【ネタバレあり】深界五層の呪いをどう表現する?
体液もそれ以外も再現、『メイドインアビス 深き魂の黎明』4DX版を“浴びて”きた
座席の可動や風、水、香りなどのエフェクトによって、映画を “体感できる” 上映スタイルの4DX/MX4D。対応劇場も全国にあり、国内外問わず多くの作品の4DX/MX4D版が公開されている。
劇場版『メイドインアビス 深き魂の黎明』もそんなタイトルのひとつだが、4DX/MX4D版の上映が発表された時は、喜びや興奮よりも「戸惑い」を覚えた方が多いのではないだろうか。
なにせ『メイドインアビス』は、原作漫画の精緻な美術やストーリーのみならず、ダークでハードな世界観や目を背けたくなるほどの残酷な描写まで余すことなく、全力で映像化したことで高い評価を集めたタイトル。
劇場版は、そんな作中で「筋金入りのろくでなし」「ゲス外道」と評される人物「黎明卿ボンドルド」が登場するうえ、上映直前にレーティングがPG12からR15+へと引き上げられたほどに気合の入った一本。素晴らしい出来ではあるが、少なくとも記者は公開初日に観に行って「翌日が休みで本当によかった」と思ったほどにハードだった。
しかも本作の舞台となる大穴アビスは、下降する分には問題ないものの、一定以上の高度を上昇すると心身に不調をきたす“上昇負荷”が存在する。負荷は深度が増すほど強くなり、劇場版で主人公らが訪れる深界五層では「全感覚の喪失と意識の混濁・自傷行為」があらわれる。もしも4DX/MX4Dで100%再現されたとしたら、それはR15+どころではなくなるだろう。
果たしてどのような出来になっているのだろうか、4DX版を鑑賞してきたので、体感レポートをお届けしたい。
なお、ここから先は作品内容のネタバレと4DXの演出内容に言及することとなるため、ネタバレをされたくない、新鮮な気持ちで上昇負荷を味わいたい場合は注意してほしい。
■4DXでは五層の上昇負荷をどう表現する?
今回は上映当日の2月28日に、池袋のグランドシネマサンシャインにて4DX版を鑑賞した。
なお、本作においてほぼ唯一の安息といえる“観る入場者プレゼント”「マルルクちゃんの日常」は4DX/MX4D版では上映されない。つまり、マルルクちゃんは体感できない。残酷だが、深淵に挑むというのはそういうものなのかもしれない。
冒頭の森を抜けてトコシエコウの群生地に到達するシーンでは、弱めの風が劇場内に満ち、空間が少し冷えることで開けた場所に出た感覚を覚える。なるほどな、と思うも束の間、走るレグの顔面めがけてクオンガタリがぶつかり潰れるシーンでは少なめのミストが噴射され、顔にわずかな飛沫がかかる。本当にわずかなのが逆に生々しい。
その後は比較的穏やかな展開が続き、姿の見えないレグとナナチを探すリコが階段を昇り、上昇負荷を受けるシーンが訪れる。鑑賞する上で、最も気になっていたシーンの一つだ。
リコはゆっくりと階段を踏みしめるが、その時点では軽めの衝撃すらない。しかし、砕けた奥歯を手に取るシーンで座席が一度揺れ、次いで頬が切れるのに合わせて左の首元からエアーが噴き出す。ぎょっとしているところで空気が冷え、座席が円を描くようにゆっくりと稼働。リコが自我と感覚を失うのに合わせてバイブレーションが徐々に強まるが、ある地点でぷつりと止まり、感覚の喪失を身をもって体感させられた。
■水やフラッシュが印象的だが、緩急を付けた魅せ方も見事
全編を通して印象的だったのが水の使い方だ。深界五層「なきがらの海」が舞台でありながら、水が使われていたのは8割以上が体液や、それに準ずるものが飛んでくるシーンだったように思う。冒頭のクオンガタリの汁もそうだが、カッショウガシラにボンドルド一行が襲われ血の雨が降るシーンで水が降ってきたのは、なかなかにこたえるものがあった。
