【特別企画】オーディオアクセサリー誌「ラック裏の流儀」がウェブ出張
「買います。もう外せません」 ‐ インシュレーター「ウィンドベル」体験者が感じた魅力とは?
■待ち焦がれた大型タイプに今回の取材でついに初対面
齋藤晴彦さんに「ラック裏」(※弊社刊行「オーディオアクセサリー」誌での連載「ラック裏の流儀」)の取材アポをとるときに「そういえば、最近になにかいいアクセサリーはありましたか?」と余談がてらにたずねると「ウィンドベルのインシュレーターがよかったですね」という返事だった。
このインシュレーターはスプリングを利用したフローティング構造で、防振に重きをおいている。爪で弾くと名称の通りウィンドベル(風鈴)の音がするらしい。この風鈴の原理で特性を向上させる効果もあるそうだ。説明が伝聞調なのは、取材時点ではぼくはまだ聴いたことがなかったためだ。
「大型モデルが登場したのも非常に楽しみなんです。スピーカーに使ってみたいので」
「そんなにいいですか。だったら、メーカーにお願いして借りてみますか。一人でセットするのはたいへんなので、いいチャンスですよね」
ぼくは「ラック裏」の最後に、ウィンドベルを取り出して実験してみるという軽いノリでそう提案したのだが、編集者に言わせると「お、それはおもしろいじゃないですか。読者体験企画ですね。独立させてページを組みましょう」という反応があり、こうして拡大版になった。
齋藤さんはすでにウィンドベルのWB-30をCDプレーヤーに使っている。
「発想が新しいのでぜひ試したいと思って入れてみました。分解能がよくなりましたね」
「高域に風鈴の音がのって、なんとなく錯覚しているということはないですか」
「それはないですね。すぐにスピーカーの下に入れたくなりましたからね。でも4個の耐荷重が30kgなので無理でした。そうしたら80kg版のWB-60が出るという情報が入ってきて、期待して待っていたわけです」
■WB-60をスピーカーで試す ‐ 付属アタッチメントを装着/安全対策も念入りに設計
ディナウディオC4はスパイクが付いている。WB-60には小さなくぼみがあり、スパイク受けとしても使える。だがスパイクの先端がさほど鋭利ではないため、そのくぼみが小さすぎるようだった。聴いているうちに穴からはずれて転倒でもしたらたいへんなことになる。そこでC4のスパイクを避けるかたちで、そのまま入れてみた。
試聴ディスクはライオネル・ハンプトンの『スターダスト』。1947年と古い録音だが、時代から信じられないくらい音がいい。「ハンプトンのヴィブラフォンをきれいに響かせたい」。チョイスの理由はそこだった。
オーナーは「音が柔らかくなった」とつぶやいた。
これはもちろん腰がなくなったという意味ではなく、しやなかになったということ。そのため開放感も出た。
「これは以前CDプレーヤーに入れたときと同じ印象ですか」
「まあ、そうですね‥‥」
齋藤さんは急に無口になって浮かない顔をしている。思ったほどの結果ではなかったのか。
音ではなかった。ディナウディオC4は見た通りトール型のスピーカーだ。重心が高いため、もし地震が起きたら横すべりするのではと心配し、購買意欲が急速になえていたのである。
だが、ウィンドベルの製造元、特許機器は建築や精密機器などの防振や制振を専門としている。そこはぬかりがない。ウィンドベルの安全対策も念入りに考えられていて、アタッチメントが別売りされていた。これを使ってスピーカーに固定できる。
■声や楽器がきれいに独立 ‐ 曖昧に重なる音が減った
ぼくらの意図は、アタッチメントの有り無し比較をしたかっただけなのだが、振り出しに戻った気分で、アタッチメント付きWB-60をC4にネジ止めした。ネジ径はM8でぴったりだった。
曲は同じく「スターダスト」。曲の途中で自然にコメントが出てきた。
「これはすごくいいですよ。全体がしなやかになって低音の出方が変わった」
床振動による諸影響をフローティング方式が絶ちきったためだろうか。妙に開放感がある。スピーカーがのびのび歌っている。齋藤さんが大好きだというマライア・キャリー、ではなくマライア・キャリーの「ウィズアウト・ユー」で流れるピアノ、続けてゴンチチを聴いてみる。装着前の音と比べて声や楽器がきれいに独立する。曖昧に重なる音が減った。風鈴的な高域の色が耳につくこともない(これはどうしても不思議)。
「買います。もう外せません」と齋藤さんは高らかに宣言した。
外せませんと言われても、売り物ではない。情け容赦なく現状復帰して、もう一度同じソフトを聴いてみた。
「薄っぺらいですね。団子になっているし、平面的で奥に引っ込んじゃいました」
齋藤さんは複雑な表情だった。
それから3週間して電話をしてみた。あれからすぐにWB-60は購入したという。試聴したときの音よりもさらに明快度がアップしているそうだ。荷重に対してスプリングが馴染み、それがプラス方向に働いているとぼくは理解した。