多くのオーディオファイルのレファレンスとなった銘機、HD650の登場から6年……。この夏、ゼンハイザーは新しいフラッグシップモデルとなる”HD800”を遂に発売する。最先端のテクノロジーと最高級のパーツ、そしてMade In Germanyの刻印は、まさに究極のヘッドホンと呼ぶにふさわしい仕上がりを実現した。世界中のプロフェッショナルの要求に応え続けるゼンハイザーが、ヘッドホンリスニングに新たな革命を巻き起こすことは間違いない。
 

1968年に世界初のオープン型ヘッドホンHD414を発売したゼンハイザー。それから40年以上の長きに渡って、オープン型へこだわりを持ったラインアップを展開。特にブランドのイメージを担うハイエンドモデルにおいて、その時代ごとに求められる性能とサウンドを実現させるために「オープンエアー」方式を基準として開発に臨んでいる。

同じ原理のトランスデューサーとして、ダイナミック型マイクの銘機を数多く輩出している同社のこだわるポイントは、原音に忠実な音楽再生である。単に原音をトレースするだけではなく、空間に浮かび上がるハーモニーも含めた、音楽の躍動が伝わる製品でなければ意味がない。そうした課題に取り組むため、これまでに世界で最も高価なヘッドホンシステムである、コンデンサー型オープンヘッドホンORPHEUSや、現行のHD650をはじめとした歴代オープン型ハイエンド機が開発されてきた。

そして2009年、最高の素材と時代に適応したスタイリッシュなデザインを取り入れ、細部までクリアでディテール表現に長けたサウンドを実現する、ハイエンド・オープン型ヘッドホンHD800が誕生した。

HD800

オーディオファイルヘッドホン
HD800

¥OPEN(予価 150,000円前後)
※2009年6月下旬発売予定

●型式:ダイナミック型 ●タイプ:オープン型 ●インピーダンス:300Ω ●:再生周波数帯域:6Hz〜51kHz(-10dB)、14〜44,1kHz(-3dB) ●感度:102dB(1V rms) ●歪率:0.02%以下 ●ケーブル線材:銀メッキOFC線 ●ケーブル長:約3m ●質量:約330g(ケーブル除く)


>>ゼンハイザー ホームページの製品情報
>>製品データベースで調べる

 

長い歳月をかけて辿り着いた最高の振動板「リングドライバー」は、特許申請中でもある世界初となるリング形状の振動板を採用。口径もφ56mmというヘッドホンとしては最大径を誇っている。これまでのハイエンド機HD650に搭載されていたドライバー径がφ38mmであることを考えると、いかに大きな振動板であるかが分かる。

このリングドライバーの振動板完成までの道のりは困難を極めたという。単に口径が大きいという従来からの振動板の場合、有利なのは低域特性のみで、高域に関しては固有振動が原因で余計な振動が発生し、音を濁す要因になってしまう。リング状とすることで、最適な特性が得られる振動エリアを均一に展開することができ、レスポンスも早く、エネルギー密度の濃い再生が可能となった。

HD800のキーパーツであるリング状のトランスデューサー。わずか42ミクロンの薄い精密ワイヤーを3.5層にし、98回転させてコイルを成形。コイルが自由に振動する2つのマグネット間はわずか0.6ミリとなる
本機搭載のリング・トランスデューサーは振動する表面の制御効率を高めるメリットも備え、これにより音波がより深く、大きくなり、従来のトランスデューサーでは得られないクリアな音質を実現している

ヘッドホンでは最大級のφ56mmの大口径振動板は、ほかでは類を見ないリング形状を採用。これにより、大口径振動板のメリットである低域の再現性を維持しながら、高域再生時に発生する歪みを抑えることに成功した
大型トランスデューサーの表面と、トランスデューサーが配置されている角度の組み合わせにより、HD800では立体的な空間音の演出を可能にしている

また、イヤーカップデザインにおいても自然な空間再生を行うため、耳に対してわずかに角度を付けた構造とした。ケーブルはハウジングから着脱可能な独自のコネクター方式を採用。テフロン絶縁が施され、プラグは本機専用の金メッキ仕様品を用いている。そしてフレーム材の中心となる部分にはチタン級の強靭な強度を持つ「レオナ」という特殊なプラスチック素材を採用。軽量で振動吸収率も高く、固有の音色も少ないため、クリアなサウンド作りに大きく貢献している。

さらにオープン構造に大きな影響を与えるメッシュ部には編み目の細やかなステンレススチールが用いられる。このメッシュはプラスチック製フレームと一体の構造だが、こちらも異種素材をひとつにまとめるために大変な苦労が伴ったとのことだ。イヤーパッドには手織りのマイクロファイバー布を採用し、快適な装着感を実現。新しいデザインとなったヘッドバンドのトップ部にはシリアルナンバーが刻まれている。

マルチレイヤーデザインを採用したヘッドバンド部。ハイテクプラスチックとメタルの組み合わせで、減衰特性に優れる。シリアルナンバーは頭頂部に刻印される
チタンと同等の硬さを持ち、振動抑制能力に優れる超軽量の特殊プラスチック「レオナ」を採用。イヤーカップとヘッドバンドは後方一箇所でつながる。これにより快適な装着感を実現
 

