中心となるのは独自の同軸ユニットUni-Qだが、ウーファーやミッドレンジの素材や駆動回路の設計にも長い経験と精密な解析技術が投影されているといわなければならない。そこにはユニットからキャビネットまで全てを自社生産できる体制の強みが、遺憾なく発揮されているといっていい。
KEFの根幹技術として、同軸ユニットUni-Qがある。同軸スピーカーは特にKEFに限ったものではないが、トゥイーター部とウーファー部の干渉を抑えながら、ディスパージョン(拡散角)を広げレスポンスを伸ばしてきたことが、Uni-Qの技術といっていい。このテクノロジーはMuonに搭載されたオースティンUni-Qで新次元に達したが、その発想を受け継いでiQシリーズにも新しいUni-Qが開発された。
ウーファー部は口径16.5cmで、ポリプロピレンコーンにチタンコーティングを施している。軽量なうえコーティングによって強度を増し、反応の速さによってトゥイーターとの間に違和感を生じない。さらに磁気回路にはファラデーリングを装備し、渦電流を排除して極めて歪みの少ない特性を獲得した。
このUni-Qユニットでほとんどの帯域をカバーしていることにも注目したい。フロアスタンディングタイプには同口径のウーファーも搭載されているが、どちらかというとサブウーファーに近い扱いといえる。1基のユニットで広いレンジが確保できることが同軸タイプの利点だが、Uni-Qではそれをいっぱいにまで拡大して使用しているのがわかる。
キャビネットは背面を絞ったティアードロップ型で、側面は緩くカーブしている。内部定在波を解消するとともに、構造全体に強度を与え、不要共振を排除する形状である。このキャビネットとユニットを最適なバランスで結合することができるのも、一貫した自社生産が可能なKEFの優位性といっていい。
iQ90はUni-Qに16.5cmウーファー2基を加えた3ウェイ。バスレフポートはウーファーそれぞれに対して別々に設けられ、チューニングも調整されている。キャビネット内部はラビリンス・ダンピングシステムという構造に形成され、定在波を解消して明快な再現性を確保する。能率は91dBを獲得し、反応の速さを裏付けた形だ。
KEFの音は、明瞭さのために低音を犠牲にしない。ことにフロア型では豊かな量感を伴った低音が全体を支えているが、濁ってだぶついた低音とは無縁である。立ち上がりが速く動きが軽快で、ダブルウーファーにありがちな位相の乱れも感じない。そしてUni-Qを含めた4基のユニットが、ほとんど一体のように動く。レスポンスに継ぎ目がなく、広いレンジのどこにも凹凸を感じさせない滑らかな音調が実現されている。
ジャズのウッドベースやキックドラムが、にじみなく深い低音を明確な音程と音色で描き出されるのを聴くと、その再現性がよくわかる。フュージョン系で使われる打ち込み系やエレキベースでも、極めて深いところまで沈んで余裕がある。逆にボーイソプラノや女声アカペラでは、澄み切った声の質感と広々とした余韻が伸び伸びと再現される。声に棘がなく、厚手の肉質感も持ちながら透明で静か。そして一人々々の存在感もくっきりしている。オーケストラでは各楽器の緻密な表情とトゥッティの瞬発力がともに鮮やかだ。
iQ30
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