ハードウェアが過剰な存在感を主張せず、生活空間に自然に溶け込むことも英国流だ。また、同社の製品は複雑な操作系を排したシンプルなデザインにこだわっているが、その一方で使い勝手がとても良いことでも知られる。 メリディアンはハイエンドオーディオメーカーのなかでも技術的な先進性が際立っていることで有名だ。DSPを駆使したデジタル信号処理に早い時期から取り組み、BDに導入されたHDオーディオの基礎となるMLP(メリディアン・ロスレス・パッキング)を開発したこともよく知られている。 今回同社が完成させたF80には、そうした最先端技術がふんだんに盛り込まれている。 |
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F80がフェラーリとのコラボレーションの成果として生まれたと聞いて両社の結び付きを不思議に思うかもしれない。だが、プレミアムカーのオーディオシステムをハイエンドオーディオのブランドが手がける例は珍しくないし、自動車メーカーが開発した新素材や振動制御/防振技術のなかにはオーディオ機器への応用がきくものがあり、実例もいくつか存在する。 F80はCD/DVD再生、FM/AMチューナーを内蔵した一体型システムなので、筐体内部にはドライブメカニズムのモーターやスピーカーの振動板など複数の振動源が存在する。その振動による音質劣化を回避するために、今回はスピーカーユニットをサポートするキャビネット素材などにフェラーリが開発した特殊素材が導入されているのだという。 F80はメリディアンの製品のなかでもきわめてユニークな形状を採用しているので、振動の制御やパーツ・基板の配置には様々なノウハウが詰まっている。 ポピュラーな小型システムの基準で作るならともかく、メリディアンのコンポーネントの技術をそのまま凝縮した高級システムとなると、完成までにいろいろな課題を解決する必要があったはずだ。
内部構造に注目してみると、トロイダルトランスを採用した高効率電源回路、表面実装技術を駆使した高密度なメイン基板、振動対策を徹底させたドライブメカなどを立体的に組み合わせており、メインユニットとサブウーファーで構成されたスピーカーブロックは巧みに電気回路と隔離されていることがわかる。 メタルと合成樹脂の特殊なコンポジット素材などを使っていることもあり、本体は見かけから想像するよりも重量級で、仕上げの質感も高級システムにふさわしいものだ。オプションで用意されるiPod用ドック「i80」も本体と共通のデザインに統一されている。
奥行きの浅い扁平の半球状ボディは、中央のボトム部にスロットローディングメカを内蔵している。操作は本体上部に横一列に並んだ操作ボタン、または付属の小型リモコンで行うスタイルで、本体の操作ボタンは複数の機能を階層構造にわかりやすく配分したメリディアン独自の方式を採用。入力切替やアラームクロック機能などの基本操作に加え、DSPによる音場コントロール、DVDのメニュー操作、ディスプレイの明るさの変更などもこの操作部だけですべて行うことができる。 表示部には有機ELディスプレイを採用し、周囲の明るさに応じて輝度を自動的に調整するため、読みやすく、目に優しい。
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最も感心したのは、テーブルに載せてもラックに収めても、DSP音場コントロールが有効にはたらいて、自然なステレオ感と豊かな広がりが得られることだ。不利な設置条件では声がこもったり、ベースがふくらんだりしそうなものだが、呆気ないぐらい簡単に伸びやかで自然な音場が広がる。 曲線を生かした丸みのあるデザインも功を奏しているのか、見た目にも音の上でもオーディオ機器の存在を感じさせない。 広めのリビングルームでも音圧感に不足のない音量が得られるし、その場合でも音が歪みっぽくなったり、きつさや硬さが顔を出すことがないのも立派だ。これはボディの制振対策が有効に機能している証拠なのだろう。普通はこのサイズでここまで大きな音を出せばうるさくて聴いていられないという思うほど音量を上げても、鳴りっぷりの良い響きで軽々と音を出してくるのには驚かされた。 低音は量感に頼るのではなく、質感の良い響きを出すことで存在感を引き出しているのだが、そこがまさに他のコンパクトシステムと大きく異なる点だ。このサイズのオーディオシステムで低音の音色や立ち上がり、立ち下がりのタイミングがクリアに聴き取れる例はきわめて珍しい。
筆者の愛聴盤、ノラ・ジョーンズの『Not Too Late』(EMIミュージック・ジャパン)はギターやピアノがとてもナチュラルで、少し大きめの音で再生しても無理な力みがないのがいい。本体のサイズが小さいにも関わらずベースは驚くほど豊かな響きを引き出すのだが、そのベースの音に余計なふくらみとかノイズがまとわりつかないので、ピアノやギターの音色がくもらず、とても風通しがいい。ボーカルは輪郭がにじむことがなく、透明なタッチで伸びやかに広がっていく。別のことをしながら聴いていてもアコースティック楽器の良質なサウンドで気分がリフレッシュできるし、音量を上げてじっくり聴けば息遣いや余韻までリアルに再現していることに驚かされる。こんなに小さなボディから、なぜこれほどストレスフリーのなめらかな音が出てくるのか。私の部屋を訪ねてきた知人は、誰もが例外なく不思議そうにF80を眺めていた。 パット・メセニーとチャーリー・ヘイデンの『ミズーリの空高く』(ポリドール)は、ウッドベースとアコースティックギターのデュオが心地よい空気を運んでくる。テーブルトップに載るほどコンパクトなシステムで、ギターはともかくベースは厳しいのではと首を傾げる読者がいるかもしれないが、F80ならその心配はいらない。2つの楽器のバランスも自然だし、ベースの音色も澄み切って、しかも十分に深い。
なお、付属のシンプルなアンテナ(ロッドアンテナとアンテナワイヤー)をつないだだけでAM/FM放送が良好に受信できたのも意外であった。強電界地域ということもあるが、なによりサウンドのバランスが落ち着いているので、長時間聴いてもストレスを感じることがない。最近はクルマ以外でラジオ放送を聴くことはめったになかったのだが、F80が手近にあると自然にスイッチに手が伸びる。
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MERIDIAN「F80」専用のオプションとして、iPodの音楽ソースが楽しめる専用のコントロールドック「i80」も発売を予定している。専用のケーブルで両機を接続して、iPod内の音楽を再生したり、iPodの充電も同時に行える。
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