【特別企画】林正儀のイチオシBDソフトレビュー
息を呑む3D化映像の高い完成度 − エプソン「EH-TW8100」で『タイタニック3D』を観る
大画面ホームシアターと相性がばっちりな3D作品……。今回は「タイタニック」「アバター」というメガヒット級の超大作(いずれもジェームズ・キャメロン監督)の3Dブルーレイを、エプソンのこれまた最新モデルであるホームプロジェクター“ドリーミオ”「EH-TW8100」と「EH-TW6100W」と組み合わせながら、2回のレポートに渡ってじっくりと観賞することにしよう。
第1回目は明るい3D映像を実現した“ドリーミオ”フラグシップ機のTW8100でまず「タイタニック」をHDMI接続にて観賞。続いて「アバター」の方は弟機のTW6100Wだが、こちらは末尾に「W」のつくWirelessHD(60GHz帯のワイヤレスAV伝送技術)搭載タイプを用意した。付属のトランスミッターによって画質劣化のないフルHDの3D映像と音もスマートな無線伝送ができるモデルだ。
エプソン「EH-TW8100」で
「タイタニック 3D・2Dブルーレイスペシャルエディション」を見る
本作はBDディスク2枚組という最高品質にこだわった3D化映像だ。ほぼ原寸大のセットを建造して撮影したというだけに実在感は圧倒的で、「夢の船」といわれたタイタニック号の豪華さは、チャプター8のサウザンプトン出港のシーンでまず体感できる。
オリジナルの2Dバージョンと見比べても、すばらしくクリアで高S/N。発色のよさや画像そのものの品位が高く、遠近のフォーカス感や飛び出しも実にナチュラルで目が疲れない。そして、明るい。これは元々3Dで撮影した映像なのではないかと、どのシーンを見ても実感させられるのだ。3D化には60週間以上の時間を費やしたとのこと。300人のスタッフを集め、髪の毛1本1本まで奥行と厚みを与えるプロセスを、すべて手作業で行ったというから感嘆する。ソフトウェアなどを通して安易に3D化したのとはモノが違う。完成度が違うのである。
印象深いこの出港場面でも、スクリーンからはみだすような巨大な船体がそそりたって、はじめて体験する臨場感に見惚れるばかり。人々の数の多さ(一部はCG)や、表情のひとつひとつの克明な描写も等身大のリアルさなのだ。サラウンド効果も映像を盛り上げ、包み込むようなコーラスとハーモニーが気分を高揚させる。まるで、自分が航海に旅立つ錯覚である。
“チャプター10”からは、シェルブールなどを経てニューヨークをめざし、いよいよ外洋に出る場面だ。エンジン室がこれまた巨大なメカが回転するパワフルさ。重量感たっぷりで、水を切るスクリューがまた力強く、海中の泡までリアルそのものだ。
見逃せないのが“チャプター19”からの船内のゴージャスな佇まいだろう。本物ソックリに再現された円形のホールや階段、彫刻の施された時計やさまざまな調度度品も素晴らしい。ウインナワルツも流れ、上流階級の気品をふりまくにわか成金の婦人もいたり、うきうきする場面である。
あのお馴染みの名場面が高品位な3Dで蘇った!
そしてタイタニックいえば、“チャプター24”の「アイ・アム・フライ!」がお馴染みの場面だ。ジャックとローズの二人で船首に立ち、手をいっぱいに広げて風をうける。3D版の夕焼けに染まる大海原はどこまでも奥が深く立体的だ。これ以上ないスケールの大きさで、見ていると幸福の絶頂にいるローズになったような気分だ
ローズ役のケイト・ウインスレットの美しさは、“チャプター26”のソファーに横たわるデッサンのシーンが印象的だ。淡いライトに透き通るような肌のみずみずしさが映え、一幅の名画を見るような気分。このシーンでの微妙な階調や陰影の描きは、エプソンTW8100のクオリティの高さといえるだろう。
だが悲劇はここから始まる。“チャプター31”の氷山衝突だ。北大西洋のニューファウンドランド沖、凍てつくような夜の海である。突如目の前に現れた氷塊は小さく見えるが、水面下が実は怖い。衝突を避けるべく、タイタニックは舵をきり必死の方向転換をはかる、この緊迫の場面も、3Dだと氷山までの距離や方向が体感できるようでさらにリアルなのだ。
乗組員の動きもあわただしく、早いテンポの音楽が不安さをかきたてる。蒸気弁を閉じ、巨大なエンジンを逆転。舵もいっぱいだ。懸命の操作で方向を変えかかったが、よけきれずに右底部を大きく破損してしまう。
衝撃のすさまじさは、破壊音と船内にどっと噴き出す海水のすごさから実感できる。2.200人をのせたタイタニックは大混乱に陥り、頼みの防水隔壁(16区画ある)も次々に突破され、「アイ・アム・フライ!」のあの船首の方から、巨大な船体が傾きはじめるのだ。次々にボートが降ろされ、避難する人々。乗りきれずパニックになって、船内は大混乱に陥った。その光景がスクリーンいっぱいに映されひしひしと臨場感が伝わってくる。