同じくらい印象的だったのがフラッシュで、レグの火葬砲やボンドルドのスパラグモス、ギャングウェイといったビーム系の技を効果的に演出していた。特に火葬砲に関しては、チャージ中の空気の爆ぜる感覚がより増幅され、発射までの緊張感を高めていた。
そしてクライマックスのレグとボンドルドの一騎討ちでは、座席が揺れる中でフラッシュと共に火葬砲が放たれ、ファーカレスが撃たれると首元をエアーが乱れ飛び、止めに砦水が崩れてバチバチ水が降ってくる。まさに4DX全部盛りといった状態で、ともすれば肝心の映画に集中できなくなってしまいそうにも思えるが、ハイクオリティなアニメーションと音楽に合わさることで、ここまでで最高潮の没入感を提供してくれるのだ。
だが、個人的に最も素晴らしいと思ったのはその直後、プルシュカの回想シーンだ。それまで激しく飛び交っていたエフェクトはほとんど消え、視点移動に合わせた緩やかな座席の稼働くらいになるのだが、エフェクトが急になくなることでより映像と音が際立ち、通常上映の時よりも深く没入できたように感じられた。
後半では幾度かこのような緩急のついた場面展開があったが、どの場面も没入を邪魔しない最低限レベルのエフェクトで、魅せ方の巧さはさすが『メイドインアビス』だと思わされた。最後の最後には「プルシュカがこぼれちゃう」で大量のミストを噴射され、別の方面での『メイアビ』らしさも突きつけられたが。
注目したいポイントは他にもたくさんあるが、全体を通して『メイドインアビス 深き魂の黎明』の4DX版は、「ゲス外道」な部分も含め作品が持つ面白さをより強く感じさせてくれる出来であった。もちろん観終わったら身体中の穴という穴から血が吹き出していたとか、ナナチのようなフワフワのぬいぐるみになっていた、なんてことはないので、ぜひともその「呪いと祝福」を劇場で体感してみてほしい。
(C)つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会
劇場版『メイドインアビス 深き魂の黎明』もそんなタイトルのひとつだが、4DX/MX4D版の上映が発表された時は、喜びや興奮よりも「戸惑い」を覚えた方が多いのではないだろうか。
なにせ『メイドインアビス』は、原作漫画の精緻な美術やストーリーのみならず、ダークでハードな世界観や目を背けたくなるほどの残酷な描写まで余すことなく、全力で映像化したことで高い評価を集めたタイトル。
劇場版は、そんな作中で「筋金入りのろくでなし」「ゲス外道」と評される人物「黎明卿ボンドルド」が登場するうえ、上映直前にレーティングがPG12からR15+へと引き上げられたほどに気合の入った一本。素晴らしい出来ではあるが、少なくとも記者は公開初日に観に行って「翌日が休みで本当によかった」と思ったほどにハードだった。
しかも本作の舞台となる大穴アビスは、下降する分には問題ないものの、一定以上の高度を上昇すると心身に不調をきたす“上昇負荷”が存在する。負荷は深度が増すほど強くなり、劇場版で主人公らが訪れる深界五層では「全感覚の喪失と意識の混濁・自傷行為」があらわれる。もしも4DX/MX4Dで100%再現されたとしたら、それはR15+どころではなくなるだろう。
果たしてどのような出来になっているのだろうか、4DX版を鑑賞してきたので、体感レポートをお届けしたい。
なお、ここから先は作品内容のネタバレと4DXの演出内容に言及することとなるため、ネタバレをされたくない、新鮮な気持ちで上昇負荷を味わいたい場合は注意してほしい。
■4DXでは五層の上昇負荷をどう表現する?
