)、240W(8Ωモノ仕様時 ブリッジ接続)
●全高調波歪率:0.05%(4〜16Ω)
●周波数特性:20Hz〜20kHz(+0,-0.2dB)
●利得:28.0dB
●ダンピングファクター:100
●入力インピーダンス:40kΩ(バランス)、 20kΩ(アンバランス)
●SN比:120dB
●消費電力:300W(無入力時)、550W(電気用品安全法)、385W(8Ω負荷定格出力時)
●外形寸法:465W×238H×545Dmm
●質量:45.1kg
●取り扱い:アキュフェーズ(株)TEL/045-901-2771

アキュフェーズ(株)
アキュフェーズ(株)「A-60」製品紹介ページ


試聴・文/斎藤宏嗣(Hirotsugu Saito)
電機メーカーのエンジニアとして高周波回路とVTRの開発を担当ののち、オーディオ専門誌に執筆を開始する。エンジニアとしての経験を生かした管球アンプの製作で注目を集める。デジタルオーディオには実験段階から深く関わり、現在でも「デジタルオーディオの第一人者」の呼び声が高い。ソフトの録音評でも高い評価を得ており、実際に録音のアドバイザーとして関係した作品はアナログ録音時代から現在に至るまで数多い。