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「AX−V765」は型番から想像できる通り、昨年モデル「DSP−AX763」の後継機種だが、シンプルに「AX」を冠した新しい製品名が象徴するように、中身は大きく生まれ変わっている。フロントパネルの顔立ちは前作によく似ているが、筐体のサイズは30mmほど奥行きが浅くなって設置性が上がっているし、リアパネルの端子群の配置を見れば、基板の構成が一新されたことがよくわかる。その変更の大きさから言って完全な世代交代と呼ぶのがふさわしいだろう。
基板を新規に設計し直した狙いは、多様な高音質ソースの真価を従来以上にストレートに引き出すことにあり、そのために信号経路の最適化と電源部のリファインを同時に実施した。基板間の信号の受け渡しをダイレクトコネクションに変更したり、電源トランスはコアの素材メーカーを選別するなど、今回のリファインでは上級機並みのこだわりの強さがうかがえる。 もちろん、フロントプレゼンスとサラウンドバックを切り替えて駆動するデュアル7.1ch再生に対応しており、使いこなしの自由度は10万円を超える上位機種とほぼ同等の水準にまで広がった。手持ちのスピーカーを利用したり、5.1chからスタートして次のステップで7.1chにアップグレードするなど、7.1ch導入のアプローチにもいろいろな選択肢がある。
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「AX-V765」の再生音を従来機と比較しながら聴いてみる。基本コンストラクションがここまで一新されれば当然音も変わるとは予想していたが、その変わり方は私の想像を大きく超えていた。キルヒシュラーガーがピアノやギターの伴奏で歌う『ララバイ』は、アンプの基本性能の違いが声の質感の差となって現れるアルバムだが、その冒頭の第一声を聴いただけで、本機のアンプとしての素性の良さを実感することができた。 ピアノの余韻が静寂のなかに消える様子、声の音像のまとまりの良さなど、ハイファイアンプでなければ実現できない領域の音をたやすく再現してみせたのだ。ブルックナーの交響曲では低弦の力感と重量感が前作とはまるで異なり、下支えの厚さに舌を巻く。ダイアナ・クラールは声のニュアンスがしなやかで、低い音域の温かい温度感を自然に引き出してくる。昨年の同クラスのアンプでは、そうしたニュアンスまで再現するのは至難の業であった。 BDのサウンドはストレートデコードの段階ですでに差が明らかだ。『ダーク・ナイト』のカーチェイスシーンは銃撃や衝突の衝撃音に瞬発力が加わり、思わず身を引きそうになるほどのインパクトを味わった。 3Dモードはさらに次元が高い領域で予想以上の効果を発揮した。『アイ・アム・レジェンド』の冒頭シーンは、人の気配が消え去ったニューヨークの異様な光景から始まるが、そのシーンで空虚さを表現する音は、風の音や鳥の声など自然音のみ。カメラが空中からの俯瞰映像に切り替わってからまもなく、マスタングのエンジン音がビルの谷間にとどろき、唯一の生存者ネビルの存在が印象的に紹介される。
この一連のシーンでサウンドが果たす役割はきわめて大きい。HDオーディオフォーマット出力時はシネマDSPの併用ができず、ストレートデコードのみに対応するが、ドルビーTrueHDで収録されたサウンドはストレートデコードでも奥行きと高さの情報が豊富に聴こえてくる。 さらに「AX−V765」にフロントプレゼンススピーカーを接続し、音声をドルビーデジタルに変更した後、シネマDSPの3Dモードに切り替えると、空間の広がりが一気にスケールアップし、このシーンの意図がさらに鮮やかに浮かび上がってくる。
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高音質チューニングを施した耳の肥えた音楽ファン向けの姉妹機
新しいGUI画面ではすっきりと洗練されたデザインのアイコンを使っており、これまでのAVアンプの操作画面とはかなり雰囲気が異なるが、文字を読まなくてもすぐに操作できる良さがあり、操作にはすぐに慣れることができそうだ。また、iPodドック接続時は再生時にアルバムのジャケット写真をテレビ画面に表示する「アルバムアート」機能を実現しており、iPodユーザーの支持を集めそうだ。
「DSP-AX763」と「AX-V765」の音質差は誰もがすぐに気付くような違いだが、「AX-V765」と「AX-V1065」の差は、耳が肥えた音楽ファンが集中して聴いたときに気付くような種類の違いがある。 たとえばベースのアタックが速く、張力の強さを感じさせるのは後者だが、ベースの音を量感で聴き比べた場合は、両機の差は非常に小さい。レスポンスの良いスピーカーで優れた録音を聴くと、その違いがいっそう明確になる。さらに、音楽では合唱の分解能、オーケストラの空間再現力の精度などに差が出てくるし、映像ソースでは効果音と音楽のセパレーションが向上するメリットもある。僅差とはいえ本質的な違いなので、より強いこだわりを持つなら本機も併せて試聴することをお薦めしたい。
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