既に客室まで海水が押し寄せ、ベッドや椅子、そして客たちも大量の水圧に流されてしまう。船体のきしむ不気味な音や洪水のような水流の効果音に包まれ、映像とサラウンドがつくる惨劇の生々しさは言葉で表現できないほどだ。
だが次に来るのは、もっと悲惨な光景だった。ここでのカメラワークは正確で、ぐっとひいた位置でとらえた船体は、じわじわと傾斜を増しながら最後をむかえようとする。どのようにして沈没するのだろうか。
キャメロン監督が描いたのは、克明な事実にもとづいたものだが、映像の力はすごい。全長270メートル、高さ53メートルのタイタニックに急角度がつくと、とてつもない事態がおこるのだ。あれほど人々でにぎわったプロムナードデッキがすべり台のような凶器になるとは信じれない光景だろう。だが事実は事実。悲鳴をあげながら次々に滑り落ち、あるものはそのまま海に落下したり、あちこちにぶつかって負傷、絶命する。
惨劇のクライマックスは“チャプター53”の、浮いた船尾側の重量に耐えきれず、まっぷたつに船体が折れるシーンだ。びりびりと亀裂が入って、大きく裂けてゆく。あのシンボルの4本煙突も次々に大音響とともに倒壊する。無残だ。そして頭から没していくと、船尾をビルよりも高くもちあげ、垂直にそそりたってしまう。左右2軸のスクリューが空を向き、その背景には瞬く星が見えている。必死でしがみつく人々の表情、力尽きて落下する人たち。信じられない光景だ。
3Dが描く船体の胴のふくらみや質感、天をつく立体はリアルで、体がすくむような高さの表現も精密な3D作品ならではのもの。黒の沈み、力強いコントラスト感などプロジェクターの表現力が試されるシーケンスといえる。そして一旦船尾が海上に倒れ落ちると(この音響効果、音の立体感もすごい)、そのまま船首とともに海没するのだ。
1912年のタイタニックの海難事故から100年の年に、敢えて困難な3D化に挑んだ意義は大きい。素晴らしい完成度をぜひ大スクリーンで体験して欲しいものだ。
◆プロフィール:林 正儀
福岡県出身。工学院大学で電子工学を専攻。その後、電機メーカー勤務を経て、技術系高校の教師というキャリアを持つ。現在、日本工学院専門学校の講師で、音響・ホームシアターの授業を受け持つ。教鞭をとっている経験から、初心者向けに難しい話題をやさしく説明するテクニックには特に定評がある。
第1回目は明るい3D映像を実現した“ドリーミオ”フラグシップ機のTW8100でまず「タイタニック」をHDMI接続にて観賞。続いて「アバター」の方は弟機のTW6100Wだが、こちらは末尾に「W」のつくWirelessHD(60GHz帯のワイヤレスAV伝送技術)搭載タイプを用意した。付属のトランスミッターによって画質劣化のないフルHDの3D映像と音もスマートな無線伝送ができるモデルだ。
エプソン「EH-TW8100」で
「タイタニック 3D・2Dブルーレイスペシャルエディション」を見る
本作はBDディスク2枚組という最高品質にこだわった3D化映像だ。ほぼ原寸大のセットを建造して撮影したというだけに実在感は圧倒的で、「夢の船」といわれたタイタニック号の豪華さは、チャプター8のサウザンプトン出港のシーンでまず体感できる。
オリジナルの2Dバージョンと見比べても、すばらしくクリアで高S/N。発色のよさや画像そのものの品位が高く、遠近のフォーカス感や飛び出しも実にナチュラルで目が疲れない。そして、明るい。これは元々3Dで撮影した映像なのではないかと、どのシーンを見ても実感させられるのだ。3D化には60週間以上の時間を費やしたとのこと。300人のスタッフを集め、髪の毛1本1本まで奥行と厚みを与えるプロセスを、すべて手作業で行ったというから感嘆する。ソフトウェアなどを通して安易に3D化したのとはモノが違う。完成度が違うのである。
印象深いこの出港場面でも、スクリーンからはみだすような巨大な船体がそそりたって、はじめて体験する臨場感に見惚れるばかり。人々の数の多さ(一部はCG)や、表情のひとつひとつの克明な描写も等身大のリアルさなのだ。サラウンド効果も映像を盛り上げ、包み込むようなコーラスとハーモニーが気分を高揚させる。まるで、自分が航海に旅立つ錯覚である。
“チャプター10”からは、シェルブールなどを経てニューヨークをめざし、いよいよ外洋に出る場面だ。エンジン室がこれまた巨大なメカが回転するパワフルさ。重量感たっぷりで、水を切るスクリューがまた力強く、海中の泡までリアルそのものだ。
見逃せないのが“チャプター19”からの船内のゴージャスな佇まいだろう。本物ソックリに再現された円形のホールや階段、彫刻の施された時計やさまざまな調度度品も素晴らしい。ウインナワルツも流れ、上流階級の気品をふりまくにわか成金の婦人もいたり、うきうきする場面である。
あのお馴染みの名場面が高品位な3Dで蘇った!
