ドイツを代表するヘッドホンブランドであるULTRASONEのハイエンドモデル“edition”シリーズに最新機種の「edition 8」が新しく加わった。高音質・装着性・デザインの全てに、ULTRASONEが持てる最高の技術を惜しみなく投入したという「edition 8」の魅力を、歴代editionシリーズとの比較試聴と合わせてオーディオ・ライターの岩井喬氏がレポートする。
 


ULTRASONEの創業者であるフロリアン・ケーニッヒ氏はミュージシャンであるとともに、大学時代は電磁波の研究を専攻しており、第2専攻でHRTF(頭内伝達係数)を学んでいた人物であるという。20数年前、当時ミュージシャンとして理想のヘッドホンがないことに気がつき、自らヘッドホン作りをはじめ、HRTF研究の成果も踏まえ“S-LOGIC”の基礎となる頭外定位の技術を確立し、特許も取得した。

ULTRASONEの創業者であり、“S-LOGIC”をはじめとするヘッドホンのための基幹技術の開発者でもあるフロリアン・ケーニッヒ氏

この“S-LOGIC”とはヘッドホンの音をスピーカーで聴く音に近づけるため、外耳の影響も考慮してドライバーを通常位置からオフセット装着した独自技術である。やがて1991年に同社の母体となる「ULTRASONE GmbH」を設立。2000年には現社長のマイケル・ウィルバーグ氏を迎え、株式会社としての体裁である「ULTRASONE AG」となり新たなスタートを切るのである。

さらに同社技術の大きな特徴といえるMUメタルによる電磁波抑制技術ULE(Ultra Low Emission)も、フロリアン氏が長年携わってきた電磁波研究の成果があらわれたもので、当初有償オプションとして用意されていたものだったが、2004年からはスタンダードな機能として定着している。

同社製品における世界的市場シェアの8割はプロユースであるそうだが、独特な頭外定位感は唯一の存在ともいえるもので、音の分離と奥行き、音像の定位感の広がりが手に取るように分かり、モニターとして高い評価を得ているのも納得できる。特に音の立ち上がり、立下りのスピードに着眼した設計となっており、低域における分離の良さと、アタック感の高い再現性は目をみはるものがある。

 

2004年には、ULTRASONEを世界的に知らしめることになった超高級モデル「edition 7」が発売される。エチオピアン・シープ・スキンによるイヤーパッドやハウジングのクロームメッキなど、贅を尽くした作りで注目された。全世界999台限定で、日本での販売価格が472,500円(税込)という、ダイナミック型ヘッドホンとしては他に例を見ない孤高の存在として迎え入れられた。

それから2年後となる2006年に次世代モデル「edition 9」が発売される。日本での価格は241,500円(税込)と、「edition 7」に比べてほぼ半値となったが、もちろんグレードダウンをしたわけではなく、「7」と同様の素材や技術を取り入れながらも、さらに進化したサウンドを身に付けたモデルとしてこちらも大きな反響を呼び、約1,100台が限定製造されたが、好評を博し、既に完売状態となっている。

editionシリーズとしては初めて台数限定の制約を取り払い、通常販売が行われる「edition 8」は、高品位な質感という点においてこれまでのシリーズ同様のコンセプトを踏襲しているが、「7」や「9」が完全にインドアユースを意識していたのに対し、本機は積極的にアウトドアで使えるコンパクトさとデザイン、音質を意識しているようだ。


高音質、装着性、デザインの各面において、ULTRASONE社の先端技術が投入された“editionシリーズ”の新しい顔となる「edition 8」。過去のモデルが数量限定であったのに対して、本製品ではシリーズの高品位なサウンドを広く訴求していくために通常販売が行われる(写真は拡大します) 自然な音の響きと定位感を実現する「S-Logic Plus」を搭載。イヤーカップの形状がもたらす音響的特性への影響をコントロールすることができ、ワイドなダイナミックレンジと開放感を実現している

