■オーディオと車のトップブランドがチームを組んだ理由

メリディアンのF80は、コンパクトなサイズからは想像できない伸びやかで安定したサウンドを聴かせてくれる。その音の良さを実現した背景にはどんな秘密があるのか。以前から気になっていたその疑問を解決するために、3月に来日したメリディアンのMartin McCue氏にF80の開発ストーリーを訊ねてみることにした。

フェラーリとの共同開発のきっかけについてはいろいろなエピソードがあるようだが、McCue氏が紹介してくれた基本的なストーリーは次のようなものだ。

「フェラーリの複数の役員がメリディアンのシステムを使っていて、その音の良さから、メリディアンと何かプロジェクトを組めないかという打診を受けました。 いくつかのアイディアを経て、フェラーリ社のオフィシャルプロダクトとしてまず、家庭用のオーディオシステムを共同で開発することに合意したのですが、我々が技術的に注目したのはフェラーリ社の持つ、先端素材への多様なノウハウでした 」。(McCue氏)

フェラーリの役員の中にメリディアンのシステムを愛用するユーザーが多くいたこと がきっかけとなり、2つのブランドによるコラボレーションが誕生したのだという
独自のDSPを利用した音場コントロールにより、家庭内のどんな場所でも最高のオーディオ・リスニングを楽しむことができる。部屋の中にさりげなく彩りを加える優美なデザインも本機の魅力のひとつだ


自動車メーカーとオーディオメーカーのコラボレーションはこれまでにいくつかの例があるが、モータースポーツの頂点に位置し、F1の覇者でもあるフェラーリがハイエンドオーディオの雄であるメリディアンを選んだというエピソードが興味深い。また、ハイエンドオーディオの老舗メーカーのメリディアンが、初めて小型一体型のハイファイシステムを開発するにあたって、美しいデザインとクオリティの高いサウンドとを両立させるために、筐体として従来にない革新的な新素材を求めていた事情もよくわかる。

コンパクトで美しいフォルムに加えて、音響的に独立した2.1chの3つの独立したスピーカーキャビネットと、DSP技術を駆使したエレクトロニクス部を見事に統合したF80の革新的なソリューションは、今後のメリディアンの商品展開にも大きな広がりを与えることは間違いない。


■なめらかな弧を描く独特の優美なデザインの秘密

ホームオーディオの分野でメリディアンはこれまで多くの製品を手がけてきたが、それとは異なる新しいシステムを作りたい。そんな発想から生まれたのが、コンパクトだが音の良い一体型システムというコンセプトだ。

それを具体化する際にフェラーリとメリディアンが共通してこだわった点のひとつが、なめらかな弧を描く独自のプロダクトデザインだ。ステアリングホイールの形、そしてフェラーリのボディ各所に見られるアーチ形状がヒントになったのだという。

F80のプロダクトデザインを開始する段階で、古いラジオ製品にみられるアール・デコ調の曲線がその出発点になったという
DSPの豊富なオーディオ技術を「コンパクトな筐体の中に一体化することも重要なテーマのひとつだった」という。またその課題を乗り越えることで、メリディアンにとっての新しい進化の糧が得られたと語るMcCue氏

さらに、1930年代のアールデコの流れをくむラジオの形とも共通点がある。F80のサイズと形にどこか懐かしさを感じ、リビングルームに置いたときに心地よい雰囲気が生まれるのは、そこに理由がありそうだ。そして、もちろんこのサイズへのこだわりにも意味がある。

「私たちは、可能な限りコンパクトな製品を作ることに挑戦したのです。これほど小さな製品を作ったことがなかったので難しい課題はいろいろありましたが、その難しさにあえてチャレンジすることによって、新しいステップに到達することが可能になりました。たとえば、CD/DVDドライブ、FM/AMチューナー、プリメインアンプ、スピーカーユニットを一つの小さな筐体に収めることは、私たちにとって非常に大きな挑戦だったのです。その難題にあえて挑戦し、サイズにこだわったもう一つの狙いは、リビングルームから寝室に運ぶという具合に、片手で簡単に移動できるシステムを作ることでした」。(McCue氏)

ハイファイシステムというと敷居が高いと感じる音楽ファンは少なくない。だが、F80はハイファイショップよりも百貨店やインテリアショップの店頭によく似合う。サイズとデザインにこだわる背景には、そうした判断もはたらいているに違いない。McCue氏は、音楽ファンの目に優しく映ることと、簡単に操作できることに神経を使ったと力説する。

 


