オーディオマニアの医師宅で様々な音質のグレードアップを試みるオーディオアクセサリー誌の不定期連載「クリニックでクリニック」がファイル・ウェブに特別出張。今回の主役は日東紡音響エンジニアリングのルームチューニングアイテム「SYLVAN(シルヴァン)」である。 「往診」に伺ったクリニックはジャズ・オーディオマニアとして全国にその名を轟かす、あの神奈川県横須賀市の三上医院。巨大な要塞の様な建物に「三上医院」と看板は出ているものの、それは1階のみで2階から上は全てオーディオルームなのだ。 複数あるオーディオルームは、僕が知っているだけでJBLルームにALTECルーム、ウエスタン・ルームでは数千枚のモノラルオリジナル盤が出番を待つ、それから確かハーツフィールドの部屋もあった様な気がする。 そして今回のクリニック部屋となるのがアヴァンギャルド/トリオ・ルームである。このアヴァンギャルドには巨大なバスホーンが4基据え付けてられている。このバスホーンから噴き出してくる強烈な重低音をもう少しコントロールしたい、というのが今回のクリニックの依頼内容である。院長の三上剛志氏によると「ソフトによってはかなりブーミーになるのでどうにかならないかと毎日悩んでいたんです」との事。 そんなある日、オーディオアクセサリー誌に掲載された日東紡音響エンジニアリングの千葉市の新試聴室オープンに関する記事を見つけた。早速駆けつけて目の前で繰り広げられたSYLVANの効果に目(耳?)を丸くした三上氏。「どうにかアヴァンギャルド・ルームでこれを試せないか…」との熱い思いを訴えて本日のクリニックが実現したのである。
|
||||||||
挨拶もそこそこに早速18畳ほどもあるアヴァンギャルド・ルームに通された山下氏は「これは凄い!音を聴かせて頂く前から既に感動です」と興奮覚めやらぬ様子。しかしここはプロフェッショナルに徹して現時点でのアヴァンギャルド・サウンドを聴かせてもらう。 「確かに三上さんがおっしゃる様にブーミーな感じはありますが…」と口にするも、「それにしても素晴らしい音ですね」との言葉も忘れない山下氏。そこでまずはスピーカーの手前の両サイドに1本ずつSYLVANを立ててみた。特に向かって右側は約3,000枚ものステレオのオリジナル盤がギッシリ詰め込まれたレコードラックになっているので、いわゆる「一次反射」が起きる場所である。さぁ最初の音出しの瞬間だ。 何度も言うが相手は18畳の部屋に鎮座するアヴァンギャルドである。こんな小さなSYLVANが2本で太刀打ち出来るのか心配だ。少しの変化も聴き逃すまいと僕も固唾を飲んで耳をそばだてていた。 ところが、あっけないほど効果は誰の耳に明らかだった。 「おぉ!ブーミーな音がかなり取れた」と三上氏が笑顔で第一声を上げる。 「そうですね。それから音離れが良くなったと思いませんか?」との山下氏の質問に「なるほど音離れか!ピアノなんか微妙に艶が乗って、よりピアノらしく聴こえるね」との答え。 さて、ここで本日の主役である日東紡音響エンジニアリング「SYLVAN」の仕様等をおさらいしておこう。高さが140cm、幅40cm、奥行きが20cm。重さは木の部分は12kgだが、通常は転倒防止の為、やはり約12kgの金属の脚を装着するので合計24kgとなる。 木の材質は野球のバットにも使われるタモである。気になる10本の円柱部分は6cm、4.5cm、3.2cmという3種類の違う太さで出来ている。勿論これは計算尽くされた数値だ。長年プロのレコーディング・スタジオの音響設備を研究、施工して来た結果の数値でもある。 | ||||||||
さて話を再びアヴァンギャルド・ルームに戻そう。すっかり自信を付けた山下ドクター(?)は、次に三上氏のほぼ真横の左右に1枚づつSYLVANを置いた。 しかし音を出した瞬間に三上氏は「これは違和感がありますね。少し耳に近すぎるのもしれない。明らかに音が反射してくるのが分かる」との事。 「もう少し左右に離せればいいのですが…」と山下氏が思案顔で言う。何せノイマンのカッティングマシーンを改造したレコードプレーヤー等の超弩級オーディオ機器が部屋のあちらこちらにあるので、なかなか理想的な場所に設置出来ないのである。
しかしフッと三上さんの後方に目をやった山下氏が「後ろのくぼみの所に2本立ててみましょう」と提案。サイズ的にもピッタリだ。早速先ほどと同じCDをかける。これには驚いた。三上氏も満面の笑みを浮かべて「これは凄い。自分の後ろにこんなに音が溜まっていたとは思わなかった」と語った。 実はこの後ろは木の壁ではなくグランドフィルムの「オイロダイン」という巨大なスピーカーなのである。その左右の中心部分の空間を塞いでいる部分が少しへこんでいる。ここがどうやら音の溜まり場だったらしい。そこにSYLVANを設置した途端に、澱んでいた音がパ〜ッと散らばって心地良い響きとなった訳である。まさに「犯人は後ろにいた!」という感じだ。
その後何カ所か移動してみたり、もう2本追加したりもしたが、結果的にスピーカー前方左右に1本ずつとリスニングポジションの後方に2本設置するだけで十分という結果となった。 |
||||||||
ここで大成功となった本日のクリニックを振り返りながら感想を述べてもらった。
「千葉の日東紡の試聴室でSYLVANを聴いた瞬間に、これなら絶対に自分の部屋でも効果があるはずだと思ったけど予想以上でした。最初にたった2本置いただけであれだけ変わりましたからね。いや本当に驚いた」と三上氏。何故今までルームチューニングを一切行わなかったのですか?との質問には「いかにも対策していますという感じがいやだった」との事。 すかさず山下氏が「このサイズと形ならどの様な部屋に置いても余り違和感はないと思います。今日は標準的な木目のモデルを持って来ましたが、お部屋に合わせて数種類の特注色にも対応できます」とコメント。知らない人が見たら木のオブジェか何かと思うに違いない。
それにしてもこのSYLVANは不思議だ。吸音でもなければ反射だけでもない。木の響きが乗っているかと言えばそうでもない。ただひたすら心地良いのだ。 読者の皆さんがもし実物を間近で見るチャンスがあったら思いっ切り顔を近づけて向こう側を見てみてほしい。実は見えそうで見えないのである。これは音が直進しない事を意味する。どうやらこのあたりに同社が開発した森林の中をイメージさせる新しいルームチューニング機構AGS(アコースティック・グルーブ・システム)のヒントが隠されているのではないかと思う。 |
||||||||
|
||||||||
■Phile-web関連ニュース ・<音展>日東紡音響、“Sylvan”の新たなデモムービーを披露(2009/11/13) ・日東紡音響試聴室ツアーが盛況のうちに終了 - 参加者からの感想をご紹介!(2009/11/04) ・「オーディオ銘機賞2010」“特別賞”の受賞モデルが決定(2009/10/26) ・日東紡音響、新試聴室など同社施設を公開 - Phile-webがメディア初の取材に成功!(2009/10/22) ・<AES 2009>タグチの無指向性コンパクトスピーカー/日東紡の吸音材「Sylvan」(2009/07/23) ・日東紡音響のコンシューマー向けモデルがAA133号にて紹介 (2009/05/15) ・日東紡音響エンジニアリングから新発想のルームチューニング材が発売(2009/02/17) |
||||||||
【製品・試聴室体験に関するお問い合わせ】 |