1月10日公開「シライサン」
3Dサウンド副音声上映「イヤホン360」をさっそく体験!どんなイヤホンが向いているか検証
■ “戦慄の3Dサウンド” スマホアプリ活用で映画に新しい楽しみを付加する「イヤホン360」を体験
2020年1月10日(金)から全国公開中のホラー映画『シライサン』は、劇場公開作品として初めて「イヤホン360上映」という画期的な試みを行っている。
早速、公開初日に鑑賞したので、その実力をレポートしたい。
「イヤホン360」とは、劇場内で観客持参のイヤホンとスマートフォン/タブレットを使用して、スマホアプリで映画本編にはない特別な音を付加して鑑賞できるというもの。技術的には、エヴィクサーの開発した「Another Track」(アナザー・トラック)を使用している。
これまでも「Another Track」は、アニメ「ワンピース」で登場キャラクターが副音声解説をしたり、スマートグラスに"聴覚障がい者向け"の字幕を表示したりといった、さまざまな取り組みを行ってきた。
厳密には「Another Track」は音声サービスではない。スマホのマイクを使って、コンテンツの音声に同期してアプリやプログラムを動作させることができる技術である。アイデア次第で無限の可能性があり、言い換えれば、単なるトリガー(引き金)だ。「イヤホン360」ではこのうちの副音声再生機能を活用しているに過ぎない。スマホ以外のデバイスを動作させることもできるのだ。
■主音声を聴きながら、イヤホンからの副音声を楽しむというスタイル
「イヤホン360」が普通の副音声と異なるのは、劇場スピーカーからの主音声を聴きながら、イヤホンからの副音声を楽しむというスタイルにある。普通に通常上映を楽しむこともできるし、イヤホンを装着すれば、特殊な効果音を重ねることができる。『シライサン』はホラー映画のため、松竹では"戦慄の3Dサウンド”と表現している。ホラー映画ファンには新たな楽しみを見つけることができるはずだ。
実はコレ、映画の「セリフ(主音声)」を聴きながら「解説(副音声)」を聞く、視覚障がい者向用音声ガイド(UDcastのサービスの一部)と概念は似ている。しかしながら映画製作者が積極的に効果を計算して"別バージョン"を用意するという点で、まったく"新しい"のである。「イヤホン360」というサービス名称を用意しているのも、これから他の作品に採用される可能性を感じさせる。
「イヤホン360」を楽しむのに、追加料金はいらない。スマホとイヤホンが観客所有のものであること、映画コンテンツそのものに加工の必要がなく劇場側にも専用設備が必要ないため、通常上映と変わらずサービスが提供できるからだ。
■「イヤホン360」を楽しむ前に準備すること
では、実際に「イヤホン360」を楽しんでみよう。
劇場に行く前に、スマホに「Another Track」のアプリやデータをダウンロードしておこう。上映の直前では慌ただしいし、Wi-Fi環境があったほうがダウンロードがスムーズだ。
「Another Track」アプリは、iOS版とAndroid版があり、App StoreまたはGoogle Playから入手できる。アプリのダウンロードが終わったら、アプリを起動して「シライサン」のデータを取得しよう(約27MB)。
準備しておけば、あとは上映時にアプリを起動するだけだ。イヤホンを忘れないことと、充電を十分にしておくことにも気をつけたい。満充電でも上映中に30%くらいは消費してしまう。
■これは楽しい! 恐怖シーンで効果音や重低音が畳み掛けてくる
『シライサン』は、飯豊まりえが初めて映画単独主演を務める作品。監督は小説家「乙一」として知られる安達寛高。彼の長編監督デビューであり、監督自身が原案・脚本も手がけている注目作だ。
上映が始まってみると……これは楽しい! ホラー映画特有の効果音に重ね合わせるように、重低音が畳み掛けてくる。耳元でささやく声や吐息のような音、足音などもある。意図されたタイムラグで音が襲ってきたりもする。
