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「心拍数が上がるほどの迫力と迫真」

演者の緊張感も伝わる “最強イマーシブ”。AURO-3D録音の「JAZZ NOT ONLY JAZZ」を生形三郎氏が体験!

公開日 2024/08/16 07:15 生形三郎
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音楽コンテンツを念頭においた3Dオーディオフォーマットで収録



日本発のイマーシブ・オーディオ・コンテンツに、またひとつ革新的な試みが行われる。今をときめく若手ジャズ・ドラマー石若 駿率いる次世代バンド「The Shun Ishiwaka Septet」が、アイナ・ジ・エンド、上原ひろみ、大橋トリオ、田島貴男、PUNPEE、堀込泰行ら豪華ゲスト陣とともに、去る6月21日にNHKホールで繰り広げたライヴ「JAZZ NOT ONLY JAZZ」のイマーシブ配信である。

収録及びミックスを担当したのは、これまで数多くのイマーシブ・コンテンツを手掛けてきた株式会社WOWOW技術センターのエグゼクティブ・クリエイターである入交英雄氏率いるWOWOWの収録・編集チーム。入交氏がこれまでの製作で得てきた多くの知見を活かしたマイクアレンジ及び各種ノウハウを元にした、渾身のジャズライヴ・イマーシブ・コンテンツなのである。

「JAZZ NOT ONLY JAZZ」のイマーシブ・フォーマット先行体験会がWOWOW本社内で行われた

8月16日(金) 19時から8月23日(金) 23時59分まで1週間限定で行われる有料アーカイブ配信に先立ち、WOWOW本社の試写室にて実施された先行試聴会に参加し収録チームにお話を伺うことができたので、収録及び制作時の解説と、実際に体験した試聴感をお届けしたい。

イマーシブ録音に尽力した WOWOWのエンジニア

今回は、NHKという大きな会場で、なおかつ総勢7名という大所帯の「The Shun Ishiwaka Septet」に加え、6名のゲストを迎えての公演となるため、その収録セッティングに大きな労を要したことは想像に難くない。

この度配信されるイマーシブ・コンテンツは、5.1chや7.1chなど従来の単一層の平面的な2次元型サラウンドフォーマットと異なり、上層にもレイヤーを持つ3Dサラウンドフォーマットである。しかも、今回配信される「AURO-3D」フォーマットの最大チャンネルでは、最下層となるLower Layerの上に、Height Layer、そして、Voice of God(VOG)と呼ばれるリスナーの真上にもスピーカーが配置されたTop Layerによる、3層レイヤーになっていることがポイントとなる。

AURO-3Dのチャンネル配置。二次元的な5.1ch等ではなく、「ハイトレイヤー」(上方向)に音源を配置することで、より立体的・三次元的な音楽体験が可能になる

補足すると、AURO-3Dは、ベルギーのNew Auro社が提供するイマーシブ・オーディオ・フォーマットで、空間オーディオや3Dオーディオとも呼ばれる、前後左右と加え上下方向の音場も再現できるサラウンド方式だ。映画コンテンツの音声フォーマットとして誕生・発展してきたDolbyやDTSなどと異なり、音楽コンテンツを念頭に生まれた方式で、最高で192kHzまでのサンプリングレートに対応する高音質思想や独自のスピーカー配置を持つことが特長となっている。それだけに、WOWOWが今回イマーシブ配信に「AURO-3D」フォーマットを採用したことは大変興味深い。

ピアノやドラムにも高い位置から狙うマイクを配置



今回の収録にあたっても、それらの立体的配置のスピーカーに向けて、どのように音を収録し、さらに配置していくか、という部分が最大のポイントとなる。「JAZZ NOT ONLY JAZZ」の収録では、ステージ上の各楽器やボーカルの音声は、PAチームから分配された回線に加えて、イマーシブ収録チームが独自に立てたマイクをミックスして使用。

さらに、客席上空に配置したサラウンドアレイ(オムニクロス方式で設置したワイドカーディオイドマイク・ゼンハイザー「MKH8090」)と一点吊りマイク(「MKH8090」)、ステージ上の照明用バトンから吊るしたマイク(「MKH8090」)、客席の様子を捉えるため客席最前列手前に配置したマイク群(超指向性マイク・ノイマン「M185」及び「MKH8090」)を駆使することで、イマーシブ・サウンドを構築している。

