ドイツを代表するヘッドホンブランドであるULTRASONEのハイエンドモデル“edition”シリーズに最新機種の「edition 8」が新しく加わった。高音質・装着性・デザインの全てに、ULTRASONEが持てる最高の技術を惜しみなく投入したという「edition 8」の魅力を、歴代editionシリーズとの比較試聴と合わせてオーディオ・ライターの岩井喬氏がレポートする。 |
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この“S-LOGIC”とはヘッドホンの音をスピーカーで聴く音に近づけるため、外耳の影響も考慮してドライバーを通常位置からオフセット装着した独自技術である。やがて1991年に同社の母体となる「ULTRASONE GmbH」を設立。2000年には現社長のマイケル・ウィルバーグ氏を迎え、株式会社としての体裁である「ULTRASONE AG」となり新たなスタートを切るのである。 さらに同社技術の大きな特徴といえるMUメタルによる電磁波抑制技術ULE(Ultra Low Emission)も、フロリアン氏が長年携わってきた電磁波研究の成果があらわれたもので、当初有償オプションとして用意されていたものだったが、2004年からはスタンダードな機能として定着している。 同社製品における世界的市場シェアの8割はプロユースであるそうだが、独特な頭外定位感は唯一の存在ともいえるもので、音の分離と奥行き、音像の定位感の広がりが手に取るように分かり、モニターとして高い評価を得ているのも納得できる。特に音の立ち上がり、立下りのスピードに着眼した設計となっており、低域における分離の良さと、アタック感の高い再現性は目をみはるものがある。 |
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2004年には、ULTRASONEを世界的に知らしめることになった超高級モデル「edition 7」が発売される。エチオピアン・シープ・スキンによるイヤーパッドやハウジングのクロームメッキなど、贅を尽くした作りで注目された。全世界999台限定で、日本での販売価格が472,500円(税込)という、ダイナミック型ヘッドホンとしては他に例を見ない孤高の存在として迎え入れられた。 それから2年後となる2006年に次世代モデル「edition 9」が発売される。日本での価格は241,500円(税込)と、「edition 7」に比べてほぼ半値となったが、もちろんグレードダウンをしたわけではなく、「7」と同様の素材や技術を取り入れながらも、さらに進化したサウンドを身に付けたモデルとしてこちらも大きな反響を呼び、約1,100台が限定製造されたが、好評を博し、既に完売状態となっている。 editionシリーズとしては初めて台数限定の制約を取り払い、通常販売が行われる「edition 8」は、高品位な質感という点においてこれまでのシリーズ同様のコンセプトを踏襲しているが、「7」や「9」が完全にインドアユースを意識していたのに対し、本機は積極的にアウトドアで使えるコンパクトさとデザイン、音質を意識しているようだ。
まず基幹技術である“S-LOGIC”は進化した“Plus”バージョンを搭載。より自然で立体的な空間の浮き上がりを実現した。新開発のΦ40mmトリプル・バスチューブ・コントロールド・チタニアム・マイラー・ドライバーは3本のベースチューブによって、広帯域特性を維持しながら低域の伝達スピードを制御し、量感と引き締め効果のバランスが取れる構造を採用している。 そしてケーブルにはUSC OFC(超軟加工・無酸素銅)を採用。「iPod」などのポータブルオーディオプレーヤーと接続しやすいよう、短めのケーブル長(1.2m)で、同じ導体グレードの延長ケーブル(4m)も付属する。ULEももちろん搭載し、質感の高いフランス製マドラスゴートスキン・キャリングバックも同梱。本機を所有することの喜びについても充分考慮された構成となっている。
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イヤーパッドやヘッドバンド部にはエチオピアン・シープ・スキンを用い、しっとりとした肌触りの良い装着感を実現。ドライバーはもちろん、デザインや全てのパーツ製造において本機は“メイド・イン・ジャーマニー”の姿勢を貫いている。アルミ成型でスライダーにシリコンボールベアリングを仕込んだ特製ヘッドバンドは、スムースな調整と堅牢さを獲得。マウント調整部におけるアルミの削り出しパーツはシャープな鋭さを持たせており、ボディ全体で緩急のスパイスが効いたエッジ感も際立つデザインとしている。
