TEXT. 斎藤宏嗣


■木工、エレクトロニクスなど成長著しいブランド


トールボーイスピーカー「Fi-EX」¥210,000(ペア)
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めざましい高度経済成長を続ける中国、その流れに沿うようにオーディオ界も着実に成長している。躍進著しい中国のオーディオを代表するブランドが、広州を本拠地とするCAV(シー・エー・ブイ)である。1993年の創立以来、高級オーディオコンポーネント、業務用ではスタジオ関連機器やPAシステムなどを中心に発展を遂げ、中国のハイエンドオーディオブランドとして、世界的に広く知られる存在に至っている。

オーディオコンポーネントは、スピーカーシステムと真空管アンプを中心とする構成で、スピーカー部門は純粋オーディオ用の高級システムから、ビジュアル用サラウンドシステムまでの広範囲な製品構成、アンプ部門は高級な真空管アンプが中心となる。

2006年、CAVジャパン(株)が創立され、その製品が随時紹介されることになった。中国各地に高級ブランドとして多くのショールームを展開、欧米各地には現地の代理店を通じて製品が紹介されているが、直轄の法人を設置するのは初めて、それだけ、日本のマーケットによせる期待の大きさも推測できる。

CAVブランドを代表するフラッグシップモデルとして、最初に紹介される高級フロア型4ウエイシステムがMD-EX3だが、サウンドバランスや音色、音質的な品位、豪華なデザインや入念な仕上げは超一流製品であり、何よりもコストパフォーマンスが画期的な製品である。もちろんオーディオ銘機賞銅賞に輝いたトールボーイ、Fi-EXも注目される。この完成度の高い製品群を開発、生産するCAVオーディオの実像を紹介すべく広州に飛び立った。

■広州のオーディオ事情を見にCAV本社とその工場を訪ねた

成田空港から空路約3時間半で広州空港に至る。広東省広州市は広大な中国の南部、香港の内陸に位置する商業、産業の一大拠点で、その香港と広州の中間の深センや東莞には、我国の多くのオーディオメーカーも進出し、その生産拠点としてもお馴染みである。

CAV社のオーディオ部門の本社は、空港から車で約30分南下した広州市の中心部、黄埔大道の近代的な高層ビルの22階にある。この地区は近代化が急ピッチで進行し、高層ビルが乱立、その合間に歴史的な町並みも残る現代の中国を象徴する景観で、近くには“広州の秋葉原ともいえる海印(ハイイン)電気街もある、格好の立地環境である。

CAV本社から見る、広州市街。急成長を遂げている巨大都市だ
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取りあえずはオーディオレベルの日中友好。筆者とまだ50代前半と若い黄文輯社長【クリックで拡大】

CAVグルーブの総帥である、社長の黄文輯さんは1956生まれ。早くからこの分野に興味を持ち、今日のCAVブランドを構築した人物である。現在、中国のトップブランドという創立以来の目標を達成、欧米に代理店を通じて進出、安価なエントリークラスを中心に展開し好調である。次なる戦略は中級品を中心とする展開だが、1999年から高級製品を充実させ、ハイエンドユーザーに対する啓蒙活動を開始、米国のCESや広州交易会への参加、中国各地でCAVコンサートを開催するが、最も効果をあげているのが高級家具とのコラボレーションで、高級オーディオ及びAVシステムを展開するモデルショップでの展示、即売である。現在、CAVショップは中国各地に約1,200店舗を展開する。

広州のCAVショップ。ショッピングモール、インテリアモール、そして電気街等に数多く出展しており、成果を上げているという【クリックで拡大】 現在、CAVショップは中国各地に約1,200店舗を展開する【クリックで拡大】

■広大な工場と理想的な手作りの製造ライン

CAVのオーディオ製品を生産する主力工場は、広州市の本社から車で約40分、郊外といえる番禺にある。この地は、世界規模の貿易港として知られる広州港にも近く、交易上の利点も大きい。珠海、香港・深セン、広州に囲まれた工業地帯の中心ともいえそうだ。付近には近代的な新築工場も点在するが、広大な農地と森林地区もある。新規落成した近代設備を誇る工場は2005年に第1期工事が完成、敷地面積18万平方メートル、現在の建物敷地は8〜9平方メートルと大規模な工場である。

