AMP53はCECの最新テクノロジーを投入して作り上げられたコンパクトな高性能アンプである。幅約22cmのハーフサイズ。ここにLEF回路やDIGMボリュームなど独自の技術を搭載し、純度の高い信号処理と自在な駆動力を獲得している。その要となる技術について触れることから始めたい。

 
CEC「AMP53」   背面端子部。バランスとアンバランス入力を各2系統ずつ備えている

 

まず最も重要と思われるのがLEF回路である。これは同社の設計を長く担当しているカルロス・カンダイアスの独創によって開発された高度な技術で、2000年に発表されたAMP71で初めて搭載された。

スピーカーを駆動すると、ボイスコイルの動作によって逆に電力を発生する。この逆起電力に打ち勝ってスピーカーに駆動力を与えなければならないため、アンプには多大なパワーが要求される。もしこの逆起電力を無視することができれば、アンプのパワーは精々2〜3Wで十分だというのが、カンダイアスの理論である。

通常はアンプの出力インピーダンスを極力下げることによって対処している。こうすると逆起電力はアンプ内部で速やかに解消され、影響が少なくて済むのである。しかしそれでもある程度の影響を避けられず、これが駆動力を決定する要素のひとつとなってきた。

LEFは、独自の方法によって逆起電力を回避しながら、スピーカーに電力を供給する回路構成である。アンプの出力回路は、逆起電力に影響されることなく動作することができるため、本来は最小限の出力でも構わないという。また出力素子として理想的なA級動作、シンプルなシングルエンドによる構成で十分な駆動が可能だ。

本機ではリファインされた新世代のLEF回路に15Aの大型トランジスターを8個搭載。A級シングルエンドで、120W×2/8Ωの定格出力を得ている。

 

もうひとつテクニカルな面に目を向けておきたい。DIGMと呼ぶボリュームである。

アンプのボリュームは普通抵抗体の組み合わせでできているため、どうしても音質が劣化しやすい。このため精度が必要とされ、パーツの中でも最もコストがかかる部分である。多くのメーカーによってユニークな方式が探求されてきたが、CECではここでDIGM(デジタル・インテリジェント・ゲイン・マネージメント)と名づけられた独自のボリュームを搭載している。

CECでは元々IGMという優れたボリューム回路を持っている。抵抗体によって電圧を絞るのではなく、アンプのゲイン自体を調整する仕組みである。ゲインそのものが変わるため、その後入力された信号は抵抗その他信号ロスを生じるパーツを通ることなく、ストレートにパワー部に到達することができる。DIGMはこれをデジタル化したものといってよく、トランジスターを使ったクラスAスイッチングによって金属フィルム抵抗を切り替え、ゲインをデジタル制御する。さらに一段進化したボリュームといっていい。ボリュームは1dBステップで66段階の調節が可能である。

 

これら二つの基幹技術をベースに、回路全体は入力から出力まで全てフルバランスで設計されている。また左右の信号は独立した回路で処理。いわゆるデュアルモノ構成でセパレーションを向上させている。

電源にはLEF回路と結合した300Wのトロイダル・トランスと90000μFの大容量コンデンサーを使用。サイズからは意外なほどのハイパワーを支えている。

 
本機の内部。300Wのトロイダル・トランスなどを内蔵している   手面部。冷却ファンの送風口が設けられている

筐体は押出し成型によるアルミ製。重量とともに放熱効果によって内部温度の安定にも寄与している。さらに内部には温度センサーが搭載され、冷却装置内の気流を独自のファンによって自動的にコントロールする。

入力にはバランスとアンバランスが各2系統ずつ装備されているが、意外に両者の差がないのが興味深い。アンラバンス信号は前段でバランス化されるが、その後はフルバランスで処理され大きな差を生じないのかもしれない。

 
筐体は押出成型によるアルミ製。質感は非常に高い   側面や背面も非常に頑丈な作りとなっている

 

基本的にS/Nと解像度の優れた音調である。入力信号がほとんどデフォルメされずに出てくる印象で、従って接続するプレーヤーによっても音質はかなり左右される。プレーヤーが高度であるほど、それに相応しい再現性が生まれてくる。一体型の普及モデルとハイエンドのセパレート型では、後者の圧倒的な再現力がそのまま反映されている。

つまりアンプに潤色や劣化がないということである。アンプはソースの信号を色づけなく拡大してスピーカーへ送り出す装置だ。だから本機のような対応力は、アンプにとって理想的な性能を示しているといっていい。

 
試聴は音元出版試聴室で行った   「プレーヤーの能力をそのまま引き出す、色づけのない音」と井上氏

ジャズは引き締まって瑞々しい。キックドラムやウッドベースは低域に何のカットも施されていないので、いいように出てくる感触だ。それが深く沈んでにじみのないタッチを弾ませている。ピアノやシンバルの鮮やかさも、誇張されたそれではなくナチュラルだ。

ボーイソプラノのコーラスは、高域へいやというほど伸び上がっている。そこに耳障りな刺々しさや歪みがなく、透明でふくよかな響きが充満しているのがレンジの広さというものだろう。またトゥイーターを正確に制動して、金属的な硬質感を排除しているのが心地好さにつながっている。

オーケストラの鮮烈な解像力とダイナミズム、ボーカルの深い陰影とすぐそばから聴こえてくるようなリアリティも、スピーカーを力強く把握していることから生まれてくる。サイズを越え、価格を越えた豊かな駆動力をベースに、精密でダイナミックな再現性を実現するアンプ。CECの技術が高度に発揮された結果といっていい。

 

定格出力:120W+120W(8Ω)
周波数特性:10Hz-200kHz/ +0/-0.2dB/1W
S/N比:XLR:101dB、RCA:91dB(flat/1W)
入力:バランス2系統(XLR)、アンバランス2系統(RCA)
入力ゲイン:0dB、+6dB
出力:スピーカー出力1系統、REC OUT 1系統
消費電力:60W (無入力時), 300W (RCA入力/8Ω負荷定格出力時)
外形寸法:217.5(W)×448(D)×108(H)mm(レッグ、端子を含む)
質量:9.6kg

CEC「AMP53」製品情報
CECウェブサイト
井上千岳 Chitake Inoue

東京都大田区出身。慶應大学法学部・大学院修了。有名オーディオメーカーの勤務を経てオーディオ評論をはじめる。神奈川県葉山に構える自宅視聴室でのシビアな評論活動を展開、ハイエンドオーディオはもちろん高級オーディオケーブルなどの評価も定評がある。趣味は5歳より始めたピアノで、本格的な演奏を楽しむ。ほかに、登山をたしなみ、鮮魚料理(いわし)、日本酒にも目がない。