希少金属ルテニアム箔が施されたハウジングは、前モデルのクロームメッキと同等以上に落ち着きを保ちながら、輝きある光沢を放つ。女性ユーザーが外出時に装着していても収まりの良いデザインであることをテーマの一つにしていたと思われる。非常にコンパクトな仕上がりで密閉型高級機の中では相当軽快な部類となるだろう。 着け心地も本革と余裕あるイヤーカップ内部デザインによって耳が圧迫されることなく爽快だ。音漏れについては他のヘッドホン同様に注意した方が良いとは思うが、本機の場合はしっかり耳全体を覆うので遮音性能自体が高い。 |
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今回の試聴で用意したソフトを紹介しよう。クラシックの「カラヤン」(#6「展覧会の絵・プロムナード」)で管弦楽器の空間への広がりと音像の立ち方、同タイトル(#19「バーバ・ヤーガの小屋」)ではティンパニのアタックと質感についてを聴く。ジャズの「オスカー」(#6「ユー・ルック・グット・トゥ・ミー」)ではピアノとウッドベース、ドラムの質感、ロックの「ジャーニー」(#6「ESCAPE」)ではボーカルとエレキギターのディティール、リズム隊のキレと押し出し感のバランスに注目した。ポップス(ジャズ)の「ヌーン」(#1「Scarborough Fair」、#2「Louisiana1927」)はアナログライクなぬくもりあるボーカルとピアノ、ベース、ストリングスの鮮度感を聴く。
「オスカー」のピアノは軽快で空間にすっきりと浮かび上がる。ドラムのキレやハリもきつさがなく聴きやすい。ウッドベース弦はいきいきとして艶やか。胴鳴りも若々しいハリがあり、クリアに磨かれたサウンドだ。
<ULTRASONE「edition 8」の詳しいレビューは2009年6月17日発売の「AV REVIEW」7月号でも読むことができます> |
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<シリーズ比較試聴> Part.1〜「edition 8 VS edition 7」 「ジャーニー」のギタートーンはリッチで豊かな音伸びがある。エッジ感は強めだが、ベースの太さは程良く確保され、音ヤセは感じない。「オスカー」のスネアやキックはボトムの太さがあり、滑らかで艶のある質感表現は流石だ。「ヌーン」ピアノの響きは豊潤で煌びやかなエッジがゴージャスさを演出する。 両機を聴き比べてみると、小音量でのリアリティ、音色のニュートラルさ、解像感と透明度のバランスは最新モデルである「edition 8」の進化が明らかに見て取れる。また軽快な装着感においては「8」が大差で引き離した感もあり、editionシリーズの高品位なサウンドがよりポータブルで楽しみやすくなったことはうれしい限りだ。
「9」については、サウンド全体の押し出し感、馬力も伴う解像感が見事。「カラヤン」では華やかなホーンが力強く張り出し、低域の押し出しも豊か。音場の広がりも十分で、各音像の太さが増し、スピーディーでがっしりとした質感が出る。しかしながら弦の質感は流麗である。「オスカー」は重厚な音場が広がり、ピアノの音伸びも豊か。ドラムサウンドもナチュラルで、ウッドベースの深いむっちりとした質感と、指の動きも鮮明なアタックのバランスが良い。 「ヌーン」ではピアノの広がる拡散成分の爽快感、自然な空間性はボーカルのスムースでヌケの良い質感でもはっきり掴める。「ジャーニー」のエレキは厚みもあり、エッジ感とのバランスが整っている。シェイプされたスマートさも見えるが、健康的な太さの各音像は立体的に定位し、ゴージャスなロックを展開する。 小音量でのまとまりの良さ、ハンドリングのしやすさは断然「8」の方が良いと感じる。音場感や量感については完成後まもない本機を聴いただけでも、相当の実力を備えていることがわかる。今後エイジングを重ねていけば「9」「7」を超えるパフォーマンスも期待できそうだと感じた。 |
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