怖いのはシライサンの容姿と鈴の音だ。異様に目が大きく、名前を知っている人に近づいてくる"シライサン"。合掌した手のひらに杭が打たれ、そこに鈴がついていて、シライサンが近づいてくると、鈴の音が鳴る。
最初はたわいない怪談噺と思いきや、その"シライサン"という名前を知ってしまった人が次々と殺されていく。"シライサン"は、『リング』の"貞子"や『呪怨』の"俊雄"を意識したジャパニーズ・ホラーの新しいキャラクター企画といってもよい。"名前を知る"という拡散により襲われるという連鎖は、SNS時代を象徴している。
■「イヤホン360」体験に最適なのは?様々なイヤホン/ヘッドホンで試してみた
さて「イヤホン360」は、インナーイヤータイプのイヤホンを使うことが推奨されている。イヤホンのボリュームは最大にしておき、劇場スピーカーからの主音声で作品を鑑賞しながら、イヤホンからの追加音声を楽しむようチューニングされているのだ。
ただ、多彩なモデルが存在するイヤホン/ヘッドホン。どんなタイプがマッチするのか興味深いところだ。まずは試しにオーバーヘッド型ヘッドホンを装着してみた。……一応、楽しむことはできるが、作品の主音声を遮ることになり、バランスがよろしくない。ということは、カスタムインイヤーモニターなど外音をシャットアウトする性能が高いモデルは、使わないほうがいいだろう。
次にbluetoothイヤホン、SONYのWI-1000XM2を使ってみた。「イヤホン360」では有線タイプが推奨されているが、bluetoothイヤホンでも問題なく使えた。
最新鋭ノイズキャンセリング機能を持つ本機は、前述の外音遮断の理由から「イヤホン360」と相性は合わないかと思いきや、WI-1000XM2のコントロールアプリによって外音取り込み加減が調整できるので、意外と面白い。
基本的にはノイズキャンセリング機能を限りなくオフにしたほうがいいが、「イヤホン360」用の効果音を好みで際立たせることができたりもする。
■主音声も副音声も聞こえる骨伝導タイプで聴く
さらに興味は尽きない。主音声(劇場スピーカー)と副音声(イヤホン)を両方、フルに聴けたらどうなるだろう。そこで、earsopenの骨伝導イヤホンWR-6を用意してみた。耳に挟み込んで使う骨伝導タイプならば、映画の主音声はそのまま耳で聴くことができることになる。
主音声も副音声も聞こえるのだが、思った通りというか、あまり感動は得られない。「シライサン」の副音声には、とても細かい微小音が入っている。それが劇場のスピーカー音量に圧されて聞き取りにくくなるのだ。
ただ、骨伝導イヤホンがいい部分もあった。重低音の効果音は、まさに主音声に重なり恐怖はゾクゾクとせまってくる。
やはり「イヤホン360」は汎用のインナーイヤー型イヤホンにチューニングされているということだろう。
■「通常版」と「イヤホン360版」のどちらから観るべきか
では「通常版」と「イヤホン360版」のどちらから先に観ればいいだろうか。取材ということもあり、筆者はいきなり「イヤホン360」で鑑賞した。職業病とでもいうべきか、イヤホン360の効果検証に気を取られて、映画の怖さがなかなか入ってこないという始末。改めて通常版を観て、ようやく『シライサン』のストーリーが見えた。
当たり前だが、通常版はホラー映画として普通に完成している。ところが先に「イヤホン360」の副音声を知ってしまっていると、肩透かし的な印象も避けられない。やはり通常音声版から観た方がいい。それのほうが「イヤホン360」がさらに楽しめることになる。
「イヤホン360」は、映画館オンリーの上映バージョンである。そのため、アプリデータには提供期限がある。Blu-rayパッケージや放送・配信サービスで提供される際にアプリデータが提供されていれば、同じ効果を楽しむことはできるが、自宅などでスピーカーとイヤホンを同時に使うことは普通には考えにくい。
そのため映画館における上映期間中だけの、映画の新しい楽しみとして期待ができる。最初は通常上映で鑑賞し、そして「イヤホン360」で2度、3度と楽しめる。
