2010年冬モデルでソニーのBDレコーダーはソニー史上最大級の進化を遂げた。自分の嗜好に合ったコンテンツを貯め・効率的に再生するというソニー独自の思想をさらに推し進めた新シリーズは、スマートフォン対応、マルチタスク操作の充実など、特徴は数多い。画質・音質も同時に極めたフラグシップのBDZ-AX2000を中心に、製品のハンドリング・視聴レポートをお届けすることにしよう。(取材・執筆/折原一也)
BD再生に対応したソニーのレコーダー初号機BDZ-V9が2006年に登場して以来、4年の歳月が過ぎた。ハイクオリティなBDの性能を引き出すプレーヤーとしてもAVファンから脚光を浴び続けてきたのがソニーのBDレコーダー。筆者はこの初号機をはじめ代々のソニーモデルを使い続けてきた。改めて自宅に鎮座しているBDZ-V9を操ってみるとソニーのBDレコーダーに対する一貫した思想を見出すことができる。DVDレコーダーより先に発売されていたHDDレコーダー<コクーン>から継承された、レコーダーをチャンネルサーバーとして扱う思想を持った先進的録画機としての貌(かお)、レコーダーの枠を越えた高画質・高音質技術を搭載したハイエンドBDプレーヤーとしての貌だ。
各社からBDレコーダーが登場し、操作性の向上を競い合うようになった今の時代にあって、ソニーは今、BDレコーダーに何を求めるのか。製品に脈々と続く思想をふまえて、最新モデルBDZ-AX2000の全貌に迫ることにしよう。
2010年のAVは3D対応を前提とした製品が話題の中心となった。ソニーは今年の冬モデルとしてフラグシップのBDZ-AX2000を頂点としたBDレコーダー6機種を投入。新製品の全機種がブルーレイ3DTM 再生に対応しているなど、他とは異なる積極的な姿勢が目立つ。フルハイビジョン長時間録画は最大11倍にまで到達。録画済番組をウォークマンやPSP、携帯電話などに転送できる「おでかけ転送※1」、「スカパー! HD録画※2」、デジタルビデオカメラへ写真を簡単に取り込む「ワンタッチカメラ取り込み」への対応とオーディオ・ビジュアル製品を幅広く展開するソニーらしく横軸の機器連携も抜かりなくカバーしている。また、BDZ-AX2000には最上位の高画質回路“CREAS Pro”を搭載。専用の筐体設計も施すなど画質・音質面でも「プレミアム」ぶりを発揮している。※1※2 BDZ-AT300Sは非対応
しかし、BDレコーダーを追いかけてきた筆者の着目点は実は別にある。それは、2010年冬モデルが実に4年ぶりに内部プラットフォームを大幅刷新し、過去最大級の進化を果たした新世代機として生まれ変わっている点である。
新モデルの内部プラットフォーム刷新が、ソニーのBDレコーダーにもたらした第一の成果は従来以上の快適な操作性だ。まず、起動の高速化。電源オフからの起動時間は前モデルが約70秒であったのに対し、今回は通常モードで約12秒で操作可能になるほどにまで短縮されているのだ。高速起動機能「瞬間起動モード」ももちろん注目。起動時間は0.5秒と謳っており、ボタンを押した瞬間に操作可能になるレベルで動作する。あなたも実際に触れてみればその高速感がすぐに理解できるはず。筆者が特に感心させられたのは電力消費を抑えるための時間設定対応だ。2時間単位の設定で最大3つまで、一日のうち合計6時間までの時間帯を「瞬間起動モード」に設定することができる。通勤・通学前、帰宅後といった、レコーダーをよく使う時間帯のみ同モードをカスタマイズして使用できるようになっているのだ。使用頻度の高い時間帯をレコーダー側で学習することも可能で、個々の嗜好に合わせた親切な設計が魅力だ。また、全体的に高速化された操作レスポンスも、新モデルの軽快なイメージを後押ししている。
BDZ-AX2000を初めとする各機種は、ダブル録画・長時間録画対応も進化した。AVCによる長時間モードも利用可能となると同時に、ダブル録画中であってもBD-ROMの再生が可能となり、メディアへのダビングにも対応を果たした。こういったマルチタスク動作自体は、数年来のBDレコーダー全体のトレンドとして注目されてきたものであるが、多くの操作制限を少なくし、一つ一つを潰していったソニー機の作り込みはレコーダーとしてトップレベルの自由度を獲得し、冒頭に述べたソニー機の思想の一つ「チャンネルサーバー」としての重要な意味も持っている。
改めてここで、筆者がソニーの貌として捉えた、ソニーのBDレコーダーの独自性と存在意義を述べておきたい。
録画機の理想型とは何か? 快適な操作性の実現はもちろんその一つではあるが、そこからさらに一歩進んで、自分好みの番組が録画予約を行わなくても嗜好に合わせて全てが揃えられる「チャンネルサーバー」的なあり方が究極の理想だと思う。ソニーモデルは自分好みのジャンル、キーワードを設定して番組を録画できる、お馴染みの「おまかせ・まる録」機能を積んでいる。具体化されたこの機能により、ユーザーの視聴動向が学習され、精度を高めて個々の好みの番組を録画するようになっていく。筆者が長年に渡ってソニー製品を使い続けているのも、自分好みの番組がすべてHDD内に収まっているという理想の録画スタイルに対する可能性を有し、一歩一歩最終形に向かって機能を磨き込んでいるからに他ならない。
