●使いやすさと表現力の両立
報告してきたように、この「シアターグレイ」は現代のホームシアターの条件を考えると、すこぶる使いやすくて、しかも映像表現力が優れたものだということが分かる。使いやすいというのは、反射指向範囲が広がりすぎないように設計されているので、壁や天井を無彩色に仕上げることができないリビングをホームシアターにするのに好適だからだ。 しかも単に明るいというのではなく、明部の高いゲインを維持しつつ、暗部をスッと暗黒に引き込むような階調性に設計しているので、コントラストが強靭なのである。少しくらい外光が漏れる部屋でも、たやすく黒浮きしないのである。もちろん液晶をはじめとして、各種のプロジェクターからダイナミックな映像を引き出す能力も素晴らしい。 ●回帰特性を生かした設計の完成度 ところで、ビーズスクリーンというと、回帰特性のために、天吊り投映に不向きだとか、適性な視聴範囲が狭いということが指摘されることがある。 私見を言えば、ゲインの高い260Gなどでは、その傾向は少々残っているのだが、190PROGクラスになるとまず問題はないと思う。むしろスクリーンの正面ではピークゲインの範囲だから、ハイライトがまぶしく感じることがあり、少し中心軸からオフセットした位置で見る方が階調表現が良好で輝度と色のバランスも適性に見えると思う。そして「シアターグレイ」では、マットタイプに近いなだらかな反射指向特性なので、立っても座っても、また壁際で見ても十分に安定した画質が得られるのである。 ●「グラディエーター」の構図の秘密が浮き彫りになる
最後に、一番印象的だった「グラディエーター」の一場面を紹介しよう。C-27の決闘後の闘技場。瀕死の英雄を背にして客席が望見されるが、ここは望遠系レンズであり、明るくて陰影が乏しいからそれほど遠近感は表現されないはずだ。それが「11HT」と「シアターグレイ」の組み合わせでは、熱砂の上に漂う空気ごしに、左側奥の貴賓席が確かな距離感を伴って表現されるのだ。ついで、右側奥から皇帝の姉と息子が遠くからかけよってくる。それも素晴らしい遠近感で表現される。 これは偶然の効果ではないだろう。英雄を画面ほぼ中央に立たせて、左側と右側に消失点を持った透視図遠近法の構図が隠されているからだ。美術学校出身のリドリー・スコット監督は、こういう絵画的な仕掛けをするのが好みなのだろう。ならば監督にこの映像を見せたらなんといって感動するだろうか? ちなみに「マリブ」では、階調性は極めて優秀なのだが、いくら画質調整をしてもその奥行き感がもうひとつ表現しきれなかった。また、この場面は三管の高級機でも何度か見る機会があったのだが、今回のようなダイナミックな構図にはちょっとお目にかかったことがない。 明部の伸びを確保した上で黒が引き締まった大画面こそ、映像世界に入り込めるパスポートなのだろう。ひところ、「スクリーンのゲインは低い方が本格的な映画観賞法だ」という風潮があったが、「シアターグレイ」の高みの前では、もはや発言しにくいことになってしまったと思う。 |