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1968年に世界初のオープン型ヘッドホンHD414を発売したゼンハイザー。それから40年以上の長きに渡って、オープン型へこだわりを持ったラインアップを展開。特にブランドのイメージを担うハイエンドモデルにおいて、その時代ごとに求められる性能とサウンドを実現させるために「オープンエアー」方式を基準として開発に臨んでいる。 同じ原理のトランスデューサーとして、ダイナミック型マイクの銘機を数多く輩出している同社のこだわるポイントは、原音に忠実な音楽再生である。単に原音をトレースするだけではなく、空間に浮かび上がるハーモニーも含めた、音楽の躍動が伝わる製品でなければ意味がない。そうした課題に取り組むため、これまでに世界で最も高価なヘッドホンシステムである、コンデンサー型オープンヘッドホンORPHEUSや、現行のHD650をはじめとした歴代オープン型ハイエンド機が開発されてきた。 そして2009年、最高の素材と時代に適応したスタイリッシュなデザインを取り入れ、細部までクリアでディテール表現に長けたサウンドを実現する、ハイエンド・オープン型ヘッドホンHD800が誕生した。
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長い歳月をかけて辿り着いた最高の振動板「リングドライバー」は、特許申請中でもある世界初となるリング形状の振動板を採用。口径もφ56mmというヘッドホンとしては最大径を誇っている。これまでのハイエンド機HD650に搭載されていたドライバー径がφ38mmであることを考えると、いかに大きな振動板であるかが分かる。 このリングドライバーの振動板完成までの道のりは困難を極めたという。単に口径が大きいという従来からの振動板の場合、有利なのは低域特性のみで、高域に関しては固有振動が原因で余計な振動が発生し、音を濁す要因になってしまう。リング状とすることで、最適な特性が得られる振動エリアを均一に展開することができ、レスポンスも早く、エネルギー密度の濃い再生が可能となった。
また、イヤーカップデザインにおいても自然な空間再生を行うため、耳に対してわずかに角度を付けた構造とした。ケーブルはハウジングから着脱可能な独自のコネクター方式を採用。テフロン絶縁が施され、プラグは本機専用の金メッキ仕様品を用いている。そしてフレーム材の中心となる部分にはチタン級の強靭な強度を持つ「レオナ」という特殊なプラスチック素材を採用。軽量で振動吸収率も高く、固有の音色も少ないため、クリアなサウンド作りに大きく貢献している。 さらにオープン構造に大きな影響を与えるメッシュ部には編み目の細やかなステンレススチールが用いられる。このメッシュはプラスチック製フレームと一体の構造だが、こちらも異種素材をひとつにまとめるために大変な苦労が伴ったとのことだ。イヤーパッドには手織りのマイクロファイバー布を採用し、快適な装着感を実現。新しいデザインとなったヘッドバンドのトップ部にはシリアルナンバーが刻まれている。
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HD800は振動板製造から組み立て、最終チェックに至るまでの全工程をドイツ・ハノーファーにある本社工場で完結させており、そのほとんどの工程は手作業で進められる。まさにドイツのクラフトマンシップに溢れる孤高のハイエンドモデルだ。 装着感は非常に快適で、サウンドはスピード感が伴い、密閉型にも似たエッジ描写も得意な印象を受ける。特にキックやベースのアタックのすばやさはモニター級。オープン型特有の爽快な音場感と相まって、リアルな質感が映える。レファレンスの代表格となりえる実力を持ったモデルといえそうだ。
(取材・執筆 岩井喬) |
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ゼンハイザーの本拠地は、2006年のFIFAワールドカップの開催地にもなったドイツ・ハノーファー。首都ベルリンからICE(日本でいう新幹線のような長距離高速列車)で2時間程度のところにある都市だ。世界最大規模の国際産業技術見本市、ハノーファー・メッセが開催されることでも知られている。
さて、今回テーマとなっているHD800。元となるアイディアは、HD650が誕生する以前の1994年に誕生し、2002年に具体的なプロダクトとしてスタートしたという。本機の最も大きな特徴は、56mmというヘッドホンでは最大級となるダイヤフラムを採用した点にあるだろう。 ゼンハイザーの新しいフラッグシップモデルとなるHD800は、全てドイツ本社内にある工場にて生産されている。一台あたり45分程度、一日に約50台が組み立てられ、予定台数である5000台は1年かけてじっくり生産される。オーディオファイルのみならずインダストリアルデザイン愛好家にとって“メイド・イン・ジャーマニー”の刻印は、ひとつのプレミアムとして十分な価値があるのではないだろうか。 もちろん、ここでは多くのマイクロホンも製造されているが、HD800の製造ラインはハンドメイドで行われている。最新鋭の設備と熟練した作業員による緻密な手作業によって生み出されるという点にも、ゼンハイザーの強いこだわりがうかがえる。ちなみにこの工場で働く人々は、フレックスタイムを採用しており、その内の約80%が朝の5時から働き始めるという。“早起きは三文の徳”ということわざがあるが、この言葉はゼンハイザー製品のクオリティにも反映されているといってもいいのかもしれない。
HD800はゼンハイザー60年余りの歴史の集大成ともいえるサウンドを実現している。「マイクロホン、ヘッドホン、スピーカーシステムなどに携わることで、お互いの欠点が見えてきます。ゼンハイザーの製品は、空気を電気信号に、電気信号を空気にという両方向の製品なので、技術的には似かよったものです。それを両サイドで補える開発を行っているため、両方向の製品の品質向上に役立っていると思います。これがゼンハイザーの最も強いところなのではないでしょうか。」と語るのは、社長であるフォルカー・バーテルス氏。ここにもゼンハイザーが現在考えうる、最高のサウンドに対する絶対的な自信がうかがえる。そのサウンドをぜひあなたの耳でもご確認いただきたい。 |
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