前回は新600シリーズのブックシェルフモデルに焦点を合わせて試聴したが、今回はトールボーイ型の2機種にスポットを当てて、パフォーマンスの詳細をお届けしよう。前回と同様、ステレオ音源でそれぞれのスピーカーの実力を検証することにした。 |
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684のウーファーはいずれも165mmだが、1つはミッドレンジ帯域まで、もう1つは低域専用として駆動される。一方の683は同一口径のツインウーファーにミッドレンジユニットを加えた構成。ウーファーユニットの外見が異なるのはアルミ製スキンによるもので、振動板素材はいずれもケブラーとペーパーのコンポジットである。684は背面と前面に一つずつバスレフポートを配した特徴的な構造を採用しているが、これは役割の異なる2つのウーファーそれぞれにポートを設けたことによるもの。いずれもポートプラグの抜き差しで低音域の音調をコントロールすることができる。 今回の試聴では背面をふさぎ、前面を開放で鳴らすなど、いくつかのバリエーションを試してみた。683はベースボード+スパイク、684はスパイクのみを使用するというオーソドックスなしセッティングで試聴している。 |
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最初に聴いた684は、サイズから想像するよりも落ち着いた音調の本格的なサウンドが楽しめるスピーカーである。マーラーの交響曲第2番『復活』の第3楽章は、大太鼓の距離感と空気を揺らす響きが大きく、部屋の空間一杯に広がる余韻に包み込まれる雰囲気が生々しい。シューベルトの五重奏曲『ます』では低弦とピアノの低音部に支えられながらヴァイオリンの旋律が鮮明に浮かび上がり、変奏曲の微妙に変化する響きの特徴まで克明に描き出した。ハーモニーの美しさは600シリーズのすべてのモデルに共通する資質だと思うが、684にもそれが当てはまる。
ノラ・ジョーンズのボーカルはシンプルなサウンドの構成がすっきり見渡せる音調だが、各楽器の輪郭をくっきり描き出すのではなく、それぞれの音像はどちらかというと柔らかいタッチで、アコースティックギターのリズムも一歩引いた落ち着きがある。このアルバム(『Not too Late』)のサウンドのキャラクターにはぴったりはまる音調であり、ゆったりとした心地よさを味わうことができた。ウッドベースは低い弦から高音部まで響きが痩せずに伸びやかで、倍音をたっぷり含んだ柔らか味のあるサウンドである。
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次に聴いた683は、684よりも10cm弱背が高いのだが、設置面積がそれほど大きくないこともあり、スリムな印象は684とあまり変わらない。マーラーの交響曲は低音にオープンな伸びやかさがあり、豊かなエアー感とゆとりがある。大太鼓がドンと鳴った瞬間、空気の振動が身体を包み込んで鼓膜を揺さぶる感覚になんともいえない心地よさを感じた。その低音は後ろに余計な響きを残さず切れがいいが、エネルギー感は十分。たっぷりとした量感でサウンドの重心をグッと引き下げて、落ち着いた音調を引き出してくる。ローエンドの深みはブックシェルフ型の姉妹機とは一線を画し、暗騒音の揺らぎまで気付かせくれた。この音域の量感はポートプラグの有無である程度コントロールできるので、部屋の響きに応じて調整するといい。 シューベルトの『ます』はヴィオラとチェロが柔らかい音色でよく歌い、内声の充実感が684に比べると一段階高まっている印象を受けた。そのおかげでハーモニーに厚みが生まれ、テンポやリズムに落ち着きが加わる。テンポが速い曲とのコントラストが生まれるので、ダイナミックな動きが出てくるという効果も感じられた。シューベルトの室内楽らしく響きの純度が高く、ピアノとヴァイオリンのバランスも美しい。音と音のあいだに訪れる静寂がとても上質で、思わず耳を澄まして味わいたくなる。コントラバスは最低音まで音程と音色がリアルに聴き取れることを特筆しておきたい。 ノラ・ジョーンズのボーカルはちょうどよい高さまで音像がふわりと浮かび上がり、声に付帯音がまとわりつくこともなく、すっきりと見通しがいい。音量を上げてもきつくなることがなく、飽和しないのはサイズから生まれるゆとりだろうか。 |
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683でさらにいくつかの優秀録音を聴き、その再現性を確認することにしよう。ヘンデルの『メサイア』は声の立ち上がりがハイスピードで、ソリストや合唱の各パートを歌う歌手の声の太さや存在感がリアルに感じ取れる。ソプラノの独唱は発声の素直さに加えて、その後のビブラートの響きと動きが非常に美しい。弦楽器はピリオド楽器にも関わらず柔らかく良質な響き。そこにしっとりとした余韻が乗って、意外なほど温かみのある音色を楽しむことができた。 『ベートーヴェン序曲集』は深い低弦の響きに支えられて、製作者の狙い通りの重心の低いサウンドを聴かせてくれた。ヴァイオリンが硬くならず、木管もホールトーンと一体になって響きの美しさが際立っている。じっくりとテンポを上げていく部分は、熱気が伝わるダイナミックな表現力を得意とする。 落ち着いた音調の684とゆとりを感じさせる683。どちらも派手な演出や押しの強さとは無縁だが、じっくり聴いていくと深い味わいがにじみ出てくるスピーカーである。 |
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・B&W
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