取材に協力してくれた(株)スタート・ラボ 事業企画部 商品グループ マネージャーの北脇英明氏
近年、世界のスタジオで圧倒的な存在感を示すコンバーター・ブランドが“Lavry Engineering (ラブリー・エンジニアリング) ”だ。dBテクノロジー社としてスタートし、その後ダン・ラブリー氏が独立し、アメリカのシアトルに Lavry Engineeringを創立した。同社は業務用のGold/Blueシリーズを中心に展開、その製品は多くのプロフェッショナルに広く支持されている。

今回、多くのオーディオ・ファイルの要望に応え、永年培われたテクノロジーとノウハウをベースに“Blackシリーズ”の第1弾となるD/Aコンバーター「DA10」を開発。国内では(株)スタート・ラボから紹介されることになった。スタート・ラボ社は、That'sブランドのCDやDVDメディアでお馴染みのソニーと太陽誘電の合弁会社で、デジタル・メディアのみならずSACD制作などのDSD録音・編集に活躍するSONOMAシステム、Lavryブランドの機器など、業務用機器も扱っている。コンシュマー用のD/Aコンバーター「DA10」の登場により、我国のオーディオ・ファイルにも身近な存在となった。



オーディオ・ファイルにとってD/Aコンバーターは、ディスク・ドライブと組み合わせたセパレートタイプのCDプレーヤーやCD-Rレコーダー、PCなど、各種デジタル機器からデジタル情報を受け取り、アナログ信号に変換するために使用するコンポーネントである。また、CDプレーヤーのグレードアップのため、そのデジタル出力にD/Aコンバーターを接続する例も多い。

DA10は、外寸が200W×259D×44H(mm)というコンバクトなサイズにまとめられ、従来の製品では例をみない低価格のハイCPで高性能を実現している。入力情報はマルチビットPCM形態で、サンプリング周波数(標本化周波数)は44.1/48.0/88.2/96.0KHzが基準だが、これ以外も内蔵のサンプリング・コンバーター処理によるワイドクロック・モードで対応可能(30kHz-200kHz)。量子化数は24bitまでに対応している。入力に対するPLLロック機能には、Lavry Engineering独自の低ジッター回路による“CrystalLockTM”モード/ナロー・モード/ワイド・モードがあり、入力デジタル情報の環境に応じた選択が可能となる。

入力切替から音量調整まで、すべてトグルスイッチを採用。周波数を示すランプやボリューム表示など、非常にシンプルなデザインにまとまっている
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入力は同軸デジタル、光デジタルに加え、プロ用フォーマットのAES/EBU(XLR)にも対応する。出力は工場出荷時にはバランス出力だが、内部ジャンパーの変更でアンバランス設定にもできる
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デジタル入力は、XLR端子によるAES/EBUの平衡タイプ、RCA端子によるS/PDIFの不平衡タイプ、TOS端子による光学タイプを用意。アナログ出力はXLR端子のステレオ構成だが、内部ジャンパーの設定により平衡/不平衡切り換えが可能である。また、ステレオ・ヘッドホン端子を搭載。高品位な専用回路を持った本格的な構成となっている。1dBステップで出力設定が可能なディスクリート・アナログ・アッテネーター機能(ディスプレイ表示)、モノラル/ステレオ切り換え、デジタル極性選択など、補助機能も充実している。電源部は高品位のスイッチング・タイプで90-264Vに対応、電源ケーブルはインレット・タイプで好みのケーブルの選択が可能である。

音量設定 バランス
設定時
アンバランス
設定時
ヘッドホン
レベル
56
24dBu
18dBu
20dBu
55
23dBu
17dBu
19dBu
54
22dBu
16dBu
18dBu




01
-31dBu
-37dBu
-35dBu
00
OFF
OFF
OFF
バランス出力時、アンバランス出力時のボリュームと出力レベル
(※図はクリックで拡大)
音量表示と実際の出力レベル



