TEXT. 高橋 敦

オーディオ生産大国である中国を代表するブランド、CAV。幅広い分野のオーディオ製品を世界に送り出している同ブランドから今回登場するのは、日本法人のCAVジャパンによって日本国内に向けて企画されたシアターラックである。

■ピアノブラック鏡面仕上げの丁寧なつくりが魅力

ピアノブラック鏡面仕上げを施した「HR-1140」

仕上げの丁寧さはもはやそれが同社の看板と言ってよいだろう。本機は19層にも及ぶ塗装を施したピアノブラック鏡面仕上げだ。艶やかで深い黒である。しかも塗幕の強度が高いということなのか、傷も付きにくいという。シアターラックとしては破格と言えるおよそ8万円という価格でこの仕上げを実現しているのは、驚異的だ。本機の大きな魅力はここにある。

ラックの幅は1140mm。46V型テレビと合わせるとぴったりというサイズだ。その中にステレオ+サブウーファーの2.1chスピーカーシステムが組み込まれている。

テレビやレコーダーとの接続端子は、光デジタル端子とアナログ端子が用意されている。主に利用されるのは前者だろう。このデジタル入力はリニアPCM形式のデータのみしか受け付けないのが弱点といえば弱点だが、もちろん対応策はある。テレビやレコーダーの側で、他の形式の音声をリニアPCMにデコードして出力するように設定しておけばよいのだ。おそらく、ソース機器側の機能で対応できる点はそちらに任せることでコストダウンを図ったのだろう。そう考えれば納得できる仕様である。

■迫力と臨場感をアップさせる優秀なサラウンド機能

設置と接続を終えれば、すぐに使い始めることができる。サラウンド技術はSRS Labs社のものが搭載されているが、これは事前の音場補正設定などは必要としない手軽なタイプだ。

まずは映画「イノセンス」から試聴した。聴き始めは少し物足りなく感じたが、サラウンド機能をオンにすると明らかに音場が広がり、奥行感も増した。サラウンド成分が強調されて、事件現場を取り囲む町の喧噪の情報量もぐっと多くなる。このサラウンド機能は、台詞に輪郭のブレなどの違和感が出ない点も好印象だ。サラウンド収録の映画では常にオンということで問題ないだろう。

その台詞は声の帯域もサブウーファーが巧く補足しているようで、厚みのある描写が実現されている。台詞の描写が良いことで映画全体の説得力が増す。銃声や打撃などの低音が下手に強調されていないのもよい。低域がボワンと膨らんで緊迫感を薄めるようなことがない。なお低域に関しては、全体音量とは別にサブウーファー音量を調整可能なので、そこで自分好みのバランスに整えることができる。

 
16cmのサブウーファーは本体右側に配置する   46V型の薄型テレビを設置した様子。37〜46V型までが最適サイズとなる

次は北京オリンピック開会式の録画を見てみた。これもサラウンドソースだ。やはりサラウンド機能が効果的である。サラウンド機能を使わない状態の音場も、テレビ内蔵スピーカーで聴くのと比べて厚みや情報量など明らかに上回る。しかし音場の広がりが狭いため音が密集しすぎて、やや混沌とする。極端に言えば体育館に大人数を詰め込んだような窮屈さがあるのだ。

そこでサラウンド機能を使うと空間が広がり、画面に映る巨大な屋外競技場とのバランスが取れる。音場の前後左右を広く使って音が配置される。そうなると前述の厚みや情報量が存分に発揮され、人数や会場の広さなどのスケール感がぐっと伝わってくるのだ。テレビ内蔵スピーカーで聴くのとは段違いの迫力と臨場感だ。

■音楽CDでも音場の広がりや厚みを体感できる

音元出版の視聴室で「HR-1140」の音質をチェックする高橋敦氏

音楽CDではどうだろう?ジャズボーカルのJacintha「Autumn Leaves」を聴いてみた。ここでもサブウーファーのアシストが巧く働き、歌声、音場全体の厚みが確保されている。ベースの重心は低域〜超低域ではなく、やや中域寄りの低域に置かれる。しかし芯の濃い鉛筆で筆圧強く描いたような力感があり、軽薄感はない。例えばミニコンポやiPod用の小型スピーカーからのステップアップなら、音場の広がりや厚みなど十分に満足できるだろう。

価格対性能比ということで言えば文句の付けようのない音だ。ましてや本機にはさらに、仕上げの美麗さというプラスポイントもある。シアターラックはオーディオ機器であると同時にインテリアでもある。その両方の要素をこの価格で両立させたのは見事と言う他にない。

高橋 敦
Atsushi Takahashi

埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。