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高音質ディスク“ダイレクトカットSACD”を聴く

【第2回】 アシュケナージ/モーツァルト「ピアノ協奏曲第17番・第20番」

公開日 2008/11/12 17:58 山之内 正
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第1回・ワーグナー「管弦楽曲集 II」の記事はこちら

■コンサートホールの気配までも感じさせてくれる

マスタースタンパーから一番最初に作られたマスタースタンパーを元に制作し、マスターに極めて近いクオリティの音を実現する「ダイレクトカットSACD」。アシュケナージが弾くモーツァルトのピアノ協奏曲だが、既発売のハイブリッド盤はCD、SACDともに密度の高い弦楽器の響きと高音に明るさのあるピアノの溶け合いが美しい。録音会場の温かみのあるアコースティックが空気をたっぷり含んだ状態で伸びやかに聴き取れるのも素晴らしい。

モーツァルト「ピアノ協奏曲第17番・第20番」
ウラディーミル・アシュケナージ(ピアノ・指揮)
パドヴァ管弦楽団

収録曲:ピアノ協奏曲第17番 ト短調 K.453
ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466
[CD&SACD] OVXL-00031
定価:¥20,000(税込)
録音:2003年10月23日〜24日
於:ウィーン、コンツェルトハウスにてライブ収録
DSDレコーディング



その美しいサウンドをしばらく堪能した後で、今度は「ダイレクトカットSACD」で同じ音源を聴いてみる。音の違いは最初の一音から聴き取れると言うべきところだが、実は音が出る前の会場の僅かな暗騒音と気配感からして、すでにかなりの差が出てしまった。ワーグナーがスタジオ録音だったのに対し、こちらは残響の豊かなコンサートホールという違いもあるのだろう。ダイレクト盤の方が空気感が生々しく、そこにヴァイオリンが最初の音を響かせた瞬間、あっという間に幸福な気分に満たされる。演奏の心地よいテンションのなかに入っていくまでの時間が短く、それこそほんの一瞬で部屋の空気が変わるという感覚だ。

長めの序奏の後にスーッと自然に入ってくるピアノは親和性が高く柔らかい音色だが、心地よいテンポ感と律動感の軽さ、正確さは終始途切れることがない。アシュケナージの呼吸とオーケストラのフレージングが絶妙なタイミングでピタリと重なり、その両者の連携が発展しながら変奏曲の個々のヴァリエーションに次々に受け継がれていくK.453の第3楽章は、特に興味深く聴くことができた。従来盤でも動きのある良い演奏であることはわかるのだが、独奏ピアノとオーケストラの対話がここまでの理想的なテンションをはらんでいることには気付かなかった。音のどの要素がどう変化しているのか指摘することは可能だが、その違いはあまりに明確で、誰もがすぐに気付くに違いない。空気感を生々しくとらえるSACDの良さがいっそうストレートに伝わるという点だけをここでは指摘しておこう。2003年10月ウィーン、コンツェルトハウスで収録。

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