イマーシブ・オーディオの「核」とも言える“オムニクロス”方式のマイク。十字方向にそれぞれマイクを配置し、到達時間の差で立体的な音場感を生成する

客席中央の真上あたりにオムニクロスマイク、その前後左右にもイマーシブ用のマイクを吊り下げている

実際にミックスを担当したエンジニアによると、PAチームが設置した近接配置マイクだけでなく、ピアノやドラムはイマーシブ収録チームが配置したマイクからの信号を主体的にミックスに使用したといい、それを上空のアンビエンスマイクとともに、位相干渉やタイムアライメントを含めいかにしてイマーシブ再生の立体感に落とし込んでいくかに腐心したとのことだ。

特徴的なのはピアノとドラムにオフ気味に(やや離して)立てられたマイクで、スタンドに2段階の高さに単一指向性のマイク(ノイマン「KM184」)が設置されている。石若氏のドラムミックスには、このアンビエンスマイクが大活躍したそうだ。

石若氏のドラム周辺に設置されたマイク。低い位置にあるのがPA用のマイクで、高い位置にあるのがWOWOWチームが追加したイマーシブ用マイク

加えて、今回はスピーカー再生向けだけでなく、ヘッドホンやイヤホン再生向けの「Auro-HeadPhones」フォーマットも用意されている。入交氏によると、これまでスピーカーを念頭に制作したイマーシブ・コンテンツは、ヘッドホンやイヤホン向けにバイノーラル変換されると、実際よりも拡がりや立体感が狭まる印象もあったとのことで、今回はそれに対応する意味でも、収録時のアンビエンスマイク(一点吊りのMKH8090)は左右間の距離を充分に広くとったり、各マイクのミキシングも外側にまで広げて定位させたという。

ライブならではの緊張感や陶酔感が描き出される



実際に、石若セプテットによる「A LOVE SUPREME」や上原ひろみ、オールスターズによるアンコール「接吻」などの収録コンテンツを聴いてみると、musikelectronic geithain製の同軸モニタースピーカーで構成されるイマーシブ・スピーカーシステム(今回はAURO 13.1chで試聴)から、圧巻の音圧を堪能することができた。

ドラムの音像は左右方向に幅広く展開するとともに、ギターやシンセサイザーも上方向にまで広がる立体的な音像配置が展開。エレクトリックベースをはじめとする低音域も大きな広がりを伴って空間へと拡充され、実に充足したエネルギーでリスナーを包むさまが印象的であった。また、鮮明な映像情報も伴って、演奏内容的にもライブならではの演者の緊張感や陶酔感が瞭然と描き出されていた。文字通り、このコンテンツを体感しているだけで、こちら側の心拍数も上がってしまうほどの迫力と迫真さであったのだ。

この取材の直前に石若氏もこの試写室を訪れ同コンテンツを体感されたそうだが、「空間の広がりをすごく感じる音響でした。演奏しながら、自分も客席で聴きたいなと思っていたのですが、臨場感ありすぎて緊張が蘇って汗をたくさんかいてしまいました……(笑)。皆さんもこのライブを没入した感じで楽しめると思いますので、ぜひとも(この配信を)楽しんでください!」と、演奏者自信も手に汗握るほどの没入感に大絶賛であったようだ。

配信は、コルグが提供する高音質インターネット動画配信システム「Live Extreme」を用いて行われる。同プラットフォームは、最大4Kの高解像度映像とともに、ロスレスオーディオやハイレゾオーディオをライブ配信できる画期的なサービスである。今回の配信フォーマットは以下の通り。

■配信音声フォーマット
・AURO 11.1 [7.1+4H] (96kHz・ハイレゾ)
・AURO 13.1 (48kHz)
・2ch AURO-Headphones (96kHz・ハイレゾ)
・2ch AURO-Headphones (48kHz・ロスレス)
・2ch ステレオ (96kHz・ハイレゾ)
・2ch ステレオ (48kHz・ロスレス)

通常のステレオフォーマットに加えて、AURO-3Dによるイマーシブ配信が実現されていることが、やはり大きな特徴だ。各社のAURO-3D対応AVアンプを用いて再生が可能なほか、さらに今回は、アンプを持っていなくとも、ヘッドホンがあればイマーシブ・オーディオを体験できる「AURO-Headphones」フォーマットも用意されている。

以上、精鋭ミュージシャンたちの迫真の演奏を味わい尽くせるイマーシブ配信は8月16日 19時から。1週間限定でのアーカイブ配信となるのでお見逃しなく。

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