■F80の高音質を支えるメリディアンの先進技術の数々

オーディオの観点から見ても、F80の曲面形状はいろいろなメリットがある。音の拡散がスムーズで、回折の影響を受けにくい。さらに、棚やラックの上などに置いても共振しにくいという利点も見逃すことができない。

共振を抑えることは、F80を開発する際の重要なテーマの一つであった。音がぶれないF80のサウンドを実現するうえで重要な役割を担っているのが、ボディに使われているコンポジット素材だ。


「F80のボディは射出成型によって作られた2つのピースを組み合わせていますが、この素材は非常に軽く、しかも金属のように剛性が高いという特徴があります。この素材は私たちがフェラーリから提供を受けた技術の一部で、フェラーリが自動車のアンダーカバー部分に使用している素材と同じなのです。フェラーリを通じてこの素材にたどり着くことがなかったら、F80は生まれなかったかもしれません」。(McCue氏)

F80の筐体内部に用いられているのは、フェラーリの車体内部にも用いられているというメタルと合成樹脂の特殊なコンポジット素材。本体の剛性を高めつつ、安定したサウンドの実現に大きく貢献しているパーツのひとつだ
本体のメイン基盤。内部においても強固な制振対策が施されている


この強靭なボディ素材を使って、単純なキャビネットではなく、3次元の立体形状に成型、左右のドライバユニットとサブウーファー用にそれぞれ独立した空間を提供する仕組みだ。この素材と構造を採用したことが、大音量でも共振を起こさず、安定したサウンドを再生する秘密なのだ。

オーディオ回路の工夫は、デジタル技術とアナログ技術の両面に及んでいる。


「F80はDSPで各ドライバの再生音を制御することにより、柔軟なセッティングを可能にしています。極端な例ですが、床やソファの上でもバランスの良い音を引き出すことが可能です。床に置いたり、テーブルの上に乗せても同じように高いクオリティの音が出てくることに驚かない人はいませんね。

アナログ的な工夫の代表例は、この小さな筐体の中に6系統の独立した電源を搭載していることです。チューナー、ディスクリート構成のパワーアンプ、CDエンジンなどにそれぞれ独立した電源を用意しました。専用設計のトロイダルトランスは電磁輻射を可能な限り抑えて、ノイズの発生を回避しています。これだけ小さい筐体ではノイズや信号の干渉が音質劣化の原因になりやすいので、徹底した対策を盛り込んでいます」。(McCue氏)

F80のパワーアンプ出力はチャンネル当たり80Wと余裕があるが、そのスペックを実現できた背景には、ゆとりのある電源設計をはじめとする優れた回路技術が存在していることがわかる。

メリディアンの他のコンポーネントと同様、F80も英国の同社工場でハンドメイドで組み立てられる。「高密度実装基板の生産プロセスなども基本的に外注化せず、一貫して自社工場で管理されています。色々な設計・生産ノウハウが統合されたシステム商品ですので流れ作業ではなく、優れた技術やノウハウを持つ人間がじっくり手作業で組み立てた方が良いのです」とMcCue氏は語る。

イギリス・ケンブリッジ郊外に本拠を構えるメリディアン本社・工場
出荷前の入念なチェックを待つ「F80」

工場では「F80」が1台ずつハンドメイドでつくられている
最終アセンブリ前の「F80」。スピーカー部(奥)とエレクトロニクス部(手前)

■音楽の進化を探求し続けるメリディアンのスピリット

最後に、メリディアンが今後手がける予定の製品について、どんなアイデアを持っているのか訊ねてみた。

「いろいろなアイデアがありますが、ネットワークに対応するオーディオシステムに関心があります。メリディアンは昨年スルースという米国の企業を買収しました。ハードディスクで構築した家庭のミュージックサーバーに音楽データを保存し、タッチスクリーン方式のコントローラーで選曲できるシステムを作りたいですね。F80は柔軟性の高いシステムなので、将来はそうしたネットワークへの対応もありうるかもしれません」。(McCue氏)

メディアサーバーは次世代の音楽再生システムとして大きな可能性を秘めている。メリディアンが目指してきた音楽再生システムの志向と合致する部分も多いので、大いに楽しみである。


パイオニアショールーム/目黒店

ゆったりとした雰囲気の中で、MERIDIAN「F80」をはじめ、パイオニアのプラズマテレビ“KURO”やホームシアターシステムなどが心ゆくまで楽しめる。

営業時間 10:00〜18:30
定休日 毎週水曜日
住所 東京都目黒区目黒1-4-1
電話 03-3495-9911
FAX 03-3490-2325

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