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レポート/岩井 喬 |
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小型のヘッドホンアンプをはじめ、PCへ接続するオーディオインターフェース製品など、現代における生活スタイルに根ざしたオーディオ製品の数々を送り出しているAUDIOTRAK。充電池を内蔵させ、どんな場所でもヘッドホンを高音質で楽しむことができる新たなスタイルを促進させたポータブルヘッドホンアンプ「imAmp」や、高品位なDACとヘッドホンアンプを搭載した「DR.DAC2」を筆頭に、リーズナブルかつコンパクトで高音質な製品群は、幅広いユーザーから高い評価を受けている。特にユニークなのは、ICソケットを採用することで音色調整などに用いているオペアンプを交換できるようにしている点だ。ユーザーが好みのサウンド作りを実践できる設計は、カスタマイズや自作にも通じ、オーディオの奥深さ、楽しさを伝える大変意義深い構成であると考える。
今回発売された「DR.DAC2 DX」は、USBオーディオインターフェース動作時にBit-Perfect方式の無損失デジタル出力や5.1chデジタル出力にも対応できるようになったほか、電源部の強化などが実施されている。スペックとしては最高192kHz/24bitでのデジタル入力が可能なDACを内蔵。DACチップにはバーブラウンPCM1798を搭載する。PCとの接続も可能なUSB入力、光/同軸に対応したデジタル入力を装備。FDO(Full Differential Output)方式によるトリプル・オペアンプ回路を採用しており、加えてヘッドホン出力にはOP2604が、ライン出力にはOP2134が挿入され、トータルで5個のオペアンプによってドライブされている。ヘッドホン出力は2系統用意されているが、出力ゲインを各々変えてあるため、幅広いインピーダンスにも対応できる。各部高音質パーツをふんだんに用いており、Wima製フィルムコンデンサー、サムヨン製電解コンデンサー、三洋製OS-CONなど、全面的に高音質なコンデンサーを搭載するのも特徴だ。
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本機のフロントパネル。2系統のヘッドホン出力は出力ゲインが異なる。16〜300ΩのヘッドホンはOutput1、300〜600Ωのスタジオモニター用などにはOutput2を使用する |
本機のリア部。各1系統のライン入出力、同軸/光×1のデジタル出力のほか、USB端子、5.1ch出力を可能とする光出力端子も装備する |
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高品位パーツをふんだんに採用した本機の内部。オペアンプを交換することで、自分好みのサウンドにチューニングできるのがポイントだ。フロントパネルの4つのネジとリアパネル2つのネジを外し、スライドさせると基板が現れる |
最高で24bit/192kHzでのデジタル入力を可能とするDACチップを内蔵する。USB入力端子を用いれば、PCなどに取り込まれた非圧縮の高音質音源も最大限のスペックで楽しむことができる。これからの高音質音楽配信時代を見据えた設計となっている |
サウンドは、前モデルDR.DAC2と比較して低域の豊かさと制動力がさらに増して、パワー溢れるものとなっている。密度感もあり、弦楽器の質感も粒子が細かく、スムーズな音運びである。潤いある音場で、質感のリアルさも向上している。まずは本機とWadia 170iTransportを同軸デジタル接続で試聴したが、非常にSNの良い音場の静寂さを感じられ、カラヤンの細やかな弦の広がり感もスムーズに展開する。オスカーのウッドベースは弾力感がほど良く、キレも感じられる。メニケのギターはローエンドの厚さとソリッドなエッジが引き立ち、バランス良いまとまりがある。ヌーンのボーカルはハードなテイストであるが、ハリがあり鮮やか。輪郭もはっきりとしてクリアな描写だ。次にCDプレーヤーのデノン DCD-SA11をデジタル接続すると、低域の重心が下がり、厚みがさらに増した音像を楽しめる。リッチな音場であるが、鮮やかでハリのあるサウンドという点では170iTransportとの組み合わせに分がある。CDからのアナログ出力は押し出し感があり、音像の分離と粒立ちの良さが映える。