まず基幹技術である“S-LOGIC”は進化した“Plus”バージョンを搭載。より自然で立体的な空間の浮き上がりを実現した。新開発のΦ40mmトリプル・バスチューブ・コントロールド・チタニアム・マイラー・ドライバーは3本のベースチューブによって、広帯域特性を維持しながら低域の伝達スピードを制御し、量感と引き締め効果のバランスが取れる構造を採用している。

そしてケーブルにはUSC OFC(超軟加工・無酸素銅)を採用。「iPod」などのポータブルオーディオプレーヤーと接続しやすいよう、短めのケーブル長(1.2m)で、同じ導体グレードの延長ケーブル(4m)も付属する。ULEももちろん搭載し、質感の高いフランス製マドラスゴートスキン・キャリングバックも同梱。本機を所有することの喜びについても充分考慮された構成となっている。


イヤーカップにはルテニアムというレアメタルを採用。表面はミラーコートを施し、editionシリーズならではの上質な佇まいを持たせている。ヒンジ部分にはブランドロゴが刻印されている(写真は拡大します) フランス製マドラスゴートスキンを用いた上質なキャリングバック。内部にはiPodやポータブルヘッドホンアンプを収納するポケットも設けられている。4m延長コードも付属する(写真は拡大します)
 

イヤーパッドやヘッドバンド部にはエチオピアン・シープ・スキンを用い、しっとりとした肌触りの良い装着感を実現。ドライバーはもちろん、デザインや全てのパーツ製造において本機は“メイド・イン・ジャーマニー”の姿勢を貫いている。アルミ成型でスライダーにシリコンボールベアリングを仕込んだ特製ヘッドバンドは、スムースな調整と堅牢さを獲得。マウント調整部におけるアルミの削り出しパーツはシャープな鋭さを持たせており、ボディ全体で緩急のスパイスが効いたエッジ感も際立つデザインとしている。



ヘッドバンド、イヤーパッドにはやさしく上質な肌触りを持つエチオピアン・シープスキン・レザー素材を採用。高いフィット感も実現しており、ポータブル使用時の音漏れもシャットアウトする。ヘッドバンドの内側にはシリアルナンバーがマークされている(写真は拡大します)

希少金属ルテニアム箔が施されたハウジングは、前モデルのクロームメッキと同等以上に落ち着きを保ちながら、輝きある光沢を放つ。女性ユーザーが外出時に装着していても収まりの良いデザインであることをテーマの一つにしていたと思われる。非常にコンパクトな仕上がりで密閉型高級機の中では相当軽快な部類となるだろう。

着け心地も本革と余裕あるイヤーカップ内部デザインによって耳が圧迫されることなく爽快だ。音漏れについては他のヘッドホン同様に注意した方が良いとは思うが、本機の場合はしっかり耳全体を覆うので遮音性能自体が高い。

 

今回の試聴で用意したソフトを紹介しよう。クラシックの「カラヤン」(#6「展覧会の絵・プロムナード」)で管弦楽器の空間への広がりと音像の立ち方、同タイトル(#19「バーバ・ヤーガの小屋」)ではティンパニのアタックと質感についてを聴く。ジャズの「オスカー」(#6「ユー・ルック・グット・トゥ・ミー」)ではピアノとウッドベース、ドラムの質感、ロックの「ジャーニー」(#6「ESCAPE」)ではボーカルとエレキギターのディティール、リズム隊のキレと押し出し感のバランスに注目した。ポップス(ジャズ)の「ヌーン」(#1「Scarborough Fair」、#2「Louisiana1927」)はアナログライクなぬくもりあるボーカルとピアノ、ベース、ストリングスの鮮度感を聴く。


岩井氏のリファレンスソフト
『Homecoming』
noon
『ESCAPE』
Journey
『ボレロ/スペイン協奏曲/展覧会の絵』
カラヤン/ベルリン・フィル
『プリーズ・リクエスト』
オスカー・ピーターソン・トリオ


まずCD再生でその音を確認する。明瞭度や音ヌケも充分確保され、押し付けがましさのない自然な頭外定位感が落ち着きを生んでいる。「カラヤン」では自然にふわりと立ち上がる音場が爽やかで、管弦楽器のふくよかな響きにはゴージャス感がある。ホーンのタンギングまで細やかに見えてくる。ティンパニのアタックも程良く見通しはクリアだ。

