新製品批評

再生機器の実力がダイレクトにわかる『オッフェンバックとモルニ伯爵』

 その日、私は、少しいじわるなDVDを見ていた。目の前に映し出されている映像は、『オッフェンバックとモルニ伯爵』。19世紀の半ばにパリで活躍した作曲家、オッフェンバックの実像を巧みに捉えた映画作品である。面白いのは、この映画、彼の2本のオペレッタの舞台がそのまま収録されていることだ。オッフェンバックと、彼の後援者でもあり、相棒でもあったモルニ伯爵が、観劇にやってきた各国大使や、自国の要人をタネにした悪ふざけをオペレッタの中に仕組む物語である。それは、登場する二人の乞食に、くしゃみの激しい大臣をまねさせたり、その大使たちの名を、二人の乞食の名に使ったりと、他愛ない悪戯だが、皮肉られた側は、必ず怒り出すような悪ふざけだ。  だが、最初に私が言った、「いじわるな…」という表現は、こうした映画の中身とは関係のないことであった。このDVD、再生機器によって映像のクォリティも、サウンドのクオリティも大きく異なるからだ。
 その日、見ていたのは、42型のプラズマディスプレイ、PDS4233J−Sである。スピーカーは、P−42SP11−Hが二本、ディスプレイから少し離した場所にセットしてあった。FUJITSUのプラズマディスプレイは、いわゆるモニターの形で発売しており、スピーカーはすべてオプションである。このスピーカーは、本体に取り付けることもできるが、サウンドを重視するなら、本体から切り離し、専用スタンドに取り付けて使うのがスタンダードな使い方だ。
 

スリムなスピーカーからスケールの大きいサウンドが響いた

 いかに意地悪なソフトでも、映像については心配していなかった。このディスプレイはすでに何回か見ており、映画の画を再生した時の表現力には、十分に満足していたからである。しかし、本当のことを告白すれば、映像に特化したスピーカーでは、サウンドは期待出来ないぞと、はじめから思っていた。だが、その予感は見事に外れた。眼の前にある、スリムで縦に細長いスピーカーからは、スケールのあるサウンドが響いたのだ。
 音の雰囲気も自然である。そして、何より驚いたのは、低音から、中低音にかけての量感が、きちんとそれらしく再生されたことである。
 『オッフェンバックとモルニ伯爵』に収録されたオペレッタのうちの一つ、『クロックフェール』を視聴した。
 舞台は薄い幕垂れ、オーケストラの序奏が始まると、そこに影絵で、ここに至るストーリーの概略が紹介される。オーケストラは結構厚く書かれており、バスドラムの連打がある。バスドラムの量感が、過不足なく出たのには驚いた。いままで、この部分を満足に聴けたプラブマ用のスピーカーはなかった。本機が優れているのはそれだけではない。ドラムの低音の立ち上がりが素早く、かつ切れがいいのだ。小口径ウーファーならではの特質ではあるが、それが量感と両立しているところが素敵だ。

視聴は富士通ゼネラル本社で行った。少々難しいかと思われた『オッフェンバックとモルニ伯爵』の再生も難なくこなす実力には、貝山氏も驚きの声を上げたほど。そのほか、ポップスからクラシックまで、様々なソースを試聴した