そしてタイタニックいえば、“チャプター24”の「アイ・アム・フライ!」がお馴染みの場面だ。ジャックとローズの二人で船首に立ち、手をいっぱいに広げて風をうける。3D版の夕焼けに染まる大海原はどこまでも奥が深く立体的だ。これ以上ないスケールの大きさで、見ていると幸福の絶頂にいるローズになったような気分だ
ローズ役のケイト・ウインスレットの美しさは、“チャプター26”のソファーに横たわるデッサンのシーンが印象的だ。淡いライトに透き通るような肌のみずみずしさが映え、一幅の名画を見るような気分。このシーンでの微妙な階調や陰影の描きは、エプソンTW8100のクオリティの高さといえるだろう。
だが悲劇はここから始まる。“チャプター31”の氷山衝突だ。北大西洋のニューファウンドランド沖、凍てつくような夜の海である。突如目の前に現れた氷塊は小さく見えるが、水面下が実は怖い。衝突を避けるべく、タイタニックは舵をきり必死の方向転換をはかる、この緊迫の場面も、3Dだと氷山までの距離や方向が体感できるようでさらにリアルなのだ。
乗組員の動きもあわただしく、早いテンポの音楽が不安さをかきたてる。蒸気弁を閉じ、巨大なエンジンを逆転。舵もいっぱいだ。懸命の操作で方向を変えかかったが、よけきれずに右底部を大きく破損してしまう。
衝撃のすさまじさは、破壊音と船内にどっと噴き出す海水のすごさから実感できる。2.200人をのせたタイタニックは大混乱に陥り、頼みの防水隔壁(16区画ある)も次々に突破され、「アイ・アム・フライ!」のあの船首の方から、巨大な船体が傾きはじめるのだ。次々にボートが降ろされ、避難する人々。乗りきれずパニックになって、船内は大混乱に陥った。その光景がスクリーンいっぱいに映されひしひしと臨場感が伝わってくる。
既に客室まで海水が押し寄せ、ベッドや椅子、そして客たちも大量の水圧に流されてしまう。船体のきしむ不気味な音や洪水のような水流の効果音に包まれ、映像とサラウンドがつくる惨劇の生々しさは言葉で表現できないほどだ。
だが次に来るのは、もっと悲惨な光景だった。ここでのカメラワークは正確で、ぐっとひいた位置でとらえた船体は、じわじわと傾斜を増しながら最後をむかえようとする。どのようにして沈没するのだろうか。
キャメロン監督が描いたのは、克明な事実にもとづいたものだが、映像の力はすごい。全長270メートル、高さ53メートルのタイタニックに急角度がつくと、とてつもない事態がおこるのだ。あれほど人々でにぎわったプロムナードデッキがすべり台のような凶器になるとは信じれない光景だろう。だが事実は事実。悲鳴をあげながら次々に滑り落ち、あるものはそのまま海に落下したり、あちこちにぶつかって負傷、絶命する。
惨劇のクライマックスは“チャプター53”の、浮いた船尾側の重量に耐えきれず、まっぷたつに船体が折れるシーンだ。びりびりと亀裂が入って、大きく裂けてゆく。あのシンボルの4本煙突も次々に大音響とともに倒壊する。無残だ。そして頭から没していくと、船尾をビルよりも高くもちあげ、垂直にそそりたってしまう。左右2軸のスクリューが空を向き、その背景には瞬く星が見えている。必死でしがみつく人々の表情、力尽きて落下する人たち。信じられない光景だ。
3Dが描く船体の胴のふくらみや質感、天をつく立体はリアルで、体がすくむような高さの表現も精密な3D作品ならではのもの。黒の沈み、力強いコントラスト感などプロジェクターの表現力が試されるシーケンスといえる。そして一旦船尾が海上に倒れ落ちると(この音響効果、音の立体感もすごい)、そのまま船首とともに海没するのだ。
1912年のタイタニックの海難事故から100年の年に、敢えて困難な3D化に挑んだ意義は大きい。素晴らしい完成度をぜひ大スクリーンで体験して欲しいものだ。
◆プロフィール:林 正儀
福岡県出身。工学院大学で電子工学を専攻。その後、電機メーカー勤務を経て、技術系高校の教師というキャリアを持つ。現在、日本工学院専門学校の講師で、音響・ホームシアターの授業を受け持つ。教鞭をとっている経験から、初心者向けに難しい話題をやさしく説明するテクニックには特に定評がある。