【特別企画】増幅回路、そしてボリュームをさらに進化
プリアンプに求められる性能を徹底追求。空間情報にさらなる余裕を生むラックスマン「C-10X」の実力
2025年に創業100周年を迎えるラックスマン。フラグシッププリアンプ「C-10X」は、オリジナルの増幅帰還エンジン「LIFES」と電子制御式アッテネーター「LECUA-EX」により、プリアンプに求められる静粛さやパワーアンプのドライブ能力を高次元で実現した、同社の新世紀を担うべく開発されたモデルである。そのサウンドを評論家の山之内 正氏が解説する。
頂点に位置する製品は次世代を見据えた設計でブランドの方向を明示するだけでなく、いずれ姉妹機にも継承可能な形で技術を発展させることも意識しなければならない。フラグシップ機の開発目標を掲げたリストには、難度の高い特別な要求項目が並んでいるのだ。
2年後の2025年に創業100周年を迎えるラックスマンの場合、将来まで語り継がれるような銘機の完成を周囲から期待されているので、開発陣へのプレッシャーはさらに強まるはずだ。
そんな背景のなか、プリアンプの最上位機「C-10X」が誕生した。「C-900u」から10年という節目の年に登場し、先行して発売されたステレオパワーアンプ「M-10X」とのペアが完成する。今回は「D-10X」を加えた最上位システムで試聴に臨んだ。
C-10Xの核心部分は、いずれも数年前から準備し、他の製品にも導入済みの技術を基盤に据えている。ただし、その設計手法をさらに突き詰めることで、新たなステージに上がっていることが重要だ。新世代の増幅回路「LIFES」はM-10XやL-509Zで高い評価を得ているが、プリアンプに初搭載するにあたってフルバランス化を実現。
回路規模は大きくなるが、歪みを抑える効果は確実に向上し、S/Nの改善も6dBに及び、フラグシップならではの音を生む原動力になる。バラつきの少ない素子を導入して安定度を高めた定電圧回路、気温や電源電圧の変動による影響を抑える新設計の定電流回路はいずれも安定した増幅に寄与しているという。名称は従来と同じだが、中身は格段の進化を遂げているのだ。
ちなみに今回アンプ全体のゲインは前作より3dB大きい15dBに上がっているので、パワーアンプのドライブ能力に余裕が生まれることが期待できる。
ボリュームの進化も重要だ。重量回転機構付きのロータリーエンコーダーを組み込むというLECUA-EXの特徴に加え、今回は192ステップのきめ細かい音量調節を実現したことが新しい。最初にLECUA-EXを導入したL-509Zは従来通り88接点なので、今回のステップ数の増大は2倍を超えている。
洗練された手法で切り替えノイズを抑えていることもあり、特に小音量の領域できめ細かく滑らかに音量をコントロールできるメリットを実感できる。また、ノブを素早く回したり、リモコンの音量ボタンを長押しすると、音量の上がり方が加速する。実際に操作すればすぐに分かるが、自然な操作感は以前とは別物だ。
実機に接すると外観の一部が大胆に変更されたことに気付く。フロントパネル周囲に深めの「くびれ」を作り、立体感を印象付ける造形に生まれ変わっているのだ。洗練されたデザインのテイストを継承しつつ、細部の処理で存在感を高める手法が秀逸。M-10Xと並べた時の統一感にも注目したい。
C-10XとM-10Xの組み合わせで最初に聴いたラヴェルの「高雅で感傷的なワルツ」は、ウィルソン指揮、シンフォニア・オブ・ロンドンの演奏だ。CHANDOSの優れた録音技術の極致というべき名録音で、ラックスマンの試聴室に深々としたステージが展開した。手前の弦楽器と後方の管・打楽器がたんに離れているのではなく、同一のフレーズでは息遣いまでピタリと揃って遅れやにじみがない。