「シライサン」では、エンドロールで流れる主題歌の間も、館内が明るくなる直前まで、イヤホン360に独自の音声が入っている。ぜひ劇場で確認してほしい。
2020年1月10日(金)から全国公開中のホラー映画『シライサン』は、劇場公開作品として初めて「イヤホン360上映」という画期的な試みを行っている。
早速、公開初日に鑑賞したので、その実力をレポートしたい。
「イヤホン360」とは、劇場内で観客持参のイヤホンとスマートフォン/タブレットを使用して、スマホアプリで映画本編にはない特別な音を付加して鑑賞できるというもの。技術的には、エヴィクサーの開発した「Another Track」(アナザー・トラック)を使用している。
これまでも「Another Track」は、アニメ「ワンピース」で登場キャラクターが副音声解説をしたり、スマートグラスに"聴覚障がい者向け"の字幕を表示したりといった、さまざまな取り組みを行ってきた。
厳密には「Another Track」は音声サービスではない。スマホのマイクを使って、コンテンツの音声に同期してアプリやプログラムを動作させることができる技術である。アイデア次第で無限の可能性があり、言い換えれば、単なるトリガー(引き金)だ。「イヤホン360」ではこのうちの副音声再生機能を活用しているに過ぎない。スマホ以外のデバイスを動作させることもできるのだ。
■主音声を聴きながら、イヤホンからの副音声を楽しむというスタイル
「イヤホン360」が普通の副音声と異なるのは、劇場スピーカーからの主音声を聴きながら、イヤホンからの副音声を楽しむというスタイルにある。普通に通常上映を楽しむこともできるし、イヤホンを装着すれば、特殊な効果音を重ねることができる。『シライサン』はホラー映画のため、松竹では"戦慄の3Dサウンド”と表現している。ホラー映画ファンには新たな楽しみを見つけることができるはずだ。
実はコレ、映画の「セリフ(主音声)」を聴きながら「解説(副音声)」を聞く、視覚障がい者向用音声ガイド(UDcastのサービスの一部)と概念は似ている。しかしながら映画製作者が積極的に効果を計算して"別バージョン"を用意するという点で、まったく"新しい"のである。「イヤホン360」というサービス名称を用意しているのも、これから他の作品に採用される可能性を感じさせる。
「イヤホン360」を楽しむのに、追加料金はいらない。スマホとイヤホンが観客所有のものであること、映画コンテンツそのものに加工の必要がなく劇場側にも専用設備が必要ないため、通常上映と変わらずサービスが提供できるからだ。
■「イヤホン360」を楽しむ前に準備すること
では、実際に「イヤホン360」を楽しんでみよう。
劇場に行く前に、スマホに「Another Track」のアプリやデータをダウンロードしておこう。上映の直前では慌ただしいし、Wi-Fi環境があったほうがダウンロードがスムーズだ。
「Another Track」アプリは、iOS版とAndroid版があり、App StoreまたはGoogle Playから入手できる。アプリのダウンロードが終わったら、アプリを起動して「シライサン」のデータを取得しよう(約27MB)。
準備しておけば、あとは上映時にアプリを起動するだけだ。イヤホンを忘れないことと、充電を十分にしておくことにも気をつけたい。満充電でも上映中に30%くらいは消費してしまう。
■これは楽しい! 恐怖シーンで効果音や重低音が畳み掛けてくる
『シライサン』は、飯豊まりえが初めて映画単独主演を務める作品。監督は小説家「乙一」として知られる安達寛高。彼の長編監督デビューであり、監督自身が原案・脚本も手がけている注目作だ。
上映が始まってみると……これは楽しい! ホラー映画特有の効果音に重ね合わせるように、重低音が畳み掛けてくる。耳元でささやく声や吐息のような音、足音などもある。意図されたタイムラグで音が襲ってきたりもする。
怖いのはシライサンの容姿と鈴の音だ。異様に目が大きく、名前を知っている人に近づいてくる"シライサン"。合掌した手のひらに杭が打たれ、そこに鈴がついていて、シライサンが近づいてくると、鈴の音が鳴る。