今回は上映当日の2月28日に、池袋のグランドシネマサンシャインにて4DX版を鑑賞した。
なお、本作においてほぼ唯一の安息といえる“観る入場者プレゼント”「マルルクちゃんの日常」は4DX/MX4D版では上映されない。つまり、マルルクちゃんは体感できない。残酷だが、深淵に挑むというのはそういうものなのかもしれない。
冒頭の森を抜けてトコシエコウの群生地に到達するシーンでは、弱めの風が劇場内に満ち、空間が少し冷えることで開けた場所に出た感覚を覚える。なるほどな、と思うも束の間、走るレグの顔面めがけてクオンガタリがぶつかり潰れるシーンでは少なめのミストが噴射され、顔にわずかな飛沫がかかる。本当にわずかなのが逆に生々しい。
その後は比較的穏やかな展開が続き、姿の見えないレグとナナチを探すリコが階段を昇り、上昇負荷を受けるシーンが訪れる。鑑賞する上で、最も気になっていたシーンの一つだ。
リコはゆっくりと階段を踏みしめるが、その時点では軽めの衝撃すらない。しかし、砕けた奥歯を手に取るシーンで座席が一度揺れ、次いで頬が切れるのに合わせて左の首元からエアーが噴き出す。ぎょっとしているところで空気が冷え、座席が円を描くようにゆっくりと稼働。リコが自我と感覚を失うのに合わせてバイブレーションが徐々に強まるが、ある地点でぷつりと止まり、感覚の喪失を身をもって体感させられた。
■水やフラッシュが印象的だが、緩急を付けた魅せ方も見事
全編を通して印象的だったのが水の使い方だ。深界五層「なきがらの海」が舞台でありながら、水が使われていたのは8割以上が体液や、それに準ずるものが飛んでくるシーンだったように思う。冒頭のクオンガタリの汁もそうだが、カッショウガシラにボンドルド一行が襲われ血の雨が降るシーンで水が降ってきたのは、なかなかにこたえるものがあった。
同じくらい印象的だったのがフラッシュで、レグの火葬砲やボンドルドのスパラグモス、ギャングウェイといったビーム系の技を効果的に演出していた。特に火葬砲に関しては、チャージ中の空気の爆ぜる感覚がより増幅され、発射までの緊張感を高めていた。
そしてクライマックスのレグとボンドルドの一騎討ちでは、座席が揺れる中でフラッシュと共に火葬砲が放たれ、ファーカレスが撃たれると首元をエアーが乱れ飛び、止めに砦水が崩れてバチバチ水が降ってくる。まさに4DX全部盛りといった状態で、ともすれば肝心の映画に集中できなくなってしまいそうにも思えるが、ハイクオリティなアニメーションと音楽に合わさることで、ここまでで最高潮の没入感を提供してくれるのだ。
だが、個人的に最も素晴らしいと思ったのはその直後、プルシュカの回想シーンだ。それまで激しく飛び交っていたエフェクトはほとんど消え、視点移動に合わせた緩やかな座席の稼働くらいになるのだが、エフェクトが急になくなることでより映像と音が際立ち、通常上映の時よりも深く没入できたように感じられた。
後半では幾度かこのような緩急のついた場面展開があったが、どの場面も没入を邪魔しない最低限レベルのエフェクトで、魅せ方の巧さはさすが『メイドインアビス』だと思わされた。最後の最後には「プルシュカがこぼれちゃう」で大量のミストを噴射され、別の方面での『メイアビ』らしさも突きつけられたが。
注目したいポイントは他にもたくさんあるが、全体を通して『メイドインアビス 深き魂の黎明』の4DX版は、「ゲス外道」な部分も含め作品が持つ面白さをより強く感じさせてくれる出来であった。もちろん観終わったら身体中の穴という穴から血が吹き出していたとか、ナナチのようなフワフワのぬいぐるみになっていた、なんてことはないので、ぜひともその「呪いと祝福」を劇場で体感してみてほしい。
(C)つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会