ラヴェルは弱音のなかで色彩とグラデーションを無限に描き分け、演奏と録音はそれを漏らさず表現している。肝心の再生段階でディテールが埋もれてしまうと良さが伝わらないのだが、ここで聴いた音は描写のきめが異様なほどに細かく、滑らかな高弦の感触や低弦と打楽器のオープンな低音など、この録音の特徴をそのまま体感することができた。
ヘンデル『水上の音楽』をサヴァールの名盤で聴くと、ステージだけでなく録音会場全体をゆったりと満たす余韻の柔らかさに思わずため息が出た。長い残響にモヤモヤとした澱みは皆無で、ピリオド楽器のホルンとトランペットが奏でる音色の豊かさを隅々まで聴き取れる。倍音の構成が現代楽器とまるで違うからこんな面白い音が出るのだが、フラグシップで揃えた今回のシステムはその特徴を見事に引き出してくれた。
セリア・ネルゴールのヴォーカルは静と動の対比が鮮やかな2曲を再生。最小限の打楽器が思い出したようにリズムを刻むだけの曲では、静寂からの声の立ち上がりが息を潜めたくなるほどリアルで、バンジョーの古めかしい音やグロッケンシュピールの澄んだ高音が静謐な空気を貫通する様子も生々しい。
リズム楽器が目まぐるしく入れ替わる「マイ・クラウデッド・ハウス」ではベースが刻むリズムに緩みがなく、スティールパンやヴィブラフォンは複雑な高調波成分まで忠実に再現。騒々しさを狙った音作りだが声にはかぶらない。最後に位相を回した雷のエフェクトが入るが、その高さの表現がなんと正確なことか。これは紛れもなくアンプの位相精度の高さを物語るものだ。
ビル・エヴァンス・トリオの1969年の『ワルツ・フォー・デビイ』では、エディ・ゴメスのベースの実在感が聴きどころだ。楽器の音像がぼやけず、右手で弦をはじく位置やボディの背板の鳴りの良さまで聴き取れる。弦に指が当たる瞬間の音は楽音ではないが、そこがなまるとベースらしさが伝わらない。ベーシストが聴けば精度の高さにすぐ気付くはずだ。
確認のためにC-900uの再生音も確認したが、ステージの深さなど空間情報に格段の余裕が生まれ、静寂表現でもC-10Xの優位は明らかだった。10年の時を経た進化はさすがに大きいことを実感した。
(提供:ラックスマン)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー189号』からの転載です。
創業100周年を見据えたラックスマンの新たな挑戦
頂点に位置する製品は次世代を見据えた設計でブランドの方向を明示するだけでなく、いずれ姉妹機にも継承可能な形で技術を発展させることも意識しなければならない。フラグシップ機の開発目標を掲げたリストには、難度の高い特別な要求項目が並んでいるのだ。
2年後の2025年に創業100周年を迎えるラックスマンの場合、将来まで語り継がれるような銘機の完成を周囲から期待されているので、開発陣へのプレッシャーはさらに強まるはずだ。
そんな背景のなか、プリアンプの最上位機「C-10X」が誕生した。「C-900u」から10年という節目の年に登場し、先行して発売されたステレオパワーアンプ「M-10X」とのペアが完成する。今回は「D-10X」を加えた最上位システムで試聴に臨んだ。
「LIFES」のフルバランス化を実現、歪みやS/Nの改善にも寄与する
C-10Xの核心部分は、いずれも数年前から準備し、他の製品にも導入済みの技術を基盤に据えている。ただし、その設計手法をさらに突き詰めることで、新たなステージに上がっていることが重要だ。新世代の増幅回路「LIFES」はM-10XやL-509Zで高い評価を得ているが、プリアンプに初搭載するにあたってフルバランス化を実現。
回路規模は大きくなるが、歪みを抑える効果は確実に向上し、S/Nの改善も6dBに及び、フラグシップならではの音を生む原動力になる。バラつきの少ない素子を導入して安定度を高めた定電圧回路、気温や電源電圧の変動による影響を抑える新設計の定電流回路はいずれも安定した増幅に寄与しているという。名称は従来と同じだが、中身は格段の進化を遂げているのだ。