しかし、「おまかせ・まる録」を始めとする設計思想はソニー機最大の評価理由とは言え、従来の同社BDレコーダーの利用者として改善を要する点もあることも同時に筆者は認識していた。自動録画を常用する録画スタイルでは、一般的に利用者の意図しないタイミングでも常時録画チューナーが稼働している状態になってしまうこともある。結果的に、BD再生やダビング等の動作に対する制約を生んでいたのが実情だったのだ。
ソニー2010年モデルのマルチタスク制限の大幅な改善は、これまでの動作上の制約を全てクリアにしている。具体的な例をいくつか挙げてみよう。通常の録画予約の設定画面上で「録画1」「録画2」といったチューナーの区別を選択する必要がなくなり、「おまかせ・まる録」設定でも常に空いているチューナーを自動的に判別して録画が実行できるようになった。仮に録画1、録画2のどちらもフルに利用するヘビーユーザーは、これまではBD再生・ダビングそれぞれの可否を気にする必要があった。この制限が撤廃されたことで、録画ファンが理想とするレコーダーの在り方に今回のモデルが一歩近付いたと言えるだろう。
XMB(クロスメディアバー)動作を確認する筆者筆者の自宅では、実際に今BDZ-AX2000が毎日フル稼働している。常用していて思うのは、ソニー機の操作性は本質的に長時間・大量録画を想定して設計されているということだ。「おまかせ・まる録」から「オートグルーピング」による番組のフォルダ表示、そして「ダイジェスト再生」「おでかけ転送」まで揃えられた豊富な機能により膨大な録画・再生をスムーズに行うための配慮がなされているのだ。BDZ-AX2000であれば2TBものHDDを搭載しており、仮に最高画質のDRモードであっても最大249時間(地デジ放送HD記録時)も録画可能だが、それだけ録っても効率的に鑑賞する方法がなくては大容量HDDが活きてこない。他社機と比べてのはっきりとしたソニー機のアドバンテージはそこにある。「録る」「観る」が一体化した企画が施されていることが、レコーダーとしての高完成度を証明する最大の理由である。
より確実な録画予約を行うツールにも進化が見られた。従来より携帯電話に対応していた外出先からの録画予約もスマートフォン対応のWEBアプリ「Chan-Toru」へと進化。先進的なオーディオ・ビジュアルユーザーからも支持されるスマートフォンへの対応も果たしたことで、より手近な存在として録画予約を行いたいユーザーの期待にも応えているのだ。
BDZ-AX2000にはもう一つの貌がある。ソニーのBDプレーヤーのプレステージAV機としての側面だ。フロントパネル一体型の4mm厚アルミ天板の採用、音質パルス電源の搭載、ピュア志向の2系統HDMI出力端子の装備などだ。そしてHDMIジッター低減システムを積み、オーディオ出力系専用のピュアオーディオ基準マスタークロックを投入した。映像回路もブルーレイ3DTM やBDXL規格にも対応した高画質化回路“CREAS Pro”を積むなどの特別設計が施されている。
BD映画『NINE』視聴してみた。自然で微細な情報を引き出す、緻密な映像の作り込みが実感できる。高音質設計も万全。S/Nに優れ、端正で非常に見通しが良い優れた音場が目の前に広がる。ビジュアルグランプリで「批評家大賞」を受賞した高クオリティAVアンプTA-DA5600ESとのカップリングで作り込まれたBDZ-AX2000が実現する高完成度の音質は、ソニーが求める音の理想の一つである。
画質についてはもう一つ付け加えておきたい。BDZ-AX2000に搭載された“CREAS Pro”の実力がより明確に現れる瞬間がある。それはHDMI端子に対して個別に調整可能な新エンハンス回路が実現する映像の真の「凄み」だ。輪郭、精細感、超解像の各技術の組み合わせで表出される映像は、特に3Dコンテンツに対して絶大な効果を引き出していることを実感した。3D映像では、元ソースの画質はもちろん画質エンハンスによってもノイズが強調されやすい。本機の多彩な画質調整機能は多彩な3Dソースを美しく映し出すものとして有効に活用したいと思っている。
先進的な録画思想を体現した録画機として、あるいは高画質・高音質をとことん追求するBDプレーヤー/レコーダーとして、ソニー製品が持つ2つの貌のいずれにあなたは惹かれるだろうか? 各々の使用スタイルにもよるだろう。しかし、2つの貌のいずれかでさえも双肩する他社製品の存在が稀有なことは明らかだ。ソニー開発陣が脈々と培って体現してきた実際の製品の「鋭敏さ」をあなたが知れば、自ずと選択肢は明らかになる。