HD800は振動板製造から組み立て、最終チェックに至るまでの全工程をドイツ・ハノーファーにある本社工場で完結させており、そのほとんどの工程は手作業で進められる。まさにドイツのクラフトマンシップに溢れる孤高のハイエンドモデルだ。

装着感は非常に快適で、サウンドはスピード感が伴い、密閉型にも似たエッジ描写も得意な印象を受ける。特にキックやベースのアタックのすばやさはモニター級。オープン型特有の爽快な音場感と相まって、リアルな質感が映える。レファレンスの代表格となりえる実力を持ったモデルといえそうだ。

ケーブルは銀メッキOFC線を採用。コネクター部には金メッキ処理が施される。また、これまでの同社製品と同様、着脱が可能なのもポイントだ
09年3月にゼンハイザー本社で開催されたプレスイベントでは「HD800」のプレビューイベントも行われ、筆者の岩井喬氏も本機のサウンドをいち早く聴くために駆けつけた。>>イベントの関連ニュース

(取材・執筆 岩井喬)
 

ゼンハイザーの本拠地は、2006年のFIFAワールドカップの開催地にもなったドイツ・ハノーファー。首都ベルリンからICE(日本でいう新幹線のような長距離高速列車)で2時間程度のところにある都市だ。世界最大規模の国際産業技術見本市、ハノーファー・メッセが開催されることでも知られている。

ハノーファー中央駅から車で走ること30分程度、草原風景のなかにゼンハイザーの本社が姿を現す。本社の敷地に入ると、まず始めに目に飛び込んでくるのが瀟洒なゲストハウス。話によると、この建物からゼンハイザーの歴史がスタート(当時の社名は、Laboratory Wennebostel)したのだという。

ドイツ・ハノーファーに本拠地を構えるゼンハイザーの本社工場
ゼンハイザーの歴史は、今はゲストハウスとして来賓を迎えるこの建物からスタートした

さて、今回テーマとなっているHD800。元となるアイディアは、HD650が誕生する以前の1994年に誕生し、2002年に具体的なプロダクトとしてスタートしたという。本機の最も大きな特徴は、56mmというヘッドホンでは最大級となるダイヤフラムを採用した点にあるだろう。

ゼンハイザーの新しいフラッグシップモデルとなるHD800は、全てドイツ本社内にある工場にて生産されている。一台あたり45分程度、一日に約50台が組み立てられ、予定台数である5000台は1年かけてじっくり生産される。オーディオファイルのみならずインダストリアルデザイン愛好家にとって“メイド・イン・ジャーマニー”の刻印は、ひとつのプレミアムとして十分な価値があるのではないだろうか。

もちろん、ここでは多くのマイクロホンも製造されているが、HD800の製造ラインはハンドメイドで行われている。最新鋭の設備と熟練した作業員による緻密な手作業によって生み出されるという点にも、ゼンハイザーの強いこだわりがうかがえる。ちなみにこの工場で働く人々は、フレックスタイムを採用しており、その内の約80%が朝の5時から働き始めるという。“早起きは三文の徳”ということわざがあるが、この言葉はゼンハイザー製品のクオリティにも反映されているといってもいいのかもしれない。

熟練の作業員によって、すべてハンドメイドで生産されるフラグシップモデルのHD800。最後にイヤーパッドを取り付け、完成するまでの工程はおよそ45分。HD800の生産工程は「オーディオアクセサリー133号」にて詳しくご紹介している
会長のヤルグ・ゼンハイザー氏(左)と、代表取締役社長であるフォルカー・バーテルス氏(右)。絶妙のコンビネーションでゼンハイザーを牽引する。キーパーソン各氏への詳しいインタビューもぜひ雑誌の特集記事でご覧いただきたい

HD800はゼンハイザー60年余りの歴史の集大成ともいえるサウンドを実現している。「マイクロホン、ヘッドホン、スピーカーシステムなどに携わることで、お互いの欠点が見えてきます。ゼンハイザーの製品は、空気を電気信号に、電気信号を空気にという両方向の製品なので、技術的には似かよったものです。それを両サイドで補える開発を行っているため、両方向の製品の品質向上に役立っていると思います。これがゼンハイザーの最も強いところなのではないでしょうか。」と語るのは、社長であるフォルカー・バーテルス氏。ここにもゼンハイザーが現在考えうる、最高のサウンドに対する絶対的な自信がうかがえる。そのサウンドをぜひあなたの耳でもご確認いただきたい。

(レポート 季刊・オーディオアクセサリー編集部)

<ゼンハイザー本社工場レポートの詳細は5/21発売の弊誌「オーディオアクセサリー133号」にも掲載されています>

 

HD800が試聴できる
ゼンハイザー 青山ショールーム

ゼンハイザージャパンが運営する東京・青山のショールーム・サービスセンター。最新フラグシップ「HD800」のサウンドをじっくりと試聴することもできる。
>>ゼンハイザー 青山ショールームのレポート

場所:東京都港区南青山1-1-1(新青山ビル西館2F)
東京メトロ銀座線/半蔵門線、都営地下鉄大江戸線 青山一丁目駅下車1分
営業時間: 平日 11:00-18:30 ※土日祝祭日休業