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岩井氏愛用のヘッドホン、ソニーMDR-750 6で本機を試聴。ワディアiTransportとの組み合わせは、音質のみならずサイズのマッチングなどから見てもお勧めだ |
一般的な光・同軸のS/PDIF方式デジタル入力以外に、本機はUSBオーディオインターフェースを内蔵しているが、このUSBを活用した入力にはさらなる発展性が望める。
USB接続によってPCに保存されたコンテンツをデジタル伝送で楽しむことができる本機は、PCに設けられたヘッドホン/ライン出力からのサウンドとは一線を画したSNの良いクリアなサウンドを得ることができる。またDVDビデオをPCで再生した場合の5.1chサラウンド音声に関してもデジタル出力できるので、本機とAVアンプなどをデジタル接続すれば、シアター対応も可能となる。WAV(AIFF)ファイルで取り込んだ音声をUSB経由で試聴したが、広がりある空間と優しいアタック感の音像が耳あたりの良い聴きやすさに繋がっている。ピアノなどの高音域の楽器は粒立ちよく鮮やかに立ち上がり、ノイズや粗さは全く感じられない。非常に澄んだサウンドを得ることができ、PCの持つポテンシャルの高さをうかがい知ることができるものであった。これから本格的に開始されるであろう高音質音楽配信時代を見据えた場合、本機のようなPCとUSB接続できる機器は新たな潮流となってくるだろう。
■試聴に使用したソース
・『ホルスト:組曲<惑星>/カラヤン(指揮)、ベルリン・フィル』
ユニバーサル POCG- 9355 ※略称:カラヤン
・『ホームカミング/ヌーン』
ビクター VICJ-61567 ※略称:ヌーン
・『プリーズ・リクエスト/オスカー・ピーターソン・トリオ』
ユニバーサル UCCU-9407 ※略称:オスカー
・『メニケッティ/デイヴ・メニケッティ』
DREAM CATCHE CRIDE35 ※略称:メニケ |
ヘッドホンを使用する際、プレーヤーに設けられている一般的なヘッドホン出力を用いるだけで何の不足もない、と考える方も少なくないとは思うが、大抵の場合、そうした使用方法ではヘッドホンの持っている能力を出し切れていない。ご存知のように市場に溢れる多種多様なヘッドホンが持つインピーダンス値は、数Ω〜数kΩまでの範囲に及び、アンプをはじめとする駆動回路に対して要求される負担は決して軽いものではない。結果として、さまざまなスペックを持つヘッドホンに対して、その音質を十二分に引き出すための最適な駆動を可能とする専用のアンプ=ヘッドホンアンプの存在は必要不可欠なものであるといえる。
例のひとつを挙げてみよう。高級ヘッドホンの中には300〜600Ωというハイインピーダンスのモデルもいくつか見受けられるが、前述の理由から、そのままiPodなどの携帯プレーヤーに接続してもゲインが全く稼げず、SNの悪いサウンドとなってしまう。そうした場合、ヘッドホンアンプがあれば適切な条件でヘッドホンを駆動できるので、明瞭かつ躍動感あるサウンドを得ることができる。
最近の傾向として、「imAmp」のように充電池を内蔵してポータブルな使用環境を目指したものや、本機のようにDACを内蔵したものが増えてきている。住環境としてスピーカーを設置できないユーザー層にとって、ヘッドホンはまさに最高のサウンドを届けてくれるデバイスであり、リスニングにおける主役である。その環境を底上げし、主役を引き立ててくれるヘッドホンアンプはなくてはならない下支え的な存在だ。これまでヘッドホンそのものにスポットが当たっているが、今後はその能力を引き出す存在として、ヘッドホンアンプへの注目度が上がってくるであろうと考えている。
DACを内蔵した「DR.DAC2 DX」もそうした意味で、今後のヘッドホンを中心としたシステム構築の上では中核を担える存在として捉えることができる。
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■執筆者プロフィール |
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岩井 喬 Takashi Iwai
1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。 JOURNEY、TOTO、ASIA、Chicago、ビリー・ジョエルといった80年代ロック・ポップスをこよなく愛している。 |
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