最初はたわいない怪談噺と思いきや、その"シライサン"という名前を知ってしまった人が次々と殺されていく。"シライサン"は、『リング』の"貞子"や『呪怨』の"俊雄"を意識したジャパニーズ・ホラーの新しいキャラクター企画といってもよい。"名前を知る"という拡散により襲われるという連鎖は、SNS時代を象徴している。
■「イヤホン360」体験に最適なのは?様々なイヤホン/ヘッドホンで試してみた
さて「イヤホン360」は、インナーイヤータイプのイヤホンを使うことが推奨されている。イヤホンのボリュームは最大にしておき、劇場スピーカーからの主音声で作品を鑑賞しながら、イヤホンからの追加音声を楽しむようチューニングされているのだ。
ただ、多彩なモデルが存在するイヤホン/ヘッドホン。どんなタイプがマッチするのか興味深いところだ。まずは試しにオーバーヘッド型ヘッドホンを装着してみた。……一応、楽しむことはできるが、作品の主音声を遮ることになり、バランスがよろしくない。ということは、カスタムインイヤーモニターなど外音をシャットアウトする性能が高いモデルは、使わないほうがいいだろう。
次にbluetoothイヤホン、SONYのWI-1000XM2を使ってみた。「イヤホン360」では有線タイプが推奨されているが、bluetoothイヤホンでも問題なく使えた。
最新鋭ノイズキャンセリング機能を持つ本機は、前述の外音遮断の理由から「イヤホン360」と相性は合わないかと思いきや、WI-1000XM2のコントロールアプリによって外音取り込み加減が調整できるので、意外と面白い。
基本的にはノイズキャンセリング機能を限りなくオフにしたほうがいいが、「イヤホン360」用の効果音を好みで際立たせることができたりもする。
■主音声も副音声も聞こえる骨伝導タイプで聴く
さらに興味は尽きない。主音声(劇場スピーカー)と副音声(イヤホン)を両方、フルに聴けたらどうなるだろう。そこで、earsopenの骨伝導イヤホンWR-6を用意してみた。耳に挟み込んで使う骨伝導タイプならば、映画の主音声はそのまま耳で聴くことができることになる。
主音声も副音声も聞こえるのだが、思った通りというか、あまり感動は得られない。「シライサン」の副音声には、とても細かい微小音が入っている。それが劇場のスピーカー音量に圧されて聞き取りにくくなるのだ。
ただ、骨伝導イヤホンがいい部分もあった。重低音の効果音は、まさに主音声に重なり恐怖はゾクゾクとせまってくる。
やはり「イヤホン360」は汎用のインナーイヤー型イヤホンにチューニングされているということだろう。
■「通常版」と「イヤホン360版」のどちらから観るべきか
では「通常版」と「イヤホン360版」のどちらから先に観ればいいだろうか。取材ということもあり、筆者はいきなり「イヤホン360」で鑑賞した。職業病とでもいうべきか、イヤホン360の効果検証に気を取られて、映画の怖さがなかなか入ってこないという始末。改めて通常版を観て、ようやく『シライサン』のストーリーが見えた。
当たり前だが、通常版はホラー映画として普通に完成している。ところが先に「イヤホン360」の副音声を知ってしまっていると、肩透かし的な印象も避けられない。やはり通常音声版から観た方がいい。それのほうが「イヤホン360」がさらに楽しめることになる。
「イヤホン360」は、映画館オンリーの上映バージョンである。そのため、アプリデータには提供期限がある。Blu-rayパッケージや放送・配信サービスで提供される際にアプリデータが提供されていれば、同じ効果を楽しむことはできるが、自宅などでスピーカーとイヤホンを同時に使うことは普通には考えにくい。
そのため映画館における上映期間中だけの、映画の新しい楽しみとして期待ができる。最初は通常上映で鑑賞し、そして「イヤホン360」で2度、3度と楽しめる。
「シライサン」では、エンドロールで流れる主題歌の間も、館内が明るくなる直前まで、イヤホン360に独自の音声が入っている。ぜひ劇場で確認してほしい。