「オスカー」のピアノは軽快で空間にすっきりと浮かび上がる。ドラムのキレやハリもきつさがなく聴きやすい。ウッドベース弦はいきいきとして艶やか。胴鳴りも若々しいハリがあり、クリアに磨かれたサウンドだ。

「ヌーン」ではボーカルはハードなエッジも見せるが、瑞々しい響きも伴って透明感も得られる。ハードなハイノートが輝くピアノも美しく、ほんのり奥のストリングスが見える定位もバランス良好だ。

「ジャーニー」では軽快なリズム隊と、左右に振られたエレキにおけるエッジの効いたプレイが浮き上がってくる。ボーカルはすっきりキレも良く、ディティールが際立つ。


CD再生のリファレンスとして使用したLehmann audioのヘッドホンアンプ「Black Cube Linear」。今回はXLRタイプのProで試聴を行った(写真は拡大します) iPod音源の再生用にはQables.comのポータブルヘッドホンアンプ「iQube」をリファレンスにセレクト。高能率Dクラスアンプを搭載する(写真は拡大します)


iPodで直接聴いた場合と、ヘッドホンアンプ「iQube」を間に接続した場合とでは、ポータブル再生の音はどう変わってくるだろうか。全体的に穏やかさが加わり、ベースもむっちりとした質感が加わる。

「カラヤン」のストリングスはさらに落ち着きがある。スリムな音場表現にはなるが、定位感は自然に広がり、ポータブル環境から一歩前へ出ているかのような明瞭度がある。

「オスカー」の軽快なスイング感もバランスよく、「ヌーン」の鮮やかさと粒立ち良い音像は耳あたり良い。小音量であっても充分な明瞭度が得られ、高い遮音性能も相まって、アウトドアの環境でも格調高い解像度サウンドが楽しめる。いわばポータブル環境の最上級を目指した位置付けとも考えられる音作りであると感じた。

Specification
オーディオヘッドホン
edition 8
¥OPEN(予想実売価格150,000円)


●形式:密閉ダイナミック ●ドライバー:40mm チタニアム・マイラー ●再生周波数帯域:6〜42,000Hz ●インピーダンス:30Ω ●出力音圧レベル:94dB ●質量:260g ●コード:ストレート1.2m/4.0m(延長コード付属) φ3.5mm金メッキステレオミニ(標準プラグ変換アダプター付属)

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<ULTRASONE「edition 8」の詳しいレビューは2009年6月17日発売の「AV REVIEW」7月号でも読むことができます>
 


今回は歴代“edition”シリーズのサウンドキャラクターを比べながら新しい「edition 8」の魅力に迫る試みにも挑戦した。なお、「edition 9」「edition 7」については、ともに発売以後数々の試聴を繰り返し、エージングを重ねてきたテスト機である一方、「edition 8」については今回の速報取材のため、ドイツから到着したばかりの量産機で試聴を行っていることをあらかじめお断りしておく。

<シリーズ比較試聴> Part.1〜「edition 8 VS edition 7」

editionシリーズ対決の一番手は初代モデル「7」と「8」による手合わせだ。まず「7」のサウンドとしては音場の広大な広がり感があり、倍音成分の豊かさにより、カラリとしたエッジ感のあるトーンである。「カラヤン」でも落ち着いた深みがあり、どっしりとして安定した音像がある。管弦のバランスよく滑らかな質感は聴きやすい。

「ジャーニー」のギタートーンはリッチで豊かな音伸びがある。エッジ感は強めだが、ベースの太さは程良く確保され、音ヤセは感じない。「オスカー」のスネアやキックはボトムの太さがあり、滑らかで艶のある質感表現は流石だ。「ヌーン」ピアノの響きは豊潤で煌びやかなエッジがゴージャスさを演出する。