豊かな低域を再現するための技術を満載

 このスピーカー、外観を一瞥しただけでは、他のプラズマ用スピーカーと、大差ないように思えた。だが、スピーカーを手で持ち上げようとしたら、かなり重かった。普通のプラズマディスプレイ用スピーカーなら、片手で簡単に持ち上がるが、今回はそうは行かない。よく見ると、スピーカーは専用のアルミダイキャスト製のスタンド(別売り)に取り付けられていた! それを知った瞬間から、わたしは、このスピーカーに愛着を覚えるようになった。
 設計者の説明を聞いてみると、なるほど、豊かな低音を再生することに焦点を絞った設計がなされていた。このスピーカーでは、直径80mmのウーファーを2個使用している。このサイズのユニットで満足出来る低音を出すには、まず、低音の再生限界(低音共振周波数=f0) を下げる必要がある。このために有効なのは、ウーファーのエッジ、スパイダー、振動系などを柔らかくすること=スティフネス(硬さ)を下げることである。
 キャビネットはバスレフ方式。これは、低音再生限界近くで、十分な音圧を得るためのものだが、チューニングの技が必要である。 豊かな低音を得るために、もう一つ重要なのは、スピーカーシステムのインピーダンスを整えることである。特に低音再生限界近くで、インピーダンスが極端に上昇することがないようにすることが大切だ。そのための対策が、ダブル・ボイスコイルという構造だ。ボイスコイルは、昔、〔音声線輪〕と直訳されたように、磁石と組み合わされて、音の振動を惹起し、振動板に伝える重要な部分。このコイルは、普通一個だが、特別に二個のボイスコイル=ダブル・ボイスコイルを使うスピーカーもある。そのメリットは、耐入力を大きく出来るということもあるが、低音再生限界近くでのインピーダンスの上昇を抑えることにも活用できる。

 
「P-42SP11-S」の背面端子部。簡単に接続が行えるプッシュ式を採用した   PDS4241J-Sと「P-42SP11-S」の組み合わせ例。「P-42SP11-S」は、もちろんリアにも配置してサラウンドを楽しむことができる。センタースピーカーとして使用する際の、置き台の発売も検討中とのことだ

ブラインドで聴かせたらピュアオーディオ用スピーカーと思うだろう

 P−42SP11Hには、頼りになる兄弟機があった。P−50SP01−H/Sだ。こちらは、ウーファーの数が4個と増え、キャビネットの体積も大きくなっている。つまり、豊かな低音を再生するのに、より有利な条件が整ったわけだ。スペックの低域限界は60ヘルツ。小型のシステムとしては、結構な特性と言える。豊かな低音を得るための基本技術は弟機と同じである。ただ、ウーファーの数が増えた分、インピーダンスを同時にコントロールする方策に工夫を凝らしている。
 本機では、音楽CDを再生してみた。これは、ディスプレイのオプションとして開発されたスピーカーにとって、かなりシビアなテストである。
 ディスクは、歌劇『アルジェのイタリア女』の第一幕だ。オーケストラのトゥッティが明るく響く。ロッシーニらしい美しいメロディだ。低音の支えはしっかりしている。クラシックを聞いても、一応過不足ないレベルの低音だ。響きの自然な雰囲気は、ブラインドで聞かせたら、ピュアオーディオ用の小型スピーカーだと思う人が多いだろう。高域は滑らかな質感があるから、決して刺激的にならぬのがよく、低域の量感とのバランスも好ましく取れている。
 このサイズで、かなり満足出来る低音が出せるこのスピーカーは、プラズマテレビ各メーカーのいい目標となるに違いない。

P-50SP01-H SPECIFICATIONS   P-42SP11-S SPECIFICATIONS
型式:2ウェイ5スピーカー・バスレフタイプ
使用ユニット:ウーファー→8cmウーファー×4、2cmトゥイーター×1
再生周波数帯域:60-30,000Hz
定格入力:30W
最大入力:100W
インピーダンス:6Ω
外形寸法:9.9W×72.6H×9.5Dcm
質量:3.5kg
※ディスプレイ取り付け専用金具付き
※スピーカースタンド「P-50ST01-S」は別売(¥20,000/ペア)
  型式:2ウェイ3スピーカー・バスレフタイプ
使用ユニット:ウーファー→8cmウーファー×2、2cmトゥイーター×1
再生周波数帯域:70-30,000Hz
定格入力:20W
最大入力:60W
インピーダンス:6Ω
外形寸法:10W×64H×8.5Dcm
質量:2.3kg
※ディスプレイ取り付け専用金具付き
※スピーカースタンド「P-42ST11-S」は別売(¥15,000/ペア)
■富士通ゼネラルホームページ:http://www.fujitsugeneral.co.jp


For any comments and questions, please E-mail to Phile-web staff
(C)Ongen Publising Co.,ltd. Phile-Web上のあらゆるコンテンツの無断複製・転載を禁じます。
著作権についてはこちら