ちなみに今回アンプ全体のゲインは前作より3dB大きい15dBに上がっているので、パワーアンプのドライブ能力に余裕が生まれることが期待できる。
ボリュームの進化も重要だ。重量回転機構付きのロータリーエンコーダーを組み込むというLECUA-EXの特徴に加え、今回は192ステップのきめ細かい音量調節を実現したことが新しい。最初にLECUA-EXを導入したL-509Zは従来通り88接点なので、今回のステップ数の増大は2倍を超えている。
洗練された手法で切り替えノイズを抑えていることもあり、特に小音量の領域できめ細かく滑らかに音量をコントロールできるメリットを実感できる。また、ノブを素早く回したり、リモコンの音量ボタンを長押しすると、音量の上がり方が加速する。実際に操作すればすぐに分かるが、自然な操作感は以前とは別物だ。
実機に接すると外観の一部が大胆に変更されたことに気付く。フロントパネル周囲に深めの「くびれ」を作り、立体感を印象付ける造形に生まれ変わっているのだ。洗練されたデザインのテイストを継承しつつ、細部の処理で存在感を高める手法が秀逸。M-10Xと並べた時の統一感にも注目したい。
描写のきめが細かく、録音の特徴をそのまま体感できる
C-10XとM-10Xの組み合わせで最初に聴いたラヴェルの「高雅で感傷的なワルツ」は、ウィルソン指揮、シンフォニア・オブ・ロンドンの演奏だ。CHANDOSの優れた録音技術の極致というべき名録音で、ラックスマンの試聴室に深々としたステージが展開した。手前の弦楽器と後方の管・打楽器がたんに離れているのではなく、同一のフレーズでは息遣いまでピタリと揃って遅れやにじみがない。
ラヴェルは弱音のなかで色彩とグラデーションを無限に描き分け、演奏と録音はそれを漏らさず表現している。肝心の再生段階でディテールが埋もれてしまうと良さが伝わらないのだが、ここで聴いた音は描写のきめが異様なほどに細かく、滑らかな高弦の感触や低弦と打楽器のオープンな低音など、この録音の特徴をそのまま体感することができた。
ヘンデル『水上の音楽』をサヴァールの名盤で聴くと、ステージだけでなく録音会場全体をゆったりと満たす余韻の柔らかさに思わずため息が出た。長い残響にモヤモヤとした澱みは皆無で、ピリオド楽器のホルンとトランペットが奏でる音色の豊かさを隅々まで聴き取れる。倍音の構成が現代楽器とまるで違うからこんな面白い音が出るのだが、フラグシップで揃えた今回のシステムはその特徴を見事に引き出してくれた。
セリア・ネルゴールのヴォーカルは静と動の対比が鮮やかな2曲を再生。最小限の打楽器が思い出したようにリズムを刻むだけの曲では、静寂からの声の立ち上がりが息を潜めたくなるほどリアルで、バンジョーの古めかしい音やグロッケンシュピールの澄んだ高音が静謐な空気を貫通する様子も生々しい。
リズム楽器が目まぐるしく入れ替わる「マイ・クラウデッド・ハウス」ではベースが刻むリズムに緩みがなく、スティールパンやヴィブラフォンは複雑な高調波成分まで忠実に再現。騒々しさを狙った音作りだが声にはかぶらない。最後に位相を回した雷のエフェクトが入るが、その高さの表現がなんと正確なことか。これは紛れもなくアンプの位相精度の高さを物語るものだ。
ビル・エヴァンス・トリオの1969年の『ワルツ・フォー・デビイ』では、エディ・ゴメスのベースの実在感が聴きどころだ。楽器の音像がぼやけず、右手で弦をはじく位置やボディの背板の鳴りの良さまで聴き取れる。弦に指が当たる瞬間の音は楽音ではないが、そこがなまるとベースらしさが伝わらない。ベーシストが聴けば精度の高さにすぐ気付くはずだ。
確認のためにC-900uの再生音も確認したが、ステージの深さなど空間情報に格段の余裕が生まれ、静寂表現でもC-10Xの優位は明らかだった。10年の時を経た進化はさすがに大きいことを実感した。
(提供:ラックスマン)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー189号』からの転載です。