両機を聴き比べてみると、小音量でのリアリティ、音色のニュートラルさ、解像感と透明度のバランスは最新モデルである「edition 8」の進化が明らかに見て取れる。また軽快な装着感においては「8」が大差で引き離した感もあり、editionシリーズの高品位なサウンドがよりポータブルで楽しみやすくなったことはうれしい限りだ。


ULTRASONEのフラグシップとして脚光を浴びてきた“editionシリーズ”それぞれの特徴を一斉に比較試聴した。写真左から「edition 9」「edition 8」「edition 7」(写真は拡大します) 全モデルについて、CD再生とiPod再生の両方でサウンドのキャラクターを確認する岩井氏(写真は拡大します)


<シリーズ比較試聴> Part.2〜「edition 8 VS edition 9」

同門対決の二番手は年齢も近い「9」との手合わせである。ある種「7」の場合は完全に違うベクトルに向かうサウンドと言えたが、「9」と「8」は非常に近い方向性のキャラクターであると感じられた。

「9」については、サウンド全体の押し出し感、馬力も伴う解像感が見事。「カラヤン」では華やかなホーンが力強く張り出し、低域の押し出しも豊か。音場の広がりも十分で、各音像の太さが増し、スピーディーでがっしりとした質感が出る。しかしながら弦の質感は流麗である。「オスカー」は重厚な音場が広がり、ピアノの音伸びも豊か。ドラムサウンドもナチュラルで、ウッドベースの深いむっちりとした質感と、指の動きも鮮明なアタックのバランスが良い。

「ヌーン」ではピアノの広がる拡散成分の爽快感、自然な空間性はボーカルのスムースでヌケの良い質感でもはっきり掴める。「ジャーニー」のエレキは厚みもあり、エッジ感とのバランスが整っている。シェイプされたスマートさも見えるが、健康的な太さの各音像は立体的に定位し、ゴージャスなロックを展開する。

小音量でのまとまりの良さ、ハンドリングのしやすさは断然「8」の方が良いと感じる。音場感や量感については完成後まもない本機を聴いただけでも、相当の実力を備えていることがわかる。今後エイジングを重ねていけば「9」「7」を超えるパフォーマンスも期待できそうだと感じた。

また装着感に関してはやはりその軽さで「8」の魅力は大きいと言える。ポータブルでも楽しめ、最高の表現力を持つライトウェイトモデルという位置付けで「8」はひとつのステイタスとなり得るだろう。

 
editionシリーズ ラインナップの比較
モデル


edition 8


edition 9


edition 7
形式
密閉ダイナミック
密閉ダイナミック
密閉ダイナミック
ドライバー
40mm チタニアム・マイラー
40mm チタニアム・マイラー
40mm チタニアム・マイラー
イヤーパッド
エチオピアン・シープスキン レザー・イヤパッド&ヘッドバンド
エチオピアン・シープスキン レザー・イヤパッド&ヘッドバンド
エチオピアン・シープスキン レザー・イヤパッド&ヘッドバンド
再生周波数帯域
6〜42,000Hz
8〜35,000Hz
8〜35,000Hz
インピーダンス
30Ω
30Ω
30Ω
出力音圧レベル
94dB
96dB
96dB
コード
OFCストレートコード 1.2m/
(4m延長コード付属) 
OFCストレートコード 3m
OFCストレートコード 3m
(4m延長コード付属)
プラグ
φ3.5mm金メッキステレオミニ
(標準プラグ変換アダプター付属)
6.3mm ゴールド鍍金プラグ
(3.5mm ステレオ・プラグ変換アダプター付属)
6.3mm ゴールド鍍金プラグ
(3.5mm ステレオ・プラグ変換アダプター付属)
本体質量
260g
310g (コード別)
310g (コード別)
価格
¥OPEN(150,000円前後)
241,500円(税込)
472,500円(税込)
関連サイト
 
執筆者プロフィール
岩井喬 Takashi Iwai

1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。 JOURNEY、TOTO、ASIA、Chicago、ビリー・ジョエルといった80年代ロック・ポップスをこよなく愛している。
 

【ULTRASONE製品/問い合わせ先】
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