番禺区にあるCAVの工場。広大な敷地に贅沢に建てられた管理棟。この後ろにさらに大きな工場棟がある【クリックで拡大】 従業員の寮と、食堂、娯楽室を含む総合棟【クリックで拡大】

建物は、事務や研究開発、技術などを含む事務棟、生産工場が3棟、資材及び完成品を納める倉庫が3棟、従業員の寮が4棟、食堂、クラブ、売店などの総合棟が1棟で、テニスコートなどのグラウンドも広い。特徴的な点は、管理職以外は全寮制ということ。大半の従業員が若い地方出身者で占められ、約600名という従業員の生活環境を確保するために多くの寮棟及び関連棟が作られている。工場全体が小さな街のような、一つの生活共同体を形成しているのが、この付近に多い中国の工場の特徴である。敷地には十分な空き地が見られ、来年には第2期拡張工事が計画され、更なる規模の工場施設が出現することになろう。

事務棟の1階には、本部関連室の他、環境テスト室、輸出課、購買室など、2階には無響室と、サウンドチューニングのための有響室、多数の設計、開発室、創立以来の製品の保存展示を含めたショールームなどがレイアウトされている。開発が進行中の製品には主力製品の各種スピーカーシステムとともに、真空管アンプ、また、現在、中国国内で好評なカラオケシステムや業務用のPAシステムも見られた。開発中の製品で興味深いモデルが、世界最大の、独自に開発した巨大真空管を使用したモノラルアンプで、シングルで75W出力の超弩級型。近日発売を予定しているというこの真空管アンプが我国に紹介されれば、新しいCAVのフラッグシップとして注目されよう。

管理棟。製品の試聴スペース【クリックで拡大】 試作完了間際の、巨大管球アンプ。見たこともないような大きな球が使われている【クリックで拡大】

巨大な工場棟では、スピーカーシステムのエンクロージャーとアッセンブリー、オーディオ・AVのラックなどが生産されている。スピーカーシステムの各種ユニットは、専業メーカーとの技術的なタイアップにより開発、生産され、本工場で生産されたエンクロージャーと合流し組み立てられる。素材となるMDFの積層から、裁断、接着、表面仕上げと流れる、お馴染みのライン工程で、エンクロージャーやラックが生産される。大量生産でありながら豊富な人材を投入したハンドメイド的な性格が強く、我国でも数10年前にみられた理想的な手作りのスピーカーシステム製造ラインがここにあった。全寮制を敷くため、仕事の工場と生活空間の寮は隣接していながら、明確な区切りが敷かれ従業員は2ヶ所のゲートで出社、退社する仕組みで公私を明確に分離している。従業員に密着した総合棟は、1階が食堂、売店、2階が各種娯楽室で、とくに、食堂のメニューが興味深い。広範囲な地域からの従業員の好みに合わせ、メニーは四川や安徽省の出身者が多いところから川菜(四川料理)、当地の粤菜(広東料理)などがあり、自由に選択できる。

明かりを取り入れた広い工場
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エレクトロニクスの試作コーナー
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■中国の芸術性と近代工業が両立

生産工場としての性格は、前述のように現代的な工作機械に全面的に依存せず、人間の感覚を尊重したハンドメイドを重視している。脈々と歴史を綴る中国の芸術品に通じる感性でオーディオコンポーネントを製造する、と紹介したら理解して頂けることだろう。この地は、中国の誇る4大料理の北京料理、上海料理、四川料理、広東料理のうち、最も洗練された広東料理の本場で、隣接する香港では飲茶が有名。食通の間に「食は広州にあり」という諺が定着しているが、この料理を培った感性が、将来、独自の魅力的なオーディオの世界を構築してくれることだろう。その時、「音は広州にあり」というセオリーが、グローバルスタンダードとしてオーディオマニアの間に定着することだろう。

(「オーディオアクセサリー」124号所収記事より一部改変)

斎藤宏嗣
Hirotsugu Saito

電機メーカーのエンジニアとして高周波回路とVTRの開発を担当ののち、オーディオ専門誌に執筆を開始する。エンジニアとしての経験を生かした管球アンプの製作で注目を集める。デジタルオーディオには実験段階から深く関わり、現在でも「デジタルオーディオの第一人者」の呼び声が高い。ソフトの録音評でも高い評価を得ており、実際に録音のアドバイザーとして関係した作品はアナログ録音時代から現在に至るまで数多い。