ヘッドホン出力の実力を確かめる筆者
コンシュマー部門にデビューするLavry Engineering「DA10」をディスク・ドライブと組み合わせて試聴した。再生音の総合的な印象は、レンジを両翼にスッキリと拡げ、帯域内に濃やかなエネルギーを一様に満たしたフラット・バランス。全てのソースでその録音環境を厳格に映しだす業務譲りのパターンがベースで、高域方向の明るい雰囲気がコンシュマー機としての配慮であろう。低域は押し出しがよいがクリーンなまとまり、中域音像はスッキリとしたフォーカスで明瞭。高域は濃やかな粒子が適度な輝きをみせ、音場空間はよくコントロールされ全体にフォーマルな印象だ。

アコースティック・ギターは歯切れよく腰があり、ピアノは艶やかで明解なタッチ、ベースは明瞭なフォーカスで躍動感に溢れ、ドラムスは粒立ちよく音像が空間に浮かび上がる立体感も良好だ。ボーカルは生々しく肉声的でリアルな爽快感に特徴を見せ、全体にマスター音源を彷彿とさせる忠実度の高さがポイントと言えるだろう。オリジナル楽器でのヴァイオリン協奏曲では、艶やかな高弦と量感に満ちた低域の響きを対比させた瑞々しいオーケストラ・イメージ、その前方に伸びやかな独奏ヴァイオリンがスッキリと浮かび上がり収録されたホール・アコースティックが見事に映しだされる。交響曲では、雄大なオーケストラ・イメージが鮮やかに眼前に構築され、パート感の分離よく細部も緻密に描写。

本機の魅力であるヘッドホン端子での再生音は、ディスクリート専用回路構成ならではのバランスと高品位な音色・音質で、何よりもスピーカー・システムでの試聴バランスに沿っている点が高く評価できる。全てのソースは独自の“CrystalLockTM”モードでの試聴だが、ジッター低減効果による聴感的なS/Nのよさが印象的である。





Lavry Engineering
D/Aコンバーター
DA10
(※写真はクリックで拡大)
デジタル入力 XLR×1、COAXIAL×1、OPTICAL×1
(すべて AES/EBU / SPDIF に対応)
アナログ出力 XLR×1(内部ジャンパーの設定でバランス
/アンバランス切替可能)
全高調波歪み+ノイズ 通常0.0008%FS、最大0.0013%FS(最大音量時(音量55))
[測定条件]20Hz-20kHz、-3dBFSサイン波、22Hz-22kHz BW
ダイナミックレンジ 通常-110dB、最小値-109dB
[測定条件]加重していない状態
音量コントロール精度 整数リニアリティ(直線からのばらつき)0.1dB以上
ステップサイズのリニアリティ0.08dB以上
電源 電圧90-264VAC、周波数40-63Hz
最大消費電力 約10W
外形寸法 200W×44H×259Dmm(突起物含まず)
質量 約1.9kg
問い合わせ先 (株)スタート・ラボ
TEL/03-3288-4324 Mail/audio@startlab.co.jp




 ■(株)スタート・ラボ
  http://startlab.co.jp/

 ■(株)スタート・ラボ 「DA10」詳細ページ
  http://startlab.co.jp/products/business/lblack_da10.html

 ■ Lavry Engineering
  http://www.lavryengineering.com/


筆者プロフィール
斎藤宏嗣 Hirotsugu Saito

武蔵工業大学電気通信科卒。電機メーカーのエンジニアとして高周波回路とVTRの開発を担当ののち、オーディオ専門誌に執筆を開始する。エンジニアとしての経験を生かした管球アンプの製作で注目を集める。『季刊・オーディオアクセサリー』誌では、テープオーディオの録再テストをはじめとする各種組み合わせ試聴(スクランブルテスト)の綿密なレポートで活躍。デジタルオーディオには実験段階から深く関わり、現在でも「デジタルオーディオの第一人者」の呼び声が高い。ソフトの録音評でも高い評価を得ており、実際に録音のアドバイザーとして関係した作品はアナログ録音時代から現在に至るまで数多い。スキー、柔道、フライフィッシング、料理、ラジコン、アマチュア無線、フラウトトラベルソやリコーダーの演奏など多くの趣味を持ち、そのどれもが趣味の範疇を超